キャリアアンカーとは?分類や診断方法、活用法と留意点について解説

皆様が働く上で最も大切にしたいものは何でしょうか。仕事において何を最も大切にするか(犠牲にしたくないか)といった価値観や欲求をキャリアアンカーと呼びます。

キャリアアンカーは、個人のキャリア形成の軸となるものであり、自己分析に活用されるほか、人材配置や人材育成など組織運営にも役立てられています。

ここでは、キャリアアンカーとは何か、分類や診断方法、活用法、留意点などについて解説します。

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キャリアアンカーとは

キャリアアンカーは、アメリカの組織心理学者であるシャインによって提唱された理論であり、キャリア選択・形成の際に、最も大切にする価値観や欲求のことを指します。

キャリアアンカーは、働くことに係る生き方を表す「キャリア」と船の錨(いかり)を意味する「アンカー」を組み合わせた用語です。

船(自身)が、航海(キャリア)に出ると例えると、寄港地(仕事)に停泊する際、錨があれば、船が流されることなく安心して留まれます。つまり、キャリアアンカーは、キャリア形成において自分らしさを保つ拠り所となる存在と言えます。

キャリアアンカーの特徴は、生涯に渡る長期的なキャリア形成に重点を置いていることです。そのため、「何がしたいか(What)」といった職業選択ではなく、「どのように働きたいか(How)」といった価値観に焦点が当てられています。

キャリアアンカーを構成する要素

シャインは、キャリアアンカーを構成する要素として、「スキル・能力」「動機・目標」「価値観」を挙げています。

そして、「何ができるのか(スキル・能力)」「何をやりたいのか(動機・目標)」「何をやっている自分に価値を見出すか(価値観)」といった3つの問いを内省することで、自身のキャリアアンカーを知ることができるとしています。

キャリアアンカーの分類

シャインは、キャリアアンカーを以下の8つの種類に分類しています。

①専門・職能別コンピタンス(TF:Technical Functional Competence)

自身の得意な分野において、スペシャリストになることを好みます。自身の専門領域で挑戦し続けることで、専門能力を成長させることに重きを置いています。

②全般管理コンピタンス(GM:General Managerial Competence)

組織の中で昇進していきたいと考え、管理職や経営層を目指すタイプです。組織全体の経営やマネジメントに興味があり、専門能力よりも全般的な能力を得ること重視します。

③起業家的創造性(EC:Entrepreneurial Creativity)

新しいアイディアや製品、仕組みを作り上げたいと考えており、クリエイティブな仕事を好みます。失敗しても、成功に向けて邁進することができるタイプです。

④保障・安定(SE:Security Stability

安定した給与や福利厚生を望んでいるタイプであり、リスクを回避するため、一つの組織で社会人生活を全うしようと考える人も多いです。

⑤自律・独立(AU:Autonomy/Independence)

仕事上で縛られることを嫌い、自分のやりたいことが自分のペースでできることを望んでいます。自由が得られる仕事を求め、組織よりもフリーランス等で活動することも多いです。

⑥奉仕・社会貢献(SV:Service/Dedication to a Cause)

このタイプは、給与や昇進よりも、人や社会のためになる仕事をすることが重要と考えており、社会的に意義のあることを成し遂げる仕事に価値を見出しています。

⑦純粋な挑戦(CH:Pure Challenge)

困難な状況に取り組み、それを乗り越えることにやりがいを感じるタイプです。特定の仕事や専門性にこだわらず、困難な状況を探し求める傾向があります。

⑧生活様式(LS:Lifestyle)

仕事とプライベートのバランスを取ることを重要視しているタイプであり、自身の生活スタイルに合わせて仕事を選ぶ傾向があります。

なお、原則として人が持つキャリアアンカーは1種類であると定義されています。キャリアアンカーとは最も譲れない価値観であり、選択を迫られた場面での拠り所となるため、どれが最上位にあるのかを見極めることが必要となります。

キャリアアンカーの活かし方と実践例

キャリアアンカーを理解することは、個人のキャリア形成だけでなく、組織運営にも活かすことができます。

自己分析により適職を知る

キャリアアンカーは、自己分析のツールとして、個人のキャリア形成に役立てられています。

働く上で求められるものと、個人の価値観や欲求が近いほど、理想的な働き方と言えます。そのため、適職に出会いやすくなるためには、自身が働く上で大切にしている価値観を知るといったキャリアアンカーの分析が必要な作業となります。

また、キャリアアンカーは、キャリア選択における判断の軸となるものです。自身のキャリアアンカーを持つことで、昇進や転職、結婚などのライフイベントを機にキャリアの選択が迫られる場面においても、自身が納得できる働き方を選択しやすくなります。

組織運営に活用する

組織が個人の仕事への価値観、つまりキャリアアンカーを把握することは、適切な人材配置につながります。

例えば、専門・職能別コンピタンスのアンカーを持つ従業員が、昇進に伴い専門職から管理職へ配置転換となった場合、本人は専門分野のスキルを上げたいとの価値観が強く、たとえ昇進したとしても、自分のスキルが生かされないとしてモチベーションが低下し、生産性も低下することが考えられます。

こうしたミスマッチによるモチベーション低下や離職を防ぐために、従業員のキャリアアンカーに沿った采配が重要となります。逆に、キャリアアンカーに沿った役割を与えることで、個人のモチベーションや生産性を高めることが可能となり、組織としての成果も期待されます。

そのほか、従業員が自身の価値観を把握し、強みとして活かすことができるようにと、従業員研修に取り入れるなど人材育成にも活用されています。

そして、従業員がそれぞれのキャリアアンカーを把握し、組織内で共有することによって、強みを高め合ったり、足りない部分を補い合ったりすることが可能となり、役割分担がスムーズになるといった効果も見込まれます。

キャリアアンカーを活用する際の留意点

上述のように、キャリアアンカーは様々な場面で活用することができますが、活用するに当たっての留意点もあります。

まず、キャリアアンカーは、自己分析のツールとして活用する点に留意することが必要です。同じ職種でも求めているものは異なります。例えば、心理カウンセラーという職種の中にも、社会貢献を大事にする人もいれば、専門性を追及していきたい人、独立して自由を得たいと考える人もいます。

つまり、キャリアアンカーは職種を決めるためではなく、キャリアアンカーを通して自分自身を知るために活用するといった心構えが重要です。

また、キャリアアンカーは、社会で様々な経験を重ねる中で徐々に明確になるものとされており、一般的に30代前後からがキャリアアンカーを考えることに適している時期と言われています。

そのため、学生など社会経験が少ないうちに分析しても、十分な効果が期待できないことにも留意する必要があります。

キャリアアンカーの診断方法

キャリアアンカーの診断方法には、質問票に回答する「自己診断」と「インタビュー形式による診断」があります。

自己診断には、シャインが作成した「キャリア指向質問票」を使用します。

40項目の設問があり、各項目を「全然そう思わない」~「いつもそう思う」の選択肢から当てはまると思ったものにチェックを付けます。設問は8種類のキャリアアンカーに対応しており、得点が高いキャリアアンカーに価値を置いているとされます。

キャリア指向質問票は、後に紹介するシャインの著書「キャリア・アンカー―自分のほんとうの価値を発見しよう」に記載があります。そのほか、インターネットで検索して参照することも可能です。

なお、シャインは、キャリアアンカーの診断には、自己診断に加えてインタビュー形式による診断が必要であるとしています。

インタビューは、インタビュアーがキャリアに関する質問、時には選択を迫るような問い掛けを行います。これによって、キャリアアンカーが明確になったり、これまで気が付かなかった価値観や欲求を引き出したりすることが可能となります。

キャリアアンカーについて学べる本

最後に、キャリアアンカーについて詳しく学ぶ上で参考になる書籍を紹介します。

キャリアアンカーとは何か、定義や分類などが分かりやすくまとめられており、キャリアアンカーの概要を理解する上で適した一冊です。

キャリア指向質問票などワークシートの部分もあるため、自身のキャリアアンカーへの理解を深める機会ともなります。

キャリアカウンセラーを対象にしたシャインのワークショップに基づいて構成されています。

キャリアアンカーの定義や分類が分かりやすく整理されているほか、組織の要請と個人のキャリアアンカーのマッチングなど組織運営における活用法にも触れられています。

キャリアアンカーを知ると、充実したキャリアが形成できる

キャリアアンカーは、生涯にわたって自身の軸となるものです。キャリアアンカーが形成されていれば、どのような場面においても意志決定がぶれることなく、自身の価値観に沿った、納得のできるキャリア選択を続けることができます。

流されない錨(アンカー)を持つことは、変化が多く不安定な現代社会を乗り越えることに役立ちます。充実した航海(キャリア)を送るためにも、自身のキャリアアンカーを分析することが大切です。

参考文献

エドガー・H. シャイン 著 金井 寿宏 翻訳(2003)『キャリア・アンカー―自分のほんとうの価値を発見しよう』白桃書房

エドガー・H. シャイン 著 金井 壽宏・高橋 潔 翻訳(2009)『キャリア・アンカー〈1〉セルフ・アセスメント』白桃書房

エドガー・H. シャイン・尾川 丈一・石川 大雅 著 松本 美央・小沼 勢矢 翻訳(2017)『シャイン博士が語るキャリア・カウンセリングの進め方: <キャリア・アンカー>の正しい使用法』白桃書房

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    • この記事を書いた人

    blue_horizon

    民間企業在職中に心理カウンセラーを志し、心理学を学び始める。臨床心理士指定大学院卒業後は、司法及び産業領域の心理職として稼働。公認心理師・臨床心理士。

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