発達障害とは?その種類や定義・診断・支援方法について解説

2021-02-26

近年、学校や保育園での気になる子や職場での不適応を巡り、子供や大人の発達障害が話題に上ることも少なくありません。

しかし、いまだに発達障害に対する理解が広く社会に浸透しているとは言い難い状況にあるでしょう。

それでは発達障害とは何を指し、どのような種類があるのでしょうか。その定義や診断、支援のコツなどについてご紹介していきます。

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発達障害とは

発達障害とはどのようなものなのでしょうか。

発達障害の意味と定義

発達障害者支援法によれば、発達障害とは

自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの

と定義されています。

発達障害の原因

発達障害の原因は、生まれつきの脳機能の発達の偏りであるとされています。

そして、脳機能の発達が遅れている場所によって、表れてくる行動の特徴(得意なこと・苦手なこと)は異なってくると考えられています。

なぜ脳機能の発達に障害が生じるのかについては特定されていませんが、発達障害は遺伝する可能性(遺伝負因)があるとされており、胎生期及び出生直後までの期間に何らかの脳機能の障害が生じるとされます。

発達障害の子どもを持つ親は自身の子育てが誤っていたために発達に偏りが生じたと自分を責めることがありますが、上述したように発達障害は生まれつきの脳の機能障害によるものであるため、生後の養育によって発現するものではないのです。

発達障害と知的障害

発達障害と似た概念として、知的障害と呼ばれるものがあります。

知的障害とは、知的能力の水準が同年齢の平均に比べ著しく低いものを指し、そのために行動や思考の複雑さが実年齢に即した水準に達していないために日常生活編の適応に支障をきたすという特徴がみられます。

また知的障害は知能指数(IQ)が70以下であるものを指しますが、その重度は次のように分けることが出来ます。

  • 軽度:IQ70~50
  • 中等度:IQ50~35
  • 重度:IQ35~20
  • 最重度:IQ20未満

知的障害は持って生まれた脳機能の発達の障害の1つであり、広義の発達障害の1つとされていますが、WHOによる国際疾病分類(ICD)や行政上の分類では知的障害は発達障害と独立して扱われています。

発達障害の種類

狭義の発達障害(知的障害を除いた発達障害のこと)の代表的なものにはどのようなものがあるのでしょうか。

自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)

自閉スペクトラム症とはウィング,Lが提唱した3つ組の障害を特徴とする発達障害です。

Autism Spectrum Disorderの頭文字をとり、ASDと呼ばれることもあります。

対人相互作用の障害視線が合わない、表情や身振りから相手の感情を読み取ることが苦手など対人間の非言語的なやり取りに障害があること。
対人コミュニケーションの障害言葉の発達に遅れがある、他人と会話を開始したり継続させられない、独特の言葉や相手が言った言葉を同じように繰り返す(反響言語)など言語を介した対人的なやり取りに障害があること。
想像力の障害特定の習慣や儀式にこだわりが強い、同じ動作を繰り返したり(常同行動)、ものの一部にこだわる、興味を示すものと示さないもののが極端にはっきりしているなど。

自閉スペクトラム症は広汎性発達障害と呼ばれる発達障害群と呼ばれていたまとまりと概念的にほとんど重なっています。

自閉スペクトラム症が提唱されるまで、広汎性発達障害の中には自閉症、アスペルガー障害、レット障害、小児期崩壊性障害などの障害が含まれていました。

しかし、自閉症は知的障害を併発していないもの(高機能自閉症)とアスペルガー障害の概念的な重なりが大きく、鑑別することが困難であったり、発達によって診断基準に満たなくなってくるなどの問題から自閉スペクトラム症という一つの診断名に統合されるようになります。

スペクトラムという言葉が用いられたのは、その表れ方や重篤度に個人差はあれど三つ組の特徴を持った連続体としてとらえるべきという声が多く挙がってきたためとされています。

ADHD(注意欠如・多動症)

ADHD(注意欠如・多動症)とは次の3つの特徴のいずれかがみられる発達障害です。

Attention Deficit Hyperactivity Disorderの頭文字をとってADHDと呼ばれることが多いです。

  • 不注意:注意の集中が難しくケアレスミスが多い
  • 多動性:じっとしていることが苦手で、常に身体を動かし落ち着きがない
  • 衝動性:唐突な行動をしてしまい、周囲を驚かせる

例えばこのような特徴から、授業中に先生の話に意識を向け続けることが出来ず他のものに気をとられてしまう、じっと座っていることが出来ず席を離れて立ち歩いてしまうなどがみられることがあります。

また、情緒的に不安定で、我慢強さ(欲求不満耐性)に欠けるといった特徴がみられることもあるようです。

ICDやDSM(精神障害委の診断・統計マニュアル)では不注意・過活動・衝動性それぞれの項目に基づいた診断基準が示されています。

DSMではADHDの優勢な症状ごとに次の3類型を示しています。

  • 不注意優勢型:注意を持続させ集中することが困難で、気が散りやすい。
  • 多動・衝動優勢型:じっとしていられず動き回り、衝動的な行動をとってしまいやすい。
  • 混合型:不注意及び多動・衝動の特徴が混在してみられる。

※なお、発症に関しては上述した特徴的なエピソードがICD-10では7歳以前、DSM-5では12歳以前から見られるという若干の違いがありますが、ADHDも胎生期及び出生直後までの期間に何らかの脳機能の障害であると考えられているため、幼い頃から特徴的な症状がみられるはずという前提に立っています。

限局性学習症

限局性学習症とは全体的な知能の遅れが無いにも関わらず、ある特定の領域の学習が著しく苦手であることを特徴とする障害です。

Learning Disorderの頭文字をとり、LDと呼ばれることもあります。

文部科学省によれば、次の領域のいずれかの習得と使用に著しい困難がみられるとされています。

  • 聞く
  • 話す
  • 読む
  • 書く
  • 計算する
  • 推論する

なお、学習障害の原因は脳機能によるものなので、学習する環境や本人が努力不足とは無関係とされています。

就学前に学習障害が気づかれることはほとんどなく、両親や担任の先生が就学後に学習の困難に気づき専門機関へつながるケースがほとんどです。

中でも、書字障害や読字障害に関しては小学校3年生以降に漢字の学習につまづいた際に見つかるケースが多いとされています。

発達障害の診断に用いられる心理検査

発達障害は知能における特定の領域が平均と比べて低いという特徴があり、それぞれの発達障害の特徴の聞き取りに加え、心理検査を用いて状態像を把握することも多いです。

今回は発達障害の診断を行う際に用いられることの多い代表的な心理検査をご紹介します。

田中ビネー式知能検査

田中ビネー式知能検査とは、フランスの心理学者ビネーが開発した世界初の知能検査の日本版です。もともとは知的障害の人を見つけるスクリーニングを目的として開発されました。

ビネー式知能検査の大きな特徴は精神年齢から知能指数を算出する点にあります。精神年齢とは知能の発達水準を示すもので、どれだけ問題を正答できるかによって測られます。

精神年齢÷生活年齢(実年齢)×100によって知能指数(IQ)を算出します。

現在では平均的な知能に比べて被検者の知能がどの程度なのかを表す偏差知能指数が採用されています。

算出するための式は次の通りです。

偏差知能指数(DIQ)={15×(個人の得点ー母集団の得点)÷母集団の標準偏差}+100

検査の問題は113問(思考・言語・記憶・数量・知覚などの内容で構成されている)で、対象年齢は2歳以上となっています。

後述するウェクスラー式知能検査に比べ実施時間が短時間で済むため、幼い子どもを対象に検査を実施するときや全体的な知能の遅れがないかを判断する場合(発達障害との併存との可能性や学習障害の除外診断のため)に有効とされます。

ウェクスラー式知能検査

ウェクスラー式知能検査は、個人の知能を構成する各領域ごとを診断的に捉えることのできる心理検査です。

成人用のWAIS、児童用のWISC、幼児用のWIPPSIと3種類が存在し、年齢にあわせて実施することが可能です。

検査の結果は次の4領域で表され、各領域間に統計的に有意な差がみられるディスクレパンシーが確認された場合は発達障害が疑われるとされています。

ただ、補助検査を含めて実施した場合は90分から2時間程度と長時間がかかるため、被検者に大きな負担がかからないよう適宜休憩を入れたり、途中で切り上げ続きは後日行うなどの配慮が必要です。

K-ABC

K-ABC(カウフマン式子ども用心理検査)子どもの認知処理過程と知識・技能の習熟度の2側面から知的発達を測定する心理検査です。

対象年齢は2歳6か月から18歳1ヵ月となっており、30分から1時間程度で施行可能です。

また、そこで得られた検査結果から子どもの教育や指導のためのプログラムを作成することが出来るため、子どもの早期療育に役立つ検査だということも大きな特徴です。

子供・大人の発達障害への支援

発達障害を持つ人に支援を行ううえでどのようなことに気を付けるべきなのでしょうか。

発達障害自体は脳の機能障害のため、治るということはありません。

しかし、その特性から周囲の人々と摩擦が生じ、二次障害を発症してしまうことは避けなければなりません。

特にADHDは思春期に、相手に対し挑発的・反抗的な態度をとってしまう反抗挑戦性障害と呼ばれる二次障害の発症が懸念されます。

そのため、不適応を起こすような家庭での叱責や不和、対人関係でのつまずきなどになるべく悩まされることが無いよう、次にあげるポイントを意識しながらなるべく環境を調整するよう心がけましょう。

  1. 苦手なことを強いらないようにする:苦手なことは治らずサポートが必要なため
  2. 叱るより諭す:特に困難にぶつかりやすく、自尊感情の低下が懸念されるため
  3. 相談に乗る:自分から悩みを相談することが難しい場合があるため
  4. 過ごしやすい環境を整える:感覚過敏に対応するため
  5. 具体的・的確な指示をする:あいまいな言葉の理解が難しい場合が多いため

発達障害の人は、何も劣っているわけではなく、得意なところと苦手なところがはっきりしているだけです。

そのため、本人が力を発揮できるようサポートしていくことが重要です。

発達障害について学べる本

発達障害について学べる本についてまとめました。

イラスト図解 発達障害の子どもの心と行動がわかる本

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発達障害は外見では判断することが出来ず、周囲から奇異な行動を示すと敬遠されたり、いじめに遭ってしまうこともあります。

しかし、その特性からくる行動や心の動きをしっかりと理解すれば、発達障害を抱えている方もしくは周囲に発達障害の人がいる方の困難は少なくなるでしょう。

この本はイラストも多く、発達障害についての知識が少ない方でもスラスラと読み進められるでしょう。

発達障害の子どもを伸ばす魔法の言葉かけ (健康ライブラリー)

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講談社
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発達障害は生まれつきの脳の障害ですが、外見からはわからないため発達障害の子を持つ保護者は自分の養育が間違っていたと自分を責めたり、その子の特性を受け入れられず自分の期待を押し付けてしまうケースもあります。

そこで、発達障害の子どもの特徴を知ると同時に、どのように言葉をかけ、関わっていくと良いのかを知っておくことは有益です。

その特性を強みにできる生き方を探して

発達障害の診断で用いられることのある心理検査では、知的能力の偏りを見ることを目的としています。

しかし、そこでわかるのは知能の低い領域だけではなく、高い領域、つまり優れたところ・得意なところを見つけることもできます。

そのため、その優れた領域と職種の専門性が合致したときには素晴らしい成績を残す可能性も十分にあるのです。

そこで、発達障害についての理解を深め、特性的に苦手なことの改善するのではなく、自分に合っていて活躍できる場所を探し、少しでも生きやすいよう生活環境を整えていくことが求められるのです。

参考文献

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    • この記事を書いた人

    t8201f

    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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