心理学では様々な種類の心理検査があり、質問紙検査のように意識の層を測定するものから、ロールシャッハテストのように無意識の深い層を測定するものなど様々です。
今回はその両者の中間にあたる層を測定する文章完成法(SCT)をご紹介します。そのメリットやデメリットに加え、項目の内容や分析、解釈の方法についても解説していきます。
目次
文章完成法(SCT)とは
文章完成法とは、未完成の文を刺激として提示し、被検者がそこから感じたこと、思いつくことを自由に記述して文章を完成させることで個人のパーソナリティや心理的特徴を捉えようとする心理検査です。
なお、文章完成法を英語で記述したSentence Completion Testの頭文字をとり、SCTと呼ばれることもあります。
文章完成法の歴史
文章完成法は元々言語連想法と呼ばれる検査法・実験法を発展させたものであると言われています。
言語連想法では、ある刺激語を呈示し、そこから連想される言葉を被検者に答えてもらうというものでした。
しかし、この方法では、提示した刺激語に対応する答えが多様すぎること、人格特性を知るためには無駄が多く、適格性を有していないことなどが問題となり、心理検査としてまで発展しませんでした。
これを受け、不完全文章を用いた心理検査を始めて考案したエビングハウス,H.の試みが基となり、現在のSCTの形まで発展したとされています。
文章完成法の種類
SCTは刺激語を含む、未完成な分を作成すればよいだけという非常に簡便な形式であるため、様残な種類が作成されており、日本で主流なSCTとしては精研式文章完成法と法務省式文章完成法が挙げられます。
法務省式文章完成法は、法務省管轄の矯正機関などで用いられることが多く、一般には流通していないため、心理臨床の現場では精研式の文章完成法が用いられることがほとんどでしょう。
また、他の心理検査においても文章完成法は流用されており、フランクルによるロゴセラピーの考えに基づいたPIL(生きがい検査)では、質問紙項目によるPart-Aや自由記述を行うPart-Cに加え、「私の人生は~」などの刺激文から始まる13項目の文章完成法によるPart-Bが含まれています。
文章完成法のメリットとデメリット
文章完成法は心理検査の中でも曖昧な刺激に対する反応を分析することで個人のパーソナリティを捉えようとする投映法に該当します。
しかし、ロールシャッハテストやTAT(主題統覚検査)のような、無意識の深い層を探るわけではなく、無意識の中でも浅い層もしくは前意識レベルの内容を探るという特徴があります。
そのため、自我への侵襲性が他の投映法に比べて低く、簡便に実施でき、かつ質問紙法とは違った被検者の人間らしさを感じ取ることができます。
そして、必要に応じて刺激文を変更することも可能なため、個別の事例に合わせピンポイントで使用することもでき、場合に応じて、次の検査までに宿題としてやってきてもらうという形式でも実施する場合があるため、バッテリーを組みやすい検査です。
その一夫で、採点は行わず、書かれた文章から本人のパーソナリティを捉えようとするため、検査者の主観が解釈に入りやすく、客観性に問題を抱えています。
それに加え、分析・解釈には高い専門性と熟練性を求められるということもデメリットでしょう。
文章完成法の項目例
精研式文章完成法は成人用で刺激文は60項目用意されています。
前半と後半がPartⅠとPartⅡとそれぞれ30問ずつに分かれており、今回はPartⅠの1部をご紹介します。
【精研式SCTの項目例】
PartⅠ
- 子供の頃、私は
- 私はよく人から
- 家の暮らし
- 私の失敗
- 家の人は私を
文章完成法の実施方法
SCTは基本的に精研式文章完成法の検査用紙に記載されているように、「できるだけ早く、1から順に、最初に思い浮かんだことを書く」ように教示をします。
ただし、「じっくり考えて書く必要はないが、すぐに思い浮かばないものについてはそれに〇をつけて後から書いてよい」ことも併せて伝えましょう。
記入はボールペンを使用し、一度記入したものを修正したい場合は、最初に書いたものが分かるよう、二重線で消し、修正液などを使わないことも重要です。
このような場合、最初に起こった反応は非常に重要となります。
修正をしたいということが文字の書き間違えが多いのであれば、うっかりミスをしやすいなどの傾向がつかめるかもしれませんし、内容が大きく変わっているのであれば、最初にした反応が受け入れられず、こころの中で葛藤が生じているために、新しい内容を書き直したということもあるでしょう。
文章完成法の施行には、通常40分から1時間程度かかりますが、その間は基本的に検査者が横にいて、特徴的な言動をしていないかや集中力や持続力に限界が来ないよう、クライエントを励まし、検査を促すなどの対応が望ましいでしょう。
持ち帰り形式で実施する際の注意事項
心理検査のバッテリーを組む際に、例えば、ロールシャッハテストのような時間と体力を必要とする検査を終えた後に、SCTを実施することはクライエントの負担を考えると難しい場合があります。
これはあくまで便法ですが、そのような場合にはSCTの検査用紙をクライエントに渡し、自宅などで実施してもらうという場合があります。
分析のポイント
文章完成法の分析には、他の心理検査と異なり、スコアリングなどはありません。
そのため、次の2つの観点から分析を行います。
【文章完成法の分析のポイント】
- 形式分析:反応時間や字の大きさ、文法の誤り、筆跡などを指標とする
- 内容分析:全体的に読んだ印象から、被検者のパーソナリティを捉える
解釈のポイント
SCTでは、形式分析での結果に加え、内容分析では、パーソナリティ及び決定要因から評価・解釈を行っていきます。
【パーソナリティ】
①知的側面:精神発達の程度や時間的・場面的な見通しを持つリーダーシップ力、客観的に物事を捉え、そこから生じる自信など心の安定性を評価する
②情意的側面:分裂気質・循環気質・粘着気質・ヒステリー気質・神経質といった性格類型がどのようになるかを見ていきます
③指向的側面:目標や生活態度、価値観、人生観など被検者のこころがどのような方向に向いているのかを評価する
④力動的側面:その人の内的な状態が安定しているか、それとも不安定(攻撃的、不安が強いなど)であるかを評価する
【決定要因】
⑤身体的要因:用紙や体力、健康が優れているもしくは劣っており、それがパーソナリティに影響を与えているのかを評価する
⑥家庭的要因:家族構成や家族の雰囲気、両親の性格など、家庭に対して抱いているイメージを評価する
⑦社会的要因:対人関係や社会的地位などに対し、どのような思いを抱いているのか、不満などはないのかを評価する
文章完成法について学べる本
文章完成法について学べる本をまとめました。
SCT(精研式文章完成法テスト)活用ガイド―産業・心理臨床・福祉・教育の包括的手引
文章完成法について学びたい方にまず手に取って頂きたい1冊です。
文章完成法がどのように用いられているのかを事例で紹介している本書では、曖昧で本を読んだだけではわからない投映法の微妙なこころの捉え方の一端を垣間見ることができるでしょう。
精研式文章完成法テスト解説 成人用
文章完成法の解説本としてもっとも有名な本書は、SCTの実施を試みる方が必ず手に取るべき1冊です。
1972年と古い本ではありますが、精研式文章完成法を事例もつけながら詳しく解説している本書を用いて学びを深めましょう。
文章から見える人のこころ
SCTは文章を完成させるという独自の方法で人のパーソナリティを捉えようとする心理検査です。
その解釈にはスコアリングなどが無いため、解釈には熟練度が特に求められますし、SCTのみの結果から診断などを下すなどのことはできません。
しかし、テストバッテリーとしての組み合わせのしやすさは特徴的であり、目的に合わせて非常に用いやすい検査であると言えるでしょう。
【参考文献】
- 黒田浩司(2017)『SCT(Sentence Completion Test:文章完成法)の臨床的活用について』山梨英和大学紀要 16(0), 44-64
- 熊野道子(2006)『自己開示傾向の高低による文章完成法での反応の相違』心理学研究 77(4), 360-365
- 槙田仁・小谷津孝明・伊藤隆一・渡辺利夫・平野学(1981)『筆跡とパ-ソナリティの関係についての実証的研究-1-』慶応義塾大学大学院社会学研究科紀要 (21), p85-95