日々、テレビやインターネットなどで犯罪に関するニュースを見聞きする機会があるかと思います。
様々な犯罪に対して、犯人の捜査活動や犯罪の原因究明、防犯対策や再発防止などを考えていくために心理学が活用されており、これらは犯罪心理学と呼ばれています。
また、犯罪は様々な要因が重なって引き起こされることから、社会心理学をはじめ臨床心理学や発達心理学、心理統計学など様々な学問が犯罪心理学に役立てられています。
今回は、犯罪心理学を学ぶ上で参考になる本を紹介します。まずは初心者向けとして読みやすい本をランキング形式で紹介した後、犯罪心理学をしっかり学びたい人におすすめの本、犯罪捜査やプロファイリングに関する本などを紹介します。
目次
犯罪心理学はプロファイリングだけではない
犯罪心理学と聞くと、テレビや映画で見るような犯罪捜査のシーン、いわゆる「プロファイリング」が思い浮べる人も少なくないと思います。
しかし、犯罪心理学はプロファイリングだけではありません。犯人捜査のほか、裁判に役立てられているほか、罪を犯した人への矯正、被害者へのカウンセリング、防犯活動など様々な分野で活用されています。以下に主な分野をいくつか示します。
- 犯罪原因論・犯罪機会論
人はなぜ犯罪をするのかといった犯罪の原因を探るアプローチにも心理学が活用されています。
なお、犯罪の原因を個人(犯罪者)にあると捉え、それを除去することで犯罪を防止しようといった考え方を「犯罪原因論」と言います。
一方、犯罪の原因を環境要因に置き、犯罪が発生した環境を分析し、そのような環境を除去することで犯罪を防止しようといった考え方を「犯罪機会論」と呼びます。
- 捜査心理学
犯人の発見や逮捕、起訴に至るまでのプロセスにおいても心理学が活用されています。
この代表例として、犯罪の特徴や犯人の心理状況・行動パターンなどを分析したり、過去の犯罪データと照らし合わせたりしながら犯人を割り出していくといった「プロファイリング」が挙げられます。
- 裁判における心理学
被告人の自白や供述、あるいは目撃者の証言などの信憑性を査定したり、犯人の責任能力を判断するための鑑定(精神鑑定)など裁判の過程においても心理学が活用されています。
そのほか、裁判員制度に伴って一般市民が裁判に参加するようになっており、裁判員の心理的状況についての研究や裁判員制度そのものについての研究が行われるようになっています。
- 矯正心理学
少年鑑別所や少年院、刑務所など犯罪や非行を行った人を収容し、改善更生のための処遇を行う「矯正施設」において、犯罪者や非行少年の立ち直りを支援するためにも心理学が活用されています。
矯正施設においては、犯罪者・非行少年の心理状態や犯罪・非行の原因、再犯・再非行のリスクなどを査定して処遇指針を検討し、対象者の更生に向けた処遇・各種プログラムを実施することで、改善更生を図っています。
- 被害者心理学
犯罪の被害を受けた方は大きなショックや心理的負担を感じ、様々な心身の問題が生じることがあります。そうした犯罪被害者やその家族に対して、カウンセリングをはじめとした心理的なケアを行うなど犯罪被害者の支援においても心理学は活用されています。
- 予防心理学・犯罪環境心理学
犯罪を未然に防ぐ方策を考えるといった予防心理学、あるいは犯罪を抑止する環境を整備する犯罪環境心理学といった分野などでも心理学が活用されています。
初心者におすすめな読みやすい犯罪心理学の本ランキング3選
まずは、これから犯罪心理学を学んでいく初心者の方におすすめできる、比較的読みやすい本をランキング形式でご紹介します。
犯罪心理学の概要を掴むことに役立つと感じた本を挙げていますので、読み進めていく中で興味のある分野が見つかれば、その分野の専門的な本へと進めていくことも良いと思います。
1位「入門 犯罪心理学」
犯罪心理学に関心があり、これから学んでいきたいと思う方にはこちらの本がおすすめです。
犯罪心理学の歴史や現状について、犯罪者のアセスメントや治療、犯罪対策など一連の内容がまとめられています。
特に、新しい犯罪心理学、これからの犯罪心理学として、エビデンスに基づいた科学的・実証的な理論や方法の重要性が示されている点が特徴であり、本書を通じて科学的根拠に基づいた考え方に触れておくことは、今後犯罪心理学の学んでいく上で肝要となります。
また、著者が実務において犯罪者と関わった経験から、具体的な事件や犯人像などを交えて構成されており、専門的な内容も分かりやすく説明されています。
そのほか、内容に関することではありませんが、新書サイズで持ち運びやすく、手軽に読みやすいものとなっています。
2位「面白いほどよくわかる! 犯罪心理学」
犯罪とは何か、犯罪や非行が起こる心理的な要因・背景にはどのようなものがあるのかなど、基本的な内容が分かりやすくまとめられています。
見開き2ページごとにテーマが区切られているため読み進めやすく、さらっと犯罪についての概要が掴むことができます。また、全てのテーマにイラストや図表が付いているため内容がイメージしやすく、直感的に理解できることも特徴です。
総じて、概要がすっきりとまとまっており、犯罪心理学とは何かを知るための1冊目として、おすすめできる本です。
3位「知っておきたい最新犯罪心理学」
2位「面白いほどよくわかる! 犯罪心理学」と同じく、犯罪心理学とは何かを知っていく上でおすすめできる1冊となっています。
犯罪心理学をこれから学ぶ立場の人が、犯罪に対して抱くであろう素朴な疑問に対して回答してくといったスタイルで構成されており、犯罪とか何か、犯罪が発生する原因や経緯などが分かりやすくまとめられています。
本文にも記載がありますが、社会心理学的な視点の重要性が示されており、社会心理学を学んでいる人や併せて学びたいと考えている人には適していると思われます。
犯罪心理学をしっかりと学ぶのにおすすめな教科書・専門書9選
次に、ある程度は犯罪心理学について知っている、または上記の本を読んでもっと詳しく学びたいと思った方におすすめできる本もご紹介します。
①「司法・犯罪心理学」
犯罪・非行に関する基礎知識や理論に加えて、関わりのある司法制度の概要が解説されており、法律・制度の視点から犯罪について理解を深めることにつながります。
さらに、捜査や裁判、矯正など各分野の心理職の役割や活動といった実務なども盛り込まれており、犯罪心理学に関わるイメージが付きやすくなります。
「犯罪・非行の心理臨床」といったパートがあり、心理的介入の実践について解説されているように、犯罪心理学の中でも心理臨床的な色合いがある本と言えます。
②「テキスト 司法・犯罪心理学」
2部構成となっており、前半の「犯罪行動」のパートでは、各種犯罪についての特性やデータが詳しく紹介されており、犯罪について正しく理解することができるなど、総じて科学的知見を数多く取り入れられた専門書らしい内容となっています。
また、後半の「捜査・防犯・矯正」のパートではプロファイリングなど実際の活動について解説されています。このうち、捜査やプロファイリングに関する内容が多くを記載されており、捜査心理学や犯罪行動学的な色合いがある本と言えます。
③「犯罪心理学―犯罪の原因をどこに求めるのか」
犯罪原因に関する主要な理論がまとめられている1冊です。
犯罪の原因について、個人の資質と社会環境、それぞれの視点で解説がなされた上で、統合的な理解についても示されており、分かりやすく整理しやすい構成となっています。
④「犯罪は予測できる」
犯罪の機会を与えないことで犯罪を未然に防止しようと考える「犯罪機会論」に基づき、どのような場所が犯罪を引き起こすのかとの視点から、犯罪を未然に防ぐための方法が論じられています。
これまで用いられてきた防犯ブザー、街灯、パトロール、監視カメラなどの防犯対策では十分でないことを示し、いかに犯罪者に都合の悪い環境を作り出すといった、場所や景色に注目した防犯に関する知見を得ることができます。
⑤「非行・犯罪の心理臨床」
非行・犯罪行動の理解、アセスメントすることから、犯罪行動の変容のための介入や治療教育に至るまで、非行・犯罪臨床の実際について分かりやすく紹介されています。
対象者の立ち直りに向けて、非行や犯罪を理解し、更生に向けた処遇を実施するなど、矯正心理学に関心がある方におすすめできる1冊です。
⑥「精神鑑定の事件史 犯罪は何を語るか」
裁判において加害者の精神状態や責任能力を判断する「精神鑑定」について学ぶことができる本です。
精神鑑定の手続きを知ると共に、詐病の可能性、犯行時(過去)の状態を推察することなど精神鑑定の難しさについて触れながら、実際の精神鑑定が行われた事例も取り上げられており、精神鑑定が具体的にイメージしやすい内容になっています。
⑦「新書021犯罪被害者」
犯罪が生じた際、加害者は一体どんな人物か、犯行の背景や要因は何だろうかなど加害者に焦点が当てられがちな面もあります。
しかし、その一方で犯罪によって傷つけられている被害者が存在することを犯罪被害者への取材を通して示されており、犯罪被害者の視点から、被害者支援の在り方について考えることができます。
⑧「犯罪被害者のメンタルヘルス」
犯罪被害に遭った人のメンタルヘルスなど犯罪被害者支援に係る知識に加えて、面接など心理的ケアの方法から司法の手続きに至るまで解説されています。
被害者支援に携わるにあたって必要な内容な網羅されている専門書であり、被害者心理学を学びたいと思われる人にはおすすめです。
⑨「犯罪心理学事典」
犯罪・非行の原因、各種非行、捜査、アセスメント、処遇、犯罪に関する制度や措置など、幅広いテーマが網羅されており、犯罪心理学を学んでいく上で助けとなる存在です。
読み物としても読み進めやすい内容や構成であり、ぱらぱらと眺めるだけでも幅広く基礎知識が押さえられます。
犯罪捜査・プロファイリングについて書かれた犯罪心理学の本3選
最後に、プロファイリングや犯罪捜査について書かれている本を紹介します。
①「ケースで学ぶ犯罪心理学」
殺人、性犯罪、放火など犯罪の種類ごとに、実際の事件を挙げて解説されています。事例中心の構成となっているため、リアリティがあって読み進やすい内容となっています。
犯罪心理学の中でも、特に犯罪捜査やプロファイリングへ関心を抱いている方にとっては、興味深い内容となっているため、一度読んでみることをお勧めします。
②「犯罪捜査の心理学―プロファイリングで犯人に迫る」
プロファイリングとは何かということを学ぶのに適している一冊となっています。
FBI方式やリバプール方式など犯人像の分析をはじめ、プロファイリングの手法が分かりやすくまとめられています。
プロファイリングと聞くと何となく映画やドラマのような格好良いイメージが先行しがちですが、実際は地道な検証の積み重ねによって成り立っていることも分かり、プロファイリングの正しい理解に役立ちます。
③「犯罪者プロファイリング―犯罪を科学する警察の情報分析技術」
上記2冊と同様に、プロファイリングと何か、プロファイリングの歴史や方法がまとめられています。
また、日本の犯罪者プロファイリングに関する項目が章立てられているなど、プロファイリングが日本においてどのように活用されているか紹介されており、イメージが持ちやすい内容となっています。
犯罪が起こりにくい、安心して過ごせる社会の形成へ
犯罪は社会にとって大きな問題となり得ます。犯罪の防止や犯罪者の更生、犯罪被害者への支援など、様々な場面で心理学の知見が活用されており、犯罪の起こりにくい安心・安全な社会となるよう役立てられている学問です。
犯罪心理学を学ぶにあたって、犯罪の原因から捜査、更生など犯罪心理学の全体像を把握することや、事例をもとに犯罪の理解を深めていくことは肝要であり、本から得られる情報や知見は学びの助けとなるものです。
国家資格である公認心理師対応カリキュラムのひとつに犯罪心理学が位置付けられていることもあり、近年、犯罪心理学に関するテキストや参考書が多く出版されるようになっています。少しでも犯罪心理学に興味が湧いたと感じる本がありましたら、是非読んでみていただければと嬉しく思います。
内山絢子 著(2015)『面白いほどよくわかる犯罪心理学』西東社
原田隆之 著(2015)『入門 犯罪心理学』ちくま新書