自己肯定感とは、「自分は大丈夫」という、自分の存在を受け入れられる感情です。今回は自己肯定感の意味や具体例とともに、自己肯定感が低い原因や高める方法、子供の自己肯定感についてわかりやすく解説していきます。最後に、自己肯定感について学べる本もご紹介します。
目次
自己肯定感とは?
自己肯定感とはどのようなものでしょうか。まずはその意味と具体例を見ていきましょう。
自己肯定感の意味と定義
自己肯定感は、文字通り自己を肯定する感情です。長所も短所も含めて、ありのままの自分を全て受け入れられている状態です。
自己肯定感の定義の仕方は様々ですが、東京都教職員研修センター(2011) では、自己肯定感を次のように定義しています。
自分に対する評価を行う際に自分の良さを肯定的に認める感情
また、茂木(2010)は、自己肯定感を次のように定義しています。
ありのままの自分を受け止め、自己の否定的な側面も含めて、自分が自分であっても大丈夫という感覚
前者と後者の違いは、自分の長所のみならず欠点も含めて自分を受容できているかという事でしょうか。
このように、自己肯定感についての定義は多様であり、自己効力感や自尊感情などの言葉との使い分けは、研究者により異なっている事が分かります。
そのため、今回の解説では、自己肯定感を、ありのままの自分を認める感情、I am OK.とする感情と捉えておきます。
言い換えると、自分の安全基地は自分であると思える事です。自己肯定感が高ければ、安全基地を自分以外の場所に探し回る必要は無くなります。
自己肯定感の具体例
自己肯定感が高い状態、あるいは低い状態とは、具体的にどのような状態なのでしょうか。
何か良い事があったり、物事が上手く行っている時には、多くの人が自己肯定感が高まりやすいでしょう。逆に、困難に直面したりストレスを感じる場面では、自己肯定感の変化に個人差が見られます。
例えば、挨拶をしたのに無視された場合を考えてみましょう。
・自己肯定感の高い人の場合
自己肯定感が高い場合、「I am OK.」の姿勢は変わりませんから、「相手の機嫌が悪かったのかな?」とか「気づかなかったのかもしれない」などと考えるだけで、自分の価値への意味付けは変わりません。
・自己肯定感が低い人の場合
一方、自己肯定感が低い場合、「自分が何か悪い事をしたのだろうか?」とか「自分の事を嫌いなのだろうか?」などと、自分の価値を低めたり、自分を否定する方向に意味付けをしがちです。
自己肯定感が低い事もその人の個性ですから、決して悪い訳ではありません。けれども、自分自身が安全基地になれないために、常に自分が安心できる場所を探し回らなければならず、心がとても疲弊してしまいます。
自己肯定感の診断・測定法
自己肯定感はどのように測定するのでしょうか。自己肯定感の考え方とともに、いくつか見ていきましょう。
自己肯定感の要素を5つに分類
中島(2021) は、自己肯定感の要素として次の5つを挙げています。
- 自己好意感(自分が大事、自分が好き、という感覚)
- 自己効力感(自分で出来た、という感覚)
- 自己存在感(安心してここにいる事ができる、という感覚)
- 自己生命感(自分は生きている、成長している、という感覚)
- 自己有用感(自分は誰かのためになっている、という感覚)
これによると、自分が好きかどうか、自分の能力を感じられるかどうか、安心した居場所があるかどうか、生きている実感を持てているかどうか、誰かの役にたっていると思えるかどうか、で自己肯定感を測る事ができると考えられます。
41項目からなる尺度
平石(1990)による自己肯定意識尺度は、自己への意識に関する19項目と、他者への意識に関する22項目の、計41項目からなる尺度です。
自己への意識に関する項目の要素は、次の3つです。
- 自己受容
- 自己実現的態度
- 充実感
他者への意識に関する項目の要素は、次の3つです。
- 自己閉鎖性・人間不信
- 自己表明・対人的積極性
- 被評価意識・対人緊張
これによると、自分を受け入れられているかどうかだけではなく、他者との関わりも自己肯定感の測定に大きく関わってくる事になります。
自己肯定感が低い原因
自己肯定感はなぜ低くなるのでしょうか。これについて、子ども時代の環境と大人になってからの環境という2つの視点から見てみましょう。
子ども時代の環境から見た自己肯定感が低い原因
船津(2020)は、一般的に日本人の自己肯定感が低いと言われるが、元々低い訳ではなく、成長とともに低下が見られるのだと主張します。
そして、幼児期に高かった日本人の自己肯定感が小学校から中学高校にかけて低くなっている原因として、次のような点を挙げています。
- 子どもを謙遜しすぎる場合
- 子どもを集団に合わせようとしすぎる場合
- コミュニケーションスキルを教えない場合
- 命令や指示でしつけを伝えようとする場合
- 受験合格がゴールになった場合
つまり、生まれた時には高かったはずの自己肯定感が、「教育」という名の誤った大人の価値観が押し付けられた事により、自己肯定感が低下するというわけです。
低い自己肯定感を維持している原因
では大人になって、親や他の大人と対等となれば、自己肯定感は自然に高まるのでしょうか。
勿論、様々な経験を通して自己肯定感を高めていける人もいるでしょう。けれども大人になっても自己肯定感が低いまま、もしくはさらに自己肯定感が下がってしまう場合も少なくありません。
大嶋(2019)は、自分を好きになれない心の仕組みについて以下の9つの視点から説明をしています。
- 親にほめてもらいたいのにほめてもらえなかった経験から、自分や他人を責めてしまう。
- 親のネガティブな言葉や過去の失敗が、暗示となって心を支配してしまっている。
- 親や身近にいる人の不安がうつってしまっている。
- 自分で自分を変える事を諦め、誰かが助けてくれると思い込んでいる。
- 自分にネガティブな影響を与える人間関係に脳が支配されている。
- 親や周囲の人からの嫉妬で、「自分は成功してはいけない」と思い込むようになっている。
- 孤独に対する恐怖を、怒りで得られる一時的な安心感で得ている。
- 完璧である事にこだわりすぎ、少しの失敗を大きく捉えてしまう。
- 自分や他人の行動に対して、正しいか間違いかという意識が強く働いている。
このように、元々は親などから受け取ったメッセージを呪いのように持ち続け、それに縛られているために本来の自分が取り戻せないでいる事が、自己肯定感の低い原因となっていると考えられるのです。
自己肯定感を高める方法
小さい頃からの親からのネガティブなメッセージから自由になり、自己肯定感を高める方法はあるのでしょうか。
子どもの自己肯定感を高める方法と、大人になってからの自己肯定感を高める方法について見ていきましょう。
子どもの自己肯定感を高める方法
船津(2020)は、子どもの自己肯定感を高める方法として、次の7つを挙げています。
- 家に子供の写真を飾る事で、「自分は親から大切にされている」事を視覚的に伝える。
- 子どもの作った作品や賞状などを、家族の目につく場所に飾る事で、「自分には価値がある」と実感できる。
- 子どもに選択権を与える事で、「自分で決められた」という成功体験を積む事ができる。
- 親が一方的に答えるのではなく、子どもが自分で考えられるようにする。
- 睡眠、食事、挨拶など、規則正しい生活を送る。
- キャンプなどの自然体験をさせる。
子どもの自己肯定感を高めるには、失敗も含めて、自分で選んでやってみる、という経験を積ませてあげる事が大切だと言えるでしょう。
大人になってからでも自己肯定感を高める方法
子ども時代に自己肯定感を高める経験があまりできないまま、大人になってしまう人もいます。大学の友達と接したり、会社で働いたり、子育てをしていく中で、自分の自己肯定感が低い事に気づく場合もあります。
けれども何としても、自己肯定感を高めなくてはならない、と思う事は逆効果です。
低い自己肯定感を持ち続けることで、誰かとの依存関係が安定していたり、自分の弱さを変える必要がなかったり、自分を責める事で気付きたくない事をそのままにしておくことができるからです。
自己肯定感を高める第一歩は、このような「自己肯定感の低い自分」にもOKを出してあげる事です。人に言われた事が気になる自分も、言い過ぎてしまった自分も、失敗した自分も、嫉妬する自分も、そのまま認めるのです。
自分にOKを出しながら、たまに芽を出した自己肯定感をキャッチします。
「今日は失敗したけれど、自分にOKが出せた」、「嫌いな人の事を考える時間より、好きな事をする時間が多く持てた」など。大切なのは、自己肯定感の低い自分を否定する事なく、少しずつ自分に出せる「OK」を増やしていくことです。
自己肯定感について学べる本
自己肯定感について学べる本をご紹介します。
人と違う自分を大切にする「ウエズレーの国」
「あの子ったら、かわいそう。いつもひとりだけ、はみだしてるわ」
両親はウェズレーが仲間外れにされている事を心配していました。ウェズレーは、髪型も遊びも好きな食べ物も、みんなと違っていました。
来週から夏休み。ウェズレーは、すごい自由研究を思いつきます。
次の日からウェズレーは、庭を耕し、誰も見た事のない作物を育て始めます。
人と違っていても、友達がいなくても、自分の居場所を自分で作る事の大切さや素晴らしさを教えてくれる絵本です。
マインドフルネスを使う「マインドフルネスと7つの言葉だけで自己肯定感が高い人になる本」
今回の記事では、まずは自己肯定感の低い自分にOKを出す事が、自己肯定感を高める第一歩だと書きました。
本書は、ネガティブな自分に気づく手助けとして、マインドフルネスという今の自分に気づく手法を提案しています。
無意識領域に逃げ込みやすいネガティブな感情を、意識でしっかりキャッチしてあげることの重要性と方法が書かれています。
さらに、自己肯定の言葉を繰り返すことによって、自分の潜在意識を肯定的に変えていく方法についても述べられています。
ハルカと師匠の会話形式で書かれているので、読みやすい1冊です。
自分を見つめる
有名なアンデルセン童話に、「みにくいアヒルの子」というお話があります。
生まれた時から兄弟と違って自分だけ色が違い、親からも兄弟からも否定され続けていたアヒルの子。家族の中に居場所はなく、冬の間中、様々な群に自分の居場所を探しますが、どこに行ってもいじめられます。
春になって、池のそばに行くと、白鳥達が近づいてきます。アヒルの子は「あの美しい鳥に殺された方がマシだ」とさえ思います。
けれども白鳥達はアヒルの子を暖かく迎え入れます。そしてアヒルの子は、池に映った自分の姿を見て、自分が本当は白鳥だった事を知るのです。
私たちも、自分自身の本当の姿を見つめる事で、自分の本来の居場所や仲間と出会い、自己肯定感を回復していく事ができるのでしょう。
参考文献
大嶋信頼(2019) 自己肯定感が低い自分と上手につきあう処方箋 ナツメ社
藤井英雄(2018) マインドフルネスと7つの言葉だけで自己肯定感が高い人になる本 廣済堂出版
船津徹(2020) 失敗に負けない「強い心」が身につく 世界標準の自己肯定感の育て方 KADOKAWA
平石賢二(1990) 青年期における自己意識の発達に関する研究(I)ー自己肯定性次元と自己安定性次元の検討ー 名古屋大学教育大学教育学部紀要 40,99-125
神谷和宏(2017) 子どもの自己肯定感UPコーチング 金子書房
茂木俊彦(編)(2010) 特別支援教育大事典 旬報社
中島賢太郎(2021) 自己肯定感を高める学級経営についての一考察 ー小学校における実践の再考を通してー 鹿児島県純心女子短期大学紀要51号,39-58
ポール・フライマン(作)、ケビン・ホークス(絵)、千葉茂樹(訳)(2016) ウエズレーの国 あすなろ書房
田島賢侍・奥住秀之(2013) 子どもの自尊感情・自己肯定感等についての定義及び尺度に関する研究ー肢体不自由児を対象とした予備的調査も含めてー 東京学芸大学紀要 総合教育科学系II 64,19-30
東京都教育研修センター(2011) 自尊感情や自己肯定感に関する研究(第3年次) 東京都教育委員会