心理検査は、心理的要因のみを対象に測定を行っているとは限りません。
CMI(コーネルメディカルインデックス)はその最たる例であり、心理臨床の現場でも重宝されている心理検査の1つです。それではCMIとは、どのような検査なのでしょうか。その目的や結果の解釈の注意点などについてもご紹介します。
目次
CMI(コーネルメディカルインデックス)とは
CMIとはCornel Medical Index(コーネルメディカルインデックス)の略称で、精神的・身体的健康状態を測定するための質問紙検査です。
この検査は1949年にコーネル大学のブロードマンらによって作成されました。
日本においては、オリジナルのCMIに男性用16項目、女性用が18項目追加され、1972年にCMI日本語版が開発されています。
CMIの特徴
CMIは精神的・身体的な健康状態を測定する質問紙検査のため、その項目は12区分の身体的項目(A~L)と6区分(M~R)の精神的項目から構成されており、男女で項目数が異なることが大きな特徴です(男性211項目、女性213項目)。
検査の質問文は理解しやすいよう平易な表現がされており、回答は「はい・いいえ」に丸を付けるだけのため、知能の程度は問題となりにくく対象を広く取りやすいようです。
そして、これによって心理検査によって心を探られるという被検者の防衛を和らげ、被検者の回答を促すということも特徴的です。
CMIの検査実施目的
CMIは、精神症状だけでなく、身体症状も広く聞き取りを行い、神経症の検出に優れているとされます。
神経症とは、心理的ストレスなどが原因となり、心身に不調をきたす障害のことです。
米国精神医学会によるDSM-Vでは、神経症の疾患分類は採用されていませんが、精神医学の現場では今もなお重視されている疾患であり、次のようなものが含まれます。
【主な神経症の種類】
- 不安神経症(不安障害)
- 強迫神経症(強迫性障害)
- 身体表現性障害(転換型ヒステリー)
- 解離性障害(解離型ヒステリー)
- 心的外傷後ストレス障害
- パニック障害
このように、他の心理検査と比べても簡易に実施でき、広く自覚症状を聞き取ることができるため、医療現場の問診の補助のほか、職場や学校などにおける不調者をスクリーニングすること、健康管理を目的として実施されることが多いようです。
CMIの実施方法
CMIは14歳程度から実施することができ、実施時間としては20分から30分と短時間で済みます。
実施に際して特別な教示は必要ありませんが、検査の特徴などから注意しなければならない事項があります。
検査を実施して得た回答は、採点を行い、次のような流れで判定を行います。
【CMIの採点方法】
- 「はい」と答えた回答を1点として、すべての項目(A~R項目)ごとの点数を集計する。
- C項目、I項目、J項目の3項目を合計する。(CIJ得点)
- A~L項目の身体的自覚症状を合計する。(身体症状得点)
- M~R項目の精神的自覚症状を合計する(精神症状得点)
- 付属のプロフィール用紙にA~R項目の点数に対応するところに丸印をつけ、身体症状(A~L)と精神症状(M~R)までを折れ線グラフでつなぐ
CMIには神経症傾向判定図が付属されており、縦軸をCIJ得点、横軸を精神症状得点として、その交点を示す一から神経症傾向をⅠ~Ⅳ段階で判定します。
【神経症傾向の判定段階】
Ⅰ段階:心理的正常域(問題なし)
Ⅱ段階:心理的に正常である可能性が高い
Ⅲ段階:神経症の傾向がある
Ⅳ段階:神経症の可能性が高い
CMIの注意事項
CMIを実施するにあたり次の事項には注意が必要です。
【CMIの注意点】
- 検査用紙には男性用・女性用の2種類があるため、配布の際に間違えないようにする。
- 表紙委は氏名、年齢、実施日などの記入欄があるため、必要事項を記入してあるか確認をする。
- 回答を間違えてしまった際は、記入間違いを車線で消し、新たな回答を記入するよう伝える。
- 200項目を超える質問を行っているため、飛ばしてしまっている項目やページが無いか確認をする。
また、自覚症状を回答してもらうため、本人が自覚していない症状を捉えることができません。
畑・渡辺(2006)は精神科医によるうつの診断を受けた患者に対し、CMIを実施しました。
そして、CMIの抑うつ関連項目にチェックが無いにも関わらず、精神科医からは打つ病だと診断を受けている患者がいることを指摘しています。
このような患者は身体症状は訴えるものの、悲哀や抑うつ気分などネガティブな精神症状に対する抵抗感から表面上はうつ病に見えない「仮面うつ病」の病態と酷似しているとされます。
このような患者の治療経過は良好なものとなりにくく、一見してCMIの精神症状に問題が無いとしてもそれが健康的であると結論付ける前に様々な要因を考慮する必要があるでしょう。
CMIについて学べる本
CMIについて学べる本をまとめました。
コーネル・メディカル・インデックス―その解説と資料 日本版 (1976年)
日本版のCMIの解説書であり、これからCMIについて学びたい人は必読の1冊です。
ぜひ、この本を手に取り、CMIの実施から解釈まで詳しく学びましょう。
人はなぜ神経症になるのか アドラー・セレクション
CMIで神経症を発見できたとしても、それがどのような疾患で、どのように治療するのかをわかっておかなければ、検査結果を有効に活用できないでしょう。
そのため、神経症について本書で詳しく学ぶのはいかがでしょうか。
検査の有効性と限界を自覚することの重要性
CMIは手軽に身体症状・精神症状を把握することのできる便利なツールですが、あくまで自覚症状を集計するため、回答が被検者の真の状態像を把握しているかの判断をCMIの結果のみで行うべきではありません。
現に、神経症とみなすことのできる領域Ⅳの人であっても、心理的に健康な人が5%混ざってしまう可能性があることが指摘されています。
そのため、スクリーニング検査として、要注意の人物を洗い出し、詳細な聞き取りは面接で行うなど複数の手段を組み合わせて治療に役立てていくべきなのです。
【参考文献】
- 松野俊夫(2011)『心理テストの使い方と評価法 : うつと不安を中心に(女性におけるうつと不安,<特集>第12回日本女性心身医学会研修会報告)』女性心身医学 16(2), 128-133
- 深町建・金久卓也(1976)『コーネル・メディカル・インデックス : その解説と資料 : 日本版』三京房
- 畑理恵・渡辺洋一郎(2006)『CMI抑うつ関連項目が陰性のうつ病患者の特性と治療経過について』心身医学 46(5), 377-386