自我同一性(アイデンティティ)とは、「自分は何者なのか」「本当の自分は何か」を意味し、こうした自己の社会的な役割を見つめなおすことを自我同一性(アイデンティティ)の確立と言います。今回は、この自我同一性(アイデンティティ)の意味や確立が起こる時期はいつか、自我同一性について学べる本をご紹介します。
目次
自我同一性(アイデンティティ)とは?
自我同一性(アイデンティティ)の概念を提唱したエリクソンによる意味や定義、または自我同一性と似ている言語としてよく挙げられる自己同一性との違い、自我同一性の構成要素について詳しくご紹介します。
エリクソンによる自我同一性の意味・定義
自我同一性(アイデンティティ)とは、アメリカの発達心理学者であるエリク・H・エリクソンが提唱した概念です。エリクソンは青年期の課題として、自我同一性(アイデンティティ)の獲得を述べました。
青年期とは、中学生から大学生まで(13歳から22歳まで)の年齢層の人を表す言葉です。この時期にいる人は多くの場合、自分の将来など自分自身のことについて悩みます。
例えば、中学生~大学生ぐらいの年齢層の人は、進学するべきか就職するべきか、自分が将来本当にやりたいことは何だろうと色々考え模索している人が多いですよね。
彼らは、アイデンティティの確立、つまり自分自身の道を切り開こうとしています。
自我同一性と自己同一性の違い
自我同一性について調べてみると、たまに参考文献によっては自己同一性と表記していることがあります。
そのため、自我同一性と自己同一性本当はどちらが正しいのかと疑問に思う方も多いと思います。
結論から先に言いますと、自我同一性と自己同一性の明確な違いはありません。
当初は、自我同一性と呼ばれていましたが、時代が変化していくにつれて自己同一性と呼ばれることが多くなってきており、同一性と言われることも多々あります。
自我同一性の構成要素
自我同一性(アイデンティティ)は、以下の四つの概念から構成されています。
- 「自己斉一性・連続性」…自分に対して一貫性を持っており、時間的連続性を持っている概念
- 「対自的同一性」…自分が目指すべきことなどが明確に意識していることを表している概念
- 「対他的同一性」…他者から見られている二人称の自分が、本当の自分と一致している概念
- 「心理社会的同一性」…自分と社会が結びついていることを表す概念
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自我同一性(アイデンティティ)の確立
自我同一性(アイデンティティ)の確立とは、色々な経験を通して「自分は何者なのか」という問いに対する答えを見つけることです。
ここからは「自我同一性の確立」と似ている言葉としてよく挙げられる「自己実現」との違いや、自己同一性の確立が起こるおよその時期をご紹介します。
「自我同一性の確立」と「自己実現」
「自我同一性の確立」と似ている言葉として「自己実現」がよく挙げられます。
「自己実現」は、アメリカの心理学者であるアブロハム・マズロー自身の提唱した「欲求階層説」の5階層の最上位に位置付けた概念です。
欲求階層説
- 「生理的欲求」…生命を維持したい欲求
- 「安全欲求」…自身の安全を守りたい欲求
- 「所属と愛の欲求」…他者と関わりたい欲求
- 「承認欲求」…他者に認められたい欲求
- 「自己実現欲求」…創造的活動をしたい欲求
マズローによると、一番上の「生理的欲求」は人間が最初に求める欲求で、最後の「自己実現欲求」は人間が最後に求める欲求です。
つまり、自我同一性の確立は「自分は何者なのか」に対する答えを見つける段階であり、その後に目指すものが「自己実現」といえるでしょう。
自我同一性の確立が起こる時期
エリクソンによると、自我同一性(アイデンティティ)の確立は、青年期の主題とされているため、青年期の方にとっては自我同一性の確立が欠かせません。
自我同一性の確立が起こる時期は人それぞれですが、大体の人は青年期が終わる22歳までに確立がされています。
例えば、大学時代にコンビニのアルバイトを通して色々大変なこともあるけど、自分の接客についてお客さんから褒められてやりがいも感じるし、将来は、コンビニのオーナを目指して頑張って働いていくぞ」などと自分がその職業に魅力を見出し、自分の社会としての役割を見出した時点で自我同一性の確立はされているのです。
自我同一性の発達(自我同一性地位)
アメリカの心理学者であるマーシャは、自我同一性の実証的な問題を可能にすることを目的にして自我同一性地位という概念を提唱しました。
マーシャは、下記の2つの基準を設けて自我同一性地位を同一性達成、モラトリアム、早期完了、同一性拡散の4つのタイプに分類しています。
- 同一性の危機を経験しているかどうか
- 自分自身の目標を実現するために行動しているか(傾倒)
そこで、4つのタイプを詳しく紹介します。
同一性拡散
同一性達成は、危機は未経験か、経験済みですが、目標があまりない人のことを言います。
危機が未経験で将来に対する目標がない人の場合は、なにも経験していないので自我同一性の発達どころか、自我同一性について想像することができません。
危機は経験済みですが目標が見つけられなかった場合、目標に向かってその目標を実現するために挫折する経験をしていないので。無気力になってしまうことが多いです。
モラトリアム
モラトリアムは、現在、何かしらの危機を経験していて自分自身は将来どのような職業に就きたいのか日々試行錯誤している状態です。
ちなみに、モラトリアムとは、「猶予期間」という意味であり、社会に出るための猶予期間としてアルバイトやボランティア、自分の夢や目標につながる自発的な行動をして自分の適性を知っていく時期であると言えます。
早期完了
早期完了とは、ある仕事や生き方に興味を抱きますが、自我の危機を経験しておらず将来についてあまり考えていない状態です。
このタイプに分類されている人は、例えば、親が商売をやっていて親の店を継ぐ予定だからと早く進路を決めてしまう方が多いです。
同一性達成
同一性達成は、危機を経験したうえで、自分の目標のために確信して行動できる状態です。
ちなみに、同一性達成は年齢とともに増加する傾向があります。
自我同一性によって生じる問題
エリクソンによれば、自我同一性の発達について失敗してしまった場合、様々な問題が起きるとされています。
例えば、心が不安定になってしまい境界性パーソナリティ障害などの精神的な病を発症してしまったり、不良になって何もかも自暴自棄になって悪さをしてしまったり…と自我同一性によって生じる問題は、その人自身や周りの環境などで異なっています。
自我同一性の危機への対処法
自我同一性の危機への対処法は、自我同一性について学ぶことが大事だと思います。
「この時期は、他の人も自分の社会的役割や本当に就きたい職業は何か悩む時期だ。自分だけじゃないんだ。」と意識するだけで精神的な面でのびのびできるからです。
この記事を読んで、更に知識を深めたい人には自我同一性について学べる本を紹介しているので読んでみてください。
自我同一性について学べる本
自我同一性について学べる本を3冊ほどご紹介します。
幅広く自我同一性について学びたい方におすすめ
この本は、アイデンティティについて色々な視点から考察して「生きること」とは何か学ぶことができる本です。この本が刊行されたのが2016年の8月なので最新の情報を入手することができます。
この本のテーマが、常に変化が絶えないこの世の中で自分自身がどのように生きるのか、または時代の変化と自我同一性(アイデンティティ)の関係性とは何かなので、最先端の自我同一性について学ぶことができてオススメです。
初心者向け:自我同一性とその背景に迫る本
自我同一性(アイデンティティ)を提唱したエリク・H・エリクソンが「そもそも自我同一性とは何?」というところや「自我同一性ってなんで起きるのだろう?」といった背景まで徹底的に解説しています。
心理学初心者の方であったり「自我同一性についてもっと奥深く探求したい!」という方に特におすすめの書籍です。
熟練者向け:自我同一性について知り尽くしてさらに知識を深めたい人へ
この本は、エリクソンの8つの発達段階が短くまとめてあり、心理学熟練者にオススメの本です。
エリクソンの発達段階
- 乳児期(0歳~1歳半ごろ)
- 幼児前期(1歳半~3歳ごろ)
- 幼児後期(3歳~6歳ごろ)
- 学童期(6歳~12歳ごろ)
- 青年期(12歳~22歳ごろ)
- 成人期初期(22歳~40歳ごろ)
- 成人期後期(40歳~65歳ごろ)
- 老年期(65歳~)
エリクソンが提唱した区分はこの8つのみなのですが、エリクソンの妻が第9の発達段階として80歳~90歳の人についても詳細に記載しているので、エリクソンの発達段階の中でも老年期のアイデンティティについて詳しく知りたいという人は必読です。
自我同一性(アイデンティティ)の確立はみんな経験していくもの
自我同一性(アイデンティティ)は、青年期の発達課題とされており、この時期は誰もが自分の将来や社会的役割を考えるものです。
自分の将来の目標ができてそれを実現させようと努力したら失敗して悩むこともあると思います。もしかしたら、なぜ自分だけこんなにダメなんだろうと思ってしまうこともあるかもしれません。
でも、あなたは決してダメなのではありません。みんな自分の目標を実現しようと努力して時には失敗して悩むこともありますが、それが当たり前なのですから。
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参考文献
松下妃花・吉田愛(2009) 大学生における友人関係と自我同一性の関連性,広島大学心理学研究,9,207-216
谷口美奈・斎藤眞(2015) 青年期におけるアイデンティティの確立と依存性の関連,愛知学院大学心身科学部紀要第11号,35-46
小高良友(2010)マズローの欲求階層説と臨床心理学東海学院大学紀要,4,53-59
榎本博明(1991) 自己開示と自我同一性の開示について,中京大学教養論叢,32,187-199