感覚遮断という言葉を聞いたことがありますか?情報があふれている現代社会において、『なにもしたくない』と思うことは少なからず誰にでも起こりうる感情でしょう。
では実際に『何も感じない世界』はどうなっているのでしょうか。ヘロンの感覚遮断実験や何も感じないタンクの存在など、興味深い実験の結果や活用法を掲載しています。
目次
感覚遮断とは
感覚遮断とは、外部からの刺激を極限までなくした状態のことを指します。つまり感覚を遮断するということ。
外部からの刺激には【視覚・嗅覚・聴覚・味覚・触覚】などがあり、私たちが日常生活で常日頃感じている感覚です。
これらの感覚を遮断することにより、私たちは日常から切り離された感覚に陥ることになります。
感覚遮断による影響
感覚遮断による影響にはどのようなものがあるのでしょうか。
代表的な感覚遮断実験では、何も感じないよう【視覚・嗅覚・聴覚・味覚・触覚】を遮断された状況で、人間は3日と耐えられないことがわかっています。
感覚を遮断されると、まず落ち着きがなくなり、強い不安感におそわれます。
次第に幻覚や幻聴を見るようになる、という実験結果が得られており、人間にとって外部からの刺激は不可欠であることが証明されています。
代表的な感覚遮断実験
影響が多大な感覚遮断実験ですが、過去にどのような実験が行われてきたのでしょうか。
体表的な実験を見ていきます。
ヘロンの感覚遮断実験とは
感覚遮断の実験として行われた有名実験の1つです。
1957年にヘロン,W.により行われたこの実験は、被験者を個室に入れ、視覚や聴覚など外部からの刺激を可能な限り遮断して、被験者にどのような変化が得られるのかを検証したものです。
目隠しで視覚を遮断され、耳栓を付けて聴覚を遮断され、手には腕から筒状のカバーを付けられものに触ることが出来ないようにした状態でベッドに横になります。食事とトイレ以外はベッドの上で横になっている状況に置かれ、音や匂いなどの外部からの刺激から遮断されます。
この状態でどのくらい耐えられるかを見るものでしたが、ほとんどの被験者が2日間耐えることが出来なかったという結果が残っています。
さらに時間が経過するにつれてひとりごとを言ったり、インターフォンで外部との接触を試みたり、幻覚や幻聴を感じる被験者もいたとされています。
ドナルド・ヘッブの感覚遮断実験とは
1951年、カナダの心理学者であるドナルド・ヘッブによる実験。この実験では、学生を日給20ドルで雇い被験者としています。
「感覚のインプットが完全に遮断されると、脳が効率的に機能しなくなる」という仮説を証明するための実験です。
被験者である学生に半透明のゴーグルを着用させ、腕には厚手のグローブを付け、耳栓をして彼らを何もない部屋に通しました。
この結果、外部刺激がない状態で3日以上耐えられた人はいませんでした。半数以上の被験者に幻覚や幻聴が現れたことも記録されています。
感覚遮断を体験する方法
人体に多大な影響があることがわかっている感覚遮断ですが、体験する方法はあるのでしょうか。
装置を使った体験方法や簡易的に自宅で体験する方法があります。
アイソレーション・タンク
アイソレーションタンクとは、別名「フロートタンク」「フロートバス」ともいわれる装置です。先述した五感を奪う専用タンクで、外からの刺激を遮断された状態で行われるリラックス方法になります。
塩水で満たされた専用タンクに体を浮かべることにより不安感や気持ちの落ち込みを軽減させてくれる効果があるとされています。
手軽な感覚遮断のやり方
感覚遮断を手軽に体験してみたい場合、用意するものは簡単です。
- アイマスク
- コットン
- ゴムバンド
- スマホ(ノイズ音を流す)
- イヤホン(ノイズキャンセリング機能が望ましい)
アイマスクをつけ母部分から光が入ってこないようにコットンを挟み、隙間をふさぎます。
ベットに横になり、イヤホンを付けて外部からの音を遮断します。手に触れる感覚も遮断できるようタオルなどでぐるぐる巻きにするとなおいいでしょう。
視覚遮断を体験する「Dialog in the Dark」
世界で話題になっている、ダイアログ・イン・ザ・ダークでは、視覚情報の遮断を体験することが出来ます。完全に光を遮断しているので、純度100%の暗闇を体験することが可能です。
純度100%の暗闇では案順応することなくずっと暗闇の中に閉じ込められている感覚で視覚が完全に遮断されます。日本では、東京都浅草で体験することができます。
感覚遮断実験のバイトは現在もあるのか?
感覚遮断実験の被験者はかつてバイトで募集されていました。しかし現在ではその募集はなくなっています。
危険と判断され現在では禁止されています。
感覚遮断の応用・活用例
感覚遮断の応用と活用例を見ていきましょう。感覚遮断の応用は、意外と身近なところにも存在します。
心理療法での感覚遮断の効果
感覚遮断は心理療法としても用いられます。
五感を遮断することにより一時的に全ての外的刺激から切り離すことが可能です。日常で強いストレスを感じている場合や、外的要因により精神状態が良くない場合には、ほどよい感覚遮断をすることによりストレスをリセットする効果が期待されます。
瞑想への活用
感覚遮断を体験できる一般的な方法は、感覚を遮断できるタンクに入る方法です。タンクの中は、五感のほかに重力などのあらゆる刺激から遮断されます。
さらにタンク内では浮遊しているため、脳が深くリラックスして、瞑想状態に入ります。
洗脳・マインドコントロール
感覚遮断は、洗脳やマインドコントロールにも使われてきました。
全ての感覚を遮断されている状態は、注意力が散漫になり、思考が衰えている状態です。その状況では他者からの影響を受けやすく、非常に洗脳されやすい状態であると言えます。
同じ原理でマインドコントロールもされやすく、他者の思考が自分のもののように感じてしまいマインドコントロールをされやすい状態です。
わかりやすい例として、誘拐犯があげられます。誘拐後閉ざされた空間に閉じ込め、感覚を遮断します。精神が不安定になったころに閉ざされた空間から解放し、感覚遮断も中断。
そのタイミングで優しく話しかけたり思想を話すことにより、誘拐された側は犯人へ信頼を覚えます。これは感覚遮断により、思考が衰えているためだと考えられます。
感覚遮断について学べる本・論文
感覚遮断についてさらに詳しく知るには、こちらの本がおすすめです。
大学の講義でも利用されることの多い書籍です。感覚知覚心理学の歴史や方法論など基礎的なことが記されています。各機能の詳細をその分野で活躍する執筆者が解説しているもので、心理学専攻の方から独学の方まで幅広くお使いいただけます。
感覚遮断の実験やその後の洗脳、日常にみられる感覚遮断の減少などにも触れられており非常に興味深い書籍です。初心者にも読みやすく入門編ともいえる一冊です。
感覚刺激の作成や、視覚実験法、感覚実験、近く実験について書かれています。
感覚遮断は想像以上に人間に影響をもたらす
感覚遮断の実験が始まったころ、被験者はなにもせずに寝ているのは簡単だと考え、高額な日給が出ることに歓喜し実験に参加したようです。ですが実際には、何も刺激がない空間は耐え難く思考も衰えてしまうほど人間にとって影響のあるものであると証明されました。
現代ではこの影響が応用され、心理療法に使われたり瞑想にも使われています。
感覚遮断は、これまでの歴史で悪用されることも多々ありましたが、活用の仕方によっては良い影響を与えてくれる可能性もあるでしょう。
参考文献
- 杉本助男 「感覚適断環境下の人の心的過程」(1986)
- 木村絹子「神秘主義と感覚遮断」(1965)『比較文化研究』第6号
- 小田晋「感覚遮断と心的世界」(1976)『現代思想』第4巻第8号