馴化とは?読み方・意味とともに順応との違いや心理学における実験を解説

2021-02-11

今回は、馴化について学んでいきます。馴化の意味や具体例、馴化と順応の違いを解説します。また、馴化に関連する現象として、定位反応、鋭敏化、脱馴化についても学びましょう。さらに、馴化に関する心理学実験や学習におすすめの本をご紹介します。

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馴化とは

まずは、馴化とはどのようなものなのか見ていきましょう。

馴化の読み方と意味・定義

刺激への慣れの事を、馴化(じゅんか)と言います。同じ刺激を何度も繰り返すうちに、その刺激に対する反応が低下していく現象です。

私達が生きていく上で刺激に反応することは大切ですが、繰り返される刺激に全て反応していては、他の作業を行えません。

ですから、馴化は動物が効率的に生きていくための知恵と言えるでしょう。

馴化の具体例

この記事を読んでいる時、全く音のない状況にいらっしゃる方は少ないのではないでしょうか。

家の中なら外のバイクの音や冷蔵庫の音などがするかもしれません。喫茶店なら人の話し声や音楽が聞こえているかもしれません。電車内ならもっと大きい音がしているでしょう。

初めは気になっていたそのような音が、気づいたら気にならなくなっていたとしたら、それが馴化です。

馴化と順応の違い

心理学上は、馴化は学習(経験によって生じる持続的な行動の変化)の一種であり、感覚器官の疲労ではないとされます。

これに対して、順応は感覚の感度が低下する事です。暗い所から明るい所に出た時の眩しさに慣れてくる明順応などがこれに当たります。

ですが日常生活での使われ方を考えると、実はこの違いは単純ではありません。

2020年に環境省が推奨した暑熱順化というものがありました。文字からして、順応と馴化とどちらを指しているのか分かりにくいですよね。

暑熱順化は、ウオーキングなどの運動を1日30分行う事で、2週間程度で暑さに慣れる事から、熱中症リスクを低下させようとするものです。

馴化、順応、順化など、日常的には大きな区別なく使用される傾向があると考えられます。

馴化に関連する現象

馴化と関連する現象をいくつか見ていきましょう。

馴化と定位反応

定位反応は、新しい刺激に出会った時に、それを探索しようとする反応です。例えば犬であれば、音のする方を見たり、耳を動かしたり、鼻をクンクンさせたりする反応です。

定位反応について初めて科学的に記述したのはパヴロフ(Pavlov,I.P.)でした。

パヴロフは、新しい刺激に対する犬の様々な反応を、「探索反射(investigatory reflex)」あるいは、「おや、何だ反射(what-is-it reflex)」と名付けました。

刺激が何度も繰り返されるうちに、定位反応は次第に見られなくなっていきます。つまり、定位反応を観察することで、馴化が生じている事を知ることができる訳です。

馴化と鋭敏化

同じ刺激が繰り返された時、反応が低下するのが馴化でした。これに対し、反応が上昇する場合を鋭敏化と言います。

星野(2003)は、スポーツ選手に動作法を適用し、動作への気づきの鋭敏化により記録が向上すると述べています。氏原ら(1992)も、動作法による筋感覚の鋭敏化がフリースローの技術向上に有効な事を示唆しています。

馴化と脱馴化

馴化と順応の違いの所で、馴化は感覚器官の疲労ではないと書きました。それは、脱馴化という現象によってわかる事なのです。

脱馴化は、馴化が起きている時に違う刺激を提示すると、低下していた反応がまた生じる現象です。

脱馴化については、後ほど紹介する乳児への実験が有名です。

馴化に関する心理学実験

馴化に関する実験を2つ見ていきましょう。

アメフラシの馴化

軟体動物のアメフラシは、学習や記憶の研究に良く用いられています。

吉田ら(2006)は、学習や記憶に関する無脊椎動物の神経回路についての最近の研究をまとめています。

アメフラシはサイフォンから海水を吸ったり吐いたりしてエラ呼吸をします。サイフォンやエラはアメフラシの生命にとても大切なものです。

そのため、サイフォンが何かに触れるとサイフォンやエラを守るためにそれを体の中に引っ込めます。ところが、繰り返し水管を触ると馴化が起こり、触れても引っ込めなくなるのです。

馴化が起きるメカニズム

馴化のメカニズムを上記のアメフラシの例で見てみましょう。

サイフォンに繰り返し触れると、それを引っ込める現象が段々弱くなっていくのが馴化です。

これは、サイフォンの感覚ニューロンと運動ニューロンの間で放出される神経伝達物質が減少するためだとされています。

乳児に対する馴化ー脱馴化法

馴化ー脱馴化法は、脱馴化が生じるか、またその程度により、刺激の弁別を調べる方法です。言葉の話せない乳児の心の理解に有効です。

ベイヤージョン(1986)は、乳児の対象の永続性(物が見えない所に隠されても、それは無くなる訳ではなく存在し続ける事)を理解しているかどうかを調べました。

おもちゃの車が坂道から降りて走り抜けます。その一部をスクリーンで隠します。車がスクリーンを通って出てくるのを何度も見せると、幼児が見続ける時間が減っていきます。つまり馴化が起きたのです。

次に、スクリーンの後ろに障害物を置いて、同じように車を走らせます。障害物の位置が車の通り道にあった場合と、車の通り道を妨げない場合とで、比較をしました。

結果は、障害物が車の通り道に置かれた場合(それでも車が走り抜ける!)の方が、乳児(6ヶ月児)が見続ける時間が増えました。つまり脱馴化の程度が大きかったのです。

この事は、乳児も対象の永続性という概念を持っている事を示しています。

馴化について学べる本

発達心理学に興味を持ったら「いちばんはじめに読む心理学の本③ 発達心理学第2版ー周りの世界とかかわりながら人はいかに育つかー

乳児期から老年期までの発達心理学が分かりやすく学べる入門書です。

今回挙げた乳児の馴化ー脱馴化の実験は、本書の第1章の2「認知の発達」に載っています。

心理学の基礎を分かりやすく学べる「初めて出会う心理学第3版」

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有斐閣
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基礎的な心理学の知識を手軽に学べる入門書です。2色刷りで読みやすく、携帯にも便利です。

第13章の「学習・言語」に馴化、脱馴化の説明があります。また、今回ご紹介したのとは違う馴化ー脱馴化の実験も載っています。

第10章の「感覚」では、明順応や暗順応の説明もあります。

脳で何が起きているのか「記憶のしくみ上 脳の認知と記憶システム」

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講談社
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記憶や学習における脳システムの働きについて書かれた本です。

著者の1人、エリック・R・カンデルは、アメフラシの馴化の研究を行なった人物です。

アメフラシを使った馴化の神経構築のモデルは、第2章で解説されています。

馴化と進化

今回は馴化について学んできました。言葉の理解だけにとどまらず、その意味を良く考えようとすると興味深い世界だと思いませんか?

軟体動物のアメフラシから乳児、そして私たちとのつながりに想いを馳せてみるのも良いかもしれません。

人のストレスや生きにくさは、時として「慣れない」ことによるものが多いものです。

慣れる事で環境に適応することが進化に不可欠なように、私達も新しい事に慣れることによって、次のステップへと成長していくのかもしれません。

参考文献

長谷川寿一・東條正城・大島尚・丹野義彦・廣中直行(2020) はじめて出会う心理学 第3版 有斐閣アルマ

星野公夫(2003) 砲丸投げ選手に対する動作法の適用 沖縄国際大学人間福祉研究1(1) 61-78

藤村宣之(編著)(2019) いちばんはじめに読む心理学の本③ 発達心理学第2版ー周りの世界とかかわりながら人はいかに育つかー

ラリー・R・スクワイア、エリック・R・カンデル(2013) 記憶のしくみ上 脳の認知と記憶システム 講談社

氏原隆・林昭仁・松岡孝博・星野公夫・小川政範(1992) 動作法による運動感覚の鋭敏化がフリースローに与える影響について 日本体育学会大会号 pp206

吉田和典・明石秀美・鈴木香織・林優子・岩壁亮子・立平起子・宮越通安(2006) 学習及び記憶を支える神経基盤に関する最近の知見 人間学研究    75-90

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    • この記事を書いた人

    こころ

     臨床心理学・実験心理学等を学んだ後、心理カウンセラーとして勤務。現在はライターとして活動中。

    -学習・記憶

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