男性の持つ女性イメージをアニマ、女性の持つ男性のイメージをアニムスと言います。今回は、ユングの提唱したアニマ・アニムスの意味とその発達について見ていきます。また、アニマ・アニムスについて学べる本もご紹介します。
目次
アニマ・アニムスとは?
ユングは、神話や童話など古代から伝わる全人類に共通するイメージパターンがあると考え、それを元型と呼びました。
アニマ・アニムスはこのような元型の代表的なものです。それぞれの意味を見ていきましょう。
アニマの意味
アニマは、男性の無意識にある女性に対するイメージです。男性が夢で女性を見た場合、それがアニマのイメージとなります。
ユングによれば、男性の夢に現れる女性は、夢を見た人を未知の世界へ導く役割を持つとされています。
有名な「浦島太郎」でも、亀に案内されて辿り着いた竜宮城で出会ったおと姫と出会う事で、浦島太郎は未知の世界を知る事になりました。
このようなアニマは、社会の中で「男性らしく」振る舞う事を期待されている人にとっては、通常無意識の中に潜んでいます。
このようなアニマを抑圧するのでもなく、またアニマに乗っ取られるのでもなく、認めて上手く自己に取り込む事が、自分らしい生き方につながると、ユングは考えました。
アニムスの意味
アニムスは、女性の無意識にある男性に対するイメージです。女性が夢で男性を見た場合、それがアニムスのイメージとなります。
ユングによると、アニムスは女性に意見を主張させるのだと言います。
河合(2006)によると、女性がアニムスと同一化してしまうと、「こうすべきである」という頑固で現実にそぐわない意見を主張し始めるのだそうです。同時に「アニムスが肯定的にはたらくとき、女性はより想像的に生きることができる。」とも述べています。
ここで思い浮かぶのが、宮崎駿監督のアニメの主人公達です。
「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「もののけ姫」と、主人公の女性は誰もが強さや潔さというアニムスを持ちながら、それを統合して自分らしく輝いています。
アニマ・アニムスの発達
ユングは、個人の心の中におけるアニマ・アニムスは未熟なものから成熟したものへ変容していくと考えました。
そして、この変容が個人の心の成熟を示しているとしたのです。
アニマの発達
アニマは、次の4段階で発展していきます。
第1段階
幼少期に守られていた母親イメージに最も近い、肉体的なアニマです。
そのため、この段階のアニマは内面は無視し、肉体だけを求めるような行動へと導きます。
第2段階
第1段階とは逆に、ピュアな恋愛小説に見られるような純粋で、肉感的ではないアニマです。
そのため、この段階のアニマは、一途にロマンティックな恋愛を求めるような行動へと導きます。
第3段階
人間的な恋愛対象ではなく、癒しや救いを与えるスピリチュアル(霊的)なアニマです。
聖マリア、マザーテレサといった人類を愛の力で救うようなイメージに惹かれる男性は、この段階のアニマ像を持つと考えられます。
第4段階
第4段階は知的なアニマです。第3段階よりもさらに中性的な特徴が強くなります。
美しい仏像や観音像などがこれにあたると言われます。
アニムスの発達
アニムスも、次のような4段階で発展していきます。
第1段階
第1段階は、肉体的な力を持つアニムスです。
このようなアニムスのイメージを持つ女性は、スポーツ選手やヒーローのような逞しさや力強さを持つ男性に惹かれると言えます。
第2段階
第2段階は、行動力を持つアニムスです。
このようなアニムスのイメージを持つ女性は、決断力や行動力のある男性に惹かれる事になります。
第3段階
第3段階は、言葉で的確に表現をする力や、言葉の力で人を惹きつけたり動かしたりする力を持つアニムスです。
このようなアニムスのイメージを持つ女性は、自ら言葉で人を導く事に魅力を感じたり、表現力や人を動かす言葉の力を持つ男性に惹かれたりします。
第4段階
第4段階は、意味を与える力を持つアニムスです。
このようなアニムスのイメージを持つ女性は、状況や行為に意味を与えてくれる精神的なリーダーとしての男性に惹かれる事になります。
アニマ・アニムスについて学べる本
アニマ・アニムスについて学べる本をご紹介します。
昔話に見られるアニマ・アニムス「昔話の深層 ユング心理学とグリム童話」
ユング心理学の第一人者である河合隼雄氏が、具体的なグリム童話を挙げながら、その中に見られる元型について解説をされている本です。
本全体として、昔話を通して読者が自分自身の人生について考える事ができるように想定されています。
そのため、母親からの自立から自己実現まで人生の流れに沿って構成されています。
アニマについては第9章「男性の心のなかの女性ーなぞ」に、アニムスについては第10章「女性の心のなかの男性ーつぐみの髯の王さま」に記載されています。
豊富なイラストで分かりやすい「図解雑学 ユング心理学」
アニマ・アニムスを理解するのに必要な、集合的無意識、元型、夢分析といったユング心理学の基本的な知識を学ぶ事ができます。
左ページに分かりやすい解説文、右ページにイラストという見開きで、1つのテーマについて概観できます。
ユング心理学の全体像をまずは簡単に掴んでおきたい、という入門者に適した1冊です。
アニマ・アニムスとの対話
人が対極する特徴の片方だけにこだわっていると、心身の不調をきたす事があります。
アニマやアニムスが強くなりすぎて自分が支配されそうになっていたり、逆にアニマやアニムスのイメージを押さえ込んでしまっていたりする場合です。
不調の原因を探るヒントとして、自分の中のアニマやアニムスのイメージと対話をする事ができます。
無意識をイメージ化する事で、対話がしやすくなり、より統合した自分に近づく事ができるようになるのです。
参考文献
福島哲夫(2002) 図解雑学 ユング心理学 ナツメ社
河合隼雄(2006) 昔話の深層ーユング心理学とグリム童話 講談社
河合隼雄(1994) 河合隼雄著作集第1巻 ユング心理学入門 岩波書店
長尾剛(2017) 心のトリセツ「ユング心理学」がよくわかる本 PHP研究所
<福島哲夫(2002) 図解雑学 ユング心理学 ナツメ社>