共同体感覚とは?アドラー心理学の最重要概念をわかりやすく解説

2022-06-02

ベストセラーである嫌われる勇気で一躍脚光を浴びたアドラー心理学。アドラー心理学によるカウンセリング理論では共同体感覚と呼ばれる状態を獲得するべくアプローチが行われます。

それではアドラー心理学のゴールとなる共同体感覚とは一体どのようなものなのでしょうか。アドラー心理学の最重要概念をわかりやすく解説していきます。

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共同体感覚とは

共同体感覚の育成はアドラー心理学の治療・教育・育児における目標に設定されています。

そして、共同体感覚とは次のように定義されます。

【共同体感覚の定義】

共同体にとって有益(あるいは建設的)な行為を善、無益(あるいは破壊的)な行為を悪と定義する価値観のこと

共同体とは

共同体感覚は共同体に対して抱く価値観のことを指しています。それではその共同体とはいったいどのようなものなのでしょうか。

アドラーは共同体感覚について次のように言及しています。

共同体感覚とは、個人が人々、動物、植物、無生物などのあらゆる対象と関係を持つ時の基礎になっているものであり、われわれが自分の生命と結合し、是認し、和解する力のことである。共同体感覚の豊かな諸相、たとえば、親の愛、兄弟愛、性愛、祖国への愛、自然や芸術や科学への愛、人類愛など、が攻撃衝動と共に作用するとき、個人の精神生活を現実に形成する、その人の人生への一般的態度が出てくるのである」

このように、アドラーの言う共同体には、親や兄弟、友達、恋人など人間を対象としたものに限らず、動植物や科学・芸術など無生物も含む概念であろうことが見受けられます。

そのため、共同体とは端的に表現すると個人に関係するすべての環境を意味していると差し支えないでしょう。

感覚とは

一般的に感覚というと、外部からの刺激を受け取り、知覚することを意味します。しかし、共同体感覚における感覚は一般的な意味合いとは多少異なっていると言えるでしょう。

アドラーによる著作では共同体感覚の表現として社会的感情という用語が出てきます。

これは初期に共同体感感覚を表す用語として用いられていましたが、次第に社会的関心という用語を用いるように変化していきました。

このことからアドラーは主観的で受動的な『感じ方』を意味するものから、行動的、能動的な『関わり方』へと重点を移していったことが伺えます。

そのため、共同体感覚とは単に外界から与えられる刺激を知覚することではなく、個人に関係するすべての環境へ能動的に関わり、周囲と合意が得られている考えのことを指すのです。

共同体感覚の育成

アドラー自身、当初は共同体感覚を生得的に存在する、つまり生まれながらにして持っていると考えていました。

心理学において生得的要因は、生まれつき頭が良い、背が高くなるなど遺伝的な影響を受け、生後の環境からの影響を受けにくいものであると考えられています。

しかし、アドラーが第1次世界大戦時に軍医として従軍したころから共同体感覚に対し、「生得的可能性であり、意識的に発達させられなければならない」と修正を加えています。

つまり、誰もが共同体感覚の素質を備えて生まれ、それは成育過程において伸ばすことが出来るということを表しています。

それでは、どのようにすれば共同体感覚を育むことが出来るのでしょうか。

個人の人生やその人らしさの最も大きな影響を与えるのは母親です。

乳幼児は泣き声によって母親に自身が不快な状態であることを伝え、母親に世話をしてもらうことで母子間の信頼関係、愛着を形成していきます。

これが、共同体へ関わろうとする信頼感の第一歩となるのですが、不適切な養育を受けることは共同体感覚の育成に悪影響を及ぼします。

そのため、十分に共同体感覚が育っていない人に対しては、次のようなポイントに気を付けて関わることが大事とされています。

【共同体感覚を育むためのポイント】

  • 対人関係を通じた相互尊敬に基づく協働的な姿勢を示す
  • 認知・行動パターンについてフィードバックする
  • 生きるために必要となる様々な社会的スキルの獲得の援助

これは、臨床実践を教育として捉えるアドラー心理学の学びのプロセスにおける基本理念として重視されているのです。

共同体感覚への批判

共同体感覚は、社会適応を考えるうえで重要な精神的健康の指標として考えられています。しかし、中には共同体感覚に対する批判があることも事実です。

主な批判としては、その科学性を疑問視する声が挙げられます。

共同体感覚は、共同体に対し有益なものを善とする価値観のことを指していますが、価値観に基づく主張は科学よりも哲学に近いものでしょう。

エビデンスを重視し、科学としての心理学を追求する心理学派からは共同体感覚の理論の基となっているエビデンスが不足していると批判されたのです。

共同体感覚の測定

アドラーによって共同体感覚の育成の重要性が恣意的されてから、どのようにして共同体感覚を育てていくかと同時に共同体感覚をどのようにして測定するべきなのかについても議論がなされました。

そして、共同体感覚を測定するための質問紙尺度が数種類開発されています。

【代表的な共同体感覚を測定する尺度】

  • SII(The Social Interest Index):人生への適応の良さ、幸福感、ユーモアセンスなどを測定
  • SSSI(The Sulliman Scale Of Social Interest):他者に対する関心・信頼度や自己への信頼感と世界への楽観の度合いを測定
  • SIS(The Social Interest Scale):24組の性格特性のペア項目から強制的に1つを選択することにより共同体感覚を測定

これらの共同体感覚の尺度の得点が高いことは社会適応の良さを表すとされ、多くの研究が行われています。

このような共同体感覚を可視化する試みは、臨床の効果判定や援助目標の設定などアドラー心理学による臨床介入における重要な資料となりうるのです。

共同体感覚について学べる本

共同体感覚について学べる本をまとめました。

初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみて下さい。

アドラーを読む―共同体感覚の諸相

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共同体感覚はアドラー心理学の最重要概念ですが、科学や芸術など無生物を含む個人を取り巻く環境に対する価値観と言葉で説明をしても、それが実際にどのようなものなのかを体験的にイメージすることは難しいでしょう。

ぜひ本書を読んで共同体感覚が何を指しているのか、どのようなことを表しているのかについて深く学びましょう。

もしアドラーが上司だったら

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アドラー心理学の介入の目的は共同体感覚の育成です。

それでは、もし職場の上司がアドラーだったら、共同体感覚を育てるためにどのようなかかわりをしてくれるのでしょうか。

営業マンの主人公がアドラー心理学に触れ、どんどん成長していく様を描いた本書から、どのように共同体感覚が育てられていくのかを学びましょう。

アドラー心理学のゴール

アドラー心理学において幸せに暮らすために育てるべき概念が共同体感覚です。

ぜひこれからもアドラー心理学について深く学び、幸せに生きるためにどうすれば良いのかについて学んでいきましょう。

【参考文献】

  • 野田俊作(1992)『共同体感覚の諸相』アドレリアン第5巻第2号(通巻代9号),1-9
  • 香川三六(1990)『共同体感覚』アドレリアン第4巻第1号(通巻第6号),1-7
  • 丸尾明美・中島弘徳(2009)『共同体感覚の測定について』アドレリアン第22巻第2号(通巻第58号),1-11

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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