バーンアウト(燃え尽き症候群)とは?その原因や診断、回復のための対策について解説

近年、対人援助職を中心としてそれまで仕事に精力的に取り組んでいた人が急にモチベーションを失い仕事に取り組むことが困難になるバーンアウト(燃え尽き症候群)が注目を集めています。

それではバーンアウトとはどのようなものなのか、その原因や診断、回復に至るまでに有効な対処法はどうなっているのでしょうか。順にご紹介していきます。

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バーンアウト(燃え尽き症候群)とは

燃え尽き症候群とも呼ばれるバーンアウトとは、主に対人サービス職に従事している人に見られる症候群のことで、情緒的な消耗感や脱人格化、達成感の低下を伴うものです。

日本においてバーンアウトが注目されるようになったのは1980年代初頭からとされており、看護師や教師などの対人サービス従事者のバーンアウトを特有の職業性ストレス反応として捉え、その問題が他の職種に比べて深刻であるということが指摘されてきました。

一般的なストレス反応との相違点

当初のバーンアウト研究は職業性のストレス反応として捉えられ、労働過多や職業役割の負担、など一般的な職業のストレス反応や抑うつなど類似していると指摘されていました。

しかし、20世紀末になると、次の3つの概念から構成されるという点でバーンアウトは特徴的であり、他の概念と区別されうるとされます。

  • 情緒的消耗感:精神的な疲労感が蓄積し、エネルギーが枯渇している状態
  • 脱人格化:他者に対し、否定的で悲観的な態度や感情を抱き、無情にふるまう非人間的な対応をすること
  • 個人的達成感の喪失:仕事に満足感や達成感を得られず、自分自身を否定的に評価する傾向のこと

バーンアウトと一般的なストレス反応との違い

バーンアウトは職業性のストレス反応として捉えられてきました。しかし、上述した3つのバーンアウトの構成概念は一般的なストレス反応と類似しているようにも見えます。

両者の違いとはいったい何なのでしょうか。

久保(1998)はこの疑問を取り上げ、バーンアウトに特徴的な「情緒的消耗感」・「脱人格化」・「個人的達成感の喪失」とストレスを引き起こすストレッサー及び他のストレス反応との関連を検討しています。

その結果、一般的なストレス反応と脱人格化、個人的達成感の喪失の間には関連が認められませんでした。

バーンアウトが単なるストレス反応だと考えるならば、ストレッサーに対し他のストレス反応も生じているでしょう。

また、看護師が日頃直面するストレッサーとバーンアウトの関連を検討したところ、個人的達成感の喪失はストレッサーとの関連を示されませんでした。

バーンアウト研究において著名な社会心理学者マスラーク,Cはバーンアウトの特異性の本質は脱人格化と個人的達成感の低下に求められると提唱しており、久保の研究結果が示すように脱人格化や個人的達成感が一般的なストレス反応と関連を示さなかったという点がバーンアウトが単なるストレス反応と差別化されると考えられます。

バーンアウトの原因

それでは、バーンアウトはなぜ起こるのでしょうか。

現在のバーンアウト研究ではバーンアウト発症に関わる要因として「個人的要因」と環境的要因」の2つが挙げられています。

個人的要因

個人の持つ性質である個人的要因として挙げられるのは性格特性や年齢などが挙げられます。

福島ら(2004)は看護師のバーンアウト傾向と5因子性格特性(Big-5)との関連に注目し、それらの関連を検討しています。

その結果、バーンアウト得点のばらつきの約20%がパーソナリティ特性によって説明され、バーンアウトと5因子性格との関連が強いことが示されました。

さらに、5因子のうち神経症傾向は情緒的消耗感や脱人格化と正の相関が確認され、逆に調和性や外向性、誠実性とは負の相関が確認されています。

つまり、利己的で競争的、イライラしやすいという性格傾向はバーンアウトを引き起こしやすいこと、逆に上昇志向でエネルギッシュ、自分自身をうまくコントロールできるような人はバーンアウトを引き起こしにくいということが考えられます。

また、年齢に関しては年齢が上昇するほどバーンアウト得点が低くなることが示されています。

特にその関連は情緒的消耗感で顕著でした。

これに関しては、年齢を重ねることによって仕事に慣れ、適切なストレスの対処法を身に着けていたり、仕事自体に慣れ、そもそものストレス耐性が高まっている可能性が考えられます。

しかし、看護師をはじめとする負荷のかかる対人サービス業は離職率も高くなるため、バーンアウトを引き起こしにくい人のみが職場に残ることができ、高リスクの人は離職等で淘汰される可能性も否定できないため、注意が必要です。

環境的要因

バーンアウトは一種の職業性のストレス反応と捉えらえることも多いため、環境的要因としてまず思いつくのが長時間勤務や身体的負担などの過重負担です。

しかし、久保(2007)はこのような身体的な側面だけでなく、ヒューマンサービス従事者は相手の人格やこれまでの生い立ちなどに深く関わることに注目し、業務の質的な負担にも注目すべきだと主張しています。

つまり、労働基準法の範囲内の業務時間で、過度に身体を酷使するような労働環境出なかったとしても、ひとりの持つ業務の責任の重さや役割の不明確さなど心理的な負担を強いるような職場では消耗感が高まる可能性があるのです。

バーンアウトの診断

厳密にはバーンアウトは現在疾患として明確に定義されている概念ではなく、あくまで、一連の症状を呈する「症候群」として捉えられています。

そのため、バーンアウトを診断するということはできません。

しかし、これまでのバーンアウト研究の蓄積から、回答者のバーンアウトの程度を測定する尺度が開発されています。

もっとも代表的な尺度はマスラーク,CによるMBI(Maslach Burnout Inventory)です。

この尺度は22の質問項目からなる質問紙で、各項目に書かれた質問をどの程度の頻度・強さで感じるかを得点化し、バーンアウトの程度を捉えます。

日本語版のMBIも開発されており、質問項目は次のようになっています。

項目1 こんな仕事、もうやめたいと思うことがある
項目2 われを忘れるほど仕事に熱中することがある
項目3 こまごまと気くばりすることが面倒に感じることがある
項目4 この仕事は私の性分にあっていると思うことがある
項目5 同僚や患者の顔を見るのも嫌になることがある
項目6 自分の仕事がつまらなく思えて仕方のないことがある
項目7 一日の仕事が終わると「やっと終わった」と感じることがある
項目8 出勤前、職場に出るのが嫌になって、家にいたいと思うことがある
項目9 仕事を終えて、今日は気持ちのよい日だったと思うことがある
項目10 同僚や患者と何も話したくなくなることがある
項目11 仕事の結果はどうでもよいと思うことがある
項目12 仕事のために心にゆとりがなくなったと感じることがある
項目13 今の仕事に心から喜びを感じることがある
項目14 今の仕事は私にとってあまり意味がないと思うことがある
項目15 仕事が楽しくて、知らないうちに時間が過ぎることがある
項目16 体も気持ちも疲れ果てたと思うことがある
項目17 われながら、仕事をうまくやり終えたと思うことがある出典:日本語版バーンアウト尺度(久保,1998)

なお、先に述べた通り、心理臨床の現場で用いられる質問紙検査とは異なり、あくまでバーンアウトの傾向を測定する尺度となるため、特定の点数を超えるとバーンアウトと診断できるカットオフポイントは設定されていないことに注意が必要です。

バーンアウトに陥らないための予防

バーンアウトは一度陥ってしまうと回復の難しい病態であり、まずはバーンアウトにならないよう予防的観点を重視し、介入を行うことが重要です。

衛藤(2013)は対人サービスを行う職場でのメンタルヘルス対策として3つの予防的観点を指摘しています。

一次予防

一次予防とはまずバーンアウトの発症を予防するために、啓蒙・教育活動を行い、職員個人のストレス状態の把握するため窓口を設け相談に応じたり、ストレスチェックの検査を行うことです。

こうして得た情報によって、バーンアウトへ陥る可能性が高いと思われるハイリスク者へ事前に積極的な休養を促したり、労働環境の改善を図ることで職場のメンタルヘルスの低下を防ぐことが出来ます。

二次予防

二次予防とはメンタルヘルスの不調者を早期発見し、重症化する前に早期介入を行う取り組みのことです。

この際に重要となるのが、医療へつなぐ必要があるのかを迅速に判断するための情報収集です。

そのため、職場での問題の深刻さや周囲の職場の人々が気づいている客観的事実(遅刻・早退が多い、勤務態度など)について情報収集を行い、バーンアウトをしている可能性が考えられるのであれば専門医を紹介し受診するように勧めます。

三次予防

三次予防とは、バーンアウトに陥ってしまってしまった人が復帰後に再発しないよう取り組むことです。

まずは職場復帰が可能な状態なのか、タイミングとして適切なのかなどを産業医などと話し合い総合的な判断を行います。

その後、いきなり通常の業務をこなすと大きな負担となってしまうため、職場復帰プランに基づいた慣らし勤務を実施し、そこで問題が無いようであれば産業医が最終的な職場復帰の決定を行います。

こうして復帰したとしても、症状が再燃する可能性は否定できないため、勤務状況や治療状況の確認、主治医や家族と連携し無理なく勤務できるフォローアップ体制を整えることが重要です。

回復のための有効な対処法

バーンアウトに陥らないよう予防することは何よりも重要ですが、いざバーンアウトの症状が現れてしまったらどのように対処すればよいのでしょうか。

バーンアウトは一般的なストレス反応とは異なり、単なる休養や環境の調整だけでは改善が不十分となるケースも存在します。

それは、バーンアウトが環境的要因だけでなく性格など個人的要因も抱えているからでしょう。

バーナー,Dは社会福祉職に従事する深刻なストレスを抱えた患者20名を対象に面接を行い、バーンアウトから回復する6つの過程をまとめています。

  1. 問題を認める:自身に起こった身体的・心理的な負担に気付き、それを認めること
  2. 仕事から距離をとる:休暇の日数だけでなく、心理的にも仕事から離れること
  3. 健康の回復:身体的・心理的な緊張を緩め、休息の中で自分自身の欲求や喜びを感じる機会を設けること
  4. 自分の価値観を検討する:自身の価値観に関して振り返り、新しい価値観について考えること
  5. 仕事に関する新しい可能性を探る:変化した自分の価値観に沿う、新しい仕事を探す
  6. 新しい仕事や変化を起こす:新しい仕事や担当する業務の変化など

 

実際にバーナーは、面接を行った20名のうち、同じ仕事に戻ったのは1名のみだったと報告しています。

これはバーンアウトに陥ってしまうと必ず仕事を変えなければならないということを示しているわけではありませんが、実際に心理的な負担の大きい対人サービスという仕事に向いているのかどうか、改めて考え直す必要があるともいえるでしょう。

また、同じ職場に戻ったとしても、自分自身に何も変化が無い状態ではバーンアウトを再発する可能性は高いと考えられます。

そのため、バーンアウトに陥ってしまった場合、まずは『仕事から離れ、ゆっくりと休んで心身ん健康を回復すること』と『自身の価値観を見つめ直し、内面の変化や仕事など外的な生活環境に変化をもたらすこと』が有効な対処法と言えるでしょう。

バーンアウトについて学べる本

バーンアウトについて学べる本をまとめました。

バーンアウトの心理学―燃え尽き症候群とは (セレクション社会心理学)

バーンアウトは臨床心理学の研究領域においては比較的最近注目を集めるようになった症候群です。

本書はそのようなバーンアウトに関する研究を概観し、その構造や原因、対処などこれまでの研究で得られた知見をまとめてあります。

対人援助職の燃え尽きを防ぐ 個人・組織の専門性を高めるために

保育士や看護師、教師、心理士など対人サービス従事者の燃え尽きは個人の健康面での損失だけでなく、組織としても人員に穴が開くことで大きな負担がかかると言えるでしょう。

そのため、バーンアウトはまず予防的観点を持った対応が重要となります。

本書は事例を交えながら、バーンアウトに陥らないための感情コントロール法などの対応方法を平易にまとめてあります。

現に対人サービスのお仕事をなさっている方にはぜひ手に取って頂きたい一冊です。

燃え尽きてしまわないために正しい知識を持ちましょう

対人サービスで接する相手に一生懸命に尽くし、仕事にのめりこむ人ほどバーンアウトを引き起こしやすく、自身の仕事から受けているプレッシャーに気付きにくいため、仕事熱心な人ほどバーンアウトに陥りやすく、職場に起こる損失も大きなものとなるでしょう。

ぜひバーンアウトについて正しい知識を持ち、事前に予防できるよう日頃からのセルフケアを心がけましょう。

 【参考文献】

  • 久保真(2007)『バーンアウト(燃え尽き症候群)--ヒューマンサービス職のストレス (特集 仕事の中の幸福)』日本労働研究雑誌 49(1), 54-64
  • 久保真人(1998)『ストレスとバーンアウトとの関係-バーンアウトはストレインか?-』産業・組織心理学研究 12(1), 5-15
  • 福島裕人・名嘉幸一・石津宏・與古田孝夫・高倉実(2004)『看護者のバーンアウトと5因子性格特性との関連』パーソナリティ研究 12(2), 106-115
  • 衛藤進吉(2013)『対人サービス業務でのメンタルヘルス』日本農村医学会雑誌 61(6), 840-853
  • 佐野秀樹(2014)『教師ストレス(バーンアウト)からの回復と予防』東京学芸大学教育実践研究支援センター紀要 10, 51-55

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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