孤独とは周りに人がおらず誰もいない状況を指しますが、その言葉には寂しいという否定的な意味合いが込められています。しかし、皆さんにも寂しいと感じることはなく「ひとりになりたい」という思いが湧き上がってきたことはありませんか。そのような時、こころの中で何が起こっているのでしょうか。
目次
「ひとりになりたい」心理とは
ひとりになりたい心理とはその言葉の通り、他者と共に過ごすことを避け、自分ひとりきりの空間を求めることです。
しかし、一人きりの空間を求めることの目的はそれぞれです。
- これ以上傷つきたくない
- ゆっくりと休みたい
- 人と距離を置きたい
- 気楽に過ごしたい
- 誰とも話したくない
- 一度、人と距離を置きたい
- 考え事をしたい
- ひとりで趣味を楽しみたい
ひとりになりたいという気持ちは誰しもに起こることです。
多くの場合、不安やストレスから自分を守ろうとする心理的な反応ですので、ひとりになりたいという気持ちを大事にするようにしましょう。
ひとりになりたいと感じる理由
ひとりになりたいという気持ちになるのはなぜなのでしょうか。ここでは主な原因をご紹介します。
人間関係に疲れている
人間関係は豊かな社会生活を送るために必要となりますが、場合によっては大きな負担となることもあります。
代表的なものとしては、職場での人間関係、恋人との関係、夫婦関係、友人関係など多岐にわたります。親しい間柄であったり、毎日のように顔を合わせるからこそ気を遣いすぎて疲れてしまうこともあります。
仕事や子育てでストレスが溜まっている
仕事や子育ては日常生活の大半を占める活動です。特に仕事や家事などは頑張りを認めてもらう機会が少ないと、大きな疲労感だけが残るということも少なくないでしょう。
そのような、心身の疲れによって、「すべてを投げ出してひとりでのんびりしたい」という気持ちになるかもしれません。
精神的に大きなショックを受けた
生活に大きな変化が起こるような出来事でショックを受けた場合、ひとりになりたいという気持ちが湧き上がってくるかもしれません。
例えば、家族の死別、恋人との別れ、友達とのケンカなどは精神的に大きなショックをもたらします。
HSPの気質を持っている
HSP気質とは心理学者アーロン・M・エレイン博士が提唱した人一倍繊細な気質を持つ人のことで、Highly Sensitive Personの頭文字をとってそう呼ばれます。
気質とは人間の行動特徴であるパーソナリティを形成する要素の一つであり、生まれ持った性質で、発達過程においてほとんど変化しないとされる側面です。
HSP気質の人は様々な刺激に対して敏感に反応してしまうという特徴は次のような形で現れます。
- 他人の感情に敏感に反応し、動揺しやすい
- びっくりしやすい
- 光や音、臭いなど5感への刺激が気になる
- 相手の考えや気持ちを考え、断ったり、競争することが苦手
- 感情やイメージをたくさん感じているが、言語化することが難しい
HSP気質の人はあくまで「繊細で敏感」な人ですが、場合によっては周囲から「内向的で人づきあいが良くない」と誤解を受けることがあります。
営業成績が求められるなど競争の激しい職場環境などでは、正当な評価を得られなかったり、周囲の雰囲気を過剰に気にすることで疲弊し「ひとりになりたい」と思うことがあるかもしれません。
もともとの性格や育った環境が影響している
ひとりでいることを求める気持ちには、もともとの性格や育った環境が関係していることがあります。
コミュニケーション不安やシャイネスは性格特性(個人の性格を構成する要素のこと)としても知られています(詳しくは後述)。
高柳・藤生(2014)では特性シャイネスの性格特徴を詳細に検討しており、シャイな人は、非活動的でくよくよするなど否定的な感情を経験しやすく、有効な友人関係を築くことが苦手な性格であるとしています。
愛着スタイルとの関係
また、幼い頃からの保護者との関係(これを愛着関係と呼びます)はその後の人間関係のモデルとなることが指摘されています。
主な愛着のスタイルは3パターンに分けられることが知られています。
A:回避型(養育者が子どもに対して拒絶や無関心を示してきた養育態度)
B:安定型(養育者が子どもの変化を敏感に察知し、必要なものを与えてきた養育態度)
C:アンビバレント(両価)型:(養育者が関心をもって接するときとそうでないときの差が激しい養育態度)
小泉・齊藤(2015)は孤独感と愛着スタイルとの関連を検討し、
- 回避型の傾向が高い人は「他者にあわせる行動をとったり人とかかわることを避ける傾向」
- 安定型の傾向が低い人は「他者に受け入れられないのではないかという負のイメージから人づきあいを避ける傾向」
にあることを示しています。
ひとりになりたい欲求と病気・障害との関係
ひとりになりたいという思いは誰にでも起こることですが、まれに精神障害と関連していることもあります。
精神障害の大きな特徴は、その症状により社会生活を送るうえで重篤な問題が起こっている(当人もしくは周囲が困っている状態)ことが挙げられます。
うつ病
広く知られている精神障害の一つである「うつ病」は重度の気分の落ち込みや意欲の低下が2週間以上続くという特徴を持つ精神障害であり、食欲の減退、睡眠障害、倦怠感、絶望感など様々な症状が現れます。
うつ病は明確なストレス因が特定できないという特徴があり、脳内物質であるセロトニンの働きの異常との関連が指摘されています。
うつ病での気分の落ち込みや意欲の低下から、エネルギーを多く必要とする対人関係を維持することは困難となり、生活リズムの乱れや引きこもり状態に陥ってしまうこともあります。
また、自殺企図など命に関わる事態に陥ることもあるなど、精神疾患の中でも特に重篤なものとされています。
抑うつ神経症
近年よく耳にするようになった「うつ」ですが、多く人が誤解している病気です。
先述したように、うつ病は脳内物質のセロトニンの機能の異常から起こると考えられており、何らかのストレス因が(引き金となり発症することはあっても)原因にはなりません。
就活でうつになった、職場の上司に怒られてうつになったなどのケースの大半は抑うつ神経症に該当するといわれています。
このような、本人以外の人にも理解できる悩みや葛藤といったストレスが原因となっている精神疾患は心因性の疾患に該当します。(うつ病は現時点でその原因は特定されておらず、内因性の疾患に該当します)
そして、抑うつ状態を呈する代表的な心因性の疾患が抑うつ神経症と呼ばれるものです。確かに、抑うつ神経症でも、気分や活動性の低下、悲観的態度などうつ病とよく似た症状を呈します。
しかし、うつ病との決定的な違いは次の通りです。
- 脳の機能異常ではなく、心因性の精神障害であること。
- 朝から夕方にかけて症状が軽くなる(日内変動)が抑うつ神経症では見られない。
- 中途覚醒や早朝覚醒はほとんど見られず、入眠困難を呈する。
- 自分ではなく、ストレスフルな状況を生み出した周囲を責め、他者に対する依存性も強い
抑うつの原因も異なっているため、うつ病と抑うつ神経症では治療法も異なります。
うつ病ではSSRIなどの薬物療法及び休息によって生活リズムを取り戻すことが何よりも重要ですが、抑うつ神経症ではストレスフルな環境の調整やストレスへの対象法を身に着けるための心理療法による介入がメインになります。
回避性パーソナリティ障害
パーソナリティ障害とは、その名の通り個人の偏ったパーソナリティのために社会不適応に陥るというものであり、回避性パーソナリティ障害は恐怖や不安を感じやすいパーソナリティに分類されます。
回避性パーソナリティ障害の定義は次の通りです。
人から悪く評価されるのではないかとおびえ、批判されるとひどく傷つきやすいなど、対人関係上の全般的な不安を持つ。
そのため、人間関係を回避したり、ごく限られた人間としか親しい関係が結べず、大切な社会的、職業的活動を避けるなどの回避行動が特徴である。
しかし内面では人に関わりたいという強い気持がある点が、対人希求性の乏しい分裂病型人格障害と異なるとされる。
つまり、回避性パーソナリティ障害が対人関係を回避する背景には、他者と関わりたいという強い気持ちがゆえに他者から嫌われることに強い恐怖を抱くという特徴があります。
スキゾイドパーソナリティ障害
スキゾイドパーソナリティ障害は社会的関係から距離をとることと、全般的な無関心、対人関係での感情表現の少なさを大きな特徴とするパーソナリティ障害です。
スキゾイドパーソナリティ障害の患者はその特徴から他者と親密な関係を持つことに無関心で、親や兄弟などの近親者以外の相談相手がいない場合が多いとされます。
また、ひとりでいることを好むため、他者との交流を避け、ゲームなど一人で出来る活動を選ぶ傾向にあります。
統合失調型パーソナリティ障害
統合失調型パーソナリティ障害は奇妙な思考と行動を大きな特徴とするパーソナリティ障害です。
例えば、他者が自分に害を及ぼそうとしているという被害妄想や自分が他者を操る能力がなどの魔術的な思考がみられることもあります。
統合失調型パーソナリティ障害の患者は、自分が他者と異なる存在であり、人間関係に居心地の悪さを感じるため、ひとりでいることを好みます。
また、アイコンタクトなど非言語的な社会的手がかりや社会的慣習を無視することから、対人関係がぎこちないものになりがちです。
自閉スペクトラム症
自閉スペクトラム症とは、発達障害の一つであり、次の3つの特徴がみられる障害とされています。
- 社会的相互作用の障害(アイコンタクトなど非言語的なコミュニケーションが苦手)
- (言語的)コミュニケーションの障害(言語的なコミュニケーションが苦手)
- 想像性の障害(見えないものを思い浮かべることが苦手で、関心を示す範囲が限られる)
自閉スペクトラム症の人が示す不適応は様々なパターンがありますが、孤立型と呼ばれる人は他者に対する興味関心が薄く、相手が存在しないかのようにふるまうため、呼びかけへの反応が乏しく視線が合いにくいという特徴があります。
このようなタイプは人と関わろうとせず、関わられることを避けたりすることもあります。
また、自閉スペクトラム症は他者の気持ちを推測する心の理論(Theory of Mind)が未成熟なため、他者とのかかわりの中でトラブルを起こしやすく、いじめの対象となってしまう場合があります。
そのような場合、二次障害として対人交流に対し恐怖を覚え、ひとりになりたがるようになることもあります。
ひとりになりたいときの対処法
ひとりになりたいという気持ちが湧き上がったとき、リフレッシュできる方法をまとめました。
皆さんにあうものがあればぜひ実践してみてください。
ひとりになりたいという気持ちがあまりにも強く、長期間にわたっている場合は病院に相談することも選択肢の一つとして考えておきましょう。
ゆっくりと休む
ひとりになりたいという気持ちが出てきているのは、心身の疲れのサインかもしれません。
とにかく疲れがたまっているときは休む。これが鉄則です。
ダラダラ過ごしてしまっているという罪悪感や損している気持ちが浮かんでくることもあるかもしれませんが、まずは自分を大事にしてのんびり過ごす時間を確保してはいかがでしょうか。
スマートフォンの通知をオフにする
ひとりになりたいという気持ちが出てきたときは、ひとに気遣ったコミュニケーションをとるだけの余裕がないのかもしれません。
そのようなときは、仕事や何気ない友達からの連絡でさえも大きな重荷となってしまうかもしれません。
そのため、スマートフォンの通知を切って、自分ひとりの時間をしっかりと確保しましょう。
好きな趣味に没頭する
ひとりになりたいときは、趣味に没頭する良いチャンスといえるかもしれません。
例えば、読書や映画鑑賞、ランニングなどの趣味に時間を使ってリフレッシュするのはいかがでしょうか。
ひとり旅をする
非現実体験はこころの疲れをとるのに効果的と言われています。
一人旅でこれまで見たことのない景色をみれば、こころのもやもやも吹き飛ぶでしょう。
整体に行く
身体とこころはつながっています。こころがつかれているときは身体もつかれていることもあるでしょう。
そのようなとき、整体やアロママッサージなどで身体の疲れを癒すと、こころもスッキリするかもしれません。
【補足】ストレス反応とは
そもそも一般的に使われている「ストレス」という言葉は、心理学的には「(心理・社会的)ストレッサー」と呼ばれます。
ストレッサーとは日常生活の中で起こる人間関係や仕事上の問題などの刺激のことであり、長期間もしくは強いストレッサーにさらされたときに個人に起こる反応こそがストレス反応です。
例:「仕事のストレスで胃が痛くなった」
このような状況は、仕事というストレッサーによって、胃が痛くなるというストレス反応が起こっているという風に説明することができます。
ストレス反応はストレッサーに対する自然な反応であり、心理・行動・身体という3側面にその反応が起こります。
代表的なストレス反応は次の通りです。
【心理的なストレス反応】
不安、イライラ、怒り、疎外感などの感情的な反応や集中困難、思考力低下、物忘れなど心理機能の低下
【行動的なストレス反応】
けんかなどの攻撃行動、過激な行動(泣く、引きこもり、孤立、幼児返りなど)、ストレス場面からの回避行動など
【身体的なストレス反応】
動悸、頭痛、疲労感、食欲の減退、嘔吐、下痢、めまい、睡眠障害など
「ひとりになる」という行動を求めるようであれば、自分の身を守るためのストレス反応かもしれません。
ストレッサーが加えられた後の防御反応は時間の経過によって次のように変化します。
- 警告反応期(ストレッサーへ抵抗する準備を整える期間)
- 抵抗期(ストレッサーへ抵抗する期間)
- 疲弊期(エネルギーが枯渇し、抵抗力が落ちる期間)
ストレッサーにさらされてから疲弊期に至るまでは概ね10日程度とされており、疲弊期に入ってしまうと抵抗力は低下し続けるとされています。
そのため、「ひとりになりたい」という気持ちがストレスへの防御反応である場合は、速やかに対処するようにしましょう。
もし「ひとりになりたい」と言われたら
もし、大切な人に「ひとりになりたい」と言われたら、ほうっておけない気持ちから理由を聞きたくなったり、自分が邪魔な存在と言われているようで気分が悪くなったりするかもしれません。
しかし、すでに相手は「ひとりになりたい」気持ちを伝えているため、よかれと思っても理由をしつこく聞くのは逆効果です。
そのようなときは相手を心配する気持ちを伝え、「ゆっくり休むよう伝えること」、「何かあったらいつでも相談してほしい」と気遣う姿勢を見せると相手も安心してひとりの時間を大切にできるはずです。
注意するべき状態
ただし、ひとりになりたいという言葉が出てくる背景や相手の様子には気を付ける必要があります。
犯罪に巻き込まれた、事故現場に居合わせた、知人が自殺したなどあまりにも大きな精神的ショックを与える出来事がある場合、急性ストレス障害(ASD)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)である可能性もあります。
また、気分の落ち込みがあまりにも大きく、長期間にわたっているなどの場合は精神障害に陥っている可能性もあります。
そのような場合は速やかに(付き添いで)専門機関の受診を進めたり、いのちの電話などの相談サービスがあることを教えてあげましょう。
孤独に対する捉え方の多様性
辞書では「孤独」という言葉には「仲間や身寄りがなく、ひとりぼっちであること。思うことを語ったり、心を通い合わせたりする人が一人もなく寂しいこと。また、そのさま。」という説明があり、否定的な印象を与える言葉です。
しかし、大東・岩本(2009)の大学生を対象とした研究によれば、孤独に対する捉え方は次の3側面に分かれることが明らかとなっています。
- 否定的評価:孤独は暗く、切ないものといった捉え方
- 自己成長機能:孤独は自分に気づきを与え、成長の契機となるという捉え方
- 肯定的評価:孤独は落ち着いたり、楽しいものという捉え方
このようにひとりでいる孤独な状態を、どのよう捉えるかはその人次第ともいえます。
コミュニケーション回避の研究
また、坂本・チャールズら(1998)はこれまでのコミュニ―ケーション回避研究を概観し、コミュニケーション回避とかかわりのある概念として、「レティセンス」、「シャイネス」、「コミュニケーション不安」の3つを紹介しています。
レティセンスとは、恐怖や不安が低いにもかかわらず、コミュケーションを避ける状態のことで、このような人には「会話をすることによって道徳心や自尊心が損なわれる」という信念を持っているという特徴があります。
これに対しシャイネスや所謂あがり症であるコミュニケーション不安という性格特性を持つ人は、社会的状況や対人交流に不安を抱き緊張するという特徴があります。
つまり、前者はそもそもコミュニケーションが好きではないため自発的に避けている状態であり、後者はコミュニケーションが怖いために避けざるを得ない状況に陥っているといえます。
このように、ひとりでいる「孤独」な状態も様々な捉え方があるのです。
ひとりになりたいという気持ちを大事にしましょう
ひとりになりたいという気持ちが自分にわいてくることは、何も不自然なことではありません。
しかし、自分なりのリフレッシュ法を試しても全く効果がない、いつまでたっても一人になりたい気持ちが消えない、仕事にいけなくなってしまったなど少しでも異常を感じたら速やかに専門機関に相談することをおすすめします。
参考文献
- 文部科学省『在外教育施設安全対策資料【心のケア編】第2章心のケア各論』
- 大東美穂子・岩本澄子(2009)『青年の孤独に対する捉え方--孤独感,自己意識,精神的健康,自我同一性との関連』久留米大学心理学研究 (8), 75-84
- 高柳真人・藤生英行(2014)『特性シャイネスとシャイであることの自己報告,困った経験,ビッグ・ファイブとの関係』びわこ成蹊スポーツ大学研究紀要 11, 89-103
- 小泉茅乃・齊藤勇(2015)『愛着傾向が青年期の人間関係に及ぼす影響について』立正大学心理学研究年報(6), 75-88