ストレス社会である現代において、大きな注目を集めている精神障害が適応障害です。
適応障害は社会生活に支障をきたす症状を呈するため、仕事を休んだり、辞めざるを得ない状況に陥る可能性も十分にあります。
それでは、適応障害が理由で仕事を休職・退職する時にはどのような流れになるのでしょうか。診断書を得てから復職や労災認定を受けるまでの流れ、休職期間の過ごし方に解説していきます。
目次
適応障害とは
適応障害はストレスが原因となって情緒や行動に異常をきたす症状を呈し、社会不適応に陥ってしまう精神障害
です。
心理臨床の現場で用いられることの多い米国精神医学会の発行するDSMでは、適応障害は次のようなものであると示されています。
【DSMによる適応障害の定義】
はっきりと確認できるストレス因子により、3か月以上にわたり社会的機能が著しく障害されているもののうち、他の精神障害の基準を満たしていないもの
人間は自分では対処できないストレスにさらされることで、身体とこころは自らが危険な状況にいることを知らせようとストレス反応を呈します。
【代表的なストレス反応】
- 抑うつ気分
- 意欲の低下
- 不安
- いらだち
- 睡眠障害
- 食欲不振
- 肩こり
- 頭痛
- めまい
- 胃痛
健康な人でも、仕事が忙しいときにイライラしがちであったり、よく眠れない、お酒を飲みすぎてしまうなど心理面、生理面、行動面でストレス反応を呈することがあります。
たいていの場合、仕事がひと段落するなど対処不能なストレスは長期間持続しないため、ストレス反応もそれに伴っておさまり、適応障害へと発展することはありません。
しかし、職場の上司からパワハラを受けている、長時間労働が常態化しているなどストレスとなる状況が日常的になっている場合などは、ストレス反応が長期化、重症化し、仕事に行くことができないなど社会適応に支障をきたす状態に至ることもあります。
このような状態が、適応障害となってしまった状態なのです。
適応障害はうつ病か?
ストレス社会において、職場のストレスにより「うつ」になったという話を耳にすることも少なくありません。
このようなケースの大半は適応障害を「うつ」であると表現していると考えられます。
確かに、うつ病も適応障害も抑うつ気分(仕事に行くことが憂鬱だ)、意欲の低下(仕事のやる気が出ない)、睡眠障害(寝付けない、寝ていても途中で起きてしまう)などの症状を呈するため、よく似ているようにも思えます。
適応障害とうつ病の違い
しかし、適応障害がストレスという心理的要因によって発症することに対し、うつ病は現時点の医学では原因が不明(科学が発展すれば原因となる脳の神経回路など身体的基盤が発見されるであろう)の内因性の精神疾患に該当します。
この原因の違いは、表面に現れる症状や治療への反応に微妙な違いを引き起こします。
例えば、適応障害は外部から与えられたストレスによって発症しているため、ストレスとなる周囲を責める他責傾向がみられたり、ストレスから離れるための休養や環境調整などの介入によって症状が軽減したりします。
これに対し、原因は不明であるものの、何らかの身体部位に異常をきたしているであろうと考えられているのがうつ病です。
外部からのストレスが発症の引き金になることはあるものの、ストレスがない環境に身を置いても症状は持続し、自らを責める事績傾向が強く、主な治療は投薬と休養といったアプローチになります。
このように、呈する表面上の症状が似ているうつ病ですが、治療へのアプローチや予後などは大きく異なるため、うつ病との鑑別診断をしっかりと行う必要があります。
適応障害が理由で仕事を休職・退職をするとき
それでは仕事のストレスで適応障害となってしまったときにはどのようにすればよいのでしょうか。
適応障害は先述の通り、ストレスを原因とする精神障害です。そのため、ストレスとなる仕事から離れる休職や退職をしなければならないこともあるでしょう。
それでは、適応障害により休職や退職をするためにはどのようなことが必要なのでしょうか。
診断書はどこでもらえる?
適応障害を理由に休職・退職をするときには、医学的観点から適応障害であるのか判断を行う必要があります。
インターネットや書籍で適応障害であるかを確認するためにチェックリストなどが紹介されていることもありますが、それだけでは医学的に適応障害であることを証明できません。
精神障害であるかを判断することができる権限は医師のみに限られており、適応障害であることを証明するためには医師の判断によるものであると記載された診断書が必要となるのです。
適応障害は精神障害の一つであるため、心理的な不調を取り扱う精神科や心療内科に行って、症状を伝えることで、(適応障害であれば)診断書をもらうことができるのです。
休職期間の過ごし方
診断書を持っていき、職場に相談をした後には休職を申請しましょう。
適応障害になっている状況では、心身の不調により、正常な判断ができるとは限りません。
また、退職し収入が途切れている中、いつまで治療が続くのか、再就職はできるのかという不安が療養期間中に付きまとうことになります。
もちろん、心身の限界を迎えている、職場の環境改善に全く見込みがない、休職を認めてくれないなどの状況の場合、退職を余儀なくされるケースもあるでしょうが、まずは休職を申請するほうがベターでしょう。
それでは、申請後の休職期間はどのように過ごすべきなのでしょうか。
【休職期間中に気を付けたほうが良いポイント】
- 医療機関の受診
- 基本的生活習慣の改善
- コーピングを身に着ける
医療機関の受診
休職期間として与えられる期間に何を行わなければならないのかといえば、それは適応障害の治療です。
そのため、疲れてしまったこころを休ませるためにしっかりと休み、医療機関で必要な治療を受けなければなりません。
基本的生活習慣の改善
休職期間はこれまで行っていた仕事が生活から無くなる期間であるため、起床時間、就寝時間などを含む一日の過ごし方が大きく変化します。
休みの期間だからと夜遅くまでゲームをするなど、不規則な生活習慣が身についてしまうと短期間での完治が難しくなってしまうため、規則正しい生活を心がけることも重要です。
コーピングを身に着ける
そのほかには、ストレスへの対処法を見つめなおすことも必要でしょう。
人間はストレスにさらされたからと言ってすべての人がストレス反応を呈するわけではありません。つまり、ストレス耐性には個人差があるのです。
この個人差には認知的評価とコーピングという2つの要素によって説明されるのですが、このうちストレスへの有効な対処法であるコーピングを身に着けることができればストレスへ強くなることができます。
そのため、復職後にストレスに振り回されず再発を予防する観点からもコーピングを身に着けられるよう勉強することが好ましいと言えるでしょう。
適応障害による休職から復職までの流れ
厚生労働省は職場復帰支援として、次の5ステップを提示しています。
【職場復帰までの5つのステップ】
- 病気休業開始及び休業中のケア
- 主治医による職場復帰可能の判断
- 職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
- 最終的な職場復帰の決定
- 復職後のフォローアップ
休業開始には先述の通り、主治医による診断書の提出が必要です。
これにより、休職がスタートするのですが、その際に療養に専念できるよう、傷病手当金などの経済的な保障、職場復帰支援サービス、休業の最長期間などについて確認しておきましょう。
順調に療養が進み、症状が改善したら、職場へ職場復帰の意思を伝える必要があります。
その際にも適応障害が治り、職場復帰可能なのか医師による判断が必要となるため、病院を受診し、診断書をもらう必要があります。
診断書をもらい、復職ができることが認められたら、復職支援プランに関して職場の上司や事業所の産業保健スタッフらと相談をしながら作成を行っていきます。
この計画では、職場復帰日や仕事をする部署の調整、業務内容や量、サポートの調整、試し出勤制度の利用などといった復職後の環境がどのようになるのかについて話し合いを行うのです。
このような計画を作成後いよいよ最終的な職場復帰が会社によって決定され、復職へと至ります。
ただし、休職期間が長く、仕事から長期間離れてしまっている場合などは症状が再燃したり、新たにストレスに感じることが生じて適応障害を再発してしまう事態は避けなければなりません。
そのため、職場の上司や産業保健スタッフと定期的に面談を行い、復職支援プランの評価と見直し、職場環境の改善などについて継続的に話し合っていくことで、復職後も安定して就業ができるよう取り組んでいく必要があるのです。
適応障害で労災認定を受けるまでの流れ
労災保険制度とは、労働者が業務上もしくは通勤中に負った傷病等に対して行われる保険給付であり、これによって社会復帰の促進を狙った制度です。
この費用は基本的に会社が負担している保険料によって賄われており、アルバイトやパートを問わず労働者に適用される制度です。
適応障害により安定した就業が困難となり、休職や退職を行う場合は経済的な支援がなければ生活が困難になるケースも少なくないでしょう。
仕事が原因で労災認定を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。
【労災認定を満たすかどうかの判断基準】
- 認定基準の対象となる精神障害か?
- 業務により強い心理的負荷が認められたか?
- 業務外の強い心理的負荷が認められたか?
- 個体側要因があるか?
労災が認定される精神障害はWHOの発行する国際疾病分類の第5章「精神および行動の障害」に分類される精神障害のうち、器質性精神障害と精神作用物質使用による精神障害を除いたものです。
適応障害はF4「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」に該当します。
そのため、労災認定を受けるうえで注意しなければならないのはそれ以降の判断基準です。
労災保険は、業務上で受けた強度のストレスによって発症したものが該当します。
そのため、職場でのストレスが強いもの、そして、プライベートでのストレスフルな出来事(離婚や引っ越し、友達とのトラブルなど)や個体側要因によるものではない(精神障害の既往歴やアルコール依存状況など)によるものではないことが示されなければなりません。
なお、職場のストレスの強度を考える際には、長時間労働であれば月に100時間以上、人間関係によるものであれば発病前6か月からいじめやセクシャルハラスメントが継続していたなどの事由が挙げられます。
労災認定を受ける際には労働基準監督署に出向いて、労災の申請を提出し、労基署による調査によって上記の判断基準に該当するのか調査が行われます。
調査が終了し、労災であると認められた場合、国から治療費や休業補償(休業時の給与の8割)などの給付金が支払われることになります。
仕事場での適応障害について学べる本
仕事場での適応障害について学べる本をまとめました。
予備知識がない方でも読み進めやすい易しい本を取り上げましたので、いざというときに備える意味でもぜひ気になった本を手に取ってみてください。
【ストレスコーピング】ストレスを感じた時のストレスの効果的な対処法
ストレスに強い、弱いは人それぞれですが、ストレスへの対処法絵あるコーピングスキルは今からでも身に着けることが可能です。
もし、仕事のストレスで適応障害となり、休職や退職をしなければならない事態となった場合は、本書で適切なコーピングスキルを身に着けられるよう学びましょう。
メンタル不調者のための復職・セルフケアガイドブック
ストレス社会である現代で生きる社会人は、誰もが適応障害になるリスクを抱えているとも言えます。
いざ自分がメンタルヘルスを害し、休職しなければならないとき、どのように復職し、セルフケアを行えばよいのか備えておくことは必須であるといえます。
ぜひ本書で、メンタル不調者のための復職やセルフケアについて学びましょう。
適応障害の早期発見・予防の重要性
適応障害のようなメンタルヘルスの不調は何といっても早期発見と予防への試みが欠かせません。
一度、適応障害になったとしても、もう1度発症する可能性も残っています。
度重なる退職や休職はキャリア形成にも支障をきたすため、何よりも適応障害の予防や早期発見による適切な介入が求められるのです。
【参考文献】
- 平島奈津子(2018)『第113回日本精神神経学会学術総会 教育講演 適応障害の診断と治療 』精神神経学雑誌 120 (6), 514-520
- 笹野友寿(1987)『神経性うつ病の鑑別点』川崎医学会誌 13 (4), 366-371
- 厚生労働省『メンタルヘルス対策における職場復帰支援』
- 厚生労働省『精神障害の労災認定』