私たちは、どのようにして外界を認識し、世界を見ているのでしょうか。心理学者のピアジェによれば、人には外界の事象を認識するための枠組みが存在すると想定され、その認知の枠組みは「シェマ」と呼ばれています。
ピアジェは教育学や児童心理学を研究しており、子どもの認知機能の発達についての理論も示しています。詳細については後述しますが、シェマの同化や調節、均衡化を繰り返す中で、認知の発達が促されると考えられています。
心理学においては発達心理学などで目にすることが多く、保育士試験にも出題されるなど保育の分野でも重要となる概念です。今回は、シェマとは何かを具体例を挙げながら整理し、ピアジェによる発達理論についてまとめていきます。
目次
発達心理学におけるシェマとは
シェマ(Schéma)とは、スイスの心理学者であるピアジェ(Piaget)によって提唱された概念であり、認知的な枠組みのことを指します。
ピアジェによれば、人は外界の事象を認識するための枠組み(シェマ)を持っていると想定し、外界の事象を自己のシェマに取り入れること(同化)や、外界の事象に自己のシェマを修正すること(調節)によって外界を理解していくと考えています。
そして、同化や調節を繰り返し(均衡化)ながら、次第にシェマが広がり、高度なシェマを獲得することができるといった認知機能の発達過程を示しています。
シェマとスキーマの違い
シェマ(schéma)はフランス語、スキーマ(schema)は英語ではありますが、スキーマもシェマ同様に、物事を理解するための認知的な枠組みを指す概念であり、大きな違いはないと言えます。
違いを挙げるとすれば、シェマはフランス語圏出身のピアジェが提唱した概念であり、乳幼児の認知的な枠組みといった色合いが強く、主に発達心理学で用いられるという点です。
一方、認知心理学(認知活動を研究する分野)においては、スキーマを用いることが一般的であり、乳幼児だけでなく成人も対象としています。
シェマの同化と調節、均衡化
ピアジェによれば「同化」「調整」「均衡化」の相互作用によってシェマが強化され、認知機能が発達すると考えられます。以下、この3つの用語を整理します。
「同化」
外界の事象や結果を自己のシェマに取り入れることを指します。同化によって自身の持っているシェマに新しい知識が加わり、シェマを豊かにすることができます。
例えば、りんごに対して「赤くて丸い果物」というシェマを持っている状態で、りんご食べて甘いという味覚情報を得たときに、自身のりんごに対するシェマに「甘い」という知識が取り入れられるようなことが同化と言えます。
「調節」
外界の事象や結果に自己のシェマを変容させることを指します。持っているシェマでは矛盾が生じて同化できない際、既存のシェマを調節することで認知的なバランスを取っており、シェマを広げることができます。
例えば、りんごに対して「赤くて丸い果物」というシェマを持っている状態で、青いりんごに出会い、これもりんごであると教わります。しかし、既存のシェマではりんごは赤い果物なので矛盾が生じてしまい、認識することができなくなります。
そこで、「赤くないりんごも存在する」という内容にシェマを修正することで理解しようとするようなことを調節と言います。
「均衡化」
調節したシェマに新たな知識を同化させていくように、同化と調整を繰り返しによって外界とシェマをすり合わせることを指します。
同化・調整・均衡化の流れ
これらの一連の流れについて、具体例を挙げながら再度整理していきます。
例えば、子どもが空を飛んでいるハトを見たとき、それは鳥という生き物であると教えます。すると、子どもは鳥に対して「空を飛んでいる生き物」という枠組みを得ます。
その後、ペンギンを見たときに、ペンギンも鳥であることを教わります。しかし、鳥に対して「空を飛んでいる生き物」というシェマが存在しているため、飛んでいないペンギンを鳥として認識することに矛盾が生じます。
そこで、「空を飛ばない鳥も存在する」という形にシェマを修正することで理解しようとします。この過程が調節です。
その後は、同じく飛ばない鳥であるダチョウを見て、ダチョウも鳥であると説明されても、鳥に対するシェマが修正されているため、ダチョウも鳥であるとの同化(知識の取り入れ)がスムーズに出来るようになります。
ピアジェによる認知の発達理論
人が外界を理解していく方法として、シェマの同化や調節、均衡化について説明しました。
さらにピアジェは、年齢によって外界を理解していく方法が異なり、子どもの認知の発達は「感覚運動期」「前操作期」「具体的操作期」「形式的操作期」の4段階を経ていると考えています。
感覚運動期(0~2歳頃)
感覚運動期は、自身の感覚と運動を通じて対象と関わる中で、シェマを獲得する時期です。
この時期は、刺激に対して反射的に身体が動き、見たり触ったりした結果生じる感覚を通じて自分以外の人や物を認識していきます。
例えば、新生児期には母乳を飲むために、口に触れたものを吸い付こうとする吸綴(きゅうてつ)反射が備わっています。吸啜反射によって、おっぱいを吸ってみたら母乳が飲めてお腹が満たされるとして、吸うとお腹が満たされるとのシェマを獲得します。
なお、哺乳瓶でも吸うとミルクが飲めてお腹が満たされることを知るのを同化、タオルは吸ってもお腹は満たされなかったとしてタオルを吸わなくなるのは調節の例と言えます。
このように、生得的な原始反射によって獲得したシェマが調節や同化を経て次第に分化していきます。
そのほか、複数のシェマの協応が見られるようにもなります。例えば、吸うシェマと掴むシェマが合わさり、物を掴んで口に持っていくシェマが生まれるというように、既存のシェマの組み合わせから新しいシェマを生まれて認知が広がります。
また、この時期には、新しく獲得したシェマを繰り返し行うといった循環反応も多く見られます。
前操作期(2~7歳頃)
外界を認識するときに、触ったりするだけでなく、頭の中でイメージを浮かべて対象を理解したり、推測したりできるようになり始め、世界が広がっていく段階です。
ただし、自己中心性が強く、他者も自分と同じように考えていると思い込んでいるなど、自分の中の事象と外界の事象の区別が弱いため、シェマを調節することが余りできずにいる時期と言えます。
具体的操作期(7~12歳頃)
自己中心性から脱却し、客観的な思考が可能になる時期です。見た目が変わっても、重さや数が変化しない概念である保存の概念が成立します。具体的な内容であれば、シェマを調節し、確立させることができるようになります。
形式的操作期(13歳~)
記号など抽象的な概念が理解できるようになる時期です。仮説的・抽象的な推理も可能となり、情報を論理的に処理し、自身のシェマを同化・調節していくことができるようになります。
シェマについて学べる本
最後に、シェマを含めたピアジェの認知発達の理論を詳しく学ぶ上で参考になる書籍を紹介します。
内容及び表現がやや難解なところがありますが、ピアジェの原著であり、ピアジェの理論に関して詳しく学びたい方にはおすすめできる一冊です。
年数が経っていますが、こちらもピアジェによる著書であり、ピアジェの発達理論が解説されている一冊です。こちらも難解な部分はありますが、文庫サイズであり、コンパクトにまとめられています。
シェマの同化と調節、均衡化を繰り返して発達していく
今回は、シェマという用語を中心に認知の発達についてまとめました。
私たちは、生きていく中で様々な体験からシェマを獲得し、同化・調節・均衡化を繰り返すことによって、少しずつ外界を理解してきたと考えられます。
子どもを対象とした理論ではありますが、大人になっても、認知の枠組みを柔軟にアップデートしながら、世界を広げていくといった姿勢は大切であると感じます。
参考文献
- 無藤 隆・岡本 祐子・大坪 治彦 編集(2009)『よくわかる発達心理学』ミネルヴァ書房
- 藤崎 亜由子・羽野 ゆつ子・渋谷 郁子・網谷 綾香 編集(2019)『あなたと生きる発達心理学: 子どもの世界を発見する保育のおもしろさを求めて』ナカニシヤ出版
- ジャン ピアジェ・ベルベル イネルデ 著 波多野完治 翻訳(1969)『新しい児童心理学』白水社