10歳の壁とは?その特徴や対応方法、発達障害との関係について解説

2022-09-02

小学生の教育現場において発達の節目を迎える高学年への入り口は大きな変化を伴います。

そして、そこで勉強についていけないなど躓いてしまう子どもを表す言葉として「10歳の壁」というものがあります。それでは10歳の壁とはいったいどのようなものなのでしょうか。その特徴や対応方法、発達障害との関係について解説していきます。

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10歳の壁とは

10歳の壁とは、発達が進む節目となる小学校4年生ごろに子どもたちに生じるつまづきやそれによって生じる反抗的な態度など問題行動を総称した用語であり。9歳の壁や小4の壁などとも呼ばれます。

もともと、この用語は1960年代に萩原浅五郎が耳の聞こえない聾学校教育誌において「九歳レベルの峠」という言葉を用いたことに始まるとされています。

しかし、この言葉は何も聴覚に障害のある子どもだけではないということが指摘されるようになります。

9~10歳にあたる小学4年生という時期は具体から抽象への入り口であり、学校教育でも抽象的な言葉を理解し、抽象的な思考への一口を通ることになります。

そして、1970年代後半からは聴覚障害児だけでなく、子どもをめぐる精神発達の一般的な問題として取り上げられるようになったのです。

10歳の壁の特徴

それでは10歳の壁ではどのような特徴がみられるのでしょうか。

小学校4年生からの学習には次のような特徴があります。

【小学校4年生からの学校教育の特徴】

  • 学習の質的な転換期(具体的事物ではなく、抽象的なものについても学ぶようになる)
  • 指導における言語的要素が強くなる
  • 自我の目覚め、自己評価が強まり、学習意欲の変動が強くなる

このような特徴は子どもたちの適応を大きく左右するものであり、ここで躓いてしまうことで、10歳の壁の問題として顕在化するのです。

学習面での躓き

小学校4年生は特に学習面の躓きを感じやすい時期であり、学校の勉強についていけなくなってしまうという現象は10歳の壁の大きな特徴です。

この時期は子どもたちの認知機能の発達が起こり、論理的な思考が可能となり始めることで、科学的概念を獲得し始める時期です。

例えば、それまでは生活科として生活になじみのある内容を学んでいたのが、理科・社会と分化し、より生活の中で自然に身につく生活概念から離れ、自然発生的には身につかない学校教育で身につく科学的・抽象的概念への学習が色濃くなります。

確かに、この科学的概念は自然や文化に対する認識や社会的認識を高める中で、世界のなかにおける自分を認識し、自分自身の内面を豊かにしていくことができます。

しかし、学習に困難を抱える子どもの多くは抽象的科学的概念の獲得に躓きやすく、意味の理解が不十分なまま、形式的な理解に留まってしまいやすいのです。

人間関係での躓き

9歳・10歳という時期は自我の芽生えから、人間関係にも大きな変化が訪れる時期でもあります。

上述したように、学校教育でも知的能力、認知的能力の発達から論理的思考が可能となってくるのがこの時期であり思考力は勉強面だけでなく、自らの行動に関しても現れてきます。

例えば、計画性はその最たるものです。

物事を円滑に進めるためには集団がどのようにすればよいか、個人がどのような役割を担うべきなのかを考え、見通しをもって実行する「考えてからする力」は子ども達が自治的活動を行う際に必要なものです。

この時期に特徴的なギャンググループと呼ばれる集団はそれまでの家庭や学校という集団から離れ、同年齢の子どもが自らルールを作り、社会性を学んでいく発達的に重要なイベントであり、子どもの思考能力の発達によって影響を受けているのです。

しかし、自我の目覚め、自己評価に関する関心の高まりなどから、このような緊密な集団になじむことが出来ず、学校に行きたくないなどの行動抑制や干渉してこようとする親や教師に反抗的な態度をとる、非行などの問題行動につながってしまう可能性もあるのです。

10歳の壁と発達障害の関連

もともとは聴覚障害児の発達における問題として始まった10歳の壁ですが、近年、特に自閉スペクトラム症の子どもにおいて9~10歳ごろが発達上の重要な転換期になるとの指摘がなされています。

自閉スペクトラム症とは、非言語・言語的コミュニケーションが苦手であったり、興味関心の幅が非常に限局されるという特徴を示す発達障害であり、全般的な知能の遅れを示さないケースも少なくありません。

このような場合、周囲には少し変わっている子として捉えられてはいても、特別支援学級などに通わず通常学級で過ごしていることが多いでしょう。

しかし、自閉スペクトラム症は、他者の考えていること、感じていることに関する推論である心の理論の獲得に困難を示すことが知られています。

この心の理論は、集団の中で友達とうまくやっていくために必要となる能力なのですが、自閉症だからといって心の理論を全くもって形成することができないかといえばそれは少し異なります。

ある研究では、比較的知的能力の高い自閉症児は10歳代のうちに心の理論を形成する課題(誤信念課題)をクリアできるという報告があります。

しかし、そのような他者心理の推測も直感レベルのものではなく、あくまで言語論理的に他者の心的状態を推測するにすぎないため、心の理論は不完全なものであり、他者からの働きかけを読み誤り、周囲とのトラブルが前面に出てくるケースがあるのです。

10歳の壁の対応方法

それでは10歳の壁において困難を抱えている子どもには、どのような支援を行うことが望ましいのでしょうか。

自己教育力

10歳の壁の時期は子どもから大人へと変わっていく過渡期でもあります。

そのようなときに、子どもは成長の過程において多くの失敗や挫折に突き当たりながらも、粘り強く取り組んでいくことが求められます。

このように、失敗から学び、自分を鍛えようとする力は自己教育力と呼ばれます。

この自己教育力を発現させていくためには、自分自身を信頼すると共に、自分のことを信頼し、期待してくれる他者の存在が重要です。

そのため、子どもが失敗をしてしまった、よくないことをしてしまったときに「○○しないように」と失敗しないよう子どもの行動を否定、制限するのではなく、失敗し、迷いながら成長していくものだと温かく見守ることが大切です。

生活体験の豊かさ

学習面や生活面で起こる10歳の壁の問題も、生活体験が基盤となっています。

何よりも10歳の壁で恐ろしいのは小さな躓きから自己評価の低下につながり、周囲とのかかわりや新しい経験を拒否してしまうことでしょう。

この時期にこそ、様々な体験から自分の認識を問い直したり、新しい疑問を持つ契機となるような豊かな生活経験は論理的・科学的に思考する支えとなるものです。

ぜひ、子どもの生活に新しい体験があるような試みを考案してみましょう。

先行オーガナイザー

学習面でも抽象的な課題への取り組みが求められる小学校4年生の時期は難易度が上がり、勉強についていけない子、表面上は何とかついて言っているように見えるけれども内容を理解しきれていない子が出てきます。

そのような子どもたちに有効だとされているのがアメリカの心理学者オーズベルが提唱した「先行オーガナイザー」です。

これは新しい学習に先立ち、理解が進みやすいよう提示される手掛かりのことであり、これによって学習面での躓きをカバーしようという教育手法が広まりつつあります。

ぜひ、学習面での躓きが気になるお子さんに対しては先行オーガナイザーを取り入れた教育を検討してみましょう。

10歳の壁について学べる本

10歳の壁について学べる本をまとめました。

初学者の方でも読み進めやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。

子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗りこえるための発達心理学 (光文社新書)

10歳の壁と呼ばれる問題は、社会的にも関心の集まるものではありますが、実際に子どもたちに何が起こっているのかを知っている人はそう多くないかもしれません。

ぜひこれを機に、10歳の壁とはいったいどのようなものなのか、それを乗り越えるための発達心理学的な支援とはどのようなものなのかについて学びましょう。

「9歳の壁」を越えるために:生活言語から学習言語への移行を考える

9歳・10歳の壁は学習面でも起こるものです。

特に生活的概念から科学的・抽象的概念への切り替えがうまくいかず、躓いてしまうケースも少なくありません。

ぜひ、そのような学習面での躓きのある子にどのようなサポートをしてあげるべきなのかを学びましょう。

小学4年生の子どもが直面する課題

10歳の壁は、教育者や保護者にとって深刻な問題となることもあり、多くのメディアで取り上げられています。

しかし、何よりも忘れてはいけないのが、当事者である子どもの気持ちです。

教育、人間関係で大きな壁にぶち当たり、素直に周囲にサポートを求めることのできない心の内を周囲の大人が知り、温かいサポートを提供することが何よりも求められているのです。

【参考文献】

  •  日下正一(1989)『「九・十歳の壁」論と発達心理学的課題 : 児童期の発達研究Ⅰ』長野県短期大学紀要 = Journal of Nagano Prefectural College 44 95-104
  • 中村明子・三木裕和(2016)『研究ノート:発達的視点から子どもをとらえる ―9,10 歳の発達の節目― 』地域学論集 : 鳥取大学地域学部紀要 13 (1), 89-98
  • 竹内謙彰(2009)『学童期における認知発達の特徴 -9,10歳の発達の節目に焦点を当てて』立命館人間科学研究 18 77-86

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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