動機づけ面接が持つ意味とは?事例を交えながら主要な学会や研修、本を紹介

2021-09-11

心理臨床の現場において重要な心理面接では、こころに葛藤を抱えているクライエントとの信頼関係を構築し、協働して治療にあたることが何よりも重要です。そこで今回は動機づけ面接を取り上げ、事例を交えながら、主要な学会や動機づけ面接を学ぶための研修、本などについてご紹介します。

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動機づけ面接とは

動機づけ面接とは、1983年にアメリカのウィリアム・R・ミラー博士とイギリスのステファン・ロルニック博士を中心として開発されたカウンセリングの手法の一つです。

動機づけ面接はMotivatioal Interviewingのことであり、しばしばMIと表記されることもあります。

動機づけ面接の開発まで

臨床心理面接では、来談したクライエントと共に、治療という共通の目標に向かって協働して解決の糸口を図るべく対話を行います。

しかし、来談するクライエントは、カウンセリングによって自身の価値観や行動、考え方など自分のこころが変わってしまうことに不安や拒否感を抱いているケースも少なくありません。

自身の抱えている症状に苦しみながら、変化することを拒否するという葛藤のために、治療がうまく進まないことがあるのです。

そして動機づけ面接はそのような葛藤が顕著にみられるため、スムーズな治療が難しかったり、ドロップアウトしてしまいやすい、自己コントロールに問題を抱えているアルコール依存症患者を対象とした有効なアプローチを模索している中で開発されました。

今ではアルコール依存以外にも各種の問題行動を有する者や、うつ病ほか一般臨床の対象者にまでその適用範囲を広げており、心理臨床の現場で幅広く用いられている技法のひとつです。

動機づけ面接のプロセス

動機づけ面接は次の4つのプロセスをたどることが大きな特徴です。

ただし、動機づけ面接で取り扱うケースの多くは複雑な悩みを扱うため、以下の4つのプロセスを進んだり戻ったりを繰り返し、徐々に前進していくことが多いようです。

①関わる(engaging)

一般的な心理臨床面接も同様ですが、治療を開始し、継続していくためには、カウンセラーとクライエントの間にしっかりとしたラポール(信頼関係)を築くことが求められます。

そのため、まずは一般的な心理臨床面接と同様にクライエントとの間にしっかりとした信頼関係を築き、明確な治療目標を定め、治療同盟を組みます。

➁フォーカス(focusing)

フォーカスは、クライエントが解決すべき問題が何なのかを具体的に絞り込む過程です。

たいていのケースにおいて、来談したクライエントは多くの悩みや不安を抱えており、それらの問題は複雑に関連しあっています。

しかし、一度に多くの問題を解決しようとすることは現実的ではなく、どのような問題を度の順番で解決していくべきか、治療の優先順位や道筋を示す必要があります。

そして、どのような方向に向かって治療を進めるかはクライエントとの対話の中で決定されます。

③引き出す(evoking)

この過程は、動機づけ面接の中核となるものです。

クライエントはフォーカスにおいて決められた目標に対し、変化しなければなりません。

しかし、動機づけ面接を適用されるケースのクライエントの多くは、アンビバレント(両価的)な状態にとどまりやすいことが指摘されています。

例えば、アルコール依存症の患者が、「お酒を飲むのをやめたい、けど飲みたい」のように2つの願いの間で大きく揺れ動いていることは想像に難くありません。

そこで、動機づけ面接に特徴的な技法を交え、クライエントの内部から変化する方向への動機づけを引き出していくのです。

④計画する(planning)

動機づけを高めることが出来たら、変化のために行動をおこさなくてはいけません。

そのため、クライエントが現実的に可能な変化のための行動を話し合いながら計画を立てていきます。

動機づけ面接の基本原則

動機づけ面接では、アンビバレントな状態にあるクライエントに変化をもたらすため次の4原則に基づいて面接を進めていきます。

  1. 共感を表現する:クライエントの内的世界を共有し、正確に理解しようとする
  2. 矛盾を拡大する:クライエントの理想と現実の姿の間に生じるギャップを探り、行動を変えることで理想に近づけることへの気づきを援助する
  3. 抵抗を手玉に取る:変化することへの不安や抵抗は誰にでもある自然なことと受け入れる
  4. 自己効力感を援助する:クライエントの自己決定を尊重し、クライエントの自信を育む

動機づけ面接の技法

動機づけ面接ではいったいどのような技法が用いられるのでしょうか。

治療者の基本的態度(PACE/CACE)

動機づけ面接の基本的な態度は協働・受容・慈悲・喚起の頭文字をとったPACE及びCACEの4つが重要とされています。

  • 協働(Partnership/Collaboration)

クライエントは自身の抱えている問題を詳しく知っている専門家であるため、カウンセラーはあくまでクライエントのガイド役としての立場をとり、協力して治療へ取り組むこと。

  • 受容(Acceptance)

クライエントと治療者の間に存在する違いを受け入れ、クライエントがいつ、どのように変化を起こすのかという自ら判断することを支援すること。

  • 慈悲(Compassion)

クライエントの利益を最優先に考え、支援すること。

  • 喚起(Evocation)

クライエントの口から問題解決のための変化に向かう発言が生じるよう導いていくこと。

OARS(オールズ)

OARSは動機づけ面接における基本スキルの4つの頭文字をとったものです。

その4つとは質問・是認・聞き返し・要約です。

  • 質問(Open question)

ここでの質問とは、開かれた質問、つまり、はい・いいえで答えられるようなものではなく、答え方に幅広い自由度を持たせるものです。

しかし、開かれた質問はクライエントに心的な負担をかけるものであり、立て続けに開かれた質問をしてもケースは望ましい方向へ好転しないでしょう。

動機づけ面接での基本的な質問のリズムは、開かれた質問をした後に聞き返しを挟むという形式をとります。

これによってクライエント自身の気づきや洞察を促すことが出来ます。

  • 是認(Affirmation)

是認とはクライエントの持つポジティブな部分を強調し、支え、勇気づけることです。

是認によってクライエントは安心感を抱き、より自分の内面をカウンセリング場面で表現できるようになり、治療の継続を促進します。

是認を行うときには、「あなた」を主体とし、権威的な態度を取らないよう心掛ける必要があります。

  • 聞き返し(Reflevtive listening)

聞き返しはクライエントが発した言葉を治療者が返すことですが、単にクライエントの発言をそのまま繰り返すだけではありません。

例えば、語りの中で現れていない感情について聞き返したり、クライエントの言葉を少し強めもしくは少し控えめな表現で返すなどのテクニックがあります。

こうすることで面接に方向性を持たせ、クライエントを望ましい方向へと導くことが出来ます。

  • 要約(Summarize)

これまでの面接で語られた内容をまとめて返すことです。

悩みを抱えている人の多くは混乱状態にあり、問題がどのようにして起こり、なぜこれまで継続しているのかについて順序だてて説明することが難しいケースも少なくないでしょう。

語られるクライエントの問題に関する発言はパズルのピースのようなものであり、治療者がそれをまとめなおすことによって、問題の全体像に関する洞察を促し、自己変容への見通しをもたらすことが出来ます。

チェンジトーク(準備言語・実行言語)

チェンジトークとは、クライエントから発せられた是認されるべき発言のことです。

チェンジトークにはいくつかの種類があり、実際に変化を起こす前に十分なチェンジトークを引き出さなければ挫折してしまう可能性が高いと考えられています。

  • Desire(願望):できるようになりたい・変わりたいなどの願望
  • Ability(能力):能力や自信など楽観的な見通し
  • Reason(理由):変化することで得られるメリット
  • Need(必要):変化しないことのデメリットに関する不安や懸念

動機づけ面接を用いた事例

前川ら(2020)は透析拒否を示す末期腎不全患者に対し、動機づけ面接を実施した事例を紹介しています。

このような末期患者は治療への恐怖などから動機づけ不十分な状態での治療を開始し、予後悪化や生活の質の低下など2次的な問題を抱えることも少なくありません。

【事例概要】

 78歳男性、慢性腎臓病ステージG5

【生活状況】

妻と二人暮らし、頑固で寡黙な性格で、医師と話す際には妻が付き添い、夫に代わって考えを代弁していた。年齢相応の認知機能の低下はあるも認知機能検査は拒否していた。

【動機づけ面接導入までの経緯】

腎障害の悪化を契機に血液透析が開始された。

初回の透析前には治療を拒否するような言動は見られなかったものの、2回目の透析前には恐怖で身体が震え、会話もできない状態だった。

「透析をするのが辛い、80まで十分生きた。透析はやらない、死んでもいい」という発言があり、透析を続けるのは困難と判断し一時中断する一方で、家族は透析導入を強く望んでいた。

 

一度は家族が交代で透析の再開を説得しようと試みましたが、患者の意思は固く、透析再開を受け入れない膠着状態が続いていました。

しかし、語りの中で、これまで子どもを立派に育て上げてきたという誇りから「家族を大事に思う人柄であること」が見受けられ、一度は透析導入に同意したところから「透析を受け、家族と健康に過ごすことを望む気持ち」と「恐怖心から透析を拒む気持ち」の両価性があると考えられたため、家族と同席し動機づけ面接を実施しました。

以下、会話録です。

患者:自分でも頑張ろうと思っているけど,それと透析をするのは別.年が年だから,これ以上生きなくてもよい.自分の中で割り切れている.家族が透析をやって欲しいと思っていることは分かっている.でも,自分の頑張る,ということと違う

妻:私も息子も娘も,透析をやって元気でいて欲しいと思っている.透析を 2 回やった後は,はっきり元気になっている.お父さんが透析をやらないことで,私たちは毎日悩んでいる.
患者:(しばらく泣いた後)まあ,やってみるか.
著者:透析を行う理由を,自分の中で整理してください.
患者:透析をやろうと思う.
著者:誰のために?
患者:自分のため.自分が長生きするため.
著者:元気に長生きするため.
患者:うん.それが家族のためになる.
著者:○○さんが元気で長生きすることで,家族が喜んでくれる.
患者:そう.
著者:それが○○さんの中で,透析をやる理由になる.
患者:うん

前川ら(2020)『両価性を意識させることで透析導入への動機づけを図った高齢末期腎不全患者の1例』より

このように、治療者は透析をやってみようという前向きな発言をした患者に対し、開かれた質問から、辛い透析に取り組むための理由の明確化を行うため、言葉に現れていない患者の気持ちを代弁し、透析導入の動機づけを高めています。

この取り組みの結果、患者は肺炎で死去するまでの3年間透析を拒むことなく、治療に取り組んだそうです。

動機づけ面接の主要な学会と研修

動機づけ面接の主要な学会としては、一般社団法人日本動機づけ面接協会が挙げられます。

日本動機づけ面接協会は動機づけ面接の認知度向上と専門家の養成を主な目的として、独自の資格制度やワークショップを開催しています。

動機づけ面接について学べる本

動機づけ面接について学べる本をまとめました。

動機づけ面接を身につける 一人でもできるエクササイズ集

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動機づけ面接は近年、福祉の現場でも注目を集めている技法である一方で、その基本的理念や技法を学ぶためにどうすればいいのかお困りの方も多数いらっしゃることだと思います。

なかなか研修に行くことが難しい多忙な方は、1人で動機づけ面接の練習を出来る本書を手に取ってみるのはいかがでしょうか。

動機づけ面接法―基礎・実践編

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動機づけ面接の開発者であるウィリアム・R・ミラー博士とステファン・ロルニック博士の翻訳本です。

これから動機づけ面接について学びたいという方が、動機づけ面接の理論的基盤を固めるためにおすすめの一冊です。

やる気を引き出すため、併走する姿勢

心理療法ではパーソナリティや価値観、日常生活での行動の変容により、社会適応を促す介入が行われますが、例え自発的に来談したケースでも治療抵抗が生じることは珍しくありません。

変化を恐れる気持ちはだれにでもあることであり、動機づけ面接の基本原則や技法を参考にして、変化を起こすやる気を引き出すように寄り添う姿勢が求められているのです。

 【参考文献】

  • 松嶋祐子(2020)『犯罪・非行領域における心理臨床の特性』専修大学人文科学研究所月報 (306), 25-39
  • 北川雅子(2016)『来談者のやる気を引き出す協働的な面談スタイル : 動機づけ面接の魅力』日本保健医療行動科学会雑誌,31(2), 46-51
  • 前川道隆・加藤千洋・三木祐介(2020)『両価性を意識させることで透析導入への動機づけを図った高齢末期腎不全患者の1例』日本透析医学会雑誌 53(5), 265-270
  • 一般社団法人日本動機づけ面接協会

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    • この記事を書いた人

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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