今回は、アートセラピーについて学んでいきます。アートセラピーは、カウンセリングの中でどのような効果があるのでしょうか。
アートセラピーの種類とやり方についてみていきます。また、アートセラピーを学ぶための講座や、資格認定を行なっている団体についてもご紹介します。
目次
アートセラピーとは
まずは、アートセラピーとはどのようなものなのか、その意味や効果を見ていきましょう。
アートセラピーの意味と定義
アートセラピーは、クライエントが創り出す作品を通して行う心理療法です。
ただ、「アート」も「セラピー」ももっと広く捉え、表現をする事で自分を癒す行為全般をアートセラピーと呼んでいる人もいるようです。
アートセラピーの歴史
ユング派の教育分析を受けたマーガレット・ナウムブルグ(1890-1983)は、アメリカのアートセラピーのパイオニアです。彼女のアプローチは、描かれた絵を夢分析のように扱うものでした。
アートセラピーという言葉を初めて用いたのは、イギリスのエイドリアン・ヒル(1895-1977)です。彼女の目的は、孤独で不安な日々を過ごす結核患者に、絵を描く楽しみを与え、安らぎの場を与える事でした。
1964年にイギリスでは英国アートセラピスト協会が、1969年にアメリカで米国アートセラピー協会が設立されます。
1980年代には、フロイト派、ユング派、ゲシュタルト療法派、認知療法派など、アートセラピーにおいて様々な学派が生まれます。
1990年代になると、アートセラピーを、他の芸術療法と統合して治療に用いようという統合化が起こります。この活動に影響を受けたロジャーズの娘であるナタリー・ロジャーズは、表現アーツセラピーを作っていきました。
そして、1995年に国際表現アーツセラピー協会が組織されます。
アートセラピーの効果
関(2016)は、アートセラピーの効果(治療因子)として、次の16項目を挙げています。
受け入れられる体験、健全な自己愛を育む体験、サポートされる体験、カタルシス、コントロールの感覚、模倣、問題の外在化、素材を変えることによる修正感情体験、作品を完成させることにより達成感を得、自己評価を高める、昇華の達成、思考や感情を形にし整理する、気づきと洞察、リフレーミングとエンパワーメント、統合、アセスメントの手段として
以上16個のアートセラピーの効果の中から、いくつかを見ていきましょう。
・受け入れられる体験
他のセラピー同様、アートセラピーにおいても、まず大切なのが受け入れられる体験です。
クライエントは、自分の作った作品や、作品に向き合う姿勢そのものを無条件に受け入れられる体験を通して、自分の存在を認められ安心感を得られます。
グループワークで行う場合は、メンバー同士で「受け入れ合い」が行われるようにする事も大切です。
・問題の外在化
クライエントの悩みはしばしば、「私が問題だ」と捉えている事から生じています。「自分」と「問題」が一体化してしまう事で苦しむのです。
問題を自分から切り離す作業を外在化と言います。アートセラピーでは、制作を通して外在化が自然と行われます。
作品として自分の外に出た問題は、もはや自分にとって脅威ではなく、自分の好きなように作り替えることすらできるのです。
・アセスメント
精神科領域でアートセラピーが用いられる場合には、診断の手段として使われる事があります。
クライエントの作品や制作に向き合う姿勢を、トレーニングを積んだセラピストが観察し、クライエントの病状悪化や問題行動を予防する「見立て」に活かします。
アートセラピーの種類とやり方
アートセラピーの種類とやり方について見ていきましょう。
アートセラピーの種類
アートセラピーの種類は、大別すると平面素材を用いるものと立体素材を用いるものに分けられます。
平面素材を用いるもの・・・鉛筆、色鉛筆、クレヨン、パステル、ブロッククレヨン、マーカー、絵の具、墨などを用いて、画用紙やわら半紙などに描いたり塗ったりします。
立体素材を用いるもの・・・粘土、ウッドチップス、ダンボールなどを用いて、形を変えたり、作品を作っていきます。
アートセラピーのやり方
アートセラピーのやり方を、個人セッションの場合を想定して見ていきます。
アートセラピーの流れ
- インテーク(治療契約):クライエントの主訴(困っている事、解決したい事)や情報を聴き、アートセラピーについて説明をします。治療目標を決め、セッション時間や頻度などを決めていきます。
- 制作前の話し合い:主訴について詳しく聴きます。2回目以降は、前回の制作から、クライエントの生活にどのような変化があったのかを聴きます。
- 制作:クライエントが安全に自由に制作ができるように立ち会います。立ち会い方は、アートセラピーの流派や、そのセラピストの姿勢によって様々でしょう。
- 作品紹介:完成した作品を前にして、今のクライエントはどのような気持ちでいるのか、制作中はどのような気持ちや体の感覚だったのかを話してもらいます。これに基づき、クライエントが主訴の解決に結びついていく気づきを得ていく過程に寄り添います。
- クロージング:今回のセッションを振り返ります。
アートセラピーに関する研究
アートセラピーの効果ばかりに着目して、その弊害を軽視するのは危険です。
現場で実際にアートセラピーを行っていこうと考えている方、アートセラピストとして活動していきたい方に参考となる研究を1つご紹介します。
アートセラピーで用いられるエクササイズの分類研究
小野・濱中(2019)は、表現アートセラピーのエクササイズを分類し、心理的に健康な人と精神科疾患を持つ人への向き・不向きについて検討しています。
心理的探求エクササイズ:自分の気持ちや体について気づきを得る事を目的としたり、過去の振り返りやトラウマを扱うものです。自我が健康な人に向いている一方、自我が弱まっている人が行うと心理不調を招く事があります。
創作表現中心のエクササイズ:創作する事で喜びを感じたり、自己肯定感の向上や個性の発揮を目的としたものです。精神科疾患を持っている方、高齢者や子供に向いています。
このような分類を元に、対象者が心理的な不調を被らないように、エクササイズの種類を検討する必要があると述べられています。
また、一般の健康な方であっても、ストレスを多く抱えていたり、心的エネルギーが低下している方には、心の中を振り返るエクササイズは避けた方が良い場合も多いとしています。
アートセラピーの学会
アートセラピーの学会を2つご紹介します。
1969年に設立され、精神科医、臨床心理士、看護師、教師など幅広い会員を持つ学会です。「芸術療法士の認定も行なっています。
一般社団法人日本クリエイティブ・アーツセラピー学会(JCATA)
クリエイティブ・アーツ・セラピー(アートセラピー、ダンス/ムーブメントセラピー、ドラマセラピー、ミュージックセラピー、表現アーツセラピー)を行うセラピストの活動やネットワークの拡大、教育事業等を行なっている学会です。
アートセラピーを学ぶ方法と資格
アートセラピーを学ぶ方法には、どのようなものがあるのでしょうか?また、アートセラピーの資格もご紹介します。
アートセラピーの講座
「臨床アートセラピー」の著者である関則雄氏が代表理事を務めておられます。アートセラピーの基礎講座が行われています。
クエストアートセラピー学院の講座
クエスト総合研究所が主催するアートセラピーの専門学校では、アートセラピストの養成講座やアートセラピー1日ワークショップなどが行われています。
芸術造形研究所の講座
芸術造形研究所では、臨床美術の教室を開講しています。臨床美術士の資格取得コースもあります。
アートセラピーの資格
現在、アートセラピーに特化した国家資格はないのですが、医師、心理士、看護師、教師、保育士等のサービス提供能力の向上に役立ちます。
芸術療法士
日本芸術療法学会の行うセミナーを受けて取得する資格です。2020年は新型コロナウィルスの拡散により中止となったようです。2021年以降の情報については、当学会のホームページをご確認ください。
臨床芸術療法士(クリニカル・アートセラピスト)
クエスト総合研究所のJIPATTプログラムを受けることで取得を目指す事ができる、カナダアートセラピー協会基準の資格です。
臨床美術士
上述の芸術造形研究所に資格取得コースがあります。
アートセラピーについて学べる本
アートセラピーについて学べる本をご紹介します。
「臨床アートセラピー 理論と実践」
著者は、日本クリエイティブ・アーツセラピー・センターの代表理事を務められている関則雄氏です。
アートセラピーの歴史、治療因子、理論的背景、防衛メカニズム、素材、アートセラピーのプロセス、病態別アプローチが書かれています。
アートセラピストを目指したい方にはおすすめの1冊です。
「ワタシらしさが花ひらく アートセラピーワークブック」
講座に通う前に、手軽にアートセラピーを体験してみたい方へ。リラクゼーションアート、人生を変えるパワーアップアートなど、12のワークが載っています。
目的・手順・ポイントと共に、カラー写真の作品集もあるので、楽しく取り組める1冊です。
ことばから自由になる時間
普段、私達はことばに縛られて生きています。気持ちをことばにする度に、自分の中の本能やエネルギーが失われる気がする事はありませんか?
アートセラピーは、ことばでは入り込めない心の奥に私達をスーッと連れて行ってくれます。そこで、あなたが忘れていた宝物を見つける事ができるかもしれません。
その宝物を確認したら、また日常のことばの世界に戻ってくるのです。その時には、少しだけ世界が広がったように感じられるかもしれません。
参考文献
小野京子・濱中寛之(2019)「パーソンセンタード表現アートセラピーにおけるエクササイズ検討」日本女子大学紀要 家政学部(66),47-52
柴崎千佳子(2008)「ワタシらしさが花ひらく アートセラピーワークブック」BABジャパン
関則雄(2016)「臨床アートセラピーー理論と実践」日本評論社