本記事では、子供(ここでは主に中高生を指す)の適応障害について、その特徴などを見ていきます。最初に適応障害について概観し、その後、子供の適応障害の説明に入ります。最後に、子供の適応障害について詳しく学べる本を紹介します。
目次
適応障害とは何か
はじめに、適応障害という精神疾患について概観しておきましょう。なお、以下で説明する内容は、子供に限らず、適応障害全般に当てはまるものであることにご注意ください。
適応障害の定義と診断基準
まず、適応障害の定義から押さえましょう。適応障害は精神疾患の一種で、厚生労働省によれば、”日常生活の中で、何かのストレスが原因となって心身のバランスが崩れて社会生活に支障が生じたもの。原因が明確でそれに対して過剰な反応が起こった状態”が適応障害と定義されています。
次に、適応障害の診断基準を見ていきましょう。DSM-5(アメリカ精神医学会が出版した、精神障害の診断と統計マニュアルの第5版)によれば、適応障害は以下の診断基準を全て満たすことで、適応障害を診断されます。
A.はっきりとしたストレッサーがあり、ストレッサーを受け始めてから3か月以内にストレス反応が出現。
B.以下の1と2のうち少なくとも1つの症状がある。「1.ストレッサーに不釣り合いな程度の症状や苦痛」「2.社会的、職業的など生活の重要な領域において重大な機能不全が起きている」。
C.他の精神疾患では説明できない。
D. 一般的にみられる死別反応では症状を説明できない。
E. ストレッサーがなくなれば、症状が6か月以上継続することはない。
以上になります。なお、ストレッサーとは「特定のストレスを引き起こすストレス要因」のことで、ストレス反応とは「ストレッサーによって生じる心身の歪み」のことです。
定義や診断基準についてポイントをまとめると、
- 原因となるストレスが明確なこと
- その原因が解消されれば、6か月以内に回復すること
が挙げられます。ただし、原因となるストレスが続く場合は慢性化することがあります(持続性適応障害と呼ばれる)。
適応障害の原因や症状
次に、適応障害の原因と症状を見ていきましょう。
適応障害の原因は明確にストレスであるとされていますが、具体的にどのようなことが原因となるのでしょうか。
一般的に、環境の変化や人間関係の悪化、親しい人との離別や自身の健康問題などが原因となることが多いようです。ただし、たとえ他人から見れば些細なことでも、受け取り方次第では大きな負担となることもありえます。
こうしたストレスによって適応障害が発症すると、会社や学校、家庭や近隣など、社会生活に支障が出てきます。なお、適応障害になる率についての調査は多くありませんが、アメリカの精神科クリニックでは、外来の5~20%程度という報告があります。
適応障害の症状は様々で、例としては以下のようなものがあります。
- 精神症状:抑うつや不安、焦燥感、意欲や気力の欠如など
- 身体症状:倦怠感や頭痛、不眠など
- 行動面:遅刻や欠勤、成績の下落など
いわゆる五月病を適応障害の一種とする見方もあります。とはいえ、いずれの症状も重たいものではなく、また適応障害に特有のものでもありません。
ゆえに適応障害には、うつ病や不安症などの精神疾患というほどではない”状態”につけられる病名と言う側面があります。その意味では、適応障害はそれぞれの精神疾患の”不全型”ということができるでしょう。
適応障害になりやすい人
適応障害になりやすい人はどのような人なのでしょうか。貝谷(2018)は、個人の資質として、ストレス耐性の弱さや性格的な傾向を挙げています。
性格的な傾向としては、
- まじめで努力家
- 他者からの評価を気にする
- 何か言われると過剰に気にする
- 自分を抑えて周りに合わせようとする
といったことが挙げられます。
体質も関係があるとされ、特に自律神経のコントロールがうまくいかない人は、適応障害になりやすいと言われています。
また、発達障害(特にASD)がある場合、周囲とうまく付き合うことができないため、適応障害になりがちです。
適応障害の治療
適応障害に対する治療は、カウンセリングなどの精神療法と、ストレス対処が基本です。
会社員ならば産業医や産業カウンセラー、学生ならばスクールカウンセラーが最初の相談先になるでしょう。そして、必要に応じて専門のクリニックが紹介されることになります。不安や抑うつが強い場合、抗不安薬などの薬物療法が行われることもあります。
なお、適応障害は比較的治りやすい病気であり、患者の7割以上が5年以内に治癒しているというデータがあります。
子供の適応障害
以上が適応障害の全般的な説明になります。
ここからは、中学生や高校生を中心とした子供の適応障害について、その原因や特徴などを見ていきます。
子供の適応障害の原因や、適応障害になりやすい子
適応障害の原因は、子供であっても大人と変わるわけではなく、環境の変化や人間関係の悪化と言ったストレスです。子供の場合、具体的には転校や進学、友達や教師との関係があります。
また、適応障害になりやすい子も、基本的には大人と変わらず、真面目で、無理してでも周囲に合わせてしまう子が多いとされています。また、発達障害がベースにある場合も大人同様にあります。
中学生や高校生の適応障害における特徴
素行面の障害
中高生の適応障害においては、その症状に大きな特徴があります。それは、素行面の障害です。
具体的には、物を壊したり家庭内暴力を行ったりします。また稀にではありますが、万引きなどの違法行為を行うことさえあります。本人は自分の行動が悪いことだとわかっていますが、ネガティブな感情をコントロールできないのです。
ただし、これは病的な素行症(非行)とは異なります。適応障害におけるこうした障害は、もとになったストレスがあり、その出来事から3か月以内に現れます。
ストレスや気持ちを言葉で表現できない
もう1つ、中高生の適応障害における重要な特徴があります。それは、自分のストレスや気持ちを”うまく言葉で表現できない”ことです。彼らは大人ほど言葉を自由に操ることができません。ですから嫌なことがあっても、それをうまく説明することが難しいのです。
また、いわゆる思春期の子供たちですので、何かあってもそれを親や教師に話すとは限りません。むしろ、隠したい、知られたくないと考えることもあります。つまり、子供たちは”話せない”場合がありますし、話せたとしても”話さない”場合もあるのです。
こういった事情があるので、彼らのストレス源をある程度特定することはできても、その解決となると容易ではない、ということになります。これらが中高生の適応障害における特徴となります。
子供の適応障害と不登校
子供の適応障害においては、不登校や学校不適応との関連性を無視することはできません。
例えば早川ら(2020)は、義務教育年齢の子供では、不登校や学校不適応は適応障害の代表であると述べています。なお、この論文では適応障害への支援についても述べていますので、興味のある方はぜひご一読ください。
適応障害と不登校との関連について、もう少し詳しく説明しましょう。不登校とは、すなわち学校に行けていない状況を指します。学校に行けないということは、その理由があります。そしてそれは、多くの場合ストレスによります。
以上のことから、適応障害が不登校の背景にあるということは、十分考えられるのです。
例えば、小学校の時は問題なく通えていたのに、中学校に入ってから急に通えなくなるケースがあります。小学校よりも中学校、中学校よりも高校の方が生徒数も増えますし、単純に環境も変化するので、それらにうまく対応できずストレスを抱えてしまうということがあります。
また、学校での人間関係をうまくやっていこうとするあまり、無理して周りに合わせることで適応障害となるケースもあります。
もちろん不登校=適応障害とひとまとめにして言うことはできませんが、可能性の1つとして十分考えられるということを知っておきましょう。
子供の適応障害についてより詳しく学べる本
最後に、子供の適応障害について学ぶことが出来る本を、2冊ご紹介します。
適応障害のことがよくわかる本
本書は子供に限らず、適応障害全般に関する本です。原因や症状、治療法までを概観することが出来ます。図が豊富でページ数も98ページと少ないため、非常に読みやすい点が特徴です。
子どもの発達障害・適応障害とメンタルヘルス
本書は学校現場で子どもと関わる方・関わりたいと考えている方向けの本です。発達障害や適応障害についての解説や、教員やスクールカウンセラーによる実践例が盛り込まれています。
学校がつらいと感じたら
本記事では、適応障害全般の知識と、子供の適応障害の特徴をお伝えしてきました。
適応障害は明確なストレスを原因としますが、子供の場合、その多くは学校に起因するストレスであると想像できます。そして適応障害はストレスさえなければ回復できる病気です。ですから重症化する前に、思い切って学校を休み、心のエネルギーを回復させることが大切です。
学校がつらくなったときは、本人は頑張りすぎないこと、周囲の方は励ますより休ませることを考えると良いかもしれません。
参考文献
- American Psychiatric Association 編(2014)『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』 医学書院
- 貝谷久宣監修(2018)『適応障害のことがよくわかる本』講談社
- 早川恵子・松添万里子・小林正幸・大月友(2020)『子ども・若者の適応障害に対する効果的な支援に関する研究(1) : 時期により対象の状態像および支援はどのように変化するのか?』,東京学芸大学教育実践研究(16),53-62.
- 和田秀樹著(2021)『適応障害の真実』宝島社新書