共感覚とは?代表的な種類と具体例、心理学研究に加え、テストや学べる本を紹介

2021-10-27

人間には五感が備わっており、それぞれの感覚器で受け取ることのできる情報を脳で処理し、感じています。

しかし、人間には変わった現象が起こるもので、刺激に対して通常生じるであろう感覚以外のものが知覚できることもあります。こうした現象は「共感覚」と呼ばれ、心理学の研究対象となっています。

今回は代表的な共感覚の種類を具体例を交えながら取り上げ、心理学的な研究やテスト、本などについてご紹介します。

このサイトは心理学の知識をより多くの人に伝え、
日常に役立てていただくことを目指して運営しています。

Twitterでは更新情報などをお伝えしていますので、ぜひフォローしてご覧ください。
→Twitterのフォローはこちら 

共感覚とは

共感覚とは、ある一つの刺激に対し、通常とは異なる種類の感覚も生じる現象を指します。

共感覚の定義

実は共感覚の定義に関しては、様々な研究者で見解が異なっており、その特徴を全て内包した定義に関しては議論がなされています。

しかし、様々な定義がある中で、次のような共通の構成をしていることが分かっています。

  • 共感覚が通常の感覚とは異なるということについて言及する部分
  • 一部の人にしか見られない、個人差がある、自動的に起こるなど共感覚の特徴について言及する部分

上の通常と異なる感覚というのは共感覚を定義づけるうえで「中核」を成すパートであり、様々な定義の違いを生んでいるのは下の「共感覚の特徴」について言及したパートです。

共感覚の特徴

それでは、様々な定義の違いを生んでいる特徴にはどのようなものがあるのでしょうか。

【共感覚の特徴】

  • 希少性:共感覚は一部の人にしか見られない珍しい現象である
  • 特異性:同じ刺激に対する主観的な感じ方は人それぞれである
  • 自動性:刺激から生じる共感覚は自らの意思とは無関係に起こり、意思で抑えることが難しい
  • 発達性起源:共感覚は物心がつくころからずっとあり、何かの原因で生じるようになったという出来事を本人は自覚していない
  • 一貫性:刺激とそれに呼応する感覚の結びつきは長い間(生涯)変わることはない

しかし、これらの特徴に関して行ったいずれの研究でも、最終的な答えは出ていません。

例えば、一貫性を取り上げてみると、別に共感覚でなくても、まるで共感覚のような体験が生じることがあるからです。

モノクロで書かれたスポーツチームのロゴを見た時に、そのチームのチームカラーが知覚されるということがあるでしょう。しかし、これは単に、学習による効果であり、共感覚とは言い難いものがあります。

あるいは、自動性が共感覚の必要条件とする立場をとった場合、共感覚が全く生じない人に無理やりアルファベットから感じられる色を選ぶようにすると、統計的に有意な確率で共感覚者と同じ色を選んだと報告しているものがあります。(例えば、bはBlue、yはYellowの頭文字であり、それぞれ青色や黄色を連想させやすい)

このように、共感覚と非共感覚の境目は厳密にはグレーであり、それぞれの研究で共感覚をどのように捉えているのかに注意する必要があるのです。

共感覚の種類と具体例

共感覚の代表的なものとしては次のようなものが挙げられます。

【共感覚の代表例】

  • 色字:ある文字を見るとそれに呼応した色が知覚される
  • 色聴:ある音を聞くとそれに呼応した色が知覚される

例えば、色字としては、「1という数字から赤色が感じられる」、色聴としては「ドの音から赤、ミの音からは黄色が感じられ、ド+ミの和音から二つの色が混ざったオレンジが感じられる」などの現象が挙げられます。

そのほかにも、「曜日に色を感じる」、「匂いに音を感じる」、「味に色を感じる」、「音に味を感じる」、「痛みから色を感じる」などの現象が報告されています。

共感覚が生じるメカニズム

ここからは、共感覚に関して行われてきた心理学的研究から、共感覚が生じるメカニズムについて見ていきましょう。今回は、共感覚が生じているときに脳にどのようなことが起こっているのか、fMRIによって調べた研究をご紹介します。

共感覚と脳

共感覚が生じているときに、情報の処理を行う脳ではどのような働きが生じているのでしょうか。

現代の脳科学では、MRIと呼ばれる技術を応用したfMRI(磁気共鳴機能画像法)と呼ばれる方法によって、脳の活動がどの部位で起きているのかを調べることができます。

そうした脳の機能を調べる研究から、新たな知見が得られています。

色字における共感覚者と非共感覚者の脳活動の違い

横井ら(2005)は、色字が生じる共感覚者と非共感覚者に日本語文字、英数字、ドットやコロンなどの記号を呈示しながら脳の活動計測を行い、その違いを比較しています。

その結果、英字を呈示した場合、共感覚者の脳では紡錘状回の色知覚野(V4、V8)と呼ばれる色の情報処理に関わる部分の活性化が確認されましたが、非共感覚者にはそのような変化は見られませんでした。

その一方で、日本語文字を呈示した場合は共感覚者の脳の紡錘状回の色知覚野(V4、V8)の活性化と共に、非共感覚者でも色知覚野近傍での活動が確認されたのです。

色聴における共感覚者と非共感覚者の脳活動の違い

また、真崎ら(2012)は、色聴における脳の活動をfMRIによって計測することで、色聴者と非色聴者の脳活動の違いを検討しています。

その結果、共感覚者及び非共感覚者の色知覚野(V4、V8)やその近傍の活動の活性化がみられ、その活動レベルは共感覚者のほうが強いという結果が確認されました。

脳活動の違いからわかること

それでは、これらの結果は何を表しているのでしょうか。

どちらの研究においても、非共感覚者にも、刺激によっては色知覚野の活動がみられる場面がありました。

つまり、私たちはある刺激が入力されたとき、それに対応する脳部位のみならず他の部位も活動をするということが分かります。

そして、共感覚者と非共感覚者の違いとしては、まず上記の研究から色知覚野のような脳の閾値の違いが考えられます。

つまり、脳が刺激に対しどれだけ過敏に反応しやすいかという違いです。

脳の刺激に対する反応の閾値が低ければ、共感覚という主観的体験として知覚され、逆に閾値が高ければ、それは見過ごされ主観的体験を生じさせるほどのものではなくなるでしょう。

共感覚とワーキングメモリ

私たちは知覚や思考など認知的な活動を行う際には、一時的な記憶情報の貯蔵庫であるワーキングメモリを活用しています。

それでは、共感覚という認知的な活動が行われる人のワーキングメモリの特徴はどのようなものなのでしょうか。

大久保ら(2019)は色字共感覚者と非色字共感覚者のワーキングメモリの違いについて比較を行っています。

その結果、両者は文字のワーキングメモリの要領に関しては差がないものの、色のワーキングメモリは共感覚者のほうが容量が大きいことが分かったのです。

先の研究で、脳の活性化に対する閾値に関して触れましたが、それにはこの色に関するワーキングメモリの容量の違いが関連する可能性があります。

つまり、共感覚者・非共感覚者のどちらも文字を見た時に色に関連する脳部位が活性化するにも関わらず、非共感覚者は色に関するワーキングメモリの容量が小さいがために、貯蔵庫から情報が抜け落ち色字という主観的な体験が生じないと考えることができるでしょう。

共感覚的比喩表現とは

私たちは、それぞれの感覚器で感知することのできる固有の経験の種類が決まっています。

これを感覚モダリティと呼びます。

例えば、目という感覚器で捉えられる情報は視覚情報ですし、耳という感覚器で捉えられる情報は聴覚情報です。

このように、それぞれの感覚器に適した情報は適刺激、それ以外を不適刺激というわけですが、共感覚が特別視されているのは本来不適刺激であるはずの感覚も同時に生じているからです。

しかし、私たちは、「明るい(視覚)音」や「柔らかい(触覚)色」のように、本来であれば不適刺激であるはずの感覚も言葉として自然に使っています。

このような、まるで共感覚のような比喩表現を行うとき、私たちのこころではどのようなことが起こっているのでしょうか。

共感覚形容詞の理解可能性と使用頻度

「明るい音」のように修飾語と被修飾語が異なる感覚モダリティに属する表現は共感覚的比喩表現と呼ばれます。

しかし、そのような表現の中にも、「柔らかい色」のように比較的頻繁に用いられるものもあれば、「明るい感触」のように不自然さが感じられる組み合わせもあるでしょう。

このような表現において、「○○な××」のように前半を構成するのは形容詞、後半を構成するのは名詞となっていますが、本来の感覚モダリティと異なる感覚を示すのは前半の形容詞部分です。

そこで雨宮ら(2008)は、五感における感覚モダリティ間で異なる組み合わせの理解可能性と使用頻度に関して調査を行いました。しかし、従来指摘されているような低次の感覚から高次の感覚(触覚→味覚→嗅覚→聴覚→視覚)のような一方向性は確認できていません。

SD法を用いた共感覚性の検討

共感覚的な表現に一般的な法則は見出されていませんが、現に暖色、寒色と言われるように、多くの人が共通して感じられる感覚モダリティを超えた共通の認知過程があることは古くから指摘されています。

そこで、大山ら(1993)はそのような共通の性質を探るため、セマンティック・ディフェレンシャル法(SD法)と呼ばれる、対となった形容詞を7段階で評定させる方式を用いて各種の感覚モダリティに入力される刺激のもたらす印象や感情的効果の分析を行いました。

音楽、音、色、形、象徴語、映像と音楽という6種の異なった領域での刺激によって引き起こされる印象を分析したところ、次のような因子が比較的安定して抽出されました。

  • 価値:「良い-悪い」・「好きな-嫌いな」・「美しい-汚い」など
  • 活動性:「騒がしい-静かな」・「動的な-静的な」・「派手な-地味な」など
  • 軽明性:「軽い-重い」・「明るい-暗い」・「陽気な-陰気な」など

つまり、これらの因子は視覚もしくは聴覚刺激が入力された際に共通して感じられる印象です。

大山らが行った研究は、映像や色などの視覚情報と音楽や音などの聴覚情報でしたが、その他の感覚器に対して入力された刺激がもたらす感情効果についてもこのようなSD法を用いた研究を用いることで新たな共通法則が見出されるかもしれません。

共感覚のテスト

共感覚を持っているかを測定するテストというのはインターネットで検索するとたくさん出てきます。

例えば、動画サイトYOUTUBEで公開されているScreensaver reveals new test for synaesthesiaという動画では本来無音であるはずの映像を見て、共感覚者であれば音が聞こえるとしているようです。

しかし、共感覚自体が本来定義があいまいなものであり、それらのテストでは、共感覚者を抽出する信頼性と妥当性には疑問が残っています。

そのため、参考程度に考えておくのが良いはないでしょうか。

共感覚を学ぶための本

共感覚を学ぶための本をまとめました。

共感覚: 統合の多様性 (シリーズ統合的認知)

created by Rinker
勁草書房
¥3,520 (2024/04/28 00:28:21時点 Amazon調べ-詳細)

共感覚者が通常の感覚モダリティとは異なる主観的体験をするメカニズムの全貌は明らかにされていませんが、脳科学や心理学の分野では積極的に研究の対象とされている領域です。

そのような研究を展望し、共感覚者の日常生活とのかかわりなどの調査結果も合わせて掲載した本書から、共感覚者というある種異様な体験をしている人を理解できるようになるかもしれません。

共感覚から見えるもの アートと科学を彩る五感の世界

created by Rinker
¥6,213 (2024/04/27 17:50:57時点 Amazon調べ-詳細)

芸術家は一般人と違う感性を備えていると言われることもありますが、共感覚による通常とは異なった主観的体験がアートに活かされることもあります。

共感覚の科学研究と文学・芸術からのアプローチを交差させ、「身体」と「言葉」から、その感覚世界に迫った本書からは、研究とはまた違ったリアルな共感覚者の人物像に迫れるでしょう。

共感覚者は異常か

共感覚に関する定義は非常に曖昧であり、どこからを共感覚とみなすかには議論の余地が残っていますが、少なくとも私たちにも色を見て暖かさを感じるような共感覚的主観的体験はあるでしょう。

そのような、一般的な反応と音から色が見えるのような特殊な反応の境目はどこなのか、これを明らかにするところから研究はスタートします。

ぜひ共感覚に関しての学びを深め、共感覚の定義に含まれる体験の範囲はどのようになるのかについて考えてみましょう。

【参考文献】

  • 伊藤浩介(2020)『共感覚とは本当は何か?』基礎心理学研究 39(1), 104-109
  • 真崎大・矢山隆三・赤塚諭・下斗米貴之・饗庭絵里子・長田典子(2012)『色字共感覚の脳内メカニズム解明:日本語文字呈示時におけるfMRI研究』日本認知心理学会発表論文集 2012(0), 128
  • 横井真一・長田典子・杉尾武志・井口征士・乾敏郎(2005)『fMRIによる共感覚計測:色聴者の音楽視聴時のV4/V8活動』日本認知心理学会発表論文集 2005(0), 011-011
  • 大久保らな・宇野究人・横澤一彦(2019)『色字共感覚者における色ワーキングメモリと視覚性ワーキングメモリの関係』日本心理学会大会発表論文集 83(0), 3D-047-3D-047
  •  雨宮俊彦・光田愛・宮原朋子(2008)『共感覚形容詞の理解可能性と使用頻度の対応について』関西大学社会学部紀要 39(3), 167-200
  • 大山正・瀧本誓・岩澤秀紀(1993)『セマンティック・ディファレンシャル法を用いた共感覚性の研究:― 因子構造と因子得点の比較―』行動計量学 20(2), 55-64

こちらもおすすめ

    • この記事を書いた人

    t8201f

    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

    -知覚・認知

    © 2020-2021 Psycho Psycho