記憶とは?記憶の種類や仕組み、脳の中枢部位と記憶について学べる本を紹介

2021-11-24

記憶は人間の生活に深く関わる機能です。しかし、記憶には様々な種類があることや記憶が作られていく仕組みについて詳しくご存じでしょうか?

今回は、記憶の種類やその仕組み、記憶に係る脳の中枢部位との関係、そして記憶について学ぶための本などを詳しくご紹介します。

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記憶の仕組みとは

私たちが記憶と呼んでいるものは、心理学的には記憶痕跡と呼ばれます。

そして、その記憶痕跡が私たちの頭の中で扱われる過程には記銘・保持・想起という3つの段階があることが指定されています。

記憶の過程①記銘

記銘とは、新しく知覚された情報を脳にインプットする段階のことを指します。

また、別の呼び方ではencoding(符号化)とも言います。

何らかの知覚された情報は、そのまま脳に保存できるのではありません。

そのため、脳に保存できる情報へと書き換えられる段階が必要となり、それが記銘となるのです。

記憶の過程②保持

これは、記銘された記憶情報を脳の貯蔵庫へ保管しておく段階です。

私たちの記憶はきちんと保管をしておけば、かなりの長期間そのままの形で保存しておけることが指摘されています。

例えば、老人が自身の子ども時代の記憶をリアルに語ることができるということは、いかに人間の記憶の保持が長期的にも有効であるかを示しています。

記憶の過程③想起

想起は、保持によって記憶の貯蔵庫に貯められている記憶情報を取り出し、思い出す段階です。

私たちは一度記憶痕跡を作り、貯蔵庫へ保持したとしても、必要な時にしか思い出すことはありません。

例えば、昨日の夕食で何を食べたのか思い出してみてください。

多くの方は、上記の文章を読むまで、昨日の夕食のことを意識に昇らせていなかったと思います。

このように、記憶は、情報を記憶痕跡に書き換え、貯蔵庫に保管し、必要に応じて貯蔵庫から取り出して使うという3つのプロセスを経て、私たちの意識に現れるのです。

記憶の失敗

勉強した内容を思い出せない、最近物忘れが激しいなど思い出せないという現象は記憶の仕組みに何らかの問題が生じていることが考えられます。

そして、その記憶の失敗は記憶の3段階のいずれでも送りうるのです。

例えば、認知症の患者に多いのですが、晩御飯の内容を思い出せないだけでなく、晩御飯を食べたことを思い出せず「晩御飯はまだか?」と何度も質問をされるというケースがあります。

これは、記銘に関し、何らかの障害が起きており、情報そのものを記憶として書き換え、入力する段階で問題があるため、出来事があったこと自体を覚えていないということが起こります。

また、脳に何らかの損傷を負い、貯蔵庫がダメージを受けてしまえば、そこに保持されている情報は取り出せなくなってしまいます。

他には、勉強していた内容を「これって何だったっけ…?」と内容をうまく思い出せずもどかしい経験をした方もいると思います。

これは舌端現象とも呼ばれており、「覚えていることは分かっているけれども、うまく思い出せない」、つまり貯蔵庫に情報は残っているのだけれども、うまく取り出して思い出すことができないことを表しています。

このように想起を失敗することでも、記憶失敗は起こりうるのです。

記憶の種類

記憶の種類にはどのようなものがあるのでしょうか。

感覚記憶

感覚記憶とは、目や耳など各感覚器官それぞれが独自に持っている記憶のことを指します。

この時の情報は非常に容量が大きく、瞬間的に情報が保持されるだけで、神経を伝わり、脳において注意を向けられた情報のみが、次の短期記憶へと移されます。

なお、この時の記憶は脳で知覚される前の段階であるため、意識されることはありません。

短期記憶(ワーキングメモリ)

短期記憶は保持時間が数十秒程度の記憶です。

また、この記憶の容量にはある程度の限界があることが指摘されています。

例えば次の数列を記憶してみてください。

6・2・9・0・3・6・4・1・8・6・2・4・7・5・9

この15個の数字を1日後に全て覚えていられる方は少ないと思います。

短期記憶の単位はチャンクと呼ばれており、多くの人は7±2チャンクまでしか記憶の容量が無いことが指摘されています。

短期記憶の容量とチャンク

しかし、チャンクとは情報のまとまりを示す単位であるため、このまとまりを変えることができれば、覚えていることのできる容量は上昇します。

例えば次の数列を見てください。

2・0・0・1・1・9・9・9・0・0・0・0・1・2・3

先ほどと同じ15桁の数字ですが、この数列であれば、全部覚えていられるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

それは、2001(二千一)/1999(千九百九十九)/0000(ゼロが4つ)/1・2・3(1から3まで)という意味によって4つに区切ることができるからです。

これであれば、7±2というチャンクの上限に達するまでにすべてを覚えることができるわけです。

ワーキングメモリとしての役割

また、短期記憶は認知的な活動を行うための一時的な作業場としての役割も持ち、この役割からワーキングメモリと呼ばれることがあります。

例えば、初めて電話をかけるときに電話番号を見て、少しの間だけ覚えておくことで番号をプッシュすることができますが、この時に使った電話番号を長期的に覚えておくことは少ないでしょう。

このように、ちょっとの間だけ覚えておくことのできる短期記憶をうまく活用することで、私たちは何らかの認知的活動を行っています。

長期記憶

感覚記憶・短期記憶と情報が移されてきますが、それらの過程において、多くの情報の多くは忘れ去られ、必要なものであるとみなされたもののみ、長期記憶へと移されます。

この長期記憶は保持時間がとても長いことが特徴で、数分から一生に渡って保持される記憶です。

長期記憶の容量と種類

長期記憶は短期記憶とは異なり、容量の大きさには制限がないと言われています。

例えば、短期記憶は新しい情報が入力されると、古いものはチャンクの容量オーバーの関係から古いものから順に抜け落ちていきますが、長期記憶において、昨日の出来事を覚えたから古い幼少期の出来事を忘れてしまうということは起こりません。

また、長期記憶に貯蔵される記憶にはいくつかの種類があることが指摘されており、大きくは陳述的記憶(意味記憶とエピソード記憶に分かれる)と非陳述的記憶(手続き記憶)に分けることができます。

意味記憶とは

意味記憶とは、知識と呼ばれる情報にあたります。

例えば、リンゴについて皆さんも覚えていると思いますが、そのリンゴに関する記憶において、「リンゴとは赤い」、「リンゴとは果物の1つである」、「リンゴは甘い味のするものである」などの、ある対象の性質に関する知識や、意味、対象間の関係などの抽象的なものに関する記憶です。

この意味記憶は、いつどこで獲得したのか(例えば、何歳のころのどこの授業で誰先生から教わったのか)ということを記憶していなくても、その内容は鮮明に記憶される(鎌倉幕府は1192年に建てられた)という特徴があります。

エピソード記憶とは

エピソード記憶とは、個人が経験した出来事に関する記憶で、例えば、先週の休みの日に友達と、池袋に行き、ショッピングをした後夕食を食べたというようなストーリーを記憶していることです。

この記憶には、その時に体験した様々な付随情報(行った場所などだけではなく、どのような景色だったか、どのような味がしたか、どのような気分になったかなど)も記憶されます。

手続き記憶とは

手続き記憶とは、何らかの活動(運動や認知活動など)のやり方に関する記憶です。

この記憶の大きな特徴としては、一度形成されると自然には意識されることはなく、長期にわたって保たれるということが挙げられます。

例えば、自転車に乗るとき、「自転車に跨って、そのあとペダルをこぎ始め、スピードが出てきたら地面から足を離し、バランスを取ってこぎ続け、減速のときはどのくらいの力加減でブレーキを握り…」など一連の動作について、いちいち意識しながら運転する人はいないはずです。

このように手続き記憶は、一度獲得されると自動的に機能するという記憶なのです。

記憶に係る脳の中枢部位

記憶は、各感覚器から情報が送られ、脳で情報処理をされることで定着します。

それでは、記憶に係る脳の中枢とはどのようなものなのでしょうか。

一般的に記憶を形成する過程で大きな役割を担っているのは「海馬」と「大脳皮質」の2部位であると言われています。

海馬

海馬は大脳辺縁系と呼ばれる脳部位の一部で、形やにおい、音など感覚器からの情報を取りまとめ、記憶ができるよう形式に変換するという役割を果たすとされています。

記憶の段階においては主に記銘に深く関わっている部位です。

大脳皮質

また、海馬で整理された情報は、必要と判断されたもの、もしくは印象に残ったもののみが大脳皮質と呼ばれる大きな貯蔵庫へと送られ保持されると考えられてきました。

具体的に、保持されている情報の貯蔵に関連する脳領域に関する現在有力なモデルの1つとして再活動仮説というものがあります。

これは、ある出来事を想起する際には、その情報の記銘時に活動した脳皮質領域が活動するというものです。

内側側頭葉

記銘の際には知覚や認知に係る様々な皮質領域が活性化するわけですが、それらを取りまとめているのが内側側頭葉と呼ばれる部位であることが分かっています。

そして、記銘時に活動した複数の皮質領域に関するデータは、内側側頭葉にコードとして保管され、想起する際には内側側頭葉がそのコードを活性化することで、記銘時に活動が起こった各脳皮質領域を改めて活動させるということが分かっています。

記憶について学べる本

記憶について学べる本をまとめました。

記憶力を強くする 最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)

記憶力を良くしたいということは働いていたり、学生さんであったり多くの方が思うことでしょう。

そのためには、記憶というものがどのような仕組みで行われているのかを良く知っておくことで、効率よい記憶が行えるでしょう。

ぜひ、記憶の仕組みと記憶力の鍛え方について本書で詳しく学びましょう。

一流の記憶法: あなたの頭が劇的に良くなり「天才への扉」がひらく

記憶術を誰もが習得できるように、記憶術の使い方を手取り足取り、わかりやすく解説している本書には、記憶術の効果をすぐに実感いただけるように、紹介する記憶術ごとにかんたんな練習問題もついてみます。

ぜひ、記憶術についてインプットした後は、アウトプットによって自身の記憶力の変化を実感してみてください。

いまだ未知のことも多い記憶

記憶については古くから多くの研究者が取り組んできました。

しかし、記憶については現在解明できている知見だけでは説明ができない不思議な出来事が起こることも多く、映画などで見かける記憶喪失(心因性健忘)についても詳しいメカニズムは分かっていません。

ぜひ、記憶についての学びを深め、人間の持つ不思議な力について考えてみましょう。

【参考文献】

  • 小松伸一・太田信夫(1999)『記憶研究の現状と今後』教育心理学年報 38(0), 155-168
  • 藤井俊勝(2010)『記憶とその障害』高次脳機能研究 : 日本高次脳機能障害学会誌30(1), 19-24
  • 藤井俊勝(2013)『記憶は脳のどこにあるのか?』臨床神経学 53(11), 1234-1236

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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