フォーカシング
とは、フェルトセンスと呼ばれる「体では感じるがうまく言葉にならない気付き」に焦点を当て(フォーカスして)、言語化・イメージ化することで新たな気付きを得ることを指します。
フォーカシングは、自己理解や問題解決に用いられるほか、心理療法としても活用されており、「フォーカシング指向心理療法」とも呼ばれます。
今回は、フォーカシング(フォーカシング指向心理療法)とは何か、フォーカシングのやり方などについて解説していきます。
目次
フォーカシングとは
フォーカシング
とは、アメリカの哲学者・心理学者であるユージン・ジェンドリン(Eugene T. Gendlin)によって開発された心理療法(心理療法の過程)です。
体の感覚を重視することが特徴であり、体では感じるがうまく言葉にならない気付き(フェルトセンス)に注意を向け、言語化・イメージ化する過程で新たな気付きを得ることを目的としています。
ジェンドリンは、セラピーの成否の違いを明らかにする実証研究の中で、セラピーに成功したクライエントは、共通してフェルトセンス(体では感じるがうまく言葉にならない気付き)を持つ傾向があるとしました。
このフェルトセンスに触れ、フェルトセンスとの関わりを通して自分への理解を深めていくための技法として開発されたものがフォーカシングです。
フェルトセンス
フェルトセンス
とは、もやもやする感じ・ざわざわする感じといった体の感覚としては感じるものの、何とも表現しがたく、うまく伝えたりできないようなことを指します。
フェルトセンスは、単に身体的感覚というだけではなく、それ以外の何かがありそうだという意味を含んでいるものと言えます。
フェルトセンスを表現することが出来ず、感情の流れが滞っていることが不適応状態を招くとして、フェルトセンスに気付き、表現することができるようになる「フェルトシフト」の状態を目指します。
体験過程
ジェンドリンは、今ここで実感できる(漠然とした・前概念的な)身体の感覚や気持ちの流れのことを体験過程と呼びました。
この漠然とした感覚がフェルトセンスであり、体験過程においてフェルトセンスに注意を向けて感じたものを言語化・イメージ化する過程の中で、新しい気付きを得ることを促す技法がフォーカシングと言えます。
フォーカシングと来談者中心療法(クライエント中心療法)
ジェンドリンは、来談者中心療法を確立したロジャーズの共同研究者であり、ロジャーズと実践や研究を行う中で、フェルトセンスや体験過程について思索を深め、心理療法において体験過程が重要であることを明らかにしたとされています。
来談者中心療法は、問題を抱えて悩んでいるクライエントこそが問題の本質を知っており、クライエントは問題を解決出来る力を持っていると考え、クライエントが安心して自らの問題に取り組める場を整えることを重視しています。
フォーカシングにおいても、クライエントが自分の心の実感に触れられるかどうかが重要であるとすることなど、来談者中心療法と考え方が共通するスタンスが多く、来談者中心療法から派生した心理療法の代表例として挙げられることも少なくありません。
来談者中心療法の詳細はこちらの記事で詳しく解説されていますので、併せてご覧ください。
フォーカシングのやり方
ジェンドリンは、フォーカシングを行うに際して、以下の6つのステップがあると紹介しています。
ジェンドリンによる6つのステップ
①空間を作る
まずは、クリアリング・ア・スペースと呼ばれる心の中に「間」を置くことが大事であるとジェンドリンは示しました。
心の中を整理して意識を自分の内側に向けるための空間を作ること、様々な気掛かりなことと距離を取って接することが、フェルトセンスを招く上で重要であるとされています。
②フェルトセンスを見つける
このステップにおいては、こちらからフェルトセンスを探しに行って感じるというよりも、扉を開いてフェルトセンスが生じるのを待ち、やってきたものを迎え入れるイメージで臨むことが肝要とされています。
③取っ手(ハンドル)を見つける
そして、フェルトセンスがどのようなものなのか、言葉を使って分かりやすいように形容していきます。どれがうまくフェルトセンスを表しているのかを探り、ぴったりの言葉やイメージを待つ段階と言えます。
④取っ手(ハンドル)とフェルトセンスを共鳴させる
そのフェルトセンスと、出てきた取っ手(ハンドル)がぴったりと一致するかをよく吟味し、本当にぴったりする形容に変えていくステップです。
⑤尋ねる
そして、フェルトセンスに触れ、フェルトセンスは何を自分に伝えようとしているのかを尋ねていきます。
⑥受け取る
フェルトセンスから出てきた、体が自分に伝えてきたことを大切に受け取ります。
コーネルによる5つのステップ
なお、ジェンドリンの高弟であるアン・ワイザー・コーネルは以下の5つのステップを示しています。
①体の内側に注意を向ける
②フェルトセンスを見つける・招く
フェルトセンスの4つの側面(体の感じ・感情・生活とのかかわり・イメージ)のどこから入っても良いとされる。
③取っ手(ハンドル)を手に入れる
出てきたフェルトセンスを認めて、それにぴったりの言葉・イメージ・音・仕草で描写していきます。
④それと一緒にいる
コーネルのステップにおいては、フェルトセンスの言語化は促すものの、それにはこだわり過ぎず、ただそばにいて付き合うだけという点が特徴と言えます。
出てきたフェルトセンスを「脱同一化・脱解離」という状態で付き合っていきます。
例えば、気持ちに巻き込まれる(同一化:私は悲しい)でもなく、否定する(解離:私は悲しくない)でもなく、自分の一部として認めて付き合うことで脱同一化・脱解離(私の一部は悲しい)と変化していきます。
⑤終わりにする
フォーカシングは技法であり、練習をすることによって、誰でも身に付けることが出来る点も特徴です。これらのステップは、最初はセラピストなどの聞き役がいた方が効果的であると言われていますが、一人でも行うことができます。
なお、フォーカシングを行う人をフォーカサー、聞き役をリスナー(積極的に教示を提案するスタイルで行う場合はガイド)と呼びます。
フォーカシング指向心理療法とは
フォーカシング指向心理療法
とは、クライエントの体験過程が生じるように向けて進められる心理療法を指します。体験過程を促進することが目的であり、そのために他の心理療法の技法や理論を導入することもあります。
フォーカシング指向心理療法を行うに当たっては、クライエントがフェルトセンスに近づけるように、その状況が安心・安全であるという感覚が必要となります。
そのため、どの心理療法にも言えることではありますが、セラピストとクライエントの間に信頼関係(ラポール)を構築し、安心できる状況を形成することがまずは肝要であり、そうした状況においてクライエントはフェルトセンスに触れることができると考えられています。
そして、丁寧にクライエントの語りを傾聴し、クライアントがフェルトセンスに触れられているかに注意を向け、時にはクライエントがフェルトセンスに触れられるようサポートすることがフォーカシング指向心理療法と言えます。
また、フォーカシング指向心理療法においては、クライエントのフェルトセンスとともに、セラピストのフェルトセンスも重要となってきます。
面接場面にてセラピスト自身のフェルトセンスを言語化・イメージ化することで、セラピストのフェルトセンスを通してクライエントが自身のフェルトセンスに触れ、体験過程が進むことも期待されます。
そのほか、逆転移の解釈のように、湧き上がってきたフェルトセンスを手掛かりにクライエントを理解することに活用できるとも考えられます。
フォーカシングの活用場面
フォーカシングは、自分の気持ちを理解できるようになったり、納得のいく決断がしやすくなったりするなど、自己援助や問題解決に用いられるほか、新しい気付きを得られるとして創造的な仕事にも活用されています。
また、カウンセリングにフォーカシングを導入したり、様々な心理療法の技法と統合して用いられたりすること(フォーカシング指向心理療法)もあるなど、心理療法としても活用されています。
そのほか、セラピストの自己理解の促進やスキルの向上を目的に、カウンセリングや心理療法を学ぶ際にセラピスト自身の訓練として用いられることもあります。
フォーカシングが学べる研修・講座
フォーカシングを学ぶことのできる研修・講座を探すに当たって、「日本フォーカシング協会」のホームページにて、ワークショップの開催情報が掲載されているため活用できます。
日本フォーカシング協会は、日本におけるフォーカシングの啓発を目指しており、ワークショッップの情報提供のほか、定期的な年次大会の開催、諸外国のフォーカシング活動との連携も行われています
入会要件としては、専門家・非専門家を問わず、フォーカシングに関心を持つ者であれば申込可能であるようです。
フォーカシングについて学べる本
最後に、フォーカシングについて詳しく学ぶ上で参考になる書籍を紹介します。
フォーカシングとは何かについて、さらにフォーカシングを用いたセルフヘルプ(自己援助)の方法についても分かりやすくまとめられています。ジェンドリンの弟子であり、フォーカシングの第一人者であるアン・ワイザー・コーネルの著書です。
フォーカシングの開発者であるジェンドリンの著書です。理論や技法が丁寧に説明されており、フォーカシングの理論に関して詳しく学びたい方にはおすすめできる一冊です。
実際のカウンセリングの場においてフォーカシングがどのように活用されるのか、面接場面のやり取りを取り上げながら解説されています。フォーカシング指向心理療法の実際を掴むことができます。
フェルトセンスとの関わりを通して自己理解を深めていく
自身のフェルトセンスに触れ、今自分が何を感じているのか、何を必要としているのかを感じ取り、自己理解を深めていくことがフォーカシングです。
自分の気持ちや体の感覚に気付き、それら表現することは、自分自身とうまく付き合っていくために非常に大切なことです。自身でも取り組める内容でもありますので、興味を持たれた方は是非試してみて、より良い生活を送るために役に立てみてください。
参考文献
- 下山晴彦 監修(2012)「面白いほどよくわかる!臨床心理学」西東社
- 下山晴彦 編集(2009)『よくわかる臨床心理学[改訂新版] (やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ) 』ミネルヴァ書房
- アン・ワイザー・コーネル 著 大沢美枝子・日笠摩子 翻訳(1999)「やさしいフォーカシング―自分でできるこころの処方」コスモスライブラリー
- 内田利広 著(2022)「フォーカシング指向心理療法の基礎 カウンセリングの場におけるフェルトセンスの活用」創元社
- 日本フォーカシング協会ホームページ(https://focusing.jp)(2022/3/11参照)