スキーマとは?心理学での意味や定義、理論を具体例でわかりやすく解説

2020-11-10

人間の過去の経験が図式を作り上げ、それがその後入ってくる情報の処理に影響を与えることが、バートレット(Bartlet, F.C. 1932)によって示され、これはスキーマと呼ばれています。

このスキーマ理論が認知心理学においてどのような意味や定義で用いられているのか、具体例を交えてわかりやすく解説していきます。

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スキーマとは

バートレットにより、1932年にスキーマという言葉が用いられ、シュミット(Schmidt,R.)により理論化されました。

スキーマの意味・定義

シュミットは、人は運動学習の過程で、想起スキーマ(さまざまな状況に応じて適切な動作をするための一般的ルール)と、認識スキーマ(自分の身体感覚からそれが望ましい動作だったかどうかを判断するためのスキーマ)を発達させるというスキーマ理論を唱えました。

スキーマの具体例

これはあらゆるスポーツを練習してきた子どもを想定し見ると分かりやすいかもしれません。サッカーや50m走、バスケットボールなどを練習してきた子どもは「スポーツとはこういうものだ」という心の枠組み(スキーマ)が練習の過程で形成されていきます。

もしその子どもが、初めてハードルを見たとしても、「これはきっと蹴り倒すものではなく、跳び越えるものだろう(想起スキーマ)」と予想し、いざ飛び越えてみると「もう一歩長く助走を取った方が跳びやすかったな(認識スキーマ)」と自分でフィードバックを行えます。

このように、運動(スポーツ)の学習(練習)を行ううちに、心の構え(スキーマ)を作っていくというのが、シュミットによるスキーマ理論です。

認知心理学におけるスキーマの意味

認知心理学領域においては、ルメルハート(Rumelhart,D.E.)によるスキーマ概念が有名です。

ルメルハートによると、スキーマはデータとして扱っている情報よりも、抽象的にそのデータの構造を表しているものです。よって、任意の上位スキーマと、それから派生する下位スキーマに分けられます。

私達の持つ「病院に行く」というスキーマは、ただ病院に行くだけでなく、「受付をする」「保険証を出す」「医師の診察を受ける」という下位スキーマを含んでいます。ルメルハートは、このように「病院に行く」という情報単体よりも、それから連想される下位スキーマも含めた構造を表すのがスキーマであると述べています。

スキーマの種類

スキーマにはいくつか種類があります。いくつか簡単に説明し、具体例を追記します。

自己スキーマ(Self-chema):自身の特定の側面に対する信念や経験、認知の枠組みを指します。

例:「私は優しい」「私は面倒くさがりだ」

役割スキーマ(Role-schema):年齢や性別、人種や職業などの社会的カテゴリーに属する集団やその構成員にに対する知識や信念、認知の枠組みを指します。

例:「年寄りは頭が固いものだ」「女性とは、感情的な生き物だ」

人物スキーマ(Person-schema):個人が特定の他者の性格や行動目標に対して持っている知識や信念、認知の枠組みを指します。

例:「あの人のあの行為は嫌がらせだ」「あの人の性格は温厚だ」

事象スキーマ(Event-schema):社会的現象や行動連鎖に対する知識や信念、認知の枠組みを指します。

例:「ハロウィンは迷惑行為に繋がるものだ」「ボランティアは偽善的な行いだ」

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スキーマの心理学的研究

スキーマの心理学的研究はどのようなものがあるでしょうか。有名な研究を1つご紹介します。

ブランスフォードとジョンソンによる実験

ブランスフォード(Bransford)とジョンソン(Johnson)は1972年にスキーマに関する研究を行いました。被験者にはまず、以下の文章が何を指しているのか考えてもらいます。

「その手順はとても簡単だ。まずはじめに、ものをいくつかの山に分ける。もしろんその全体量によっては、一つの山でもよい。次に、必要な設備がないためどこか他の場所へ移動する場合を除いては、準備完了だ。一度にたくさんしすぎないことが大切だ。多すぎるよりも、少なすぎる方がまだましだ。すぐにはこのことの大切さが分からないかもしれないが、面倒なことになりかねない。そうしなければ、高くつくことになる場合もある。最初はこうした手順が複雑にも思えるだろう。しかし、それはすぐに生活の一部となる。近い将来、この作業の必要性がなくなると予想する人はいないだろう。その手順が終わったら、再び材料をいくつかに山分けする。そして、それぞれ適切な場所に置き、それらはもう一度使用され、またこの全てのサイクルが繰り返される。ともあれ、それは生活の一部なのである(Bransford & Johnson, 1972)」

これだけ読んでも、文章のそれぞれの部分が何を指しているのか、分かりかねるかもしれません。しかし、これらの文が「洗濯」を指していると知ったら。

あなたは「洗濯スキーマ」を手に入れ、「まずはじめに、ものをいくつかの山に分ける」の「もの」とは「洗濯物(衣類)」を指しているのだと、理解する事が出来るのではないでしょうか。

日常生活におけるスキーマ

日常生活でスキーマがどのように働いているのか、具体例を交えて分かりやすく説明していきます。また、スキーマが上手く働く場合(メリット)とうまく働かない場合(デメリット)についても日常生活で起こりがちな例を挙げて分かりやすく解説していきます。

スキーマのメリット

私達が日常会話をスムーズに行えるのは、自身と話し相手の間でスキーマが共有されているためです。

例えば、「私は先日、歯科医院に行った」と話した場合、聞き手に「歯科医院スキーマ」があれば、「そこには歯科医や歯科衛生士がいた」などとわざわざ説明する必要はありません。「歯科医院とはどんな場所か」をお互いにある程度共有してイメージすることが出来、会話が円滑に進みます。

スキーマのデメリット

一方で、スキーマはデメリットとして偏見や差別に繋がる場合もあります。

例えば、「A国の人に過去に酷い仕打ちを受けた」という経験がある人は、その経験から「A国の人は皆、性格が悪い」といったA国スキーマを形成してしまい、後に会うA国出身の人は全員悪人だと決めつけてしまうといった偏見、差別、ステレオタイプに繋がる場合もあります。

スキーマについて学べる本

スキーマについてさらに詳しく知りたいという方には以下の本がオススメです。

いちばんはじめに読む心理学の本④ 認知心理学

ミネルヴァ書房から出版されている、この「いちばんはじめに読む心理学の本」シリーズは、心理学系大学の授業にも使われている良書で、「認知心理学」という領域をまず広く知りたい、認知心理学領域の中でスキーマがどのように扱われているのか知りたいという初学者の方にオススメです。

スキーマ療法―パーソナリティの問題に対する統合的認知行動療法アプローチ

スキーマ理論も利用し、臨床の現場で扱っていくにはどうしたら良いか知りたいという方にはこちらの本がオススメです。

また、境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害の克服、カウンセリングにスキーマを利用したいという方にも一読頂けたらと思います。

スキーマによる偏見や差別とどう立ち向かうか

先述の様に、過去の経験からスキーマが上手く働かない場合(デメリット)があり、偏見や差別に繋がってしまう場合もあることを述べました。こうした偏見や差別とどう立ち向かって言ったら良いのでしょうか。

それは第一に、スキーマを意識することです。「私がこの人種を嫌いなのは、あの経験によってスキーマが形作られたからだ」「あの人が、あの会社の人を嫌いなのは、過去に何かあってスキーマが形作られたのだろう」と言ったように、偏見や差別の根幹となっているスキーマの存在に気付きましょう。

そして第二に、例外を探していきましょう。「あの人種は嫌いだけど、あの人種でもこの人だけは嫌いじゃないな」といったように、スキーマから外れる例外を探すのが第二ステップです。

最後に、例外を拡張していきましょう。「嫌いなあの人種のこの人はいい人だ。この人の友達のあの人もいい人だ。きっとあの人種は悪い人ばかりじゃないのだろう」といったように、例外を拡張しスキーマを作り変える。

こうした一人一人の取組によって、私達は偏見や差別と戦っていけるのではないでしょうか。

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参考文献

・いちばんはじうめに読む心理学の本④ 認知心理学. (2010). (編著)仲真紀子. ミネルヴァ書房.

・スキーマ療法―パーソナリティの問題に対する統合的認知行動療法.(2008). (著)ヤング,ジェフェリー・E, クロスコ,ジャネット・S, ウェイシャー,マジョリエ・E,  金剛出版.

・Bransford, J. D., & Johnson, M. K. (1972). Contextual prerequisites for understanding: Some investigations of comprehension and recall. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 11(6), 717-726.

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    • この記事を書いた人

    こっけ

    臨床心理学学科大学卒業後、臨床心理学研究科の大学院に在学。恋愛をテーマに研究。19歳で上級心理カウンセラー資格習得。20歳で心理学検定10領域全領域を合格し、心理学検定特一級を習得。

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