今回は、環境と動物との関係について大きな革命をもたらしたアフォーダンスという考え方について学びます。ギブソンの提唱したアフォーダンスの意味と定義、特徴、実験、日常生活に見られるアフォーダンスを分かりやすく解説していきます。また、アフォーダンスに関する学会や、アフォーダンスについて学べる本もご紹介します。
目次
アフォーダンスとは
そもそもアフォーダンスとはどのようなものなのでしょうか。
アフォーダンスの意味と定義
アフォーダンス(affordance)という概念を提唱したのは、知覚心理学者のギブソン(J.J.Gibson)です。
英語の”afford”には、「利用可能にする」という意味があります。つまり、アフォーダンスは、環境が持っている利用可能な特徴であると考えられます。
つまり、環境はそれだけで存在する刺激ではなく、それを利用する生物との関係によって特徴が決まるという考え方です。
アフォーダンスの例
アフォーダンスの例を見てみましょう。
鉛筆は、その使い方を知っている人にとっては「書く」というアフォーダンスを持っています。けれども乳幼児にとっては、「舐める」とか「投げる」といったアフォーダンスを持つ場合もあるでしょう。
階段は、それを利用する人にとっては「昇る」あるいは「降りる」というアフォーダンスを持っています。けれども車椅子を利用する人にとっては「移動を妨げる」というアフォーダンスを持つ事になるかもしれません。
アフォーダンスの特徴
アフォーダンスにはどのような特徴があるのでしょうか。川村(2001)は、次のような特徴を挙げています。
① 環境そのものの物理的性質ではなく、個々の生物にとっての環境の性質である事
例えば部屋の中に砂糖が数粒落ちていたとします。蟻が見つければ「巣に運ぶべき餌」という性質を持つでしょうが、人が見つければ「掃除すべきもの」という性質を持つでしょう。
② アフォーダンスそれ自体は行動を引き起こさず、あくまでも行動を可能にするものである事
例えば、「赤信号」という環境があった場合、それは「危険だから止まる」という行動を可能にはしますが、全ての人を止める訳ではありません。
アフォーダンスに関する心理学的実験
三嶋(1994)は、“またぎ“と“くぐり“のアフォーダンスについて次のような実験を行なっています。
目的
床面と並行な棒を回避する際に、“またぎ“と“くぐり“のどちらが選択されるのかを検討します。
つまり、棒の高さを変えた時、“またぎ“と“くぐり“というアフォーダンスがどのように知覚されるのかを検討します。
方法
男子大学生を身長を基準として、長身群と短身群に選出します。
バーは55センチから105センチまで5センチ間隔で高さを調節できるものとします。
教示は次の通りです。
「前方に進行の障害になっているバーがあります。バーの向こう側へ行かなければならないときに、どちらかと言えば、くぐりますか?またぎますか?バーの高さを変えていきますので、どちらの行為が、自然で楽に行えるか、それぞれについて“くぐる“か“またぐ“で答えてください。」
実験修了後に、身長、脚の長さ、爪先立ちをした時の脚の長さ、目の高さを測定しました。
結果
短身群に比べて長身群の方が“またぐ“と“くぐる“の転換点が高い結果となりました。
しかし、脚の長さも考慮した場合には、“またぐ“と“くぐる“の転換点は身長の高低に関わらず、バーの高さと脚の長さの割合によって同じ結果となりました。
考察
バーを“またぐ“か“くぐる“かの判断は、脚の長さに対するバーの高さが1.07倍の時に転換をむかえ、身長の高低とは関係がありませんでした。また、脚の長さの数値を目の高さの数値に置き換えた場合も、同様の結果となりました。
この事から、被験者は環境の見え方を利用している可能性を示唆すると言えるとしています。
つまり、知覚は単なる物理量の検出ではなく、価値や意味といった行為の可能性を含む能動的なものであるということを示しています。
日常生活におけるアフォーダンス
日常生活において、アフォーダンスはどのような場面で見られるのでしょうか。
ものづくりとアフォーダンス
認知心理学者であるノーマン(D.A.Norman)らは、アフォーダンスに関して新しい概念を提示しています。
ノーマンらは、道具などのデザインにおいて、使い手にとって良い価値のアフォーダンスを持つように設計すべきだとしています。
つまり良いアフォーダンスを持つ機器の開発は、事故を防ぐために重要だと主張したのです。
このような考え方は、例えば自動運転機能を持つ車の開発の際に有用となるでしょう。
アフォーダンスに関する学会
アフォーダンスに関する学会としては、日本生態心理学会(The Japanese Society for Ecological Psychology)があります。
日本生態心理学会は、アフォーダンスを始めとするギブソンの構想を承継・発展することを目的としています。
アフォーダンスについて学べる本
アフォーダンスについて学べる本をご紹介します。
ダーウィンから始まるアフォーダンス「アフォーダンス入門 知性はどこに生まれるか」
アフォーダンスという、一見難しそうな事柄について、具体的にわかりやすく噛み砕いて解説をしている本です。
本書は、いきなりアフォーダンスとは何かという説明から入らず、街の中に見られる「跡」がどのようにしてできたのか、という謎から始まります。
さらにそこから、生き物が残す跡としてサンゴ礁の謎に迫り、ダーウィンの研究に始まるミミズの営みへと続きます。
このようにして、次第に生き物と周りとの関係に意味を見出すというアフォーダンスの世界への理解を深めていけるようになっています。
文庫サイズで文字も大きく手に取りやすい入門書です。
認定心理士の勉強にも役立つ「認定心理士資格準拠 実験・実習で学ぶ心理学の基礎」
心理学の基礎的な実験・実習の教科書です。25章にわたり、心理学の基本的な実験や実習を学ぶ事ができます。
アフォーダンスについては第8章に記載されています。アフォーダンス理論の説明の他、「またぐ」と「くぐる」の切り替え実験が詳しく掲載されています。
アフォーダンスを引き出す
私たちの周りには、利用できる環境が沢山あります。けれどもそれをただ眺めているだけでは、環境の方が自動的に何かを提供してくれる訳ではありません。
例えば、「アフォーダンス」という言葉を、よく分からないものとして眺めているだけでは、何も得る事はできません。
けれども、「アフォーダンス」についての本を読んでみたり、それについて友達と話してみたり、自分で考えてみたりする事によって、意味が見えてきます。
ドラえもんの四次元ポケットがあったとして、そこから何を取り出して何に使うのか、それがアフォーダンスなのではないでしょうか。
参考文献
今田寛・宮田洋・賀集寛(2016) 心理学の基礎 培風館
金沢創・市川寛子・作田由衣子(2015) ゼロからはじめる心理学・入門ー人の心を知る科学 有斐閣
川村久美子(2001) アフォーダンス理論がもたらす革命 武蔵工業大学 環境情報学部 情報メディアセンタージャーナル 第2号
公益社団法人 日本心理学会 認定心理士資格認定委員会(編著)(2015) 認定心理士資格準拠 実験・実習で学ぶ心理学の基礎 公益社団法人 日本心理学会
三嶋博之(1994) “またぎ“と“くぐりのアフォーダンス知覚 心理学研究64(6),469-475