自己概念とは、自分がどのような人間なのかということについての理解です。
今回は、自己概念の意味やアイデンティティとの関係、自己概念の形成について具体的な例や理論を取り上げながら解説します。また、20答法などの自己概念を理解する方法についても記載していきます。
最後に、自己概念について学べる本をご紹介しますので、参考になさってください。
目次
自己概念とは
まずはじめに、自己概念とはどのようなものなのかを見ていきましょう。
自己概念の意味・定義
自己概念とは、自分に対する概念、つまり自分とはどのような人間なのかという理解のことです。
自己概念の具体例
新しいクラスやチームなどに入った時、自己紹介というものをします。自分の名前の他に、趣味や特技などを言う場合もあるでしょう。
どのような自己紹介をするかを考える場合、参考としていることの1つが自己概念です。
勿論、「自分はこういう人間だ」と自覚していること以外に、「このように理解されたい」という希望も自己紹介には含まれています。「このように見られたい」という願望も、自分自身で自覚していれば、それは自己概念の一部となります。
自己概念とアイデンティティ
自己概念は、自分はこのような人間だという理解ですので、とても幅広い概念です。肌や目の色、兄弟姉妹、身体能力など、自分についての理解が全て含まれるので、必ずしも感情が伴う訳ではありません。
他方、自我同一性とも呼ばれるアイデンティティは、ライフサイクル論で有名なエリクソンが提唱した概念です。エリクソンは、私たち人間は、乳児期から老年期までの各段階で直面する課題を乗り越えながら精神的に成長していくと考えました。
アイデンティティの確立は、思春期におけるテーマです。天谷(2019)は、アイデンティティを「自分自身の職業や生き方、信念などについて『これが自分だ』という感覚を持ち、それが社会的にも認められていると自分自身で思えること」と述べています。
すなわち、幅広い自己概念の中でも、自分の中核を探し出そうとする感覚がアイデンティティと言えるでしょう。
自己概念の形成に関する心理学研究・理論
ここからは、自己概念の形成に関する理論を見ていきましょう。
自己概念の始まりー自己認知に関する研究
自己概念の始まりは、自分という存在に気づくことです。これについては、鏡に映った自分を自分に対する反応を見るルージュテストが良く知られています。
アムステルダムらは、乳児の鼻の頭に口紅をつけておき、鏡でそれを見た時にどのように反応するかを実験しました。
それによると、1歳前までの乳児では、映った自己像に笑いかけたり、鏡の裏側にまわりこんだりといった反応が見られることから、鏡に映った自分を自分とは認識していないことが分かりました。
1歳を過ぎると、鏡の自己像を見て泣き出すなどの反応が見られ、2歳になると6割以上の子どもが鏡に映った像を自分と理解するとされています(Amsterdam,B.,1972)。
自己概念の発達ー児童期の自己概念
松田(1983)は、児童期における自己概念は、次のような3段階から説明をしています。
- 第一段階(5〜7歳):自己を性別や容姿などの外部的特性によって捉え、心理的特性への意識は低い時期です。
- 第二段階(8〜10歳):自己を感情や態度などの心理的特性からも捉え、受け入れようとします。
- 第三段階(10〜12歳):自己を多面的に把握し、他者との比較によって自己への否定的な見方をしたり、他者への同調や同一視が強まります。
自己概念を理解するための方法
自己概念を理解するための方法にはどのようなものがあるでしょうか?ここでは20答法という技法を見ていきましょう。
20答法
20答法(Twenty Statements Test)は、Kuhn& McPartland(1954)が開発した技法です。
20答法では、「自分とは何か」について、最大で20個の文を使って回答をするものです。対象者は、自分の言葉で自由に記述することができるため、対象者の自己概念について幅広い視点から理解をすることができます。
竹内(2021)は、小学生に対する20答法を用いた主として日本における諸研究の展望を行い、小学生の自己理解の発達的特徴を明らかにしています。
自己概念とアセスメント
対象者に必要な関わりや支援を考えるプロセスをアセスメントと言います。自己概念はさまざまなアセスメントに用いられます。そのうちのいくつかを見ていきましょう。
心理臨床における自己概念とアセスメント
心理臨床の目的が多くの場合「自己一致」であることを考えると、クライエントがどのような自己概念を持っているかを把握することは不可欠です。
例えば心理カウンセリングの場合では、クライエントの電話を取った時から、自己概念のアセスメントは始まっています。
キャリア発達における自己概念とアセスメント
青年期から老年期に至るまでにも、自己概念は変化していきます。
どのような職業につくのか、転職をすべきか、退職後どのように社会の中で役割を果たすのか、などといった問題の解決において、自己概念のアセスメントが役立ちます。
自己概念について学べる本
さらに自己概念について学びたい方に、本をご紹介します。
わかりやすいライフサイクル論「子どもの心はどう育つのか」
ロングセラー「子どもへのまなざし」の著書である佐々木正美氏の本です。
エリクソンのライフサイクル論において、自己概念がどのように形成され統合されていくのかが、著者の経験も踏まえて分かりやすく述べられています。
文庫サイズで気軽に読める1冊です。
「私」の起源を見つめる「『私』はいつ生まれるか」
自己概念はいつどのように作られるのかについて、チンパンジーから人間の赤ちゃん、さらにはロボットの世界まで幅広い視点から語られています。
チンパンジーやニホンザルへのマークテストなど、興味深い実験も多数掲載されています。
“This is me“と言えること
沢山の理想や役割を追い求める現代人にとって、「これが私です」と言い切ることは、それほど簡単なことではありません。
「This is me」は、ロジャーズの代表作「オン・ビカミング・ア・パーソン」の第1章のタイトルです。
これを読んだ読者の多くは、「ロジャーズが、専門家としての鎧を脱いで、一人の人間として私に直接語りかけてくれている」と感じたそうです(諸富,2021)。
役割や期待に縛られた「あるべき私」から解放され、自分の体験を信じることが、「This is me」と呼べるものを見つけ出すことに繋がると、ロジャーズは教えてくれています。
参考文献
天谷祐子(2019) 青年期①:自分らしさへの気づき ・自分らしさにどのように気づいていくのか? ・どのように自分の進路を見出していくのか? 藤村宣之(編著)いちばんはじめに読む心理学の本③ 発達心理学[第2版]ー周りの世界とかかわりながら人はいかに育つかー ミネルヴァ書房 pp.130-150
Amsterdam,B.(1972), Mirror self-image reactions before age two. Developmental Psychobiology,5,297-305
Kuhn, M. H., & McPartland,T.S.(1954) An empirical investigation of self-attitudes. American Sociological Review, 19, 68-76
竹内謙彰(2021) 小学生における自己理解の研究方法と見出された発達的特徴ー日本における20答法を用いた研究を中心にー 立命館産業社会論集 56(4),1-20
松田煌(1983) 自己意識 三宅和夫・村井潤一・波多野誼余夫・高橋恵子(編)児童心理学ハンドブック 金子書房 pp.640-664
諸富祥彦(2021) カール・ロジャーズ カウンセリングの原点 KADOKAWA