科学としての心理学を確立するために、外部から観察できる「行動」に注目し、客観性を追い求めた心理学派である行動主義。
その発展に大きく寄与した学者の一人としてソーンダイクが挙げられます。
それでは、ソーンダイクはどのような業績を残したのでしょうか。代表的な猫の問題箱の実験や思考錯誤学習、効果の法則などについて解説していきます。
目次
ソーンダイクとは
エドワード・ソーンダイクとは、学習の実験心理学において最も重要な功績を残した人物の一人です。
ソーンダイクの経歴
1874年にアメリカのマサチューセッツに生まれたソーンダイク。もともと心理学にはあまり強い魅力を感じていなかったようです。
しかし、コネチカット州のウエストアレン大学に在学していたころ、当時のアメリカにおける心理学の権威ウィリアム・ジェームズの「心理学原理」を読み、心理学に強い関心を示すようになりました。
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そして、ジェームズのいるハーバード大学大学院へと進学し、ジェームズの元で心理学を学びました。その後、コロンビア大学で研究員として勤務することとなります。
コロンビア大学では、性格特性論や知能において重要な知見を残したレイモンド・キャッテルの指導の元、動物を用いて、仕掛け箱や迷路による学習実験を行いました。
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これは心理学における動物実験のはじめとして高く評価され、翌年にはコロンビア大学のティーチャーズ・カレッジで講師として働き始めます。
キャッテルはソーンダイクの研究テーマを動物学習から人間の学習へと展開するよう指導しました。そうして、動物実験により名をはせたソーンダイクは、人間の教育に関する研究も行うようになったのです。
ソーンダイクの業績:試行錯誤学習とは
ソーンダイクの業績で最も有名なものは試行錯誤学習でしょう。
当時の学習心理学では、動物に対し刺激を与え、その刺激と反応の関連性を検討する条件づけの研究が主流でした。
代表的なものを挙げると、ロシアのパブロフが犬に餌を呈示すると唾液が分泌される反応とベルの音を結びつける古典的条件づけが挙げられます。
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古典的条件づけは、ある刺激に対して必ず生じる反応を対象としたものでしたが、ソーンダイクは生体の自発的な行動はどのようにして学習されるのかということに注目したのです。
そして、猫の問題箱の実験によって、生体は失敗を繰り返しながら、正解にどんどん近づいていくことによって無駄のない正しい行動を身に着けていくという試行錯誤説を提唱しました。
この知見は心理学に大きな影響を与え、後にスキナーが動物の自発的な行動を説明するオペラント条件づけとして理論化することに繋がったのです。
猫の問題箱の実験
ソーンダイクは思考錯誤説を提唱するにあたり、猫を使った実験を行いました。
この実験では、空腹な猫を外側に餌が置かれた箱の中に入れます。箱の中には紐があり、その紐を引くと扉を開けられるような仕掛けになっていました。
空腹の猫は早く餌を食べようと、扉を引っかいたり、柵から手を伸ばして餌を取ろうと試みるのですが、それでは全く餌を手に入れることが出来ません。
このような行動は餌を取るという目的を達成するために繋がらない行動であり、誤反応と呼ばれます。
そして、様々な行動を行ううちに偶然手に紐が手に引っかかると、扉が空くことに気付きます。
この手続きを繰り返すことで、猫は徐々に無駄な反応をしなくなり、紐を引っ張り扉を開けるまでの時間が短くなっていったのです。
このように、失敗を繰り返す中で、徐々に誤反応が少なくなり、正しい反応を学習していくという試行錯誤によって正しい行動が身につけられていくという試行錯誤説で述べられている現象が実験によって示されたのです。
効果の法則
試行錯誤による学習はどのようにして成立したのでしょうか。
それを説明したのが効果の法則と呼ばれる理論で、試行錯誤的に生じた反応がその効果によって取捨選択されていくことを定式化しています。
効果の法則には次のようなものが挙げられます。
【効果の法則】
- 満足の法則:行動の結果、生体に満足や快状態がもたらされると、その行動と結びつき、繰り返されやすくなること
- 不満足の法則:行動の結果、生体に不満足や不快状態がもたらされると、その行動と結びつき、生起しにくくなること
行動の結果によってもたらされる快や不快などの強度が強いほど、その行動との結びつきは強くなるとされています(強度の法則)。
この法則は、手続きによって刺激と反応の間に連合が生じるというS-R連合学習の立場を取ったものの代表例であると言えるでしょう。
ソーンダイクの教育心理学における業績
ソーンダイクの業績は動物実験のものが有名ですが、後年に行われた教育心理学研究も非常に重要です。
代表的な研究を早速見ていきましょう。
レディネス
ソーンダイクは学習が成立するうえでどのような条件が必要かを考えるうちに、例え同じ条件において、同じ刺激に曝されたとしても学習が成立するかどうかには個人差があることに気付きました。
そして、学習が成立するためにはそれ相応の準備が整っている必要があるとし、それをレディネスと呼びました。
例えば、高校生が取り組む数学の微分積分を考えてみましょう。
高校生はそれまでに四則演算をはじめとする数学の基礎や抽象的な思考を行う認知機能が備わっているため、授業で先生から微分積分について教えてもらうとそれを理解することができます。
しかし、いきなり算数を習ったことのない小学1年生にいくら微分積分について教えたとしても理解することはできないでしょう。
このように、学習が成立するためには、学習を行う者の成熟が求められるのです。
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転移
心理学における転移という用語は精神分析の創始者であるフロイトが提唱したものが有名です。この転移は、養育者などに対して抱いていた幼少期の感情が、治療場面において治療者へと向けられることを指します。
これに対し、ソーンダイクは学習において転移という用語を用いました。
ソーンダイクの転移は、今行っている学びが将来の出来事に影響することを指しています。彼はこの転移が成功するための条件を探ろうと図形の大きさを推定する学習実験を行いました。
【学習転移における図形の実験】
- まず、被検者には1㎠、25㎠、100㎠の正方形を呈示し、125枚の大きさが書かれていない長方形や三角形、円、台形などの様々な図形の面積を推定する課題を行う。
- その後、1㎠ごとに用意された10~100㎠の長方形の面積を正確に推定できるまで繰り返す課題を行う(1㎠刻みのため、正確に応えられるようになるために数千回に及ぶ試行を重ねる)。
- その後、最初に行った課題と同様の、様々な図形の大きさを推定する課題を再度行う。
この実験の結果、訓練と同じサイズの長方形やサイズの違う140~200㎠の長方形、同じサイズの他の図形の成績がわずかに向上しただけでした。
この結果から、訓練を繰り返し行った長方形と同じ形のもの、もしくは同一の大きさのものにしか学習の転移は生じなかったということがわかります。
このことからソーンダイクは、同一の要素が学習の間で存在しているときのみ、転移が生じるとする同一要素説を唱えたのです。
ハロー効果
ハロー効果
とは一種の認知バイアスです。
ハローとは、聖人の頭の上に描かれる光の輪のことを指しており、聖人のように権威ある人の意見はたとえ間違っていたとしても、もっともらしいと受け入れられやすい現象のことをハロー効果というのです。
例えば、ニュース番組で専門家などが解説として出演することも多くありますが、これはハロー効果を狙ってのものでしょう。
これは私たちが学習を行う際に、対象に対して抱く印象の影響を強く受けることを表しています。
ハロー効果は素晴らしい人に対して抱くポジティブな印象にのみ生じる現象ではありません。ネガティブな印象を持っているとそのほかの要因も低く評価するということも生じます。
このように、学習は純粋に刺激と反応による関係性だけで説明できず、私たちの認知の歪みも関連しているのだとソーンダイクは指摘したのです。
ソーンダイクについて学べる本
ソーンダイクについて学べる本をまとめました。
初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
グラフィック学習心理学―行動と認知 (Graphic text book)
ソーンダイクが行ったような実験に基づく学習心理学の知見はどうしても文字だけだとイメージが湧きにくいでしょう。
そのため、図解が豊富に載っている本書であれば、実験がどのように行われ、そこからどのような知見が導かれたのかという流れを理解しやすいはずです。
ぜひこれからソーンダイクのような実験による学習心理学を学びたい方は手に取ってみてください。
女性にモテる!婚活・ナンパにも!7つの恋愛心理学~メラビアンの法則、ハロー効果など~ impress QuickBooks
心理学の教科書でソーンダイクの業績として取り上げられることの多いのは、猫の問題箱の実験を元にした試行錯誤理論でしょう。
しかし、教育心理学の現場でも重要な知見を残したソーンダイクによるハロー効果は恋愛やビジネスの場面でも重視されています。
ぜひソーンダイクの提唱したハロー効果とは何なのか、そして日常生活にどのように活かすことができるのかを学びましょう。
動物実験から人間の学習へ
ソーンダイクは、ジェームズの指導を受け実験心理学への道を進みますが、キャッテルとの出会いにより人間の学習はどのようにして成立するのかを深く考えるまで発展させた偉大な学者です。
ぜひこれからも多くの心理学者の提唱した素晴らしい心理学的知見に触れていきましょう。
【参考文献】
- 浅野俊夫(1981)『個体行動と「学習」(II 総説)』霊長類研究所年報 11 31-35
- 牧野宇一郎(1987)『学習活動の本質(II) : IV 強化の原理と効果の法則について』甲南女子大学研究紀要 23 95-112
- 庄司他人男(1975)『アメリカ・ヘルバルト主義教授理論の進展(Ⅱ) : ソーンダイクを中心として』福島大学教育学部論集 教育・心理 27-3 1-11