心理臨床の場面では、抱えているケースに応じて様々な心理検査を組み合わせます。
質問紙法や投映法、描画法、作業検査法など様々な種類がありますが、今回はその中でも広く用いられているMMPIを取り上げます。MMPIとはどのような特徴を持った尺度で、何を測定することができるのか、解釈の例を交えながらご紹介します。
目次
MMPIとは
MMPI(ミネソタ多面人格目録)とはハサウェイ,S.Rとマッキンリー,J.Cが開発した質問紙です。
MMPIの目的
MMPIの当初の目的は精神医学的診断を行ううえで客観的な指標に照らし合わせることを目的として開発されました。
また、その後はパーソナリティを捉えるための検査として広く用いられるようになりました。
MMPIの特徴
MMPIの特徴は何といっても、その項目数と下位尺度の豊富さが挙げられます。
質問項目は550項目で次のような14の下位尺度が設定されています。
【臨床尺度】
- 第1尺度:Hs(心気症)
- 第2尺度:D(抑うつ)
- 第3尺度:Hy(ヒステリー)
- 第4尺度:Pd(精神病質)
- 第5尺度:Mf(男性性・女性性)
- 第6尺度:Pa(パラノイア)
- 第7尺度:Pt(精神衰弱・強迫神経症)
- 第8尺度:Sc(統合失調症)
- 第9尺度:Ma(軽躁病)
- 第0尺度:Si(社会的内向性)
【妥当性尺度】
- ?尺度(疑問尺度)
- L尺度(虚偽尺度)
- F尺度(頻度尺度)
- K尺度(修正尺度・対処尺度)
臨床尺度は健常者と精神病患者の間で統計的に有意な差がみられた質問項目によって構成されており、精神科の患者と健常者の弁別をするために設定された尺度です。
そのため、MMPIは何らかの理論に基づいて作成された尺度ではないということも大きな特徴です。
また、質問紙法の欠点の一つに回答の歪み(アンケートに適当に〇をつけてしまうなど)が生じ、適切な内容が把握できなくなってしまうことが挙げられます。
そのため、妥当性尺度を備えた質問紙検査では、受検者の回答態度をチェックし、得られた回答で適切な解釈を行えるかを判断できるようになっているのです。
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MMPIの実施法
MMPIの実施の流れについてまとめました。
実施に必要なもの
質問票、回答用紙、HBのシャープペンシル(0.5㎜)、消しゴム
※ボールペンやサインペンの使用は禁止されています。
検査の教示と回答の仕方の説明
質問票・回答用紙を被検者に渡す際は指示があるまで開かないよう伝えます。
また、質問票に書かれている【やり方】の説明を検査者が読み上げ聞かせていきます。
伝えるべき主な内容は次の通りです。
- 書く文章を読んでそれが自分に当てはまるか、当てはまらないかのどちらかを決めること
- 当てはまる場合は「そう」、当てはまらない場合は「ちがう」と答えること
- どうしても決められない時や答えたくない時は「どちらでもない」としても良いがどちらでもないを質問票に書かれている数以下にすること
また、回答用紙には回答の仕方の例を見せ、ガイドから上下左右にはみ出さないよう伝えます。
検査時間
標準的な検査時間は60分とされます。
時間が足りず最後まで回答できないと判定不能となってしまう可能性が高まるため、回答開始後は複数回、時間の目安を伝え、残りわずかになったら再度アナウンスを行います。
MMPIの分析と解釈
MMPIの実施後得られた回答はどのように分析、解釈されるのでしょうか。
MMPIの分析
まずは得られた回答の合計得点を求めます。
その後、その得点をTスコアと呼ばれる偏差値(平均50、標準偏差10)に変換します。
なお、Hs、Pd、Pt、Sc、Maは妥当性尺度の一つであるK尺度の値によってK修正と呼ばれる処理を行います。
その後、集計したスコアは縦軸にTスコア、横軸に下位尺度を表したプロフィールにプロットしていきます。
MMPIの解釈
MMPIの解釈は尺度の得点や描かれたプロフィールの形に注目して行われます。
各尺度の得点の高低からわかることは次の通りです。
高得点の場合 | 低得点の場合 | |
第1尺度(Hs) | 体調不良を訴え、他者を操作する | 楽天的 |
第2尺度(D) | 抑うつ的 | 社交的 |
第3尺度(Hy) | 身体症状による責任回避 | 萎縮し、過剰適応 |
第4尺度(Pd) | 非社会的な言動と敵意 | 受動的、同調的 |
第5尺度(Mf) | 男性:女性的で主張が乏しい 女性:女性らしさにこだわりがない | 男性:自身がなく、男らしさにこだわる 女性:女性らしさにこだわる |
第6尺度(Pa) | 猜疑心や独善傾向が強い | 適応的あるいは対人的に過敏 |
第7尺度(Pt) | 緊張感・不安感が強い | 情緒が安定し、自分に満足している |
第8尺度(Sc) | 奇妙で風変り、疎外感が強い | 現実的 |
第9尺度(Ma) | 活動性が高い | 衝動的 |
第0尺度(Si) | 内向的 | 社交的 |
また、プロフィールの形で大まかな病理の深さを把握できる場合があります。
- 右下がりのプロフィール:神経症傾向
- 浮揚プロフィール:境界例
- 右上がりのプロフィール:精神病的傾向
- 第1~3尺度がV字型:心理的な問題が身体症状として現れやすい傾向
他にも妥当性尺度において、L尺度とK尺度の得点が低く、F尺度の得点が高い山型のプロフィールでは援助を受けたいがあまり、症状を誇張している可能性が疑われます。
MMPIの活用法
アメリカにおけるMMPIの適用範囲は非常に広く、パイロットや警察の選抜、結婚カウンセリングなど心理臨床の現場以外でも広く用いられているようです。
日本においては心理臨床の現場や心理学研究の場面で用いられることが多い印象です。
摂食障害傾向とMMPI
大森(2005)では摂食障害傾向を持つ女子大生の性格傾向についてMMPIを用いて調査を行っています。
その結果、摂食障害傾向を持つ者は、情緒的、心理的なもろさを自覚し、他者に援助を求めやすいことが示されました。
また、臨床尺度の分析の結果、摂食障害に特徴的な受動攻撃性(怒りを直接表現せず、食行動の異常によって他者に心配を買う行動)や衝動性(無茶食いをした後、罪悪感から過食嘔吐を繰り返す)という特徴がみられませんでした。
これは摂食障害の予備軍と考えられている摂食障害「傾向」と摂食障害を発症した者との違いだと考えられます。
このようにMMPIでは豊富な臨床尺度と妥当性尺度の2つを兼ね備えているため、対象の詳細な分析が行えることがわかります。
MMPIについて学べる本
MMPIを学ぶ上で役に立つ書籍をまとめました。
わかりやすいMMPI活用ハンドブック
日本臨床MMPI研究会が発行しているこの書籍はMMPIの施行から分析・解釈までを網羅的に記してある入門書です。
これからMMPIを学びたい方にはぜひ手に取ってほしい良書です。
MMPIで学ぶ心理査定フィードバック面接マニュアル
MMPIに限らず心理臨床の場面で検査をとった場合は、被検者に検査結果を伝えるフィードバックを行います。
しかし、専門的な用語を羅列したところでクライエントに適切な内容が伝わりませんし、検査結果の内容によっては、クライエントが知りたくない内容である場合もあります。
そのような際に、クライエントにショックを与えすぎず、適切なフィードバックを行うためのフィードバック面接のマニュアルに目を通すことをおすすめします。
心理検査の実施には適切なバッテリーを
MMPIに限らず、すべての心理検査では測定できる範囲が限定されています。
そのため、知りたいと思う内容に合わせ、心理検査を組み合わせテストバッテリーを組む必要があるのです。
しかし、やみくもに多くの検査を組み合わせてはクライエントの負担が増すばかり。そのため、多くの心理検査について学び、適切なバッテリーを組めるよう知識を深めましょう。
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参考文献
- 野呂浩史・荒川和歌子・井手正吾(著),日本臨床MMPI研究会(監修)(2011)『分かりやすいMMPI活用ハンドブック施行から臨床応用まで』金剛出版
- 大森智恵(2005)『摂食障害傾向を持つ女子大学生の性格特性について』パーソナリティ研究 13(2), 242-251