現在、子どもたちの教育を取り巻く深刻な社会問題となっている小1プロブレムという現象があります。この小1プロブレムとはいったいどのようなものなのでしょうか。
今回はその定義に加え、原因や対策、発達障害とのかかわりについても解説していきます。
目次
社会問題となる小1プロブレムとは?
小1プロブレムとは、その名の通り幼稚園や保育園を卒業し、小学校へ入学した小学1年生をめぐる問題の総称のことです。
小1プロブレムの定義
小1プロブレムは次のように定義されています。
【小1プロブレムの定義】
入学後の落ち着かない状態がいつまでも解消されず、教師の話を聞かない、指示通り行動しない、勝手委に授業中に教室のなかを立ち歩いたり教室が出て行ったりするなど、授業起立が成立しない状態へと拡大し、こうした状態が数か月にわたって継続する状態
これを換言すると、小学生として身に着けるべき基本的な生活習慣が身についていないために、学級運営に支障をきたしている状態であると言えるでしょう。
この定義には、行動上の問題や心理的な問題といった非常に広い分野が含まれています。
例えば、行動上の問題としては授業中に離席する、教師の指示を聞くことが出来ないということ、心理的な問題としては不注意・多動・衝動的行動に加え、教師に注意・叱責されることによる自己評価の低下や抑うつ、攻撃性の問題が挙げられます。
なお、調査によってはこのような学級不適応状態が18.7%発生しており、その中でも56.7%が年度末までに(1年生のうちに)解決していないという報告もあるほどです。
このように、小学生になり、必要な教育を受けるための基盤となる基本的な生活習慣が身についていないために学級運営が困難となる問題は非常に深刻なものとなっています。
小1プロブレムの原因
このような小1プロブレムは、どのような原因によって引き起こされるのでしょうか。
社会性の未熟さ
小1プロブレムの原因として真っ先に指摘されていることが幼児教育と小学校教育との間にある段差です。
小学校では1日に誤解ある45分の授業をずっと席に座り、その際は授業にずっと注意を向けていなければならなくなります。
このためには、「自制心や規範意識の醸成、生活習慣の確立」が欠かせません。
つまり、大人の指示を聞き、集団の一人としてふるまうための社会性(同年齢の子ども及び教師との関係性)の獲得が求められていると言えるでしょう。
文部科学省は「よりよい人間関係を築くための社会的スキルを身に着けるための活動を効果的に取り入れる」ために、小学校の特別活動の方針を示しています。しかし、それ以前の幼稚園教育には、社会性に関わる記述は少ない状況です。
幼稚園の現場では、コミュニケーションが取れない、自制心がない、ルールが守れないと感じられる園児が増えているという報告もあり、幼稚園から小学校へ上がる際に求められる社会性のギャップが小1プロブレムとして顕在化すると考えられているのです。
小1プロブレムと発達障害の関係
小1プロブレムの問題行動として挙げられる、授業中に立ち歩いてしまう、教師の指示を聞けないなどは発達障害と関連していることも指摘されています。
発達障害はADHDや自閉スペクトラム症などを総称した脳機能の障害により、社会適応に支障をきたすものであり、しつけなど養育態度とは無関係であることが知られています。
多くの場合、子どもの集団生活において規律が求められる小学校において問題行動が顕在化し、病院を受診して発達障害であると受診されますが、発達障害の診断を受けていないものの、不注意や多動、コミュニケーションの問題が特徴的な「気になる子」とされる子どもたちの存在も注目されています。
特に気になる子に関しては、全体的な知的発達に遅れはないものの、感情をうまくコントロールできない、言葉で要求を伝えることが困難で、かんしゃくを起こしたり、叩いてしまう」などより大きな問題を引き起こしてしまう恐れがあります。
このように、小1プロブレムには発達障害や発達障害を疑われる子どもも関わっていると考えられているのです。
小1プロブレムへの対策
小1プロブレムへの対策として、どのような取り組みがなされているのでしょうか。
現在重視されている取り組みは、子どもの学びと発達の連続性を確保するための幼稚園・小学校の連携です。
確かに幼稚園から小学校へ上がると生活は大きく変化します。
しかし、小学校に入学したからといって子どもは急に別の存在になるわけでなく、幼稚園・小学校の教員がともに幼児期から児童期への発達の流れを理解し、意見交換することなどが挙げられます。
これにより、幼稚園現場ではどのようなことを入学準備として取り組まなければならないか、小学校現場では入学してくる子どもにどのような配慮をしなければならないかが明確になります。
そのほかにも、幼稚園児が学校を訪問し、児童の交流の場を設けることで、子ども自身に小学生としてのふるまいはどのようなものなのかを意識させる取り組みもなされています。
社会性と情動の学習プログラム
小1プロブレムの背景にあるのは、社会性の未熟さや情動機能の不十分さであることが指摘されています。
このような社会性を育成する心理教育プログラムは社会性と情動の学習(Social and Emotional Learning:SEL)と呼ばれており、「子どもや大人が社会性と情動の能力を獲得するために必要なスキル、態度、価値観を発達させるもの」と定義されています。
山田・小泉(2020)はSELの幼児期版であるSEL-8Nを幼稚園児に実施し、その介入効果を検討しています。
【SEL-8Nの単元】
- 自己他者理解:自分の感情や他者の感情を考え、理解するプログラム
- 感情制御:他者との衝突場面における感情への対処やストレス対処を学ぶ
- 対人関係:聞く・伝えるなど他者への望ましいコミュニケーションを学ぶ
その結果、SEL-8Nを実施した児童は「行為の問題」「多動・不注意」「情緒の問題」「仲間関係の問題」「向社会性」といった要因への実施効果が確認され、特に支援の必要性の高い児童への効果が大きかったことが示されています。
小1プロブレムについて学べる本
小1プロブレムについて学べる本をまとめました。
初学者の方でも読み進めやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
小1プロブレムを防ぐ保育活動 理論編
小1プロブレムを防ぐためには、幼稚園・保育園の段階から社会性を身に着けられるような取り組みが大切です。
ぜひ本書から、保育現場で取り組むべき小1プロブレム対策を学びましょう。
学校が大好きになる! 小1プロブレムもスルッと解消! 1年生あそび101
遊びを通じて多くを学んでいた就学前教育から、学校では教科教育がスタートします。
しかし、いきなり席に座ってずっと過ごす教科教育のギャップについていけないのが小1プロブレムであると言えるでしょう。
そのため、学校を大好きになり、小1プロブレムを解消するためのカギとなるのが遊びなのかもしれません。
ぜひ、本書から小1プロブレムに有効な遊びとはどのようなものかを学びましょう。
子どものつまづきを支えてあげる重要性
大人であっても、引っ越しや転職など環境の大きな変化は負担となるものです。
そのように考えると、適応能力が十分に育っていない子どもでは、幼児教育から小学校教育への移行がどれほど大変なことなのかがわかるでしょう。
確かに小1プロブレムは学級の運営という面でとても大変な問題ですが、適応につまづいている子どもを温かくサポートし、支えることが何よりも求められられるのです。
【参考文献】
- 小野はるか・小関俊祐(2016)『機能的アセスメントの観点からみた小1プロブレム対策としての就学支援プログラムの展望』心理学研究 : 健康心理学専攻・臨床心理学専攻 6 33-44
- 大前暁政(2014)『小1プロブレムに対応する就学前教育と小学校教育の連携に関する基礎的研究』人間学研究 : 京都文教大学人間学研究所紀要 京都文教大学人間学研究所 編 15 19-32
- 山田洋平・小泉令三(2020)『幼児を対象とした社会性と情動の学習(SEL-8N)プログラムの効果』教育心理学研究 68 (2), 216-229