今回は知能検査の中から「KABC」について紹介します。KABCは(現行はKABC-Ⅱ)は、ウェクスラー式知能検査(児童用WISCや成人用WAISなど)と共に代表的な検査ツールとして活用されています。
ここでは、KABCとは何か、検査の概要や検査方法、結果の解釈について、学習できる学会や書籍などを解説していきます。
目次
KABCとは
KABC(Kaufman Assessment Battery for Children)とは、アメリカの心理学者であるカウフマン夫妻によって開発された知能検査です。
KABCは1983年に開発され(日本版は1993年)、2004年に改訂版である「KABC-Ⅱ」が刊行(日本版は2013年)、現在も用いられています。概要は以下のとおりです。
- 対象年齢:2歳6か月~18歳11か月
- 所要時間:約30分~約120分
- 診療報酬点数:450点
※日本版KABC-Ⅱの特徴とWISC(WAIS)の違い
KABCは、知能検査の中で唯一、基礎学力を計る学習習得度の評価を取り入れていることが大きな特徴であり、同じく幅広く用いられている知能検査であるウェクスラー式知能検査(WISC・WAISなど)との違いとしても挙げられます。
認知能力に加えて、学習尺度(学習がどれだけ定着しているか)が測定できることによって、経験不足なのか、能力不足なのかを判断することが可能となり、教育的な働きかけに役立てられます。
日本版KABC-Ⅱの構成
KABC-Ⅱでは、カウフマンモデルとCHC(Cattell-Horn-Carroll)モデルといった2つの理論モデルに基づいています。2つの視点から解釈することで、より幅の広い解釈が可能となっています。
カウフマンモデル
カウフマンモデルでは、まず認知尺度と習得尺度の2つに大別されます。
認知尺度
認知尺度とは、新しい知識や技能を覚えるために必要となる力を指します。認知尺度は、さらに「継次尺度」「同時尺度」「計画尺度」「学習尺度」に分類されます。
- 継次尺度:提示された情報を一つずつ順番に処理する力を指します。
- 同時尺度:複数の情報をまとめて、全体として捉えて処理する力を指します。
- 計画尺度:問題を解決するための方略を立てて実行し、遂行のフィードバックを行う力を指します。
- 学習尺度:新しい情報を効率的に学習し、保持していく力を指します。
なお、これら4つの尺度を総合した、総合的な認知能力の指標として「認知総合尺度」があり、ウェクスラー式の全検査IQに相当すると言われています。
習得尺度
習得尺度とは、認知能力を活用して獲得した知識や基礎学力の水準(習熟度)を指しています。
習得尺度は「語彙尺度」「読み尺度」「書き尺度」「算数尺度」に分けられ、これらを総合したものが「習得総合尺度」となります。
- 語彙尺度:獲得している語彙の量や理解力・表現力についての力の程度を指します。
- 読み尺度:文字の読みや文の読解力の程度を指します。
- 書き尺度:書字や作文力に関する力の程度を指します。
- 算数尺度:計算力や数的な処理の力の程度を指します。
CHCモデル
CHCモデルにおいては、以下の7つの尺度から測定され、これらを総合したものとして「CHC 総合尺度」があります。
CHC 総合尺度は、カウフマンモデルにおける習得尺度を含めた知的能力を総合的に示す指標です。
- 長期記憶と検索尺度:学習した情報を記憶し、効率良くその情報を引き出す力を指します。
- 短期記憶尺度:情報を取り出して保持し、数秒のうちに使う短時間の記憶に関する力を指します。
- 視覚処理尺度:視覚的な情報を正しく捉え、頭の中で操作したり推理したりする力を指します。
- 流動性推理尺度:推理力や応用力を用いて、新規(新奇)の課題を解く力を指します。
- 結晶性能力尺度:これまでに獲得してきた知識の量を指します。
- 量的知識尺度:数学的知識や数学的推論に関する力を指します。
- 読み書き尺度:文字・言葉の読み書き、文の読解能力に関する力を指します。
日本版KABC-Ⅱの検査方法と下位検査
日本版KABC-Ⅱはイーゼル(問題掲示板)を用いて進めていく点が特徴です。イーゼルの裏には教示内容が明示されており、検査実施時に手引きを使用せずに検査することが可能となっています。
また、例題やティーチングアイテムの設定によって、被検査者が課題を十分に理解した上で問題を実践できる仕組みでもあります。なお、日本版KABC-Ⅱは以下の下位検査で構成されています。
- 数唱:一連の数字を聞き、同じ順序でその数字を復唱する。
- 語の配列:ある物の名前をいくつか連続的に言い、同じ順序でその物の絵を指さす。
- 手の動作:いくつかの手の形を一連の動作で見せ、同じ順序でその動作を繰り返す。
- 顔さがし:人の顔写真を見せ、次のページの写真の中からその人を見つける。
- 絵の統合:部分的に欠けている絵を見せ、それが何の絵か答える。
- 近道さがし:16・25・36分割された図版上で、最短ルートを通り、犬を骨まで移動させる。
- 模様の構成:大きさや色・形の異なるピースを使い、見本と同じ模様をつくる。
- 物語の完成:何枚か空欄になっている物語を構成する一連の絵カードを見せ、物語を完成させるために必要な絵カードを選び、空欄に置く。
- パターン推理:ある規則に従って並んでいる数個の絵を見せ、1か所だけ絵が欠けているところに当てはまる絵を選択肢の中から選ぶ。
- 語の学習:無意味な名前がつけられたカテゴリーの異なる架空の絵を見せ、次ページの一連の絵の中から、検査者が名前を言った絵を指さす。
- 語の学習遅延:「語の学習」を終了し、決められた検査の実施後に、「語の学習」で覚えた名前の絵を指さす。
- 表現語彙:絵や写真を見て、その名前を答える。
- なぞなぞ:なぞなぞを聞いて、答えの絵を指さすか、単語で答える。
- 理解語彙:単語を読み上げ、その単語が示す絵を指さす。
- 数的推論:絵を見せて問題文を読み、それに答える。
- 計算:習得尺度シート「計算」の問題を解く。
- ことばの読み:提示されたひらがな、カタカナ、漢字を声に出して読む。
- ことばの書き:習得尺度シート「ことばの書き」を用いて教示を読み、ひらがな、カタカナ、漢字を書く。
- 文の理解:動作を指示する問題文を見せ、その通りの動作を行う。後半は、問題文を見て、それに答える。
- 文の構成:習得尺度シート「文の構成」に示された言葉を使って文をつくる。
日本版KABC-Ⅱの結果の解釈・アセスメント
カウフマンモデルに基づいて、解釈やアセスメントの一例を挙げていきます。
認知総合尺度、習得総合尺度の比較
それぞれの指標を読み取るほか、両者の比較をしていきます。例えば、認知総合尺度>習得総合尺度の場合、知識の獲得に際して認知機能を十分に活かせていないと考えられます。そのため、環境調整や学習習慣など学習へのモチベーションを高める働きかけを検討します。
一方で、認知総合尺度<習得総合尺度の場合は、認知機能を活かして知識を獲得できているものの、本人にとって頑張り過ぎていることが懸念されるため、学習の負担について検討します。
認知尺度間・認知検査間の比較
認知尺度間あるいは下位検査間の比較を行うことにより、得意・不得意を明らかにすることができます。代表的な視点として、継次処理(継次尺度)と同時処理(同時尺度)の比較から、情報処理のスタイルを掴むことが挙げられます。
同時処理が高い場合は、絵図から全体的なイメージを掴むことが得意であり、継次処理が高い場合は、段階的に順序正しく情報を記憶・処理することができると言えます。
例えば、目的地の案内の仕方でも、同時処理が優位であれば地図を見せることが効果的と考えられ、継次処理が優位であれば「次の信号を左折して、100メートル直進…」など言葉で段階的に教えることが有効と考えられます。
習得尺度間・習得検査間の比較、認知総合尺度と習得尺度の比較
習得尺度あるいか下位検査の比較を行うことで、知識や基礎学力のアンバランスさを見ることができます。さらに、認知総合尺度と比較して、著しく低い習得尺度が見られる場合には、学習障害の判断にも役立てられます。
そのほか解釈の手段は様々あり、例えば下位検査を束ねて作成されているクラスターによる分析方法もあります。また、CHCモデルによる解釈においても、総合尺度のほか各尺度間の比較から強みや課題を捉えていきます。
KABCに関する学会・研修会
KABCを学ぶことのできる学会としては「日本K-ABCアセスメント学会」が挙げられます。
「日本K-ABCアセスメント学会」では、KABC-Ⅱを中心とした心理教育的アセスメントを有効かつ適切に活用することを目的とした活動がなされており、主な活動として研究大会の開催や研究誌の刊行、研修会の企画運営、またKABC-Ⅱ検査者・講師の資格認定に係る講習会が挙げられます。
入会要件は、大学卒業以上で子どもの指導に関わる職業に就いている(短大・専門学校卒の場合は3年以上の実務経験)ほか、心理学・教育学・社会福祉学等を専攻する大学院生も可能となっています。
KABCについて学べる本
最後に、KABCについて詳しく学ぶ上で参考になる書籍を紹介します。
解釈の進め方やアセスメントの視点について丁寧に解説されています。また、様々な事例を用いて説明されており、具体的なイメージが浮かびやすく、分かりやすい内容となっています。
米国版KABC-IIの解説書の翻訳となりますが、KABCの歴史や理論的基礎を詳しく学ぶことができます。後半では、臨床での応用や事例の紹介など実践的な内容も含まれています。
検査結果を支援・指導につなげていくことが重要です
KABCなど知能検査の実施においては、被検査者の得意・不得意など特徴を把握し、有効な支援・指導につなげることが重要となります。
例えば、同時処理優位であれば、一つずつ順序的に理解するよりも全体的に理解していく方が得意であるため、表や絵図を活用して仕組みが分かるような工夫を行うなど、検査から得られた結果に基づいて、より適切な支援が検討できるよう役立てていくことが大切です。
参考文献
- 小野純平・小林玄・原伸生・東原文子・星井純子 編集(2017)「日本版KABC-IIによる解釈の進め方と実践事例」丸善出版
- 日本K-ABCアセスメント学会HP「K-ABCとは」(2021年12月27日参照)
- 日本K-ABCアセスメント学会HP「K-ABC学会について」 (2021年12月27日参照)
- 丸善出版HP「心理・教育アセスメントバッテリー『日本版KABC-II』」(2021年12月27日参照)