議題設定効果とは、メディアが我々情報の受け手に与える効果の1つです。
この記事では、強力効果論や限定効果論といったメディアの効果研究の中から議題設定効果を取り上げ、その実例や調査研究などについて詳しく解説していきます。
※なお、議題設定効果と似た言葉に、議題設定機能があります。どちらも定義上の違いはないため、本記事は両者を区別せず、議題設定効果に統一しています。
目次
マス・コミュニケーション効果研究とは
議題設定効果に限らず、そもそもマスメディアは私たちに“どの程度の効果”を与えているのでしょうか。
このことを明らかにする学問領域に、マス・コミュニケーション効果研究があります。この領域の古典的な理論には「強力効果論」と「限定効果論」があり、長年議論が交わされてきました。
強力効果論と限定効果論
強力効果論とは、文字通り、マスメディアは人々に強い影響力をもっているという考え方です。影響の強さを表すために、弾丸効果論や皮下注射モデルと呼ばれることもあります。
一方、限定効果論とは、メディアの影響は限定的であるという考え方です。実証マスメディアは人々にほぼ影響を与えておらず、それよりも影響を与えているものは個人間のコミュニケーションであるとされています。
議題設定効果(議題設定機能)説は、限定効果論の再検討から提唱された「新しい強力効果論」と呼ばれる理論の1つです。なお、こうした理論として他に、沈黙の螺旋理論や培養分析などがあります。
議題設定効果とは
ここからは、議題設定効果とはどういうものなのかを、定義や具体例を通して学んでいきましょう。
議題設定効果の意味・定義
議題設定効果とは、1972年にM.E.マコームズとD.L.ショーによって提唱された概念で、
マスメディアで、ある争点やトピックが強調されればされるほど、その争点やトピックに対する受け手の重要性の認知も高まる(竹下1998)
というものです。メディアを通して、私たち受け手の関心を、特定の対象に“意図的に”向ける効果ということですね。
なお、ここで押さえておきたいことは、この効果はあくまで思考の対象に影響を与えるものであるということです。
私たちが争点や問題についてどう考えるか(what to think)ではなく、どんな争点や問題に関心を持ちやすいか(what to think about)に影響を与えるものだということを理解しておきましょう。
議題設定効果の事例・具体例:コロナ禍におけるトイレットペーパーの買い占め
トイレットペーパーに関するデマを覚えていますか?新型コロナウイルスに関連し、日本国内でトイレットペーパーの原材料が海外から輸入できなくなるという投稿がSNSでなされました。
経済産業省などが「供給に不足はない」と冷静な行動を呼びかけましたが、結局、トイレットペーパーの買い占めが相次ぐことになりました。
これには、議題設定効果が関係していたといえます。一部の店での品不足をメディアが取り上げて報道することにより、人々はこれが「重大な問題」だと認識し、買い占めが加速したと考えられるのです。
議題設定効果に関する研究
議題設定効果に関する有名な研究として、M.E.マコームズとD.L.ショーによる研究を紹介します。
M.E.マコームズとD.L.ショーによるアメリカ大統領選挙の調査研究
先に述べた通り、M.E.マコームズとD.L.ショーは、議題設定効果の提唱者です。では、彼らはどのようにしてこの効果を見出したのでしょうか。
1968年、彼らはアメリカの大統領選挙を調査研究の対象とし、テレビや新聞などのマスメディアが強調していた選挙や立候補者の争点の優先順位が、実際の有権者が認識していた選挙や立候補者の優先順位に関係があるかを調べました。
その結果、両者の間には強い相関があることが見出され、マスメディアは特定の話題や争点を大衆に強く意識させることができるのではないかという議題設定効果説が提唱されました。
議題設定効果の問題点
議題設定効果の問題点としては、例えばマスメディアによる情報操作があります。受け手の関心を“意図的に”特定の対象に向けるわけですから、情報操作などのリスクがあるわけですね。
これは、マスメディアに議題設定効果が存在する以上、ある種不可避なものとも言えますが、客観性のない報道がどれほど役に立つのか、という疑問は拭えません。
議題設定効果について学べる本
議題設定効果についてさらに学びたい方のために、2冊ほど文献を紹介いたします。
メディアの議題設定機能―マスコミ効果研究における理論と実証
海外で誕生した議題設定効果という理論を、日本におけるマスコミュニケーション研究の業績と接合しつつ、この理論をより精緻で適用範囲の広いものにすることを試みた1冊です。
アジェンダセッティング:マスメディアの議題設定力と世論
議題設定効果の提唱者でもあるマコームズによる、40年以上の研究を1冊にまとめたものです。
”取捨選択された情報を得ている”という自覚を持つ
議題設定効果を考慮すると、普段私たちが目にする情報は、マスコミによって取捨選択、場合によっては情報操作されたものであるという認識が求められます。
平時であれば、それらを享受しても問題はないかもしれませんが、有事の際はそうはいきません(コロナが良い例ですね)。
そういうときは自分自身で情報源に当たる、他の情報も調べる、といった作業が大切ではないかと考えます。
参考文献
竹下俊郎 (1998) 「メディアの議題設定機能」,学文社,p4
Maxwell McCombs, Donald Shaw (1972). The Agenda-Setting Function of Mass Media. Public Opinion Quarterly, Vol.36, pp.176-187.