動機づけとは?種類や具体例、自己決定理論と教育場面での活用法について詳しく解説

2021-04-29

動機づけとは、私たちのやる気や、やる気を維持する力のことを指します。人や動物は、普段からこの動機づけをもとに行動しているのです。

動機づけは大きく分けて2種類あり、その内容によって行動の質が変わるのが特徴です。例えば人から言われて嫌々やる勉強と、自ら楽しんで行う勉強。持続率が高いのはどちらでしょう。このように考えてみると、動機づけの重要性が分かります。

本文では動機づけについて、具体例を交えながらより分かりやすく解説していきます。日常生活での活用術についてもご紹介しているので、ぜひご参考にしてください。

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動機づけとは

まずは動機づけの基礎知識から見ていきましょう。

動機づけの意味と定義

動機づけは行動を起こす力であり、あらゆる行動の源である。普通やる気といわれる。(略)動機づけなしには学習は進行しない。

引用:中学・高校教師になるための教育心理学 第3版

動機づけとは、意欲を引き出し行動に移すこと。さらに、意欲的な状態を維持・調整するための過程や機能のことを指します。分かりやすく言い換えると、私たちが目標や目的を達成するために抱く、「やる気」や「モチベーション」ということになりますね。

人や動物は、この動機づけをもとにさまざまな行動を起こします。何かを学んだり習得する際には、この動機づけが非常に重要な役割を果たしているのです。

動機づけの種類

動機づけは、大別すると「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」の2種類に分けることができます。それぞれの特徴と具体例を見ていきましょう。

外発的動機づけの意味と具体例

外発的動機づけとは、評価や賞罰、義務、強制といった外部からの刺激を受けて行われる動機づけです。「苦痛を避けたい」「褒められたい」「やらなくてはいけない」というような受け身の感情をベースとし、何らかの目標のために行動を起こしている状態を指します。

  • テストで90点以上取れば新しいゲームを買ってもらえるから頑張ろう
  • 今週は掃除当番なので、面倒だけど仕方なくトイレ掃除をした

内発的動機付けの意味と具体例

内発的動機づけとは、自分自身の内面から沸き立つ、興味、意欲、関心をもとに行われる動機づけです。「楽しい」「もっと知りたい」というポジティブな感情がベースとなるため、行動の継続率も高い傾向にあります。

内発的動機づけが行われると、自発的な行動が増え、自主性や自律性が養われていきます。一般的に学習を行う際は、内発的動機づけが行われていることが望ましいのです。

  • 夏休みの自由研究は、ずっと興味があったアリの巣の構造を確かめたい!
  • とにかく楽しいから絵を描き続けていられる

自己決定理論とは

かつて、外発的動機づけと内発的動機づけは対極的なものだと考えられてきました。しかし、アメリカの心理学者であるエドワードデシとリチャードライアンは、この2つの動機づけは連続的なものであるとして「自己決定理論」を提唱しています。

自己決定理論とは、自らの意思による選択(自己決定)の度合いが高まるにつれて、非動機づけ→外発的動機づけ→内発的動機づけへと状態が変化していくことを示した理論です。

前頁でご紹介した通り、義務や報酬のために行動する外発的動機づけよりも、自分自身の興味や意欲を満たすために行動する内発的動機づけのほうが、学習の効率や持続性が高いと言われています。

しかし全くの無気力状態から、いきなり内発的動機づけを得ることは非常に困難です。このような場合、やる気のきっかけとして導入しやすいのは、評価や報酬を目的とした外発的動機づけとなるでしょう。

自己決定理論によると、この外発的動機づけもいずれは内発的動機づけに変化させることが可能だということです。そのためには自身の自己決定性(自律性)を高めていくことが重要だとされています。

自己決定理論の6段階

次の表は自己決定理論の連続性を示したものです。左から右に自己決定の度合いが高まっています。

自己決定理論では動機づけを6段階に分けることができます。特に外発的動機づけは4段階に細分化されているため、心情の変化をよりグラデーション化して見ることができます。

 非動機付け外発的動機づけ内発的動機づけ
自己調整※無調整外的調整取り入れ的調整同一化的調整統合的調整内発的調整
やる気の源泉外的やや外的やや内的内的内的
行動の理由報酬や罰義務感必要性価値観との合致やり甲斐
統制的動機づけ自律的動機づけ

自己調整内在化(内面化)とも呼ばれており、習慣や考えがどれだけ自分自身の内面に取り入れられたかを示す用語です。十分に内在化されると、「受け入れた」という感覚すらない状態に到達することができます。

それでは6種類の自己調整について、より詳しく見ていきましょう。

①非動機づけ:無調整

非動機づけとは、モチベーションを維持するものが全くない状態を表します。言うなれば、やる気が一切ない状態です。

例:「サッカーには興味がないし、したいとも思わない」

②外発的動機づけ:外的調整

外的調整とは、他者の力(外部からの統制)により行動が調整された状態を指します。親や指導者から言われたから仕方なくやる、という状態です。罰を避けるだけでなく、報酬を得たいがために行動に移すことも、この外的調整に当てはまります。

最も自己決定性が低く、典型的な外発的動機づけとも言えます。

例:「サボると親に叱られるから、仕方なくサッカーの練習に参加した」

③外発的動機づけ:取り入れ的調整

取り入れ的調整とは、名誉を得たり、自尊心を保つために行われる動機づけです。恥をかきたくない、傷付きたくない、褒められたいという感情が、行動に対するモチベーションとなります。

外的調整と違い外部からの統制がなくても行動は生じますが、完全にその行動を受け入れているわけではありません。外的な要因を自分の中に取り入れて、やる気を調整し、義務感で行動に移している状態です。

例:「今度の試合はクラスの女子が見に来るらしい。恥をかかないためにも最低限練習しよう」

④外発的動機づけ:同一化的調整

同一化的調整とは、行動に価値を感じられ、自分自身のためになると受け入れている状態です。必要性を感じ、自らの意思で取り組んでいるため、モチベーションの源泉はやや内的となります。

例:「サッカー推薦をもらいたいから、真剣に練習に取り組もう」

⑤外発的動機づけ:統合的調整

統合的調整とは、課題と自身の価値観の間に全くズレがない状態を指します。やりたいからやるのであり、行動に対する矛盾や葛藤は一切ありません。

積極的な活動が目立ち、やる気は自身の内面から湧き出てきます。自己決定性は外発的動機づけの中で最も高い位置づけです。

例:「もっとサッカーがうまくなりたい!だからたくさん練習したい!」

⑥内発的動機づけ:内発的調整

内発的調整とは、「興味・意欲・関心」など、自分自身の内なる欲求を満たすために行われる活動を指します。外的な要因は一切関係なく、完全なる自己決定に基づいて取られる行動です。

楽しいから、面白いから、好きだから、といった感情が主体となり、行動(例:サッカーをすること)そのものが目的となっています。

例:「サッカーをしている時間が何よりも楽しい!ずっと続けていきたい!」

統制的動機づけと自律的動機づけ

ここまでの動機づけは「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」の2種類に分けて解説してきました。しかし、自己決定理論をもとに動機づけを大別すると、「統制的動機づけ」と「自律的動機づけ」に分けることができます。

統制的動機づけとは、自己を統制(指導や制限)された状態を指します。外的調整取り入れ的調整といった、自己決定性が限りなく低い動機づけです。

自律的動機づけとは、自己決定性が高く自律的な動機づけを指します。内発的動機づけだけでなく、外発的動機づけに位置する同一化的調整統合的調整も含まれています。

同一化的調整や統合的調整は外発的動機づけでありながらも、やる気の源泉がより内的です。内在化が進み、自発的な行動が増えている状態と言えますね。

このように外発的動機づけであっても、きちんと内在化された状態に到達している場合があります。そのため自己決定理論を用いる場合は、自己決定性の高さに着目するようにしましょう。

3つの欲求

さらに自己決定理論において欠かせない3つの欲求があります。それが自律性、有能性、関係性です。自発的な行動を続けるためには、この欲求を満たすことが大切だと考えられています。

  • 自律性:自分の行動は自分で決め、自ら動きたいという欲求。
  • 有能性:自分はできると感じたい欲求。これを満たすために学習や練習に励む。
  • 関係性:友人、集団、社会に対し、良い関係を築きたいと思う欲求。

以上の欲求を満たすことで、自己決定性の高い選択や維持に繋げることができるのです。

動機づけを増減させる心理現象

時に動機づけは、逆の効果を引き起こすことがあります。

アンダーマイニング効果

既に内発的動機づけが済んでいる人に対し、報酬や褒美を与えるなどの外発的動機づけが行われると、モチベーションを低下させてしまうことがあります。こうした現象をアンダーマイニング効果抑制効果と呼びます。

行動の目的が「やり甲斐」から「報酬」に変わったせいで、報酬がないならやっても無駄だという感情を引き起こしてしまうのが原因です。

例:ある学生は環境問題に関心があり、ボランティアの一環として積極的にごみ拾いに参加しています。するとたまたまそれを知った学校側が、彼の活動を評価し内申点を上げました。

初めこそ意欲的にボランティア活動に取り組んでいた学生ですが、「学校側が認知しないと内申点が上がらないなら、今日のごみ拾いは行かなくていいや」と考えるようになり、徐々に参加頻度が減少していきました。

エンハンシング効果

アンダーマイニング効果とは逆に、外発的動機づけをきっかけに内発的動機づけが高まることをエンハンシング効果と呼びます。

例:最初は母に促されて仕方なく通っていた英語塾だけど、最近はわかる英単語も増えてきて授業の時間が苦痛じゃなくなった。塾に行くのが楽しみになってきている。

日常生活における動機づけ

動機づけは日常生活においても多くの活用場面が存在します。代表的な2場面での応用方法を見ていきましょう。

教育場面

「動機づけなしには学習は進行しない」という出だしの引用文の通り、教育場面における児童の動機づけは非常に重要な役割を果たします。

本来ならば知的好奇心を持ったうえでの学習が望ましいとされていますが、いきなり内発的動機づけを求めるのは至難の業でしょう。

教育場面において自律的な動機づけを促すには、対象児童の内在化がどこまで進んでいるのかを見極めることが大切です。そしてその段階に応じた声掛けやフォローを行うことをお勧めします。

無調整(非動機づけ)の脱し方

学習意欲を全く見せない状態です。そのような児童の大半は勉強に対して「難しい」というネガティブなイメージを持っています。まずはわかる部分まで遡り、優しい問題から解いていきましょう。こうすることで児童の有能性に対する欲求も満たされていきます。

外的調整の脱し方

いやいや勉強させられている状態です。このような児童は、勉強する価値を見出すと自律性が芽生えてきます。「○○を勉強する理由はなんでだと思う?」というような声掛けが有効です。

取り入れ的調整の脱し方

テストや受験勉強など、目前の結果重視になっている状態です。オープンキャンパスに誘うなどして、児童がより内的な動機づけを行えるようにフォローしましょう。

また結果ばかり重視する保護者の影響で、取り入れ的調整に留まる児童もいます。児童とともに保護者の視野も広げていかなくてはなりません。

ビジネス場面

ビジネス場面においても動機づけを応用することが可能です。多くは部下のやる気を引き出すために用いることになるでしょう。

ビジネス場面においては、3つの欲求を満たす方法をお勧めします。

自律性の欲求を満たす

自律性の欲求を満たすには、積極的に部下の意見を聞きます。部下が思うことや、やりたいことをヒアリングできたら、できる限り本人に任せてみましょう。すると自身の行動に達成感ややり甲斐を感じ、徐々に自律性が得られるようになります。

有能性の欲求を満たす

有能性を満たすには、たくさん褒めてあげると効果的です。「○○くんのお陰で良い仕事ができたよ」「いつもありがとね」といった声掛けを行うことで、相手の承認欲求を満たし、有能感を高めることができます。

関係性の欲求を満たす

関係性の欲求を満たすには、普段のコミュニケーションがとても重要です。部下と十分な信頼関係を築くことで、「○○さんの力になりたい」「いつかは○○さんのような人なりたい」といった感情が芽生え、自律的な動機づけを促すことができるのです。

また、社風が良いと会社に対する貢献心も高まり、動機づけもより内的になっていきます。

その他

「〇件以上の契約を結べなければ減給」といった目先の成果だけを評価する方法は、モチベーションの低下に繋がるので極力控えましょう。

「働くことが楽しい」というポジティブな感情を養い、長期的なモチベーション維持に努めることが大切です。

動機づけについて学べる本

動機づけについてより深く学べる書籍をご紹介します。

人を伸ばす力ー内発と自律のすすめー

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意欲を促し能力を最大限に引き出すには、本人による自己決定の度合いを高めなくてはなりません。では具体的にどのような取り組みを行えば自律性が養われていくのでしょうか。また人を育てる場合、どういったコミュニケーションを取れば内発的動機づけへと結びつける手助けができるのでしょう。

著者は、自己決定理論を提唱したエドワードデシです。本書を読むと、動機づけの活用方法をより深く理解することができます。更なる成長を目指す人はもちろんのこと、成長を支える指導者や保護者の方々にもお勧めできる一冊です。

モチベーション3.0

コンピュータ同様、社会にも人を動かすための基本ソフト(OS)があるという考を持って生まれたこちらの本。モチベーション1.0は生存目的のOS。モチベーション2.0は賞罰に基づく動機づけのOS。モチベーション3.0は内面から湧き出る「やる気」を指します。

本書ではさまざまな心理学者の理論をもとに、内発的動機づけをビジネス場面に応用する方法が記載されています。自身のモチベーションがなかなか上がらず労働意欲が湧かない方は、ぜひご一読してみてはいかがでしょうか。

自律性を養い、人生の質を高める

人は本来、怠けがちな生き物です。十分なモチベーションがなければ行動を起こすことも維持することもできません。動機づけや自己決定性は、私たちの人生の質を決める重要な役割を担っていると言えるでしょう。

やる気の原理を理解することで、無理なく新しいことに取り組むことができ、パフォーマンスを最大限に引き出すことが可能です。自分自身の成長や他者の教育など、ぜひ多くの場面で活かしてほしいと思います。

参考文献

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    • この記事を書いた人

    kinu

    臨床心理学科卒。主に発達心理学、学校心理学について学んでいました。

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