学習・記憶 心理学の用語

刷り込み(インプリンティング)とは?その意味や具体例、教育との関係を解説

刷り込み(インプリンティング)とは、鳥類のヒナが孵化直後に初めて見た動く存在を追いかけるようになる現象です。

今回は、刷り込みの意味や、刷り込みが鳥だけではなく人間にも似たような現象が見られるのか、教育への応用が可能なのか、というテーマについて解説していきます。

最後には、刷り込みについて学べる本もご紹介していきますので、参考になさってください。

このサイトは心理学の知識をより多くの人に伝え、
日常に役立てていただくことを目指して運営しています。

Twitterでは更新情報などをお伝えしていますので、ぜひフォローしてご覧ください。
→Twitterのフォローはこちら 

刷り込み(インプリンティング)とは

はじめに、刷り込みとはどのようなことなのか、意味や具体例を見ていきましょう。

刷り込みの意味と定義

刷り込みという言葉は、現在幅広く用いられているようですが、元々は動物行動学における用語です。

日高(2018)によると、刷り込みは、「鳥のヒナが自分がどの種族に属しているかを知る、きわめて短期間の、しかもやりなおしのきかない学習」とされています。

因みに、刷り込みの研究で有名なコンラート・ローレンツは、刷り込みは一般的な学習とは異なると主張しています。これについては、後ほど説明します。

刷り込みの具体例

刷り込みの具体例については、「ソロモンの指輪」(ローレンツ,2018)に詳しく書かれています。

ハイイロガンのヒナがかえる所を見たかったローレンツは、10個の卵を孵卵器に入れます。

卵からかえった始めの1羽は、ローレンツをじっと見つめていましたが、ローレンツが少し動いて口を開くと同時に、早口で灰色ガン語を話し始めたのです。

その後、他のヒナをかえしたガチョウのお腹の下に、何度そのヒナを押し込んでみても、死に物狂いでローレンツの元に走り戻ってきてしまうのでした。

刷り込みと一般的な学習との違い

刷り込みは学習の一種であるとする見解も多いですが、ローレンツ自身は「学習とは根本的に異なる」と述べています。ここでは、刷り込みの特徴と、学習との違いについて見ていきます。

刷り込みの特徴

刷り込みが、学習の中でも特徴的であるとされるのは、以下のような特徴があるからです(長谷川ら,2020)。

  1.  発達初期の限られた期間だけにしかみられないこと
    ⇄一般的な学習においては、発達の全ての段階におこり得ます。
  2. 報酬や罰といった行動を強化するようなものがいらないこと
    ⇄一般的な学習では、強化子を必要とします。例えば、ある行動の直後に好子が与えられればその行動の生起頻度は増え、嫌子が与えられればその行動の生起頻度は減ります。
  3. 一度刷り込みが成立したら、その後も残り続けること
    ⇄一般的な学習では、強化子が与えられなくなることで行動が消失したり、強化スケジュールを変更することで別の行動に置き換えることも可能です。
  4. 成立する反応の種類が限られること
    ⇄一般的な学習では、後追い以外にも多様な反応が形成されます。

鳥に見られる刷り込み

刷り込みは、元来は鳥のヒナに見られる現象でした。

ローレンツは、ハイイロガンの刷り込みについて、以下のように述べています。

人工的にふ卵器で雛をかえしたハイイロガンは特定の配慮をしないかぎり、雛を連れ歩くハイイロガンの母親について歩かせることはできないのである。すなわち、人工的にかえした雛には、ふ化してからハイイロガンの母親の羽の下にいれられる間に、人間の姿を見せたりしてはいけない。そうでないと、雛の追従衝動がすぐさま人間に転移してしまうからである。(ローレンツ,1987)

このような刷り込みは、多くの鳥で見られますが、ローレンツは例外を2種類挙げています。

すなわち、ダイシャクシギとオグロシギです。これらは雛をふ卵器でかえし、人が育てたとしても、「はじめて人間を見るや否や逃げ出す始末」であると言います(ローレンツ,1987)。

この他にも、かなり発達した状態でふ化してくる早成性鳥類では、刷り込みは同種の成鳥によってのみ触発されると、ローレンツは述べています。

人間や教育に見られる刷り込み

鳥類に見られる刷り込みは、人間にも見られるのでしょうか。

人間に見られる刷り込み

繰り返し書いたように、刷り込みはあくまでも鳥のヒナに見られる現象であって、本来は人間に見られる現象ではありません。

けれども、長谷川ら(2020)が述べているように、生後6ヶ月頃の乳児に見られる親に対する愛着形成や言語の獲得や味覚の好みの形成が、刷り込みに似た現象と捉えることもできそうです。

教育と刷り込み

ローレンツの刷り込みからさらに離れることにはなりますが、刷り込みなどの動物の学習を教育に生かそうとする試みもあります。

小林(2018)は、「学習についての動物行動学からの知見を利用して、学校の授業等を中心とした教育場面で、より効果的で深い学習が起こるための方法のヒントを提案」するという試みを実施しています。

具体的には、小学生の自然教室で、生物の習性や生態に関する情報を与えることで、より深く学習の記憶が止まるとしています。

刷り込みに関する心理学的研究

刷り込みは、鳥類に見られる現象ですが、その特徴の1つである学習臨界期という概念については人間と共通しています。

学習臨界期とは、ある学習を習得することが可能な限られた期間のことです。

ローレンツの育てたハイイロガンも、孵化後一定期間に見たものに対してのみ後追い現象が生じました。

Press releaseによると、本間ら(2012)が発見した学習臨界期についての事実は、次の3点です。

研究成果のポイント

  • 学習臨界期を開始させる因子が甲状腺ホルモンであることを発見した。
  • 甲状腺ホルモンを注射することで、閉じてしまった学習臨界期を再び開くことができた。
  • 甲状腺ホルモンを注射すると、学習能力は飛躍的にアップし、早期学習(刷り込み)だけでなく、その後の学習も効率よく習得できるようになった。

本間ら(2012)

これまで、スポルディングに始まりノーベル医学賞を受賞したローレンツの研究に至るまで、刷り込みに関する研究は様々報告されてきました。

けれども、刷り込みの臨界期については、それを決定づける因子は明らかにされていませんでした。そのことからも、今回の発見は、人間の学習メカニズムにも応用可能な発見であるとされています。

さらには、言語の習得、社会性やストレスへの適切な対応能力の獲得といった、加齢により身につける事が困難になるとされていた学習についても、その獲得時期が広まる事が示唆されています。

刷り込みについて学べる本

刷り込みについて学べる本をご紹介します。

読み継がれているローレンツの名作「ソロモンの指輪ー動物行動学入門ー」

created by Rinker
¥814 (2021/10/15 23:06:56時点 Amazon調べ-詳細)

コンラートローレンツの動物行動学と言えば、この本を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

本書の原著のタイトルは、「彼、けものども、鳥ども、魚どもと語りき」です。これは、旧約聖書に記されているソロモン王が魔法の指輪をはめてあらゆる動物と会話をしたという言い伝えに因んだものです。

動物行動学とはどのようなものであるのかは勿論のこと、ローレンツの動物に対する熱い眼差しを身近に感じられる本です。

本書では、様々な生き物の生態が描かれています。刷り込みについては、「今日はすばらしい日であった」と始まる「7 ガンの子マルティナ」に書かれています。

日高敏隆氏による訳もとても分かりやすく、文庫サイズで読みやすいものとなっています。

刷り込みを題材にした絵本「ガンたちとともに コンラート ローレンツ物語」

created by Rinker
株式会社 福音館書店
¥1,430 (2021/10/15 23:06:57時点 Amazon調べ-詳細)

刷り込みを題材とした絵本は多くありませんが、これはその数少ないうちの1冊です。

刷り込みで有名なローレンツですが、子供の頃から動物好きでガンの観察に明け暮れていた事を考えれば、刷り込みの発見がとても自然なことのように感じられるでしょう。

お子様と一緒に、もしくは大人だけでも十分に楽しめる絵本です。

専門書を読みたい方へ「動物行動学ーI上下」

created by Rinker
¥220 (2021/10/15 23:48:49時点 Amazon調べ-詳細)

本書はローレンツの研究を集めたもので、I、IIそれぞれ上下の4冊からなっています。

前掲2冊とは対照的に、専門的で内容も細かく、動物行動学を意欲的に学びたい方向けと言えるでしょう。

刷り込みについて書かれているのは、I上「鳥の環境世界における仲間 社会的な行動様式の解発契機としての種仲間(1935) Ⅲ 種特異的な衝撃行動の刷り込み」です。

誰にでも読みやすいとは言えませんが、ローレンツの忍耐力や観察力、動物への情熱に触れることができる1冊です。

親子であることよりも大切なこと

刷り込みという現象が印象的なのは、人間と鳥というどう見ても似ていない生き物同士が、強い絆で結びついているように見える不思議さからかもしれません。

けれども、人間から見てどんなに不思議であっても、ハイイロガンのヒナにとっては、初めて見た動く存在が絶対的な存在なのです。

「本当にあれがお母さんなのかな?」という疑問を少しも持たず、夢中で母鳥に突進していくヒナは、いじらしくもあり微笑ましくもあります。

人の場合、鳥のヒナのように生まれた直後は走れるどころか歩くこともできません。その行動はとても限られたものです。

また、人間は生まれる前から母親の胎内ですでに母親の声を聞いたりしているので、生まれた直後が初めての出会いとも言い切れません。

そのように考えると、鳥の刷り込みも人間の愛着形成も、やはりその種にとってふさわしい生存の知恵なのだと感心させられます。

参考文献

関連記事

    • この記事を書いた人

    こころ

     臨床心理学・実験心理学等を学んだ後、心理カウンセラーとして勤務。現在はライターとして活動中。

    -学習・記憶, 心理学の用語

    © 2020-2021 Psycho Psycho