心理療法といえば、個室で専門のカウンセラーと1時間ほど対話をすることで自身の問題について吐き出したり、その原因に気づくことで社会適応を目指すという1対1の取り組みであるイメージも強いでしょう。
しかし、中には複数のクライエントが集まって実施される集団療法というアプローチもあります。それでは、集団療法とはどのような目的や効果、メリット・デメリットがあるのでしょうか。うつ病や認知症への取り組み事例や主要な学会についてもご紹介します。
目次
集団療法とは
集団療法とは、複数のクライエントが集まって行われる心理療法のことを指します。
集団療法は、集団心理療法や集団精神療法・グループサイコセラピーなど様々な呼称が用いられていますが、治療法によって、参加者同士で対話を行うものから、共通の課題に取り組むもの、芸術活動やレクリエーションを取り入れたものなど様々です。
集団療法の定義
具体的な定義としては次のようなものが挙げられます。
集団療法におけるファシリテーターの役割
集団療法の多くは、心理士のような専門家が1人ないしは数人介入することになりますが、その役割は促進者(ファシリテーター)と呼ばれ、主役である集団の構成員であるクライエント同士がうまく交流し、治療活動に臨めるよう補助をする役割を担うことが多いようです。
ファシリテーターとしての役割において重要となる事柄は次の通りです。
【ファシリテーターに求められる事項】
- 参加者の様子を温かく見守る
- 適切なフィードバックを行う
- メンバー同士の関わり合いを促進する
- 信頼感や安心感のある雰囲気づくりに努める
- 強制や無理強いをしない
- 素直で純粋な態度を保つ
集団療法の目的
集団療法の最終的な目的は、個人心理療法と同様にクライエントの社会適応を支援することです。
しかし、集団療法の「様々なパーソナリティと社会的背景の持ったクライエントが1つの場を共有する」という特徴から、参加者同士が相互に関わり合い、お互いに影響を及ぼし合う「今ここ」での良質な体験を積むことを目的として実施されます。
これは、ロジャーズ,C.G.の提唱したクライエント中心療法に近い考えであり、もともと集団療法が心理臨床の現場において広まるきっかけを作ったのが、ロジャーズによるエンカウンターグループと呼ばれる集団療法であるからです。
集団療法において著名な心理学者であるヤーロムは、集団療法の役割・目的として次の6つの事項を挙げています。
【ヤーロムによる集団療法の役割・目的】
- 療法的なプロセスを患者に促す、つまり「患者が療法にのる」こと。入退院が繰り返される患者にとって再入院のリスクを下げるためにも、退院後の治療に継続できること。
- 他の患者に話を聞いてもらい、理解された地受け入れられると共に、他の患者も自分と同じような苦痛を背負っているのだと知ることで、話すことが助けになるのだと学ぶこと。
- 自らの問題に焦点を当て、本当の問題を見分けること
- グループ内でのコミュニケーションにより、孤立を防ぐこと
- 他の患者に役立つよう導き、自分の価値を取り戻すこと
- 病院や治療に対する不安を低減させること
集団療法の効果
集団療法では、一般的に複数のクライエントが集まった場で生じる次のような効果が見込まれると指摘されています。
【集団療法での治療的効果】
- 他者の語りに耳を傾け、共感的体験をする
- 他者との深い交流の中で、他者とのつながりを体験する
- 対人交流パターンの変容が生じる
- 自己理解や自己受容を促進する
集団療法において重要な要因
ヤーロムは集団療法での治療効果をもたらすために重要な要因を挙げています。
【ヤーロムの11因子】
- 希望をもたらすこと:治療に対する信頼感や希望を醸成する
- 普遍性:他者との交流の中から自分との類似点を見つけ、自分だけが特異でない
- 情報の伝達:精神保健や精神疾患に関する知識の提供
- 愛他主義:患者同士がお互いに提案や助言を与え合い、他者への援助によって自己評価を高める
- 初期家族関係の修正的な繰り返し:家族との葛藤が集団内で再体験され、修正されていく
- 社会的適応技術の発達:他者と関わるうえでのソーシャルスキルを向上させる
- 模倣行動:他者の行動を観察し、望ましい行動を学ぶ
- 対人学習:社会の縮図としての治療集団において、自身の対人関係の特徴を学ぶ
- グループの凝集性:集団の一体感を感じることで、メンバー同士の援助能力を育む
- カタルシス:とかのメンバーに対し肯定的・否定的な感情を素直に表現し、自身の気持ちの表現の仕方について学ぶ
- 実存因子:人生の不条理さや苦しみなどの責任は自分にあるということを学ぶ
集団療法のメリットとデメリット
集団療法には、メリットとデメリット両方が存在しています。これは個人療法も同様であり、そのメリットとデメリットは表裏一体です。
そのため、必要に応じてアプローチを使い分けるよう心がけましょう。
集団療法のメリット
- 複数人が集まる場所へ継続して通うこととなるため、社会的な孤立を防ぎ、他者と関わることの楽しみを見つけることができる
- 自分以外の価値観を素直に受け止める貴重な機会となる
- 一度のセッションで多くのクライエントが治療を受けることができる
集団療法のデメリット
- 人と関わることが苦手な人に適さない
- 集団の中で自己開示することに抵抗が生じる可能性がある
- 心理士がひとりひとりに関わる時間が減ってしまう
うつ病や認知症への取り組み事例
それでは実際の集団療法はどのように行われるのでしょうか。
今回はうつ病と認知症を対象とした取り組みの事例をご紹介します。
うつ病により休職した人のリワークプログラム
中村(2018)は集団認知行動療法という技法による介入をうつ病により休職中の16名の患者に実施しました。
取り組みは1回90分の少人数制のグループであり、オリジナルのテキストを用いて講義や参加者同士が交流するワーク、グループディスカッションを行うことで、認知や行動・コミュニケーション面にアプローチを行っています。
特にうつ病は、認知の歪みから、不合理な自動思考が生じ、ネガティブな感情や不適応行動に支配されてしまうという特徴があります。
そのため、本事例ではテキストに「休職中の大手電機メーカーに勤務するサラリーマンAさんというモデルを提示し、参加者の侵襲性(心への負担)が少なくなるよう工夫をしながら進められました。
その結果、参加者には抑うつ気分の改善や職場のストレス処理に対する認知及び行動からなる労働スタイルが変容し、柔軟性が増していきました。
このように、職場によるストレスが引き金によるうつは、仕事の責任感から自分で全て抱え込んでしまうような自己完結型労働スタイルに関わる認知を集団の中で修正していくようなアプローチが有効である場合もあるのです。
認知量高齢者に対する小集団プログラム
身体的機能が衰え、認知症を患った高齢者に対しては、行動や心理症状を低減させ、喜びや楽しみなどの肯定的な感情を引き出すことで残された身体的・精神的機能を発揮させることが求められます。
猪俣ら(2014)はそのような認知症を患っている高齢者に対し、色彩から感情を引き出し、コミュニケーションを活性化させることを目的として「色カルタ」を実施しました。
集団療法では、集団内で共通の課題に取り組んだり、ワークやレクリエーションを行うというケースもあり、一見すると心理療法のように見えないこともあります。
今回の事例では、1回30分のプログラムを計8回実施するという内容で、進行役として介護士と観察役として作業療法士が次のような注意事項のもと、ファシリテーターとして介入したようです。
【色カルタの留意点】
- 参加者に発言を強要したり、批判しない
- 受容的な態度で接すること
- 偏った価値判断や否定的なコメントをしない
- 特定の参加者の発言回数や時間が偏らないようにし、交流関係を調整する
このようなプログラムを行った結果、活動前に孤立や不安などの否定的感情の表出が多かった参加者に肯定的な感情が増幅したことが確認されました。
このような肯定的感情は主観的幸福感やWell-beingといった健康状態にも深い関わりを持っており、集団において楽しむという経験は、認知症を持つ高齢者の心理的なニーズを満たしているものと考えられています。
集団療法の主要な学会
集団療法について詳しく学びたい方は、学会への入会もお勧めです。
一般社団法人日本集団精神療法学会は学術大会や研修会を精力的に実施している、日本でも有名な集団療法を扱う学会です。
2022年3月19日から21日までは第39回の学術大会をオンラインで開催する予定との情報もありますので、これを機に集団療法について詳しく学んでみるのはいかがでしょうか。
集団療法について学べる本
集団療法について学べる本をまとめました。
AGPA集団精神療法実践ガイドライン
実際に集団療法を実施するときには何らかのガイドラインがあったほうが良いでしょう。
というのも、ファシリテーターは個を観察しながらも、集団としての働きを導かなければならないからです。
そのため、実際に集団療法を実施する前に、ぜひガイドラインに目を通し、しっかりとした流れをイメージしながら取り組みましょう。
集団精神療法の実践事例30:グループ臨床の多様な展開
実際に集団療法がどのように行われるのかを事前に知っておくことは非常に有益です。
本書は、集団療法が実践された30もの豊富な事例を掲載しており、実際の集団療法がどのように行われるのかのイメージを掴むことができるでしょう。
集団の中での経験が社会参加へとつながる
集団療法で集まる人々によって構成された集団は、社会の縮図でもあります。
実際に精神障害を患っていた方が、社会再適応を果たせるレベルまで症状が改善したとしても、社会から長く離れてしまっているということから、うまく再適応できず、再び病状を悪化させてしまうというケースも否定できません。
そのため、安心できる集団の中で受容され、自分を見つめ直すことのできる集団療法も介入法の一つとして頭に入れておくのが良いでしょう。
【参考文献】
- アーヴィン・D.ヤーロム著 ;中久喜雅文,・川室優監訳(2012)『ヤーロムグループサイコセラピー : 理論と実践』西村書店
- 中村聡美(2018)『集団認知行動療法によるうつ病休職者のストレス処理の変容過程』カウンセリング研究 51(1), 1-13
- 猪俣英輔・三浦南海子・折茂賢一郎(2014)『認知症高齢者の感情機能に着目した小集団プログラムの効果 : 「色カルタ(クオリア・ゲーム)」を用いて』作業療法33(5), 451-458
- 一般社団法人日本集団精神療法学会『一般社団法人日本集団精神療法学会 | Japanese Association for Group Psychotherapy 日本集団精神療法学会は、グループ(集団)を活用して人の成長や回復を支援する試みを探求している学会です。 (jagp1983.com)』https://jagp1983.com/