単純接触効果
とは、刺激や対象を見慣れることによって、その対象に好意を抱くようになるという現象で、ザイオンスによって提唱されました(このことから、ザイオンス効果とも言われます)。
職場や恋愛、片思いなどといった日常生活でも、CMやマーケティングといったビジネス場面でも、幅広く応用していくことが可能な「単純接触効果」について、一緒に学んでいきましょう。
目次
単純接触効果(ザイオンス効果)とは
単純接触効果。普段の生活ではあまり聞きなれない言葉かもしれません。
しかし、社会心理学の領域ではとてもポピュラーな心理学用語であり、なによりも日常生活で応用しやすい知識の一つです。心理学を専門に学ぶ方も、一般の読者の方も、ぜひこの機会に知っておくことをおすすめします。
それでは、単純接触効果の意味と具体例についてこのセクションで理解していきましょう。
単純接触効果の意味
まず単純接触効果の意味について説明していきます。
「単純接触効果」とは、初めのうちは、興味・関心がない刺激対象に対しても、繰り返し会ったり、見たり、聞いたりすることで次第にその刺激対象に対して慣れ、その刺激対象に対して好意的な感情が起こってくる現象を言います。
アメリカの心理学者、ロバート・ザイオンス(Zajonic, R. B.)によって1968年に提唱されました。提唱された学者の名前にちなんで、「ザイオンス効果」「ザイオンスの単純接触の法則」などとも呼ばれたりします。
単純接触効果の具体例
続いて、単純接触効果の具体例について理解していきたいと思います。「単純接触効果」は、私達の日常生活においても気付かぬうちによく起こっているものです。
例えば、あなたが学生だったときを思い出してください。学生時代には「好きな人」と言えば同じクラスの○○くんや、隣の席の××ちゃんだったのではないでしょうか。
冷静に考えてみると、同じクラスの○○くんよりも隣のクラスの△△くんの方がイケメンで優しい。隣の席の××ちゃんよりも隣校の◇◇ちゃんの方が美人で性格が良いということは十分にあり得るはずです。
それでもあなたは、たったの一度見たり会ったりしただけの相手よりも、毎日学校で顔を合わせる「近くの知人」に対して好意を抱く場合の方が多かったのではないでしょうか。
こういった現象は単純接触効果の一例といえます。
単純接触効果の研究
ここからは、単純接触効果に関する興味深い研究をいくつか紹介します。
ロバート・ザイオンス(1968)による単純接触効果はじまりの研究
ロバート・ザイオンスの1968年の研究をまずご紹介しましょう。
ザイオンスは、大学の卒業アルバムの中から抜き取った10枚の写真を被験者にみせ、それぞれの写真に写った人物が「どれほど好ましいか」を調べました。ただし、10枚の写真のうちの2枚を2回、2枚を5回、2枚を25回、繰り返し見せていたのです。
その結果、見せられた回数の多かった写真に写る人物は、被験者に「好ましい」と判断されることが分かりました。
日本における単純接触効果のユニークな研究
日本においても単純接触効果について面白い研究がされています。
川上らが2014年に行った研究では、ある一定の癖のある筆跡を持った字を繰り返し提示すると、提示回数の少ない筆跡よりも好ましいと判断される。つまり、筆跡に対しても単純接触効果が起こると示しています。
単純接触効果の日常への応用
続いて、単純接触効果が日常でどのように使われているのか。また、どのように応用することが可能なのかを考えてみたいと思います。
恋愛(片思い・職場恋愛)
先にご紹介した通り、学生では同じクラスや同じ学校といったように、繰り返し見たり、聞いたり、会ったりする機会が多い相手を好きになることがよくあります。
これは、職場恋愛においても同様の現象が起こると考えることが出来ます。同じ職場や部署、または作業机が近いなどといった理由から、繰り返し見たり、話したり、会ったりする相手に対して好感を抱く可能性が高いです。
では、この「単純接触効果」を恋愛において意図的に利用するにはどうしたらよいでしょうか。実はとても簡単です。自分に対して好意を抱いて欲しい相手に対し、自分自身を繰り返し提示すればよいです。
自身の作業机を相手の作業机の近くに配置する。休憩中や食事時間で相手にこまめに話しかける(話しかける勇気がなければ、視界に写るだけでもよいでしょう)。LINEやメールなどの連絡をこまめに送り、自分を繰り返し意識させるという方法も有効かもしれません。
ビジネス(CM・マーケティング)
思えば、CMは「自社の商品を知ってもらうためのもの」であるとすれば、あれほど繰り返し放送する必要はありませんよね。視聴者は1度観ただけで、十分CMで紹介された商品について知ることが出来るはずですから。
しかし、CMの狙いは「ただ知ってもらう」ではなく「自社の商品を好きになってもらう」にあるとしたら。あのように繰り返しCMを放送する狙いも十分に理解できます。
マーケティングなどのビジネスの場面でも「単純接触効果」は非常に有効な手段です。商品イメージや写真を提示することで、お客様に繰り返し商品を見せる。商品の名前を連呼することで繰り返し聞かせる。このような方法で、商品に対し好感を抱かせるということも可能です。
人間関係(苦手な人の克服)
人間関係においても「単純接触効果」は十分に利用できます。
もしあなたに「何となく好きになれない」という人がいたとしたら、敢えて繰り返し会う予定を立てて、苦手な相手を繰り返し見たり、苦手な相手と繰り返し話したり、苦手な相手のことをより深く理解することで、苦手意識が薄れ、単純接触効果によって好意的に思えてくるかもしれません。
単純接触効果がマイナスに作用する場合
ボーンスタイン(Bornstein) 、カレ(Kale)、コーネル(Cornell)によって1990年に行われた研究では、好意的評価の増加は接触回数に対し必ずしも直線的には増加せず、過度の接触は好意度評価をむしろ低下させると示しています。
つまり、何度も繰り返し見たり聞いたりすることでいったんは好意を抱きますが、あまりにもその回数が多過ぎるとむしろ嫌いになってくるのです。
この理由として、研究者は「摂食刺激に対する飽きが、接触経験による好意度の増加を抑制したために生じている」と説明しています。「美人は3日で飽きる」なんて言いますが、実際に何度も繰り返し会っていれば(3日でとは言いませんが)飽きてしまうのです。
単純接触効果について学べるおすすめの本
単純接触効果などの心理効果をもっと知りたいという方に向けて、おすすめの本をご紹介します。
「メンタリズム 恋愛の絶対法則」(著)メンタリスト DaiGo
単純接触効果を恋愛で活かすために学びたいと考えている一般の読者の方へのオススメです。単純接触効果だけではなく、恋愛において応用しやすい心理学・心理術が多数分かり易く紹介されています。
「新版 心理学辞典」(編)下中弘
大学院試験などでもう少し詳しく「単純接触効果」の学術的ベースを知りたいという心理学生の方へのオススメです。試験対策に十分な量の情報が記載されています。
「辞典」といったら固そうなイメージを持たれる方も多いかもしれませんが、心理学辞典は比較的読みやすいく、初学者にもオススメできます。
「単純接触効果の最前線」(著)宮本聡介・太田信夫
さらに研究などで「単純接触効果」の学術的歴史や背景まで理解したいという専門家へのオススメの図書です。
現在、日本のみならず海外においても単純接触効果がどのような視点で研究が進められているのかについて解説してくれます。「単純接触効果」についての専門家になりたいという方には必読の一冊と言えるでしょう。
簡単に活用できる単純接触効果
これまで、単純接触効果に関する意味や具体例、心理学実験、さらに日常生活への応用方法から、単純接触効果がマイナスに作用する場合について学んできました。
単純接触効果の何よりも興味深い点は、やはり日常生活への応用が簡単であることではないでしょうか。
心理学を専門とする読者の方はもちろんのこと、心理学を生業としていない一般の読者の方も、ぜひこの機会に単純接触効果について理解を深め、ただ「知るだけ」ではなく、ぜひ「日常生活での利用」をしてみて下さい。
また、この機会に「単純接触効果」に興味を持ってくれた方は、ぜひオススメ図書からさらに単純接触効果について学びを深めていけたらよいかと思います。簡単なようで、奥が深いこの心理学の一大現象をあなたが上手く使いこなし、日常をよりよくしていけることを祈っております。
参考文献
- 渋谷昌三. (2012). 人には聞けない恋愛心理学入門. 株式会社かんき出版.
- メンタリスト DaiGo. (2012). メンタリズム 恋愛の絶対法則. 株式会社青春出版社.
- 高橋美穂. 山口陽弘. (2001). 試験にでる心理学 一般心理学編 心理系公務員試験対策/記述問題のトレーニング. (株)北大路出版.
- 下中弘. (1981). 新版 心理学辞典. 株式会社 平凡社.
- 宮本聡介. 太田信夫. (2008). 単純接触効果研究の最前線. 北大路書房.
- 川上直秋. 菊地正. 吉田富二雄. 字のクセを好きになるか? : 筆跡に基づく単純接触効果の般化. 社会心理学研究 第29巻. 第3号. 187-193.
- Bornstein, R. F., Kale, A. R., & Cornell, K. R. (1990). Boredom as a limiting condition on the mere exposure effect. Journal of Personality and Social Psychology, 58(5), 791–800.
- Zajonc, R.B. (1968). Attitudinal effects of mere exposure. Journal of Personality and Social Psychology, 9, 1–27.