発達の遅れはより早期に気づき、適切な療育を行う必要性があります。そして、乳幼児期の発達の遅れを検知するための心理検査を発達検査と呼びます。
今回はその中でも新版K式発達検査を取り上げます。新版K式発達検査とはいったいどのような検査なのでしょうか。その特徴や他の発達検査との違いについて解説していきます。
目次
新版K式発達検査とは
新版K式発達検査とは、1951年に京都市児童院で開発された発達検査です。
それまで、京都市児童院では満1歳までを対象としたKJ乳幼児発達検査、1歳から就学期までを対象としたK式乳幼児発達検査、2歳半から14歳超までの子どもを対象とした京都ビネー個別知能検査が行われていました。
初めは院内のみで用いられる検査でしたが、徐々に他の期間でも使用したいという要望が高まり、公刊の必要性が高まってきたため、これら3種類の検査を統合し標準化が行われ1980年に新版K式発達検査が開発されました。
その後、1983年に新版K式発達検査増補版を経て、2002年には新版K式発達検査2001へと改良がなされています。
包括的な発達の遅れを検出することに優れており、次のような分野で活用されています。
【新版K式発達検査が活用される領域】
- 医療分野:病院などで障害の診断を行う
- 福祉分野:子ども家庭センターで療育手帳の判定を行う
- 教育分野:学校などで子どものアセスメント、個別支援を行うために用いられる
新版K式発達検査の対象年齢
新版K式発達検査は0歳から世人までを検査対象の適用範囲としています。
新版K式発達検査増補版では適用範囲は14歳頃まででしたが、2002年の新版K式発達検査2001への改訂の際に成人までその適用範囲が広げられています。
多くの場合は乳幼児を対象として行われる検査ですが、適用範囲を成人にまで広げることによって、乳幼児の時にとった検査からどのように発達が進んでいるのか縦断的な把握が可能となりました。
新版K式発達検査の特徴
新版K式発達検査にはどのような特徴があるのでしょうか。
検査の形式
多くの発達検査では質問紙検査のような形式をとります。
しかし、新版K式発達検査では、知能検査と同じように1つずつ与えられる検査項目に子どもがどのように応答・反応するのかを観察し、その検査項目の通過基準を満たすかどうかで評価をするという形式を取ります。
このような検査の形式から出現した行動を分析することや母親への助言のエビデンスとして活用することが出来るのです。
自由遊びの場面とは異なり、構造された検査項目の場での子どもの行動からはより広く深い視点で子どもの生きた情報を入手することが出来るのです。
検査者の姿勢
新版K式発達検査の実施手引き書には次のような記載がなされています。
「検査場面には入学試験のように頑張ったらどこまでできるかを競争するのではなく、子どもとの楽しい応答や会話を通じて、子どもの典型的な反応パターンを見る場面でもあるべき」
このような雰囲気で検査を実施するためには、子どもとの間に信頼関係を築くことはもちろんのこと、検査へ注意が持続するような工夫、安全確保、適度の緊張の排除などを行わなければなりません。
つまり、検査者は能動的に子どもと関わり、そこの間に生じる相互作用を大切にする姿勢が求められるのです。
検査順序
多くの発達検査や知能検査では、順番にどの検査を行うのかが決められていますが、新版K式発達検査ではそのような所定の順番は決まっていません。
そのため、臨機応変な対応が求められるのであり、一般的な検査のように検査に子どもを合わせていくのではなく、その時の子どもの様子や個性に合わせ検査を実施していくのです。
これは、遊びの中に子どもの能力が最大限発揮されるという考えが背景にあります。
子どもが楽しく遊んでもらったと思えるリラックスした状況での交流により、検査者とのラポールは促進され、効率的に子どもに関する情報を手に入れることが出来ます。
生活場面への適用
新版K式発達検査の検査項目は、具体的な生活場面に繋がりやすい検査項目が用意されています。
そのため、日常生活で発揮される能力と検査時に示される能力の乖離が少なく、子どもの生活の様子が見えやすい問うことが大きな特徴です。
新版K式発達検査の結果の見方
新版K式発達検査では次の3つの領域の能力を測定します。
【新版K式発達検査で測定する領域】
- 姿勢運動領域(P-M)
- 認知適応領域(C-A)
- 言語社会領域(L-S)
それぞれの検査項目で基準を超える反応を見せた場合は通過(+)を、失敗した場合は不通過(ー)を記載し、通過した検査項目の数を計算することで換算表から上記の3領域のプロフィールが導き出されます。
また総合的な発達の程度を示す発達指数は次の式から算出されます。
【発達指数の算出】
DQ=発達年齢÷生活年齢(実年齢)×100
これは、その年齢相応の発達をしているときは100の数値をとるように出来ているため、発達の呉がある場合、それがどの程度深刻であるかを一目で把握することが出来ます。
しかし、発達にはそれぞれの領域に偏りがあるため、発達指数のみでなく、それぞれの領域で何が得意なのか、不得意なのかをしっかりと把握することが重要です。
新版K式発達検査と他の発達検査との違い
新版K式発達検査をどのようなときに用いるのかを理解するためには他の発達検査との違いを知ることが重要です。
今回は、日本で用いられることの多い代表的な発達検査をいくつかご紹介します。
日本版デンバー式発達スクリーニング検査
日本版デンバー式発達スクリーニング検査は0歳から6歳を対象とした発達検査です。
個人-社会、微細運動-適応、言語、粗大運動の4領域を104項目から測定します。
新版K式発達検査のように子ども自身が反応・回答する形式を取りますが、知的障害のスクリーニングに適しているという特徴があり、異常・疑問・不能・正常のうちから判定を行います。
津守式乳幼児精神発達診断法
津守式乳幼児精神発達診断法は0歳児用、1歳~3歳用、3歳~7歳用の3種類があることが大きな特徴です。
検査項目は「運動」、「社会」、「探索・操作」、「食事・排泄・生活習慣」、「理解・言語」の5領域から測定されます。
新版K式発達検査とは異なる質問紙法であり、子どもの養育者に検査者が質問し、○△×の回答から発達輪郭表というプロフィール図を作成します。
そのため、検査対象年齢や検査の実施方法などは新版K式発達検査とは大きく異なるのです。
新版K式発達検査について学べる本
新版K式発達検査について学べる本をまとめました。
初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
発達相談と新版K式発達検査――子ども・家族支援に役立つ知恵と工夫
新版K式発達検査は、発達相談や療育など児童福祉の現場で重宝されている検査です。
実際の発達相談において子どもと母親を支えるために新版K式発達検査がどのように用いられているのかについて学びましょう。
新版K式発達検査反応実例集
新版K式発達検査は子どもの反応から課題をクリアできているかどうかを判定します。
そのため、実際の検査の前に、新版K式発達検査ではどのような反応が生じるのかを知っておけば、より子どもの理解に役立つでしょう。
子どもの発達を縦断的に捉える
乳児期から成人まで幅広く適応できる新版K式発達検査は長期的に子どもがどのように発達しているのかを捉えることのできる有用なツールです。
ぜひ、子どもの得意なこと、苦手なことを理解し、子どもの発達を温かく見守る姿勢で検査を実施できるようになりましょう。
【参考文献】
- 大谷多加志(2018)『新版K式発達検査の精密化に関する発達心理学的研究』神戸学院大学博士論文,甲第80号
- 大島剛(2014)『新版K式発達検査の特徴と現場における臨床的応用』神戸親和女子大学大学院研究紀要10 43-47
- 国松清子(2010)『K式発達検査から見る発達障がい : ある地域保健センターから』紀要 = Study reports of Narabunka Women's Junior College 41 35-48