心理臨床の現場において、不安という概念は非常に重要視されています。それは、不安に起因する社会不適応は多く、不安のメカニズムを究明することと、不安に関わる精神疾患をどのように治療するのかが非常に重要だからです。
そのような不安を測定する心理検査としてSTAI(状態-特性不安検査)というものがあります。それではSTAIとはどのような目的で行われるのでしょうか。その点数の採点法についてもご紹介していきます。
目次
STAI(状態-特性不安検査)とは
STAIは不安という心理状態を測定すると共に不安になりやすいというパーソナリティ特性も捉えることのできる質問紙検査です。
STAIはState-Trait Anxiety Inventoryの頭文字を取ったもので、日本語では状態-特性不安検査などと呼ばれます。
この検査はスピルバーガー,C.D.によって1972年に開発されており、日本語版のSTAIは中里・水口(1982)によって開発され、その信頼性と妥当性が確認されています。
状態不安・特性不安とは
それではSTAIの名前にもある「状態不安」そして「特性不安」とはいったい何なのでしょうか。
- 状態不安(A-State):ある時点(検査を実施したとき)にどの程度主観的な不安が高まっているのかを表す
- 特性不安(A-Trait):普段においてどの程度不安になりやすいかという傾向、性格特性を表す
例えば、会社の大事なプレゼンの前、入学試験の会場など人生で緊張した場面を思い浮かべてください。
心拍数が上がり、呼吸も浅くなって、「失敗したらどうしよう」と逃げ出したくなったこともあるかもしれません。
しかし、実際にプレゼンや試験が終わったら、ほっとして不安や緊張はなくなってしまうでしょう。
状態不安は実際にそのような場面で感じられる不安の強さ、程度を測定しているのであり、プレゼン前とプレゼン後のようにその検査を行った状況が異なれば、測定される状態不安も異なります。
また、皆さんの身の回りに心配性な人はいませんか。
そのような人は、よく「テストで難しい問題が出たらどうしよう」、「仕事の待ち合わせに遅れてしまったらどうしよう」などと考えているかもしれません。
そのような、何か悪いことが起こるのではないかと様々なことを不安に思っている人は特性不安が高いでしょう。
このように、特性不安は心配性の程度のように、日頃からの不安の抱えやすさを測定するのであり、性格特性の1つであるため、何度検査を行ってもその数値は大きく変化しないであろうことが予想されるものなのです。
STAIの目的
そもそも、STAIの開発前には、モーズレイ人格検査や顕在性不安尺度など不安を測定する尺度は存在していました。そして、それらいずれもが不安になりやすい程度である特性不安を測定するものだけでした。
これに対し、STAIでは状態不安と特性不安という2つの不安を分けて測定することができます。
それでは、状態不安が測定できるようになるとどのようなメリットがあるのでしょうか。
例えば、不安になりやすいという特性不安が高い人であっても、全般性不安障害という精神障害を除き、多くの場合は朝起きてから夜寝るまで常に不安が取れず、それが何か月も続いているということはないでしょう。
また、特性不安が低い人であっても、人生を左右する就職の面接を控えているときなどは失敗したらどうしようと不安を抱えてもおかしくはありません。
このように、状態不安と特性不安ははっきりと違うものであり(ただし、特性不安の高い人は状態不安も高くなりがちなどおおまかな対応関係はあります)、分けて捉えることは心理臨床の場面で大きなメリットがあります。
不安などを主訴として、カウンセリングなどを訪れる方の多くは、「最近不安感が強くて苦しんでいる」ということを訴えるでしょう。
しかし、それが、性格特性による不安障害等なのか、それとも特性不安はそれほど高くないがストレスが原因で一時的に不安感が強くなっているのかまでは分かりません。
そのため、状態不安と特性不安を分けて捉えることで、どのようなアプローチをするべきなのかを検討するための重要な材料が手に入るのです。
STAIの項目
STAIは測定時の不安の強度を測定する状態不安尺度と性格特性としての不安になりやすさを測定する特性不安尺度の2尺度から構成されています。
そして、それぞれ20項目を4段階で評定させるという方式です。
状態不安尺度では、「今現在のあなたの気持ちをよく表すように」という教示文に従い、特性不安尺度では「普段のあなたの気持ちをよく表すように」という教示文に従い20項目ある質問文それぞれに「全く違う~その通りだ」もしくは「ほとんどない~しょっちゅう」に対応する4つの数字に丸を付けていきます。
なお、質問項目の中には不安の強さに関する質問(例えば、緊張しているなど)と不安の低さ(例えば、落ち着いているなど)が混在しており、不安の低さを表す項目に関しては、採点時に逆転項目として得点の修正を行う必要があります。
STAIの得点の採点法
上記の項目を見て頂ければわかるように、中には「緊張している」のような不安を表すものもあれば、「気が落ち着いている」のように心理的安定を示すものも混ざっています。
そのため、心理的安定を指す項目に関しては、それぞれを4・3・2・1と逆転項目に直し、採点を行います。
状態不安尺度・特性不安尺度におけるそれぞれの逆転項目は次の項目番号です。
【状態不安尺度】
1,2,5,8,10,11,15,16,19,20
【特性不安尺度】
21,26,27,30,33,36,39
それぞれの項目の採点は、割り振られている1から4の得点を合計します。
そのため、両尺度とも20点から80点の範囲をとり、統計的な分析の結果、つぎのような得点を示すと臨床的に問題があるとされます。
男性:状態不安≧42点、特性不安≧44点
女性:状態不安≧42点、特性不安≧45点
なお、項目に丸を付け忘れているなどの場合は2問までは得点の修正を行い、合計点を算出できますが、3問以上回答に問題がある場合は、妥当性を確保できないため採点を行えません。
STAIについて学べる本
STAIについて学べる本をまとめました。
完全版 不安のメカニズム: ストレス・不安・恐怖を克服し人生を取り戻すためのセルフヘルプガイド (単行本)
STAIで取り扱う不安とはどのような特徴を持っているかご存知でしょうか。
せっかく、検査で不安を捉えたとしても、それが何を表しているのかを知らなければもったいないでしょう。
ぜひ、不安がどのようなメカニズムで生じ、維持されるのかを詳しく学びましょう。
心理測定尺度集(3) 心の健康をはかる 適応・臨床
この本には、様々な心理尺度が掲載されているのですが、STAIも含まれています。
ぜひ、実際に尺度に目を通し、STAIがどのような検査なのかというイメージを捉えましょう。
様々な不安を測定できることの意義
STAI心理臨床の現場だけでなく、不安のメカニズムや効果的な治療法を検討するための心理学研究において、重宝されています。
これも、簡便に、状態不安と特性不安という2種類の不安を測定できるからにほかなりません。
そのため、心理学論文で多用されているSTAIについて学び、不安の臨床についての知識を深めましょう。
【参考文献】
- 中里克治・水口公信(1982)『新しい不安尺度STAI日本版の作成 : 女性を対象とした成績』心身医学 22(2), 107-112
- 谷伊織・並川努・脇田貴文・中根愛・野口裕之(2011)『P7-10 日本語版State-Trait Anxiety Inventory for Children(STAI-C)における特性不安尺度短縮版の作成(1) : IRTを適用した短縮版の作成(測定・評価,臨床,障害,ポスター発表)』日本教育心理学会総会発表論文集 53(0), 533
- 岩本美江子・百々栄徳・米田純子・石居房子・後藤博・上田洋一・森江堯子(1989)『状態‐特性不安尺度(STAI)の検討およびその騒音ストレスへの応用に関する研究』日本衛生学雑誌 43(6), 1116-1123