心理検査には様々な種類がありますが、中には紙に絵を書いてもらい、そこに表現された内容から個人のパーソナリティや状態像を捉えようとするものがあります。
今回はそのような描画法の1つであるHTPテストを取り上げ、その目的ややり方、解釈方法、診断への用いられ方などについてご紹介します。
目次
HTPテストとは
HTPテストとは、紙に絵を描いてもらい、そこに表現された内容からクライエントのパーソナリティや心理的特徴を読み取る描画法の心理検査です。
この検査のHTPとは、家(HOUSE)、木(TREE)、人(PERSON)の頭文字をとったものです。
この検査を開発したバック,J.K.によれば、描かれるそれぞれの対象は次のようなものを反映しているとされます。
家:家族に対するイメージや家庭環境を反映する
木:言語化が難しいような無意識的自己像や感情、欲求、エネルギーを反映する
人:意識的な自己像や感情、もしくは養育者などの重要な人物に対するイメージや人間関係全体に対するイメージなどを反映する
HTPテストを含む描画法は、心理検査の中でも無意識的な部分を捉えることのできる投映法に分類されます。
そのため、質問紙法やアセスメント面接で把握することのできるクライエントの意識の部分と組み合わせ用いることでより全体的なクライエントに対する状態像をつかむことができます。
また、絵を描いて表現をするということ自体に、言語化できない想いを外に吐き出すというカタルシスという治療効果が見込めることも大きな特徴です。
HTPテストのやり方
HTPテストは、まず実施前に「絵の上手・下手を調べる検査ではないこと」「できるだけ上手に描いてもらうこと」「何かモデルのあるものをそっくりに描く模写ではないこと」を伝えます。
【HTPテストに必要な道具】
- B5またはA4の画用紙3枚
- 鉛筆
- 消しゴム
この3枚の画用紙では、1枚目に家、2枚目に木、3枚目に人を描いてもらいます。
この時の注意点として、画用紙をクライエントに渡す際には、家の絵を描くときには横向き、木の絵と人の絵は縦向きにします。
なお、クライエントが描画をしている最中には、そのような順番で書いたか、気になるような言動をしていないか、描き出しと書き終わりの時間の記録を取るようにします。
クライエントが木の描画を終えた後、PDI(Post Drawing Interrogation)と呼ばれる絵の気になった点についての質問や、絵についての感想について訊き、その記録を取ります。
このようなHTPテストは発表されてから様々な改良が多くの研究者によって試みられ、今ではHTPPテストとS-HTPテストという発展形があります。
HTPテストの発展形①:HTPPテストとは
HTPPテストとは、HTPテストの変法の一つであり、日本の高橋雅春が開発した心理検査です。
HTPPテストは家・木を描くまではHTPテストと同様の流れで進みますが、画用紙は4枚用意し、人を描く際には最初に描いた人物と逆の性別の人を最後の4枚目の画用紙に描いてもらうという流れで実施されます。
この異なる性の人物を2人描くことにはどのような意味があるのでしょうか。
2人の人物のうち、クライエントと同性の人物には自己の現実像が反映され、異性の人物画には「異性に対する捉え方」が反映されていると考えます。
そして、男女のどちらから書いたのか、性別によって表現の違いがあるのか(例えば、男性は筋肉質で力強く描いているが、女性は見るからに弱弱しいなど)も解釈に生かすことができます。
HTPテストの発展形②:S-HTPテストとは
HTPテストの発展形として用いられているのがS-HTPテストです。
S-HTPも日本の細木らが1971年にHTPテストの変法として家・木・人を1枚の紙に書くという方法を始めて施行した「多面的HTP」が元となっています。
これは、統合型HTPテストとも言われ、描かれる内容は家・人・木と通常のHTPテストと変わりませんが、これらを1枚の画用紙に描いてもらうという点で大きく異なります。
検査を実施する際には、「家と木と人を入れて、何でも好きな絵を描いてください」と教示します。
1枚の紙に描かれるよう枠を狭めることは、「森の中に建っている家に住んでいる人」のような何らかの流れ、つまり家と木と人が統合されやすくなることに繋がります。
これによって、HTPテストにおいて家・木・人それぞれが持つ意味の関係性までも把握することができ、「何でも好きな絵を描いてください」という自由度の高い教示から家と木と人以外にも付加物が描かれやすいという特徴があります。
描画法の検査は、心理的特徴を判定するうえで細部よりも全体評価の重要性が古くから指摘されてきましたが、従来のHTPテストよりもより多様な全体的評価が可能となったことで、子どもの発達に関する問題や精神的・心理的問題を安定するうえでより客観的な評価が可能になったという指摘もあるようです。
HTPテストの解釈方法
HTPテストでは、検査で描かれた絵の内容に関する分析に加え、描画を行っている際の様子や、描画後の質問や語りの中で現れた内容を総合し、解釈を行っていきます。
描かれた絵に関する分析は次の3つの観点から行われます。
【形態分析】
絵全体から受ける印象(明るい印象、暗い印象など)や家・木・人の各部位ごとのバランス(あまりにも頭が大きい人物画を描く、幹が細すぎる木を描く)などに着目し分析を行う。
【動態分析】
鉛筆での線が乱雑でないか、線のつながりが途切れたりしていないかなど鉛筆の使い方や筆圧などに着目して分析を行う
【空間分析】
画用紙の使い方(空欄がとても多くないかや絵がはみ出していないかなど)や奥行きのある絵の描き方をしているかなどについて分析する
HTPテストの解釈例
具体的にHTPテストの解釈はどのように行われるのでしょうか。
今回は、栗岩ら(2002)が、中学生の不登校児に対し実施したHTPテストの分析例をご紹介します。
(※栗岩瑞生・渡辺タミ子・大山建司(2002)『House-Tree-Person test を用いた不登校児の心理分析』より)
この症例の男児は家庭環境の急激な変化や友人関係の問題から不登校になったとのことでした。
家の分析
特徴的な部位:全体的に過大サイズ、切断、不安定な筆圧、大きい扉、取っ手の強調、窓枠のない窓
過大サイズは自己顕示性を、屋根や壁の線の不安定さは自我が弱まっていることをうかがわせます。
また、8つに仕切られたアパートは家族関係の親密さに欠け、取っ手の強調は外界に対して自分を閉ざしていること、インターホンの強調は外界を拒絶する気持ちを表しています。
加えて、閉ざされた窓は家庭内の問題を外へ見せたくない気持ち、窓枠、カーテンのない窓は外界との直接的・短絡的な関係づけしかされていません。
木の分析
特徴的な部位:強い筆圧・ひこばえ・半解放の太い幹・空白の樹皮・樹幹の小ささ
強い筆圧から自己主張の強さが伺え、根と地面が接地していないことから現実吟味に乏しいこと、ひこばえは自我が育ってきていることを示しています。
また、幹の線が滑らかでないことは行動面で不適応で、内面に満たされないものを持っているものと思われます。
さらに、幹は太く、対人関係で自分を強く押し出したい気持ちが垣間見えます。
人の分析
特徴的な部位:過小サイズ・目や東部の強調・対照的でない足
紙と目の強調は自己防衛したい気持ちを、顎の線の強調は自己顕示性、対照的でない足は行動の不安定性を伺わせます。
HTPテストの診断への用いられ方と留意点
HTPテストは何らかの診断基準を示すようなテストではありません。
そのため、査定面接や他のテストの結果の結果と合わせ、総合的に診断が下されるべきであり、あくまで補助的なツールであることを忘れないようにしましょう。
ただ、HTPテストはIQの把握に用いたり、ロールシャッハテストの抑うつや過剰警戒指標との関連が示されていることから、これらの関連疾患を診断する際の判断材料として用いられる可能性があります。
HTPテストについて学べる本
HTPテストについて学べる本をまとめました。
描画テスト
本書はHTPPテストの実施から解釈のポイントをしっかりとまとめた一冊です。
特に、4枚の画用紙に絵を描くHTPPテストは解釈のポイントも多くなるため、事例を参考にしながらイメージをつかみましょう。
[POD版]S-HTP法: 統合型HTP法による臨床的・発達的アプローチ
S-HTPテストと言ったらこの本という一冊です。
豊富な事例に目を通すことは、実際に検査を行ったときに、どこか似ている雰囲気がするという気づきを促すでしょう。
ぜひ、この本の豊富な事例でS-HTPテストに慣れましょう。
樹と家と人が象徴するもの
HTPテストは描画法の中でもより広いテーマの描画を求めるものであり、それぞれの解釈のポイントは多様で、実施には熟練度が求められるでしょう。
しかし、それらをまとめ上げた時、これまでの語りの中では見えなかったクライエント像が浮かび上がってくるかもしれません。
ぜひ、HTPテストへの学びを深めましょう。
【参考文献】
- 高橋雅春(1974)『描画テスト入門』文教書院
- 纐纈千晶(2012)『S-HTP研究の文献検討: 研究テーマの多様化を中心に』名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要. 心理発達科学 59, 101-109
- 渋川瑠衣・松下姫歌(2007)『統合型HTP法に関する研究の展望--「統合性」・「遠近感」・「人と家・木との関係付け」に着目して』広島大学大学院心理臨床教育研究センター紀要 (6), 52-66
- 栗岩瑞生・渡辺タミ子・大山建司(2002)『House-Tree-Person test を用いた不登校児の心理分析』山梨大学看護学会誌 1(1), 13-17