心理検査は、心理臨床アセスメントの場面で客観的な資料や面接では拾いきれないクライエントの特徴などを捉える有用なツールです。
様々な種類のある心理検査ですが、今回は作業検査法と呼ばれる種類の検査を取り上げます。作業検査法とは一体どのような検査なのでしょうか。そのメリット・デメリットや種類を一覧で紹介していきます。
目次
作業検査法とは
作業検査法とは、質問に答えるような質問紙法や曖昧な刺激に何らかの反応を示す投映法とは異なり、純粋な作業課題をこなし、その作業結果を分析することで被検者の心理的特徴を捉えようとするものです。
精神作業検査は一見すると心理検査のようには見えず、就職などの選考場面において適性検査として使用されるなど心理臨床の現場だけでなく、広く一般的に用いられていたということも大きな特徴です。
作業検査法のメリットとデメリット
心理検査にはそれぞれメリットとデメリットがあります。
作業検査法の持つメリットとデメリットを理解し、必要に応じて検査を使い分けられるようにしておく必要があります。
作業検査法のメリット
- 回答の歪曲がされにくい
- 被検者本来の特徴を捉えやすい
心理検査として最もポピュラーな質問紙検査は質問文に対し当てはまる項目を選ぶことで被検者の心理的な特徴を捉えようとします。その反面、意図的に自分をよくみせようとするなど、回答を歪曲することができてしまうという欠点があります。
これに対し、作業検査法は単純な作業を実施することで被検者の特徴を捉えようとする作業検査法では、そのような回答の歪曲は行いにくいという特徴があります。
そのため、余分な要因が取り除かれており、示された結果から被検者本来の特徴を捉えやすいということが作業検査法のメリットとして挙げられます。
作業検査法のデメリット
メリットに対して、作業検査法には以下のようなデメリットも存在します。
- 作業時間が長く、被検者が体力を消耗しやすい
- テストバッテリーには注意が必要
- 検査結果からわかることが限定されている
例えば、単純作業を長時間に渡って実施するため、被検者が体力を消耗しやすいということが挙げられます。
特に、心理アセスメントの場面では単一の検査のみ実施するということは稀であり、複数の検査を組み合わせるテストバッテリーによって多角的な視点からクライエントを捉えようとします。
しかし、体力の消耗が激しい作業検査法を実施した後に、質問項目の非常に多いMMPI(ミネソタ多面人格目録)や無意識の侵襲性の高いロールシャッハ・テストなどを実施することはクライエントの負担を考えると望ましくありません。
そのため、実施日を複数回に分けクライエントの負担を軽くする、なるべく負担の少ない検査を併用するなど作業検査法のテストバッテリーには注意を払う必要があります。
また、作業検査法は単純作業の結果から被検者の心理的特徴を捉えるものですが、その課題の結果からわかる特徴は非常に限定されています。
そのため、広くクライエントのパーソナリティを捉えたい場合などは適しておらず、検査実施前にどのようなことを検査で知りたいのかを明確にしておかなければ作業検査法を有効に用いることはできないので注意が必要です。
作業検査法の種類
作業検査法の代表的なものとしては、以下のようなものがあります。
- 内田クレペリン精神作業検査
- ベンダー・ゲシュタルト・テスト
内田クレぺリン精神作業検査
内田クレペリン精神作業検査は、作業検査法の中でも最も代表的な検査です。
この検査は精神医学の代表的な学者であるクレペリン,Eが行った「連続加算法」と呼ばれる研究を日本の内田勇三郎が心理検査として活用し、精神活動の健康度や性格特徴を捉えるための心理検査として改良したことで開発されました。
この検査は、横並びになっている数字の列をひたすらに加算作業(足し算)をしていくという形式を取ります。検査は前半と後半に分かれ、15分の加算を行った後、5分の休憩を挟み、後半15分の加算作業を行うという流れで実施されます。
検査に必要なものはストップウォッチと鉛筆のみとなっており、実施も複雑な工程を挟まないため、集団での実施が可能です。
なお、検査の結果の分析においては、横に伸びている計算の最終結果を繋いでいき作業曲線を描くことで作業量や曲線の形などに基づいて行われます。
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ベンダー・ゲシュタルト・テスト
ベンダー・ゲシュタルト・テストとは、ベンダー,Lという精神科医によって開発された作業検査法ですあり、心理検査の概説書などでは作業検査法ではなく知能検査として紹介されることもある検査です。
この検査は、目で見た情報と運動を協応させるための機能である視覚-運動ゲシュタルト機能の異常を見抜くことが出来るという特徴があり、この機能の衰えが著しくなる認知症の機能不全の状態を捉えることに適しているという特徴があります。
ベンダー・ゲシュタルト・テストは幾何学図形の描かれた9枚の図版を検査用紙に書き写すという形式で行われます。
単に見本の図をうまく書き写せるかどうかという実施方法から、実施時間は5分程度と少なく、体力面で不安のある高齢者にも適用可能です。
被験者の描いた絵は回転や繰り返し、震え、一部欠損、歪みなどの採点基準に基づき得点化され、どれほど図版を捉える認知機能が成熟しているのかを捉えることができます。
また、得点化だけでなく、描かれた内容に特徴的な誤りなどを内容分析によって評価することもできるため、客観的な数値に加え、深く被検者の特徴を捉えられるのです。
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作業検査法について学べる本
作業検査法について学べる本についてまとめました。
初学者でも手に取りやすい本をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみて下さい。
内田クレペリン検査 完全理解マニュアル―就職適性試験
作業検査法の代表格である内田クレペリン精神作業検査について詳しく解説している本です。
内田クレペリン精神作業検査は集団実施が可能で、比較的簡単に個人の能力や性格特徴が捉えられることから就職適性試験などで用いられることもあるポピュラーな検査です。
ぜひ本書を読み込んで、内田クレペリン精神作業検査について詳しく学びましょう。
臨床心理査定アトラス―ロールシャッハ・ベンダー・ゲシュタルト・火焔描画・バッテリー
作業検査法におけるもう一つの代表的な検査であるベンダー・ゲシュタルト・テスト。
単に見本を紙に書き写すという非常にシンプルな方法ですが、そこには目で見本を観察し、手で書き写すために情報を処理するという重要な過程を測定しています。
ぜひ、どのようにしてベンダー・ゲシュタルト・テストが実施されるのか、描かれた絵がどのようにして分析・解釈されるのかについて深く学びましょう。
作業を通じてわかるその人の個性
作業検査法は他の心理検査とは違った方法で被検者の特徴を捉えようとします。
そのメリット・デメリットははっきりしているため、状況と目的に応じてしっかりと使い分ける必要があるのです。
ぜひ多くの心理検査に触れ、適切なアセスメントを行えるように作業検査法についてしっかりと学んでいきましょう。
【参考文献】
- 小林哲郎(2003)『心理検査と言葉についての試論』京都大学カウンセリングセンター紀要 2003, 32: 17-26
- 滝浦孝之(2007)『ベンダー・ゲシュタルト・テストにおける日本人の標準値 : 文献的検討 』広島修大論集. 人文編 48 (1), 315-346
- 島津貞一(1985)『内田・クレペリン精神検査の課題 』東海女子大学紀要 5 39-51