心理検査には様々な種類がありますが、その中でも質問紙法は、嘘の回答をすることが可能なため、結果をどの程度信頼できるのかという課題が残っていました。
そのような課題をクリアした珍しい質問紙検査の1つにMPI(モーズレイ人格検査)があります。MPIはいったいどのような特徴を持つ検査なのでしょうか。その採点方法や結果のまとめ方などをご紹介します。
目次
MPI(モーズレイ人格検査)とは
MPIはモーズレイ人格検査とも呼ばれ、1959年にアイゼンク,H.J.が開発したパーソナリティを測定する質問紙検査を指します。
この検査はアイゼンクが作成していたモーズレイ医療用質問紙を呼ばれる質問紙検査とギルフォードの性格尺度を合わせたものです。
その時の尺度は200を超える項目で構成されていましたが、その後の項目分析や因子分析により48項目と12の予備項目にまとめられました。
その後、1958年にジェンセンという研究者がMMPI(ミネソタ多面人格目録)を基にしたL尺度(虚偽尺度)と尺度を含め、前80項目のMPIを作成しました。
日本版のMPIもこのジェンセンが作成したものを邦訳し、開発されています。
MPIの背景理論
MPIの背景にあるアイゼンクの性格理論の特徴は類型論と特性論の統合です。
性格理論においては、
- 血液型占いのように性格をいくつかのタイプ(類型)に当てはめることで捉えようとする「類型論」
- 性格を構成する特性を分析しようとする「特性論」
の2つが主流でした。
しかし、アイゼンクは人間の人格の構造はピラミッドのような階層構造であり、その個人に特有なものからより広く一般的なものまでが層をなしていると考えました。
それぞれの階層は次の通りです。
【アイゼンクの4層構造モデル】※1から4に行くほど高次の階層になります。
- 個別的反応水準
- 習慣的反応水準
- 特性水準
- 類型水準
また、アイゼンクの性格特性に関する見解では、性格を次の3つの次元から捉えました。
【アイゼンクの性格次元論】
- 内向性-外向性
- 神経症傾向
- 精神病傾向
このうち、「内向性-外向性」と「神経症傾向」の因子を取り上げているのがMPIなのです。
これらの3つの次元のうち、内向性は控えめで人と距離を置きがちという特徴を示すのに対し、外向性は社交的で生き生きとしており、支配的という特徴を示す相対する次元です。
同じく、気分の不安定さを示す神経症傾向も気分が「安定している-不安定」という対極の次元です。
これらの次元は多かれ少なかれ多くの人に共通している内容ですが、精神病傾向だけは持っている人もいれば、持っていない人もいるとされる特殊な次元です。
MPIの特徴
従来、質問紙検査は実施に熟練度をそれほど要さず、集団実施も可能で回答のまとめ方も簡便なものが多いという利点がありましたが、その反面で虚偽の回答などで結果を意図的に歪曲することができるという課題が残っていました。
これに対し、ジェンセンによって作成された80項目のMPIでは、アイゼンクの性格理論における「内向性-外向性」と「神経症傾向」を測定する尺度に加え、虚偽尺度を加えています。
【MPIの構成】
- E尺度:内向性-外向性を測定する尺度で、全24項目
- N尺度:神経症傾向を測定する尺度で、全24項目
- L尺度:虚偽発見尺度で、全20項目
- 中性項目:E尺度・N尺度に似た項目だが、性格特性の判定には関係がない項目
短縮版MPI
質問紙検査はその項目数が多くなるほど回答者の負担が大きくなり、実施に時間がかかります。
MPIは総項目80で、実施時間は15~30分程度とそこまで負担の大きな検査ではありませんが、より少ない項目で検査を行えるに越したことはありません。
そのため、木場(1985)はN尺度6項目、E尺度6項目からなるMPI短縮日本語版の信頼性および妥当性を検討しています。
その結果、各尺度の信頼性はある程度あることが確認されたもの、得点の安定性や両尺度の独立性には疑問が残り、実施に耐えられるものとは言い難いようです。
MPIの採点方法
MPIの質問項目は、「はい」、「いいえ」、「?(どちらともいえない)」の3件法となっており、それぞれ「はい」・「いいえ」と回答すると2点(項目によっては、はいと答えると2点、いいえと答えると0点となります。その逆もしかり)「?」と回答をすると1点が加算されます。
そのため、E尺度・N尺度はそれぞれ0点から48点までの範囲に分布します。
また、L尺度も同様に「はい」・「いいえ」と回答すると2点(項目によっては、はいと答えると2点、いいえと答えると0点となります。その逆もしかり)「?」と回答をすると1点が加算されるため、0点から40点までに得点が分布することになります。
MPIの結果のまとめ方
MPIのE尺度・N尺度の結果は、それぞれおよその平均点(24点)に0.5の標準偏差である5点を増減することにより、平均域より高ければ「+」、平均域ならば「0」、平均域より低ければ「-」に割り振られます。
そのため、E尺度(3カテゴリー)×N尺度(3カテゴリー)の9つの判定カテゴリーに当てはめることで、その人の性格の特徴を捉えます。
N尺度 | E尺度 | |||
- | 0 | + | ||
- | E⁻N⁻ | E₀N⁻ | E⁺N⁻ | |
0 | E⁻N₀ | E₀N₀ | E⁺N₀ | |
+ | E⁻N⁺ | E₀N⁺ | E⁺N⁺ |
また、L尺度の得点が半分を超える(20点以上)の場合、回答が歪曲されている可能性が高いと判断されます。
そのため、解釈には注意が必要です。
MPIの解釈
MPIの結果で出た、それぞれのカテゴリーは次のような性格傾向を表しています。
【E₀N₀型】
平均的な性格像でいわゆる普通の人。
【E⁺N₀型】
外向性が高いため、新しい場面への高い順応性を示すことから、人づき合いも良い現実に適合したタイプです。ただし、あまりにもE得点が高い場合は軽躁的、精神病質の疑いがあります。
【E⁻N₀型】
内向性が高いため、口数が少なく控えめ、まじめな性格像です。ただし、社交性が乏さから、一人で抱え込み無理をしてしまいがちです。
【E₀N⁻型】
神経症傾向が低く、落ち着いたこだわりの少ないタイプ。関心の幅が狭いものの、慎重で粘り強い面があります。
【E⁺N⁻型】
外向性の高さから、人づき合いもよく、仕事のテンポも速いが、物事をじっくり考えるのが苦手な面があります。
神経症傾向は低いため、劣等感や不安は少ないですが、一度思いこむと融通がきかないこともあるでしょう。
【E⁺N⁺型】
外向性の高さから、活動的で支配性も強く、物事を処理するテンポが速い一方で、神経症傾向も高いため、過敏な面を持ち、気分にむらが出がちです。
【E₀N⁺型】
適度の社交性を持っているが、神経症的傾向が高いことが問題になる。多少心配性ぎみであったり、対人関係で深く考えすぎて疲れてしまう傾向にあります。
【E⁻N⁺型】
小心、敏感、傷つきやすい。臨機応変な対応が苦手であるがまじめで責任感の強いタイプである。
MPIを学ぶための本
MPIを学ぶための本についてまとめました。
新・性格検査法(オンデマンド版):モーズレイ性格検査
MPIと言ったらこの本と言えるほど、MPIの全てを解説している一冊です。
MPIの意義、目的、使用法を数多くの実験にもとづいて解説しているため、これからMPIを学ぶ方へおすすめの良書です。
公認心理師のための「心理査定」講義 (臨床心理フロンティア)
MPIは臨床現場でも用いられる心理検査ですが、そもそも心理査定における心理検査はどのような意義を持ち、どのように扱われるべきなのかを知っておかなければ、検査を有効に活用できないでしょう。
MPI自体の学びに加え、心理検査一般の施行におけるポイントも併せて学んでおきましょう。
心理検査の特徴をつかむことの重要性
心理検査にはそれぞれ特徴があり、測定できる範囲の限界があります。
MPIの場合は内向性-外向性や気分の浮き沈みなどを測定することができる一方で、その他の性格特性を測定することには向いていません。
そのため、適宜テストバッテリーを組み、クライエントの全体像を掴めるようにしましょう。
【参考文献】
- 木場深志(1985)『短縮版MPIの基礎資料 : 大学生に実施した結果の信頼性』臨床心理学の諸領域:金沢大学臨床心理学研究室紀要 (4), 27-31
- 岸本陽一・今田寛(1978)『モーズレイ性格検査(MPI)に関する基礎調査』人文論究 28(3), p63-83
- 岸本陽一(1981)『727 モーズレイ性格検査(MPI)の因子分析的研究(測定・評価4,測定・評価)』日本教育心理学会総会発表論文集 23(0), 816-81