乳幼児の発達において、こころの発達は注目すべき重要なポイントです。
赤ちゃんが大きく成長し、社会的生活を送るためには、他者と円滑なコミュニケーションをとることは欠かせません。その基盤となるものが三項関係の発達です。
それでは、発達心理学において重要な位置を占めている三項関係とはいったいどのようなものなのでしょうか。具体例を挙げながら二項関係との違いや共同注意・自閉症との関連について解説していきます。
目次
三項関係とは
コミュニケーションは自分と他者という2者間で行われるものであり、それは言葉を話せない乳幼児でも変わりません。
しかし、この三項関係という関係性は、自分と他者とのコミュニケーションにおいて、モノを間に挟んで交流することのできる関係性・交流世界のことを指します。
通常では生後9か月ごろから成立すると言われており、社会性やコミュニケーションの発達における重要な指標であると考えられています。
三項関係の具体例
それでは、三項関係におけるコミュニケーションとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
三項関係が成立したことを示す代表的なコミュニケーションとしては次のようなものが挙げられます。
【代表的な三項関係でのコミュニケーション】
- 手渡し
- 受け取り
- 提示
- 指差し
例えば、指差しというコミュニケーションを考えてみましょう。
乳幼児が好きなおもちゃを見つけたけれど、高いところにおいてあるために届かないという状況があるとします。
この時、母親におもちゃをとりたいという思いを伝える際に、母親のほうを向き、声で訴えかけながらおもちゃの方向を指さすという行動を示す場合、これは三項関係に基づいたコミュニケ―ションであると言えるでしょう。
三項関係では、自分と他者というコミュニケーションの主体に第3のモノがどのようにかかわっているのかを共通理解することによって成立するのであり、これは大人へと発達した際に日常的に行われているコミュニケーションの基盤となっているのです。
乳幼児の発達と三項関係・二項関係の違い
三項関係は生後9か月ごろから成立するコミュニケーションであると述べましたが、それ以前は二項関係と呼ばれる世界で乳幼児は過ごしています。
二項関係とは
そもそも、生まれたばかりの乳幼児は、4か月ごろまで主な養育者である母親のそばを離れることなく過ごします。
この時には、
- 赤ちゃんがお腹が空いたため、泣いて母親に伝える
- 母親が赤ちゃんをあやして笑わせる
のような、「自分-他者」という2つの対象間でしかコミュニケーションは行われません。
そして、生後4か月を過ぎると、赤ちゃんは次第に外界にも興味を示すようになります。例えば、面白いテレビを見て笑う、お気に入りのぬいぐるみを抱えるなどです。
この時、乳幼児は「自分-もの・こと」という2つの対象間での世界で過ごしています。
そのため、三項関係成立前の乳幼児は「自分-他者」もしくは「自分-もの・こと」という二項関係で過ごしているのです。
三項関係の成立
これに対し、三項関係の成立では先述の通り、「自分-他者-もの・こと」というこれまで認識・交流していた対象を統合し、コミュニケーションの場において多くの対象に意識を向けるようになります。
これは、他者と外界の物事を共有しているともいえるものであり、外界の状況から相手がどのような気持ちなのか、どのような考えなのかを推測する深いコミュニケーションの基盤となるのです。
三項関係と共同注意
三項関係の成立において重要となる現象に共同注意と呼ばれるものがあります。
共同注意とは
共同注意とは、相手が注意を向けている対象に自分も注意を向けることを指します。
例えば、友達とラーメンを食べに行ったとき、目当てのお店を友達が指さすと、その指す方向に視線を向け、友達が注意を向けているラーメン屋さんに注意を向けることができるでしょう。
共同注意と三項関係の成立
このような注意の共有は三項関係の成立に深くかかわっています。
そもそも、三項関係は自分と他者の世界に外界のモノを共有している状態を指します。そのため、自分と他者が同じものに注意を向け、共有している状態こそが三項関係の成立の前提条件であると言えるでしょう。
児山ら(2015)は共同注意関連行動における二項関係から三項関係への移行は次のようなプロセスを経るとモデル化しています。
【共同注意関連行動における二項関係から三項関係への移行プロセス】
他者への注意と反応 | 二項関係の芽生え |
モノへの興味 | 二項関係の安定 |
対象物の共有 | 三項関係の芽生え |
視線内の指差し確認(視線を向けた先を指差しで確認する) | |
視線の追従(相手の視線を追う) | 三項関係の安定 |
後方の指差し理解(乳幼児の背中にあるものを指さしても振り返る) |
三項関係と自閉症
三項関係の成立は子どもの発達の重要な指標となると述べましたが、発達障害の1つである自閉症は三項関係の成立に遅れもしくは問題があることが指摘されています。
自閉症(自閉スペクトラム障害)とは
自閉症(自閉スペクトラム障害)とは、脳機能の障害により次のような特徴がみられるものを指します。
【自閉スペクトラム障害の3つの特徴】
- 社会的相互作用の障害:非言語的コミュニケーションが苦手
- コミュニケーションの障害:言語的コミュニケーションが苦手
- 想像性の障害:興味の対象が限局される
自閉症児と三項関係
自閉症児は他者が何を考えているのか、どのように感じているのかを推測するという心の理論が乏しい
ことが多くの研究でも指摘されており、心の理論の成立の前提となる三項関係の成立にも自閉症児は問題を抱えていると考えられているのです。
より詳しく述べると、ある程度の発達年齢になると、指さした対象を見るなどの共同注意は可能となるものの、それはただ対象を見るのみで、対象を見た後に他者に自分の感情を伝えようとする何らかの行動を示すような共有確認行動がみられないという特徴が指摘されています。
自閉症児の三項関係の成立
三項関係に基づくコミュニケーションに困難を示す自閉症児ですが、研究によっては適切な介入を行うことによって三項関係の成立は可能だという結果を示しているものも存在します。
高橋・藤木(2010)はシャボン玉を用いた遊びを通じ、自閉症児の遊びのペースに合わせながら笑いあい、見つめあうといった他者を意識できるような介入を行っていました。
その結果、研究対象の自閉症児すべてが「シャボン玉がきれいだね」や「シャボン玉が割れたね」のような三項関係の成立を示す自分の感情を共有しようとする行動がみられたことを報告しています。
そのため、三項関係の成立に困難を示す自閉症児には、子どもが興味を示す対象を用いて他者を意識できるような意識的なかかわりが効果的であると考えられるのです。
三項関係について学べる本
三項関係について学べる本をまとめました。
初学者の方でも読み進めやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
乳児期における自己発達の原基的機制―客体的自己の起源と三項関係の蝶番効果
三項関係は子どもの発達がどの程度進んでいるのかを示す重要な指標となりうるものです。
ぜひ本書で三項関係をめぐる子どもの発達について詳しく学びましょう。
共同注意―新生児から2歳6か月までの発達過程
三項関係の成立のためには、自分と他者の間にあるモノについて同じように注意を向けている共同注意が欠かせません。
三項関係成立の前提となる共同注意についても本書から詳しく学んでみましょう。
三項関係は深いコミュニケーションの前提
三項関係は他者と外界の事物を共有するというコミュニケーションの様式です。
これによって、人によって感じ方が違ったり、人と共有できるコミュニケーションの楽しさを感じ取ることができるのです。
私たちの多くはこの三項関係が成立したコミュニケーションを当たり前のように行っていますが、改めて三項関係のないコミュニケーションを考えてみると、私たちがいま行っている何気ない交流がどれほど高度なことなのかについて気づけるかもしれません。
ぜひこれからも三項関係について詳しく学んでいきましょう。
【参考文献】
- 児山隆史・樋口和彦・三島修治(2015)『乳児の共同注意関連行動の発達 : 二項関係から三項関係への移行プロセスに注目して』島根大学教育臨床総合研究 14 99-109
- 大神英裕(2002)『共同注意行動の発達的起源』九州大学心理学研究 3 29-3
- 熊谷高幸(2004)『「心の理論」成立までの三項関係の発達に関する理論的考察 : 自閉症の諸症状と関連して』発達心理学研究 15 (1), 77-88