モデリング(観察学習)とは?心理学における意味や具体例、効果をわかりやすく解説

2021-07-08

ここでは観察学習(モデリング)とは何かについて、概説していきます。

まず、心理学におけるモデリングの説明を行い、以下、定義や意味、具体例、効果などに関する説明を行っていきます。なるべく平易な表現を心がけましたので、最後までお読みいただけますと幸いです。

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心理学におけるモデリングとは

Googleなどで”モデリング”と検索すると、その意味するところが複数あることに気づくと思います。例えば、IT用語にもモデリングというものはありますし、統計学においても統計モデリングという用語があります。実に紛らわしいですね。

今からご説明するモデリングは、カナダの心理学者であるバンデューラ.Aによるモデリングで、上述したモデリングとはまた別物になります。まずはその定義からみていきましょう。

モデリングの意味・定義

モデリングとは、学習の1つのタイプです。”〇〇をモデルにこの作品を作った”といった表現を普段の生活で聞くことがあると思います。ここでのモデルはお手本のことですよね。

モデリングも同じような理解で良く、モデルとする他者(人間だけでなく、アニメや漫画のキャラクターなどでも良い)の観察+模倣によって成立する学習のことをモデリングと言います。バンデューラらによって1960年代に、モデリング理論(社会的学習理論)として提唱されました。

なお、心理学でいう学習はいわゆる”学校の勉強”だけではなく、”経験によって生ずる比較的永続的な行動の変化”を指します。ですから例えば、ある昆虫を触って手に湿疹が出たという経験により、以後その昆虫に触る行動が減った、ということも学習に含まれます。

モデリングの具体例

モデリングの具体例は、日常生活のあちこちに見つけることができます。例えば、野球をしている人が、大谷選手やイチロー選手に憧れ、彼らの打撃フォームを真似する。あるいは、接客の仕事をしている人が、顧客対応の上手な先輩のようになりたいと思い、その人と同じような対応をする、など。

上記は全てモデリングの例です。具体例を見ると分かりやすいと思いますが、モデリングとは、憧れやお手本となる対象の行動や動作を観て、それを真似することなのですね。

バンデューラによるモデリング理論の提唱

前述のとおり、バンデューラらは、1960年代にモデリング理論を提唱しました。これは、私たちは自分自身の体験だけでなく、他者の行動を観察・模倣することによっても学習するという理論です。文字通り、モデリングを理論化したものですね。

”見て学ぶ”というそれまでになかった視点を取り入れた理論ですが、この理論の実証研究として非常に有名なものが、次にご紹介するボボ人形実験です。

ボボ人形実験

ボボ人形実験とは、バンデューラが行ったモデリング理論において有名な実験です。概要と結果は以下の通りです。

(概要)

  • 1つ目のグループの子どもには、大人がボボ人形(空気で膨らませたビニールの人形、起き上がりこぼし)に対して攻撃的な行動を取っている場面を見せる
  • 2つ目のグループの子どもには、大人がボボ人形へ攻撃的な行動は取らず、他のおもちゃで遊んだり、静かに過ごしたりしている場面を見せる
  • その後、ボボ人形や他のおもちゃがある部屋に子どもを入れたとき、どのような遊びをするのかを観察する

(結果)

  • 攻撃的な行動を見た子ども(1つ目のグループ)の方が、ボボ人形に対して攻撃的な言動を多く取った

このボボ人形実験(結果)によって、人は他者の言動を観察するだけでも学習するというモデリング理論が示されています。

モデリングの過程

ここからは、モデリングの過程(流れ)を説明していきます。具体的には全部で4つあり、注意過程・保持過程・運動再生過程・動機づけ過程です。堅苦しい表現が並んでいますが、日常に照らし合わせればそれほど難しくありません、順に見ていきましょう。

  1. 注意過程
    何をモデルとするかを選択し、そこに注意を向けている段階です。先の例で言えば、イチロー選手に関心を向けている段階ですね。
  2. 保持過程
    観察したことを記憶し、その記憶を保持する段階です。イチローの振り子打法を覚えておく段階と思っておけば良いでしょう。
  3. 運動再生過程
    記憶した行動や動作を実際に行う段階です。鏡の前で振り子打法を行っているわけです。野球好きな男性なら、小さいころ実際にやっていたのではないでしょうか。
  4. 動機づけ過程
    実際に真似したことで得られた満足感や、周りから褒められた嬉しさなどにより、その行動が動機づけされる段階です。振り子打法を真似すると、自分がイチロー選手になった気がしませんでしたか?

【補足:動機づけとは】

動機づけとは、

行動を始発させ,目標に向かって維持・調整する過程・機能(岡市ら.2006)

と定義されます。また、動機づけはモチベーションとも言われており、こちらの方が馴染み深い方が多いかもしれません。

モデリングの効果

モデリングにはどのような効果があるのでしょうか。順に見ていきましょう。

観察することによる効果

1番分かりやすい効果だと思います。つまり、モデルとなる対象の行動を見て、自分も同じ行動を取ることが観察による効果です。

制止・脱制止の効果

制止は「やめること」、脱制止は「やめることから抜け出すこと=やること」とざっくり押さえておきましょう。つまり、モデルとなる対象の行動を見て、自分がそれまで行っていた行動をやめたり、行っていなかった行動をしたりすることが、制止・脱制止の効果です。

脱制止で有名な例は、テレビが子どもに与える影響でしょうか。”テレビの暴力シーンは子どもに悪影響を与える”という話を聞いたことはありませんか?これは、暴力シーンを見て、子どもが暴力を振るうようになることを懸念しているわけですが、まさに脱制止の例と言えるでしょう。

反応促進の効果

これは、既に行っていた行動がより頻繁に行われるようになるというものです。例えば、本を読むことが好きな子がいるとして、仲の良い友達が本を読んでいる場面を見て、より一層読書をするようになるといったことが挙げられます。

モデリングの応用

モデリングの考え方は、行動療法をはじめ他の心理療法・心理的支援に新たな視点を提供しました。

行動療法

行動療法は、学習理論を基礎とした心理療法です。学習は前述の通り、経験による比較的永続的な行動の変化ですね。この行動療法に、モデリングはどのような影響を与えたのでしょうか。

行動療法においては、自分自身が実際に経験することが欠かせないとされてきました。一方、モデリングによる学習は、観察して真似ることで成立します。自分自身が経験せずとも、学習が成立するというのがモデリングです。

両者に大きな違いがあることがお分かりでしょうか。例えば犬が怖いクライアントに対し、行動療法では、実際に犬に近づいたり、犬に触れたりすることで恐怖心を和らげる、と考えます。モデリングでは、他者が犬に触れている映像をクライアントに見せることで、恐怖心を和らげるわけです。

モデリングが行動療法に与えた影響はとても大きかったと考えられます。

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モデリングについて学べる本

モデリングについてさらに深く学びたいという方のために、2冊ほど書籍をご紹介いたします。

成功と幸せの法則

kindle版ですが、気軽に読める入門者用ということで、こちらを挙げさせていただきました。本記事でも触れていますが、モデリングという概念はとても身近なものであるということを、本書を通して肌で感じて頂ければ幸いです。

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関連するキーワード

今回ご紹介したモデリングに関連するキーワードをまとめます。サイト内に記事があるものについてはリンクを付けておりますので、併せてご参照ください。

”意識的に”真似してみよう

モデリングは、結局のところ”見て真似る”、これに尽きます。そして、私たちは生きていく中で、誰もが他者の振る舞いや行動を真似したことがあるはずです。その意味では、既に誰もがモデリングを実践しています。

しかし、単に誰かの真似をすることと、モデリングと知って真似するのとでは違いが生じます。モデリングという引き出しを持っておけば、他者の行動を見て”これは真似しよう”と思うかもしれません。一方、引き出しとして持っていないと、同じ場面に遭遇しても素通りしてしまうかもしれません。

知識として持っておくか否かは、それ相応の違いとなって現れるのです。本記事をきっかけに、モデリングを有効活用したり、さらに学んだりする方が増えることを願っています。

【記事のまとめ】

・心理学におけるモデリングとは、他者の観察・模倣によって成立する学習のことを指し、バンデューラによって提唱された

・「ボボ人形実験」において、大人が人形に攻撃する場面を子どもに見せると、子どもが人形に対して攻撃的な言動を取るという結果になり、他者の行動からの学習(モデリング)が生じていることが示された

・モデリングの過程には、注意過程(モデルに注意を向ける)・保持過程(観察した行動を記憶として保持)・運動再生過程(記憶した行動を実行)・動機づけ過程(得られた結果によって行動が促進する)の4つの段階がある

・モデリングの効果には、観察学習(モデル行動を見て新しい行動を学習する)、制止・脱制止(行っていた行動をやめる・行っていなかった行動をする)、反応促進(行っていた行動をより頻繁に行う)が挙げられる

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参考文献

  • 宮下照子・免田賢 著 (2007)『新行動療法入門』ナカニシヤ出版
  • 岡市廣成・鈴木直人 編 (2006)『心理学概論』ナカニシヤ出版
  • 無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治 著(2018)『心理学 新版 (New Liberal Arts Selection) 』有斐閣

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    • この記事を書いた人

    もってぃ

     もってぃと申します。公認心理師と臨床心理士の資格を所持しており、心理職として働いています。これまでは、学校や教育センター、児童相談所などで勤務してまいりました。 趣味は読書や将棋、ゲームに音楽鑑賞です。将棋は妙に長続きしていて、勢いでアマチュア四段の免状を取得しました。

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