自己決定理論とは?自己決定理論の3つの欲求や下位理論をわかりやすく解説

2022-09-01

心理学では「やる気」について古くから注目しており、どのようにして動機づけを高めるのかというテーマに取り組んできました。そして、やる気と自分で決める自己決定を理論化したものが自己決定理論です。

それでは自己決定理論とはいったいどのようなものなのでしょうか。自己決定理論における3つの欲求や下位理論についてわかりやすく解説していきます。

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自己決定理論とは

私たちは勉強や仕事など日常的に様々な課題に取り組みます。

皆さんはその時に自分はどのような状態でありたいと思いますか?

多くの方は、やる気をもって前向きに仕事に取り組みたい、「もっと知りたい」と思えるような内容の勉強をしたいなどと思うのではないでしょうか。

つまり、物事へやる気の高い状態でコミットすることを望むはずです。

このやる気の高い状態と自己決定の関係性について理論化したものが自己決定理論です。

動機づけの種類

私たちがやる気と呼んでいるものは心理学的には動機づけと呼ばれています。

そして、自己決定理論においては動機づけは次のような3つの動機づけ状態を仮定します。

【自己決定理論における3つの動機づけ状態】

  • 非動機づけ
  • 外発的動機づけ
  • 内発的動機づけ

非動機づけとは行動を起こしたことと、それによってもたらされる結果の関係性は全く認知されておらず、無駄な努力を避けるために活動に全く動機づけられていない状態を指します。

これに対し、活動に対しコミットしている状態が外発的動機づけと内発的動機づけです。

それではこれらはどのように違うのでしょうか。

私たちは仕事でボーナスをもらった、上司から褒められたなど何か良いことが起こった時にもっと頑張りたいという気持ちが出てきます。

このように報酬など自身の外側にある要因によって動機づけられている状態のことを外発的動機づけと呼びます。

これに対し、内発的動機づけでは、その活動自体に意味を感じたり、好きであるために動機づけられていることなどを指します。

そして、自己決定理論では、この内発的動機づけが人の行動をより高い質に導くものとして重視しているのです。

自己決定理論における3つの欲求

自己決定理論では次のような3つの欲求を基礎的欲求としています。

【自己決定理論における基礎的欲求】

  • 自律性:自己から派生した、もしくは自己に裏付けられた行動をしたいという欲求
  • 有能感:自身の力によって、内的・外的環境と効果的にやり取りしたいという欲求
  • 関係性:他者や集団と緊密な関係を確立したいという欲求

このような3つの理論は個人が健康であるために必要であるものとする、自己決定理論におけるもっとも基本的な前提を基本的心理欲求理論と呼びます。

この中でも自律性の欲求はなじみのない方も多いと思うので、少し解説します。

自律性の欲求は生まれながらにして人が持っている「自分で決めたい」という欲求です。この欲求が充足されない状態というのは、いやいや他人に課題に取り組むよう強いられている状態です。

例えば、好きなテレビ番組をやっているのに、宿題をするよう言われる、疲れていて帰りたいのに仕事が終わらないため残業しなければならないなどの状態です。

このような状態でやる気が生まれないのは想像に難くないでしょう。

自己決定理論におけるそのほかの理論

自己決定理論では、上述の基本的心理欲求理論に基づき、様々な理論を打ち出しています。

早速その詳細を見ていきましょう。

認知的評価理論

この理論は自己決定理論のなかで、最も初期に取り組まれたものであり、外部要因に対する受け止め方(認知的評価)によって、個人の内発的動機づけが促進あるいは抑制されることを理論化したものです。

そもそも、人間のやる気のうち外発的動機づけと内発的動機づけは複雑に関連していることが知られており、その1つにアンダーマイニング効果と呼ばれるものがあります。

これは、内発的に動機づけられている状態の人に対し、報酬などを提示し、外発的動機づけを高めるような働きかけにより内発的動機づけが低下してしまう現象のことです。

内発的動機づけは自らその課題にコミットしている状態であり、自律性や有能感の高い状態ですが、外的報酬などを設定するとやらされている感覚からこれらの欲求が低下してしまい、結果として内発的動機づけが低下すると自己決定理論では考えます。

これまでの研究によって次のような外的要因は個人の自律性や有能感を阻害するものとして知られています。

【自律性や有能感を阻害する外的要因】

  • 監視状況
  • 課題の提出締め切り
  • ルールや制限
  • 目標が課せられること
  • 指示や命令
  • 競争
  • 評価されること

しかし、このような要因がある状況においても、それをポジティブにとらえられれば、内発的動機づけを高める契機ともなると考えるのが認知的評価理論の大きな特徴です。

例えば、締め切りが設けられることは、個人の自由な課題への取り組みに対する大きな制限であり、内発的動機づけを低める要因であると考えられます。

しかし、これが「だらだらと勉強することはよくない。締め切りに間に合うように計画を立てて取り組むことが大事だよ」のような肯定的なフィードバックをもらえる状況であれば、有能感が刺激され、締め切りに間に合うようにしっかりと課題に取り組もうとやる気が高まるのです。

このように、外的要因があるにもかかわらず内発的動機づけが高まる状況としては次のようなものが挙げられます。

【内発的動機づけが高まる状況】

  • 自由選択や自己主導の機会として捉えること
  • 説明できる理由があること
  • 楽しいと感じること
  • 励ましを受けること
  • 肯定的なフィードバックが受けられること

有機的統合理論

好きこそものの上手なれという言葉にもあるように、確かに内発的動機づけは高いパフォーマンスなど質の高い行動を生み出すため、自己決定理論において理想的な状態であるとされています。

しかし、現実には100%内発的に動機づけられている状態というのは存在せず、仕事では給料が支払われる、勉強ではテストの点数が結果として表示されるなど外的な統制を排除できないのは現実です。

そのため、有機的統合理論では、このような背景から時に内発的動機づけを低下させることもある外発的動機づけを自律性の観点から積極的に位置づけ、次のような2つの主張を行います。

【有機的統合理論の主張】

  • 非動機づけ・外発的動機づけ・内発的動機づけは自立性の程度によって、連続線上に並べることができる
  • 外発的に動機づけられた課題であっても、個人の価値の認め方によって内発的動機づけに近しいものとなる

この前提により、有機的統合理論では外発的動機づけを自律性の高さから「外的調整・取り入れ的調整・同一化的調整・統合的調整」の4つに分類し、非動機づけ、内発的動機づけを次のような段階で分類します。

  • 非動機づけ
  • 外的調整:報酬や罰など、外部からの統制に従う段階
  • 取り入れ的調整:その行動や活動に価値はあるが、外部からの統制が優勢な段階
  • 同一化的調整:行動や活動の価値を認め、積極的に活動を起こそうとする
  • 統合的調整:自身の価値観と行動が一致している段階で、取り組みたいと思える
  • 内発的動機づけ

外的調整は従来の外発的動機づけに該当するものです。

そして、この調整という言葉は内在化のことを指しており、どれほど課題へ取り組む目的性が内在化が進んでいるのかによって内発的動機づけへと近づくと考えます。

そのため、統合的調整へ向かうほど、内発的動機づけに近いものとなります。

因果志向性理論

因果志向性理論は、有機的統合理論で示された動機づけをパーソナリティ個人の一般的な傾向に落とし込んだ理論です。

そして、因果志向性理論では、次のような3つのパーソナリティを仮定します。

  • 非自己的指向性:無気力であり、行動そのものを喚起しない(非動機づけ)
  • 統制的指向性:他者から課題などを決定されることで満足をしないまま行動を喚起する(外発的動機づけ)
  • 自律的指向性:自ら課題や目標を決定することで充足感が伴い、行動を喚起する(同一化的調整~内発的動機づけ)

目標内容理論

目標内容理論では、動機づけの対象を課題ではなく、人生目標にとらえなおした理論です。

そして、人生目標を内発的人生目標と外発的人生目標に分類します。

自己決定理論に特徴的な自律性・有能感・関係性はそれぞれ次のように当てはめられます。

人生目標構成要素具体的事項
内発的動機人生目標自律性自己の成長
有能感社会的貢献
関係性周囲との良好な関係
外発的人生目標自律性有名になること
有能感お金をたくさん稼ぐこと
関係性容姿などを周囲から称賛されること

外発的な人生目標を持つと、その過程でいかなる課題を達成しても、人生の目標が達成されていないため、満足感を得ることが出来ません。

そのため、この理論では、内発的人生目標を達成できるように取り組むことで精神的健康や幸福感が得られるとして重視されています

自己決定理論について学べる本

決定理論について学べる本をまとめました。

初学者の方でも読み進めやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。

【新版】動機づける力―モチベーションの理論と実践 (Harvard Business Review Anthology)

自己決定理論はモチベーションを高めるためにはどのようにしたらよいのかということにフォーカスを当てた研究です。

ぜひ本書で、自己決定理論を含む様々なモチベーション研究に触れましょう。

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心理学は日々、新しい研究が行われており、最新の知見に触れることが望ましいとされています。

ぜひ、動機づけ研究の最先端はどのようなものなのかについて本書から学びましょう。

自己決定がやる気を導く

自己決定理論は課題の性質ではなく、自分で決めている裁量権や仕事のできる度合い、周囲との関係性という多角的な視点から動機づけを分析する理論です。

仕事のモチベーションが上がらない、勉強にやる気が出ないなどの悩みを抱えている人は自分の動機づけについて自己決定理論に基づいて分析すると新たな気づきがあるかもしれません。

【参考文献】

  •  山口剛(2012)『動機づけの変遷と近年の動向 : 達成目標理論と自己決定理論に注目して』大学院紀要 9 21-38
  • 岡田涼(2010)『自己決定理論における動機づけ概念間の関連性-メタ分析による相関係数の統合』パーソナリティ研究 18 152-160
  • 藤原善美(2012)『基本的心理欲求間の関係と目標内容に関する展望 : 自己決定理論研究における概観』信州豊南短期大学紀要 29 71-97

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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