森田療法とは「あるがまま」「恐怖突入」「とらわれ」といった特徴的な考え方を持つ心理療法です。その目的を学びながら、森田療法のやり方を理解していきましょう。また、厳しいと言われる森田療法への批判や問題点、研究・学会についてもご紹介します。
目次
森田療法とは
そもそも、森田療法とはどのようなものなのでしょうか。
森田療法の意味
森田療法は日本で生まれた精神療法です。精神医学者である森田正馬(まさたけ)が神経症治療の目的で1919年に創始しました。
帝大大学中に神経衰弱と診断された森田ですが、服薬をやめ必死に試験勉強に打ち込む事で、いつの間にか苦しかった症状がなくなったそうです。
この体験が、森田療法の誕生に大きな影響を与えたと言われています。
森田療法の目的
森田療法では、体や不安へのとらわれを無くそうとするのではなく、それをあるがままに受け入れ、とらわれがあっても行動することを目指します。
元々は神経症の治療が目的でしたが、抑うつ症状、不登校や引きこもり、ターミナルケアなどにも治療対象が拡大されています。
森田療法の特徴
森田療法の特徴について見ていきましょう。
恐怖に突入する
不安な事や恐怖を感じる事があった場合の対処として、そこから逃げる方法があります。
けれども森田療法では、不安や恐怖はそれを避けようとする程強まるものだと考えます。むしろ不安や恐怖にあえて立ち向かう事で、不安や恐怖が薄れると考えるのです。
そのため、森田療法では、「不安が起こるなら起これ」「恐怖の正体をみてやろう」という思いを持って、恐怖場面に飛び込んでいく事を勧めるのです。
日記療法
森田療法において、日記療法は重要な治療手段となります。
日記療法では、本人が1日の終わりにその日1日の行動や経験を振り返り、考えた事や感じた事をなるべく具体的に書き出します。
これに対し、治療者は日記の内容に応じてアドバイスや励まし、評価などを記載します。
日記療法のメリットとしては、次のような事が挙げられます。
- 内省のきっかけとなる。
- 不快な感情から逃げるのではなく、それを主体的に受け止めようとする態度につながる。
- 記録を残す事ができ、治療者とのつながりを実感する事ができる。
本人が遠方に住んでいる場合には、日記を郵送したり、電話やメールで治療者とやりとりを行う事も可能です。
森田療法のやり方
森田療法の治療方法には、大きく分けて3つあります。外来療法、入院療法、自助グループです。
神経症、パニック障害、うつ病などの治療は精神科や心療内科で行われていますが、森田療法を受けるためには、森田療法の専門医のいるクリニックや病院である必要があります。
専門医が本人の症状を詳しく聞いた上で、森田療法が向いていると判断し、かつ本人も納得した場合に、3つの中から治療方法を選択する事になります。
外来療法
以前は入院治療が原則であった森田療法ですが、現在は外来療法が一般的です。外来療法が適しているのは、症状に苦痛を感じながらも社会生活が送れている場合です。
外来療法では面接に加え、日記療法が併用される場合があります。
入院療法
当初、森田療法は入院療法として確立されました。
森田療法における入院療法は、四期から構成されます。
第一期 臥褥(がじょく)期(約1週間)
食事とトイレ以外は絶対安静の期間です。面会は勿論、他の患者との会話も禁止されます。
当初は苦痛な日常から解放され穏やかに眠れる事も多いですが。何かで気を紛らわす事ができないため、必然的に不安と直面する事になります。
第二期 軽作業期(約1週間)
治療者との面談や日記の記入などが始まります。また、掃除等の軽作業を他の入院患者と共に行います。
不安を感じ一時的に症状の悪化が見られる事もありますが、「不安を抱えながらも行動できる」ことを実感する事が大切とされる時期です。
第三期 重作業期(2〜3ヶ月間)
畑仕事、動物の世話等の作業に加え、消灯当番など幅広い共同作業を行います。グループをまとめる責任を負う事で、他者と協力する姿勢を身につけます。
第四期 社会訓練期(約1ヶ月間)
職場や学校という実生活への復帰に向けた準備を行います。入院を行いながら通勤や通学をする場合もあります。
自助グループ
医師と患者という関係での治療を補完するものとして、患者同士で支え合う活動です。
医師から一方的に一方的に支えてもらう関係ではなく、共感し合える仲間と助け合う事で、森田療法を学び、人との繋がりが広がります。
おもな自助グループ
森田療法への批判・問題点
森田療法は長い間入院療法であった事から、次のような批判がされてきました。
- 治療過程が見えにくい
- 数ヶ月も日常生活を離れて入院する事は患者にとって負担が大きい
- 治療者が患者と生活を共にする事は、大きな負担となる
- 不安や恐怖の対象が明確でない、生きる事自体への不安から生じる抑うつへの対応が困難である
以上のような批判に対して、今日では外来治療の充実や、森田療法の考え方を学びながら生き方を探究するなど、柔軟な治療スタイルが主流となってきています。
森田療法に関する研究
近年の森田療法に関する研究を見てみましょう。
学生への心理教育に森田療法的アプローチを適用した研究
青木(2014)は、森田療法の考え方が不適応を起こした人だけでなく、健康度の高い人がより良い人生を考える上でも役立つ事に着目しました。
そこで、学生に対する森田療法の演習を通して、学生の考え方の変化を研究しました。
方法
大学生に対し、森田療法の理論を解説し、相談事例についてクライエントの「とらわれ」を探し、その対応の仕方を考える、というグループ演習を行いました。
演習の前後に、神経質の程度を質問紙で測ると共に、感想を自由記述させる事により、森田療法のグループ学習の効果を検討しました。
質問項目は、次の8項目です。
- 何でも完全にやり遂げたい
- 環境の変化に弱い
- 他者からの評価が気になる
- いったん気になりだすと、なかなかそこから抜け出せない
- 最近、気分が落ち込んで外に出かけたくない
- それほど親しくない人たちと顔を合わせるのが苦痛
- 自分の気分に振り回されやすくて、やるべきことがはかどらない
- 自分の「できること」と「できないこと」の区別がわからなくなってしまう
結果
結果として、質問項目1,2,3,4,7について有意差が見られ、「自分のなかのとらわれに気づいた」といった感想が得られました。
考察
森田療法の事例のグループワークにより、学生自身に気づきや意識の変化が生じたと考えられます。
こうしたことから、森田療法は心理療法としてだけではなく、日常生活においても有用であることが示唆されています。
森田療法の学会・研究所
森田療法の学会・研究所には以下のものがあります。
日本森田療法学会
日本森田療法学会(Japanese Society for Morita Therapy)は、森田療法の普及・発展を促進し、森田療法の研究や実践家の育成に貢献する事を目的として、1983年に設立された学会です。
「日本森田療法学会雑誌」を年2回刊行しています。また、森田療法の専門家である医師及び心理療法士を認定しています。
毎年される学会においてワークショップが開催されている他、東京・札幌・盛岡・大阪・福岡で開催される森田療法セミナーの後援も行っています。
森田療法研究所
森田療法の実践と研究を目指して1996年に設立された研究所です。
現在の所長は慈恵医大第3病院で森田療法の実践と研究を行なってこられた北西憲二医師です。
森田療法について学べる本
更に詳しく森田療法について知りたいという方に向けて、学習におすすめの本をご紹介します。
豊富なイラストで手に取りやすい「健康ラブラリー イラスト版 森田療法のすべてがわかる本」
森田療法研究所の所長である北西医師によるわかりやすい入門書です。
イラストが豊富で二色刷りの文字も大きく、絵本感覚で気軽に読む事ができます。
本書の構成は以下のようになっています。
- 「森田療法とはなにか」
- 「人はなぜ悩むのか」
- 「治療の原則は事実を知ること」
- 「いろいろな治療方法がある」
- 「森田療法で『不安』と『うつ』を治す
手軽に持ち歩ける文庫サイズ「はじめての森田療法」
北西医師による最新の森田療法の本です。森田療法のキーワードである「あるがままに生きる」とはどのようなことなのかを理解できる入門書です。
今日「マインドフルネス」という言葉が注目を集めています。北西医師は、「マインドフルネスの思想も含めた、もっと大きな知が森田療法」だと言います。
本書は、以下の3つの章から構成されています。
- 第一章 森田療法の確立と展開
- 第二章 キーワードで知る森田療法のエッセンス
- 第三章 治療とはどのように行われるのか
認知症医療の第一人者、長谷川和夫氏の著作「森田療法がわかる本 ありのままの自分を受け入れる」
著者である長谷川医師は、1974年に長谷川式認知症スケールを開発した認知症医療の第一人者です。
長谷川医師は、認知症の高齢者と介護をされているご家族の生活指導においても、森田療法の視点を念頭に置いているのだそうです。
本書は、具体的な悩み相談に著者が答えるという方式で書かれているため、森田療法を実生活に照らし合わせて理解する事ができます。
心の病というと、なんとなく恥ずかしいとか暗いといったイメージがありますが、森田療法はむしろジョギングやエアロビクスのように、前向きに心を強くし、たくましく生き抜く知恵を教えてくれるものです。 「まえがき」より
本書の構成は以下のようになっています。
- 人はなぜ悩み、苦しむのかー不安の原因
- 森田療法とは何かー森田療法の基本
- 森田療法を毎日の生活にどう生かすかー森田療法の応用
とらわれを受容する
「病気になってはいけない」「成績が良くなければいけない」「友達と仲良くしなくてはいけない」というとらわれは、私たちを苦しめる事があります。
薬で一時的に頑張る事ができても、それはありのままの自分を無視しているようなもの。
悩みや不安は、本来の自分が「認めてほしい」と訴えているサインです。ですから、悩みや不安も自分自身なのです。
そうであれば、悩みや不安は治したり消したりするものではなく、自分の一部として一緒に抱えて生きていくべき同胞です。
病気、老い、死をも含む悩みを持ちながら、自分らしく生きていく方法を教えてくれるのが、森田療法と言えるでしょう。
参考文献
青木万里(2014) 森田療法的アプローチによる心理教育 鎌倉女子大学紀要 21,1-9
長谷川和夫(2009) 森田療法がわかる本 ありのままの自分を受け入れる グラフ社
北西憲二(2016) はじめての森田療法 講談社
北西憲二(2013) 慢性うつ病からの離脱と森田療法ー回復のプロセスと新しい生き方 講談社
北西憲二(2007) 健康ライブラリー イラスト版 森田療法のすべてがわかる本 講談社