認知療法とは何か?その理論や対象、認知行動療法との違いについて解説

2021-09-17

ここでは、認知療法についてお話ししていきます。

はじめに、認知療法とは何かについて、認知行動療法との比較も行いつつまとめています。その後、認知療法の考え方(理論)や効果、対象となる疾患、認知療法に関する学会や研修などについて述べていきます。

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認知療法とは

まず、認知療法とはどのような心理療法なのかについてご説明します。なお、認知療法とよく似た名前の心理療法に認知行動療法があります。初学者の方ですと、特に混同しやすい両者ですので、認知療法に関する説明を行った後に、認知行動療法との違いについてまとめることとします。

認知療法(Cognitive-Therapy)は心理療法の1つで、その名の通り”認知”を重視する心理療法です。認知というとやや堅苦しいですが、かみ砕いて言えば、”ものの受け取り方や考え方”といった意味になります。1960年代にアーロン・ベックによって提唱され、うつ病への治療法として誕生しました。

私たちは現実を客観的に見ているようで、実際は自分なりの思い込みで見ているところがかなりあります。現実に起きた事に自分なりの解釈で対応しようとするため、現実とのズレが生じます。結果、少し考えれば解決できる問題でも、考える前に諦めてしまう、といったことが起こります。

そうしたときに、いま一度可能な範囲で客観的に現実を見つめなおし、問題に対処したり解決できるようにしたりするというのが、認知療法の基本的な考え方です。

また、認知療法は他の心理療法と異なり、特別なトレーニングを積まなければいけないものではありません。考え方を理解し、練習すれば、誰でも自分自身のために使うことが出来ます。その意味では、認知療法は、自分で出来るストレス対策法とも言えます。これは、認知療法の大きな特徴と言えます。

認知療法と認知行動療法の違い

次に、認知療法と認知行動療法の違いを見ていきます。とはいえ、実はそれほど大きな違いはなく、「認知療法は、認知行動療法の一部である」というのが結論になります。

認知行動療法(Cognitive-Behavioral-Therapy)もやはり心理療法の1つですが、今回ご紹介する認知療法と、行動療法という心理療法が基礎となっています。歴史的には行動療法が先に誕生し、その後認知療法が生まれました。そして両者の統合が進んだ結果、認知行動療法が誕生したという流れがあります。

ですから、厳密に言えば両者は異なる部分もありますが、基本的に両者を区別しなくて問題ありません。実際、例えば認知行動療法とは - 国立精神・神経医療研究センターを見ると、"認知療法・認知行動療法”と併記されています。

※この記事では便宜上、基本的に認知療法で統一しますが、認知行動療法と同義として読んでいただいて差し支えありません。

認知療法の理論

続いて、認知療法の理論について見ていきます。認知療法は認知に着目する心理療法ですが、その認知について、認知モデルという理論的仮説を有しています。日本認知療法・認知行動療法学会によれば、認知モデルは次のように定式化されます。

「ある状況下における患者の感情や行動は,その状況に対する意味づけ・解釈である患者の認知によって規定される」

少し分かりにくいかもしれません。1つ例を挙げると、水が半分入ったコップを見て、「半分も」と思うか「半分しか」と思うかで、感情や行動が異なるということです。この場合、例えば「半分も」と思った人より「半分しか」と思った人の方が、不安を強く感じ、水を大事に飲むことが予想されます。

認知療法においては、”心理的問題は、不適切な思い込みや偏った考えによって生じ、維持されている”と考えます。そこで、認知に働きかけて修正を行い、問題の解決を図るのです。

ここで注意しなければならないのは、認知療法はポジティブ思考を目指すものではないということです。あくまでも、不適切な思い込みや偏った考えを修正し、客観的に現実を捉えなおすことを目標とします。いわゆる”ポジティブシンキング”とは別物であることに留意してください。

以上が認知療法の考え方になります。ただ、より理解を深めるためには、いくつか押さえておくべき専門用語があります。先に進む前に、それらをざっと見ていきましょう。

押さえておきたい専門用語

①自動思考

ある状況に対して、瞬間的に浮かんでくる考えのこと。前述した「半分も(あるいは、半分しか)」が自動思考に該当します。瞬間的に浮かんでくるため、意識すれば容易につかまえることが出来ます。後述するスキーマに比べ、浅いレベルの認知とされています。

②スキーマ

自動思考の基礎となっている、その人なりの”こころのクセ”のこと。その人の人生観や人間観、信念などが該当する。自動思考に比べ、深いレベルの認知とされています。

③認知のゆがみ

出来事の認識の仕方を誤らせる、思考の誤りのこと。白黒思考、過度の一般化、べき思考、自己関連付けなど、様々なものがあります。なお、この認知のゆがみを生み出しているものが、スキーマとされています。

以上の3つをまずは押さえておきましょう。特に自動思考は大変重要な概念です。というのも、認知療法においては、基本的に自動思考に着目して認知の修正を行うからです。

認知療法の技法

ここからは技法について見ていきます。認知療法は様々な技法を有していますが、ここでは代表的な技法として、コラム法をご紹介します。

コラム法は正式には認知再構成法と呼ばれる、認知療法の代表的な技法の1つです。1960年代にアーロン・ベックによって開発されました。ネガティブな自動思考を修正する方法で、”自分を苦しめる考えを、苦しめない別な考えに置き換えること”を目指します。

その人が抱える不安や抑うつ、怒りの体験などを対象とし、つらい場面やそのときの自動思考、気持ちなどを書き出していく方法です。なお、書き出す際はどのような紙を使用しても良いですが、専門的には”非機能的思考記録表”というシートを使うことが多いです。

具体的な手順は以下の通りです。

1.つらい場面を切り取り、その場面における自動思考と気分を同定する。自動思考の確信度(どれくらいその思考が正しいと信じているか)と気分の強さを0~100%で評定する。
2.自動思考を1つ選択する。通常は確信度が高いものを選ぶ。
3.選んだ自動思考を様々な角度(例:その自動思考がその通りであるとの根拠は何か。)から検討する。
4.検討した結果を、新たな思考としてまとめあげ、その確信度を%で評定する。
5.もとの自動思考の確信度、もとの気分の強度を再評定する。

 

こうして、自分を苦しめない別な考えを生み出していきます。初めはかなりの時間と労力を要しますが、手間をかけて自ら考えだした新しい思考だからこそ、納得して受け入れられるのです。同じようでも、他の人に「その考えはおかしい」と指摘されただけでは、つい反発したくなるかもしれません。

認知療法の効果

認知療法を行うことで、どのような効果が得られるのでしょうか。何よりも強調すべき点は、精神疾患に対する治療効果です。この点については次の”認知療法の対象”で述べるとして、それ以外の効果を2つほどご紹介します。

1つには、自らのストレスのあり様に気づくことで、状況を客観的かつ具体的に把握できることです。ただ辛いのではなく、どう辛いのかを知ることで、具体的な解決方法を検討することが出来ます。また、状況がクリアになることで、いわゆる”モヤモヤ”が少なくなるかもしれません。

もう1つには、ストレスと上手に付き合えるようになる、ということが挙げられます。先に挙げた認知再構成法に限らず、認知療法においては、ワークを実践することが多いです。ワークを行うことで、問題の解決策が見つかり、以前より上手にストレス状況に対処できるようになります。

また、別なストレスが生じたときにも、”まずはワークをやってみよう”と思うことが出来れば、不安や怒りに飲み込まれることなく、冷静に対処できるようになるでしょう。

認知療法の対象

認知療法は、家事や育児、仕事、人間関係などのストレスにも有効ですが、様々な精神疾患に対しても非常に効果があります。例えば、うつ病や強迫症、パニック症、PTSD、摂食障害、躁うつ病などです。

中でもうつ病に対する効果は広く知られており、例えば佐渡(2019)は、次のように述べています。

一方で、薬物療法と認知行動療法の併用(併用療法)と薬物療法もしくは認知行動療法単独の比較では、結果が異なる。急性期の効果についてみると、寛解率・反応率、脱落率、再発率のいずれにおいても、併用療法が薬物療法もしくは認知行動療法単独に比べて有意に高い効果が示されている。

このように、認知療法は、うつ病患者に対し、薬物療法と併用することで高い治療効果を上げているのです。うつ病以外の疾患に関しても、パニック症に対するエクスポージャー法、強迫症に対する暴露反応妨害法のように、有力な治療法が開発され、実践されています。

以上から、認知療法が多くの精神疾患に対して効果的な治療法であることが分かります。

認知療法の学会・研修会

認知療法や認知行動療法、特に認知行動療法は、現在の日本において最も主流な心理療法の1つです。認知(行動)療法について学びたいと考えている、あるいは既に学んでいる方も多いと思われます。そこでここでは、認知(行動)療法の学びの場として、学会と研修会を1つずつご紹介します。

日本認知療法・認知行動療法学会

認知(行動)療法を学び、実践していくことを目的に設立されました。毎年1度、3日間に渡って大会が開催されるほか、”認知療法研究”という学会誌を年2回発行したり、公開オンライン講座を行ったりしています。

入会申し込みはWEBから可能で、年会費は5000円、入会金は無料となっています。

一般社団法人 認知行動療法研修開発センター

こちらはストレスに対する効果的な対処法および、認知療法・認知行動療法に関する知識の普及、啓発とその推進、支援を行う非営利団体です。専門家向けではありますが、頻繁に研修が行われており、費用がかからないものが非常に多いです。

また、eラーニングを活用した認知(行動)療法に関する動画も数多くアップされており、こちらは会員登録(無料)をすれば、どなたでも無料でご覧いただけます。

認知療法について学べる本

認知療法をより学んでみたい方向けに、ここでは書籍を2冊ご紹介します。

はじめての認知療法

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講談社
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本書は参考文献としても活用させて頂きました。平易な表現が心がけられていますが、それでいて必要な知識は押さえられています。著者の大野先生は、日本における認知療法の第一人者と言われており、日本認知療法学会の理事長も務めている先生です。

子どもと若者のための認知行動療法ワークブック-上手に考え、気分はスッキリ


子ども用とありますが、大人にもオススメの1冊です。

本書の大きな特徴は、ワークの豊富さです。日常生活において、自分がどのようなときにどういったことを考え、どういった気持ちになるのか、それらをどのように変えていくのかといったことなどについて、多くのワークが取り上げられています。

認知療法を学ぶことで、より快適な生活を過ごせるようになる

認知療法について、考え方や効果などを概観してきました。認知療法を改めてまとめると、不適切や思い込みや偏った考えと言った認知に着目し、それらをより現実的なものへと修正する方法であること。そして、自分でできるストレス対策法であることです。

自分でできるということは、認知療法を学ぶことで、それまで自分を苦しめていた考え方のクセや、ストレス状況により上手に対処できるようになる、ということです。精神疾患への治療法としてだけではなく、セルフヘアのためにも、認知療法を勉強することは大いに役に立つでしょう。

参考文献
伊藤絵美著(2011).『ケアする人も楽になる 認知行動療法入門1』医学書院
大野裕著(2011).『はじめての認知療法』講談社現代新書
佐渡充洋(2019).”うつ病治療における薬物療法と精神療法の併用について再考する-脱中心化,経験学習理論,プラセボ効果の概念とともに-”精神神経学雑誌,第121巻第3号,167-176

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    • この記事を書いた人

    もってぃ

     もってぃと申します。公認心理師と臨床心理士の資格を所持しており、心理職として働いています。これまでは、学校や教育センター、児童相談所などで勤務してまいりました。 趣味は読書や将棋、ゲームに音楽鑑賞です。将棋は妙に長続きしていて、勢いでアマチュア四段の免状を取得しました。

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