ヴィゴツキーの社会文化的発達理論とは?発達の最近接領域や内言などの重要概念をわかりやすく解説

2022-04-11

発達心理学の発展に大きく貢献した心理学者の一人にヴィゴツキーという人物がいます。彼が提唱した発達理論は現在の発達心理学にも採用されており、中でも発達の最近接領域や内言などの重要概念はしっかりと押さえておく必要があるでしょう。

今回はヴィゴツキーの発達理論とはどのようなものなのかをわかりやすく解説していきます。

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ヴィゴツキーとは

心理学の発展において重要とされる知見の多くは欧米の心理学者が提唱したものがほとんどです。この一方で、保育現場や学校教育現場など子どもに関わる発達心理学において最も重要な理論を提唱した一人にヴィゴツキー(Lev Simkhovich Vygodskiy)が挙げられます。

ヴィゴツキーはロシア(旧ソ連)の心理学者であり、心理学のモーツァルトとも呼ばれる天才と称されました。

心理学者としての期間は10年ほどで、38歳でなくなるまでに数多くの発達理論を提唱しているヴィゴツキーの考えについて触れていきましょう。

ヴィゴツキーの社会文化的発達理論

発達理論は数多く提唱されていますが、中でもヴィゴツキーによる発達理論は人との関わり、つまり社会的相互作用に注目したものでした。

コミュニケーションというのは話し手と聞き手という2つの役割があるものの、それぞれは役割を交代しながら相互に影響を与え合うものです。

そして、そのような社会的な関わりを通じて、発達に必要な情報が提供され、それが個人の中に取り入れられる(内化される)ことで新しい認識の形成が促進されるという理論を提唱しました。

なお、発達において重要なコミュニケーションを行う相手は、同年齢の仲間だけでなく、大人やより発達の進んだ年長者も含まれており、幅広い人々とのかかわりを通じて子どもは認知的な発達を遂げるのです。

ヴィゴツキーによる「発達の最近接領域」とは

社会文化的発達理論において、ヴィゴツキーは人間の認識を次のように捉えています。

  • 認識は社会文化的に規定されている
  • 認識は外的に存在している外的対象を個人が自己のものとして取り込む内化の活動によって成立する

この考えは、人間の発達が年を重ね、大きくなることで自動的に進むものではなく、教育的な働きかけに対し、子どもは積極的にそれを取り入れようとする内化を行っていると主張したのです。

そして、人間の認知発達を促進する内化と関わるものとして発達の最近接領域を提唱しました。

子どもは発達をしていくにあたり、一人でご飯を食べる、友達と楽しく遊ぶなど様々な課題に取り組みます。

しかし、その課題の難しさはそれぞれであり、次のように発達水準を分類することが出来るのです。

  • 子どもがアドバイスを受けても出来ない段階
  • 子どもがアドバイスを受ければ出来る段階
  • 子どもがアドバイスを受けなくても出来る段階

このうち、子どもの発達を最も促すのは2番目の「子どもがアドバイスを受ければ出来る段階」です。

アドバイスを受けても出来ないような難しい課題に対して取り組ませ続けてもすぐに出来るようになるはずがありませんし、アドバイス無しで自分で出来てしまうものはその子どもの発達段階にとって簡単すぎる課題です。

しかし、子どもが一人で取り組む場合には難しいが、大人など周囲の人のアドバイス・サポートがあれば何とか出来るような難しさの課題は、繰り返し取り組むことで徐々に自分ひとりで出来る課題へと変わっていきます。

そのため、サポートを行う保護者や保育者が子どもの発達水準を適切に捉え、自転車の補助輪を外していくように、一人では難しい課題へのサポートを段階的に少なくしていくことで、独り立ちできるようにするべきなのです。

このように、それぞれの子どもの発達水準に適切な教育的働きかけを行うことが出来るのかどうかによって子どもの発達は変化していくとされています。

この考えは、現代の保育や幼児教育の現場でも最重視されており、子どもとの関わりにおいて保護者や保育者のサポートの重要性を啓発するものとなっています。

内言と外言

子どもの発達において、社会的な関わり、つまりコミュニケーションの重要性を強調するヴィゴツキーは、コミュニケーションにおいて使用される言語にも注目していました。

子どもの発達を考えるうえで重要となってくる概念に内言外言というものがあります。

【言葉の種類】

  • 外言:音声として発せられる言葉。コミュニケーションのツールとして用いられる言語
  • 内言思考の道具として用いられ、音声化されない言語

外言は私たちが普段、人と対話をする際に用いているものとしてイメージがつきやすいでしょうが、実は内言も私たちに欠かせない言語です。

例えば、明日の予定は何だったかを思い浮かべるとき、私たちは「まず、明日起きたら、への掃除をして、次に買い物に行って…」と口に出さなくとも頭の中で言語を使って考えをまとめているはずです。

また、仕事の重要なプレゼンの前に緊張してしまっていたら「落ち着けば大丈夫」などと言葉には出さずとも自分に言い聞かせることがあるかもしれません。

このように内言は私たちの思考や自己調整に大きく関わっている言語なのです。

ピアジェによる内言と外言

この外言と内言に関して注目した学者にピアジェが挙げられます。

ピアジェは子どもの認知的な発達理論を提唱したことで有名ですが、幼児がコミュニケーションを目的としていない独り言に関して、幼児の自己中心性と呼ばれる特徴と関連付けました。

つまり、幼児は認知的能力が不十分なため、他者に伝えるための言葉を適切に使用できず、それによって自己中心的な独語を発すると考えたのです。

そのため、ピアジェの想定した言語発達の過程は、思考の道具としての内言が確立された後、さらに他者視点を獲得するという認知的発達を遂げることで外言が獲得されるという内言から外言へ進む発達過程を想定したのです。

ヴィゴツキーの内言と外言

これに対し、ヴィゴツキーは外言が確立されたのち、内言へと分化していくという真逆の発達過程を想定し、ピアジェの理論を批判しました。

ヴィゴツキーは、幼児が周囲の人々とのコミュニケーションの中で、まず外言が獲得されていき、その後、外言が子どもに取り入れられ(内化され)思考の道具としての内言が獲得されていくと考えました。

そして、幼児の話す独り言は自己中心性からくるものではなく、内言の成熟が不十分で、外言と未分化であるために、本来、音声を伴わず使用される内言に音声が付随してしまうことにより独り言が生じてしまうとしたのです。

このようなピアジェとヴィゴツキーの論争はそれぞれがどのような立場で主張を行っていたかが鮮明に表れています。

ピアジェは、各年齢ごとに認知的発達段階を設ける理論を提唱しましたが、このように年齢を重ねることで自然に(認知的)発達が進んでいくという発達観を持っています。

そのため、考えるという認知的発達が出来るようになってから、その思考を使って話し始めるという流れを想定したのです。

これに対し、ヴィゴツキー社会的関わりを重視した発達観を持っています。

そのため、子どもの心身、言語発達は子ども一人の力だけで勝手に進んでいくのではなく、親子や友人など周囲の他者との関係の中で言語能力が培われ発達が進んでいくという面を強調したのです。

ヴィゴツキーの情動論

ヴィゴツキーの述べた理論は発達の最近接領域や内言に関するものがあまりにも有名ですが、実は情動に関する理論についてもヴィゴツキーは触れています。

情動とは、一般的に怒りや怖れ、悲しみなど一時的で激しい心的な反応のことを指します。

情動の生起に関しては、笑うから楽しい、泣くから悲しいといった外部刺激から起こる身体的な反応を知覚することによって生じるとするジェームズ=ランゲ説や知覚された内容が脳の視床下部を介して処理されることによって身体反応と情動体験を生じさせるといったキャノン=バード説が有名です。

情動と環境の関係性

これに対し、ヴィゴツキーは環境との関係性から情動の生起について触れており、次の3パターンを挙げています。

【ヴィゴツキーの情動と行動の関係性】

  1. 個人が環境に対し自己の優位性を感じており、適応のためのエネルギーや力が最小限で済む場合
  2. 環境側が有意であるために、個人が適応のために苦労し緊張している場合
  3. 個人と環境の力関係が均衡し、つり合いが取れているとき

これらは個人が環境と自分の関係性を評価する基準となっており、そのような認知的な評価がなされた結果として情動が生じるとヴィゴツキーは考えたのです。

そして、1番は「元気や満足感など肯定的な感情」を、2番は「意気消沈、弱気、苦痛など否定的な感情」が、3番は「相対的(1番や2番に比べて)に感情的偏りのないニュートラルな感情」が生じるとされています。

例えば、テレビゲームをしていて、敵に勝てたときには楽しいと感じられるでしょうし、逆に敵があまりにも強すぎて全然勝てない時は悔しさや自己嫌悪を感じるでしょう。

そして、敵と自分の力が同じくらいのいい勝負をしている最中は強い感情は生じていないはずです。

そして、ヴィゴツキーの情動論で特徴的なのは、情動と行動、情動と思考が統一的な全体を成していると考えた点です。

これまで、心理学は知覚や思考、感情、行動など心理的な機能それぞれを取り上げ、研究を行ってきました。

しかし、悲しいという感情は悲しい思いや空想、泣くという行為など様々な機能と一体となって作用するように、ヴィゴツキーは思考と行動、情動が一体となった機能的統一体を重視し、その中でも心的体験と行動を決定するものとして情動がその中核を担っていると考えました。

心理臨床と情動の発達

ヴィゴツキーの情動発達の理論はカウンセリングなど心理臨床の視点から捉えられることもできます。

ヴィゴツキーは子どもの情動は思考の影響を受け発達していくと考えました。

幼い時には快-不快のような言語活動の影響を受けない情動に支配されている状態ですが、外言そして内言の獲得により思考が可能になっていくことにより、情動はより詳細なものへと分化し、発達していくのです。

そして、心理臨床の現場で支援を必要とする人の多くは知覚や行動そして情動といった精神の諸機能を統合する人格(ヴィゴツキーで言うところの機能的統一体)に問題を抱えています。

そのため、ヴィゴツキーはこれらをまとめた機能的統一体の中でも中核となる情動に対してアプローチすることを強調したのです。

ヴィゴツキーの考えに基づけば、ヒステリーの人が突発的に怒り出す爆発反応や統合失調症にみられる予測不能な暴力行為などの短絡反応は感情的衝動が統一的人格を避けて直接行動に移ってしまったと考えることが出来ます。

そのため、情動を抑圧させるのではなく、心理療法など他者との深いコミュニケーションの中で情動反応の方向性を変容させる感情の教育(これをヴィゴツキーは情動の制御と呼びました)により、望ましくない情動そのものを抑制させるのではなく、その発達促進をするべきだと主張したのです。

ヴィゴツキーの発達理論について学べる本

ヴィゴツキーの発達理論について学べる本をまとめました。

初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。

ヴィゴツキー『思考と言語』入門―ヴィゴツキーとの出会いへの道案内

ヴィゴツキーの提唱した理論は子どもの発達を考えるうえで現在も重視されるものばかりですが、いきなりその考えの全てを理解するのは難しいでしょう。

そのため、ヴィゴツキーの研究の中で概念的思考の発達について触れている思考と言語は社会的な関わりを重視したヴィゴツキーの姿勢を学ぶ上で有用でしょう。

「発達の最近接領域」の理論―教授・学習過程における子どもの発達

ヴィゴツキーを語るうえで必ずと言っても出てくる重要概念「発達の最近接領域」。

現在でもその考えは保育や幼児教育の現場で重視されており、子どもが健やかに育つために大人が何を意識して関われば良いのかという視座を提供してくれます。

ぜひヴィゴツキーの発達の最近接領域について詳しく学びましょう。

ヴィゴツキーは心理学のモーツァルト

ヴィゴツキーは発達心理学に大きな貢献を果たし、子どもの成長を考えるうえで重要な視座をいくつももたらしてくれました。

そのため、天才と呼ばれたヴィゴツキーが38歳の若さで亡くなってしまったのは非常に悔やまれますが、彼の残した功績を受け継ぎさらなる発達心理学の発展が望まれています。

ぜひ、これからも最新の発達心理学の知見に注目していきましょう。

【参考文献】

  • 佐藤公治(1992)『発達と学習の社会的相互作用論-1-』北海道大学教育学部紀要 (59), p23-44
  • 吉國陽一(2012)『ヴィゴツキーの概念発達論における認識的発達と道徳的発達の統一』東京大学大学院教育学研究科紀要 52, 445-453
  • 田澤安弘(2015)『ヴィゴツキーの情動論』北星学園大学社会福祉学部北星論集(52), 159-17

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    臨床心理士指定大学院に在学していました。専攻は臨床心理学で、心理検査やカウンセリング、心理学知識に関する情報発信を行っています。

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