サリー・アン課題とは?目的・内容とやり方をわかりやすく解説

2022-08-01

人は他者と深いコミュニケーションをとりながら生活しています。円滑な人間関係を構築・維持するためには、他者のこころで起こっていることをある程度想像できる力が欠かせません。

そのような力がどれほど育っているのかを確かめる心理学的課題として「サリー・アン課題」が挙げられます。サリー・アン課題とはいったいどのようなものなのか、その目的や内容と答え、やり方をわかりやすく解説していきます。

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サリー・アン課題とは

サリー・アン課題とは、1985年の論文「自閉症児は『心の理論』をもつか?」という論文で発表された心理学実験です。

この課題はバロン=コーエンとアラン・レズリーそしてウタ・フリスによって考案されました。

サリー・アン課題の目的

サリー・アン課題は発表された論文にもあるように、もともとは自閉症児が心の理論を形成できているのかということを調べるために開発された実験でした。

心の理論とは

心の理論とは、1980年代に発達心理学の領域において、大きな注目を集めたテーマです。プレマックらの論文で「自分自身及び他者に心の諸状態を帰属させること」と初めて定義されました。

これは次のようなことを指しています。

【心の理論とは】

「・・・しよう」とか「・・・したい」とか「・・・と思う」のような他者の心の状態や働きを、他者の行動や表情から自分の心を使って読み取っていくこと。

このような、目に見える相手の様子から相手の心の状態を推測することは私たちは日常的に行っています。

例えば、友達が電話を早口ですぐに切ったので「忙しくて焦っているときに電話してしまったかな?」や泣いているので「何か悲しいことが起こったんだな」などと考えることはよくあるでしょう。

自閉症児と心の理論

しかし、自閉症の子どもは次のような三つ組みの特徴を持っており、それによって心の理論が欠如していることが指摘されています。

【ウィングの三つ組みの特徴】

  • 社会的相互作用の障害:アイコンタクトなど非言語的コミュニケーションが苦手
  • コミュニケーションの障害:言語的コミュニケーションが苦手
  • 想像性の障害:興味関心の幅が限定される

そして、サリー・アン課題は自閉症の子どもが他者の心を読み取ることが苦手であることを示す課題として開発されたのです。

その後この課題は、自閉症のみならず広く用いられる心理学実験となりました。

サリー・アン課題の内容とやり方

課題では、カゴを持っているサリーという人形と、箱を持っているアンという人形を用います。

この人形を使い、視覚的に人物や物の移動を示しながら、次のようなストーリーを子どもたちに提示します。

【サリー・アン課題のストーリー】

  1. サリーはビー玉を持っています。
  2. サリーはビー玉を自分のカゴに入れました。
  3. サリーは外に散歩に出かけました。
  4. アンは、サリーが散歩に出かけている間に、サリーのビー玉をかごから取り出し、自分の箱に入れました。
  5. さて、サリーが帰ってきたら、サリーは自分のビー玉を探しにどこを調べるでしょう。

サリー・アン課題の答え

この課題では、サリーが帰ってきたときに、自分のビー玉があると考えている場所を答えます。実際にビー玉が隠されている場所ではありません。

サリーは散歩に出かける前に、自分のカゴのなかにビー玉をしまい、散歩に出かけてしまっているため、ビー玉に関する最後の記憶はカゴへしまった場面となります。

そして、散歩に出かけている間にアンが箱のなかにビー玉を移したことは散歩に出かけているために見ておらず、そのことを知らないはずなのです。

そのため、この課題の正しい答えは、「サリーは、自分のカゴのなかを探す」ということになります。

しかし、心の理論が十分に育っていない場合は、物語で最後に出てくるアンの箱を探すと答えてしまうのです。

サリー・アン課題について学べる本

サリー・アン課題について学べる本をまとめました。

初学者の方でも読み進めやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。

心の理論-心を読む心の科学 (岩波科学ライブラリー)

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サリー・アン課題は心の理論の獲得を測定することを目的としています。

それでは、その心の理論とはどのようなものなのでしょうか。

ぜひ本書から心の理論について詳しく学びましょう。

「心の理論」から学ぶ発達の基礎:教育・保育・自閉症理解への道

サリー・アン課題では、心の理論が成立しているかどうかによって、課題に正答できるかが左右されます。

本書のなかでは、サリー・アン課題のような誤信念課題に正答するためにはどのような認知機能が必要なのかということに触れた章もあり、サリー・アン課題の実際と課題中にどのような認知機能が働いているのかを学ぶことができます。

他者の心を推測することの重要性

相手の心を感じ取ることのできる心の理論の成立はおおよそ4歳から7歳頃であると言われています。

この時期の子どもは発達の個人差も大きく、このような課題を正解できないからと言って直ちに自閉症だと考えるべきではありませんが、心の理論の成立は他者と円滑なコミュニケーションを行い、本格的な手段生活が始まる就学期において非常に重要な役割を果たすでしょう。

ぜひ、これからも心の理論の成立を測定するサリー・アン課題について詳しく学んでいきましょう。

【参考文献】

  •  福田学(2013)『現象学的存在論に基づく「誤信念課題」の再解釈 : 「心」の発達における《否定》の意味 』新潟大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 6 (1), 17-36
  • 佐久間路子(2017)『なぜ3歳児は誤信念課題に正答できないのか : 第2世代の心の理論研究の概観から』白梅学園大学・短期大学紀要 53 1-14
  • 前原由喜夫(2015)『心の理論の生涯発達における実行機能の役割 』心理学評論 58 (1), 93-109

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    • この記事を書いた人

    t8201f

    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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