占いや非科学的な性格診断の結果が今でも多くの人から指示されているのはなぜでしょうか。実は、科学的に根拠がないとされるものであっても自分に当てはまっていると感じる心理的効果が働いているからなのです。
今回は、その心理学的効果「バーナム効果」を取り上げます。それではバーナム効果とはいったいどのようなものなのでしょうか。血液型や占いなどの具体例を挙げながらその心理的効果をわかりやすく解説していきます。
目次
バーナム効果とは
バーナム効果とは誰にでも当てはまるような曖昧で一般的な性格を言われると、それがあたかも自分だけに当てはまるかのように感じる心理現象のことを指します。
この用語は、アメリカの興行師であるバーナム,P.T.にちなんで名づけられており、フォアラー効果とも呼ばれます。
例えば、占いなどで「あなたは普段落ち着いて物事を進める力がありますが、予測できなかった出来事に遭遇すると落ち着きがなくなってミスをしてしまうところがあります」などと言われると自分に当てはまる、自分の特徴を見抜かれたと感じるかもしれません。
しかし、予測できない事態に遭遇し、混乱することは誰しにも起こることであり、何も自分のことに限った話ではありません。
それにも関わらず、過度に自分に関連付けて考えてしまう現象がバーナム効果なのです。
バーナム効果が生じる理由
それでは、非科学的だと分かっている占いや血液型診断などになぜバーナム効果が生じるのでしょうか。
その発生に関わる要因がいくつかの心理学研究で指摘されています。
特徴の提示の仕方
バーナム効果が生じるかどうかには、それぞれの人々へ特徴をどのように提示するかという方法が関連しています。
スナイダーという心理学者は、全く同じ内容の性格診断を次のようなグループに分け提示しました。
【性格診断の提示方法】
- 心理検査の診断結果と言って渡す
- 占星術の結果だと言って渡す
- 筆跡学の結果だと言って渡す
- 一般の人々に当てはまる特徴だと言って渡す
これらの条件は心理学という科学的根拠のあるものや占星術のような非科学的なものが混在しています。
しかし、結果は1から3のグループの人々は提示された特徴が自分に当てはまると回答する傾向にあったのに対し、一般の人々に当てはまる特徴だと提示された群では自分にはあまり当てはまらないと回答した人が多かったという結果が示されました。
このように、科学的な根拠の有無ではなく、提示する特徴の内容を、提示された個人に限定してメッセージを送ることでバーナム効果は生じやすくなると考えられているのです。
確証バイアス
バーナム効果は肯定的な内容をフィードバックされた方が生じやすいとされています。
例えば、「あなたは人の犯したミスに対して厳しくなるところがあるようです」というようなネガティブな特徴を指摘するような内容よりも、「あなたは人の犯したミスに対しても優しくフォローするところがあるようです」のようにポジティブな特徴をフィードバックしたほうがバーナム効果が生じやすいことが指摘されています。
このような現象はなぜ生じるのでしょうか。
これには確証バイアスと呼ばれる認知的な傾向が関係していると考えられています。
【確証バイアス】
自分にとって都合の良い情報にばかり注意が向き、それ以外の情報は軽視したり、無視したりする認知傾向のこと
そのため、診断結果が自分にとって好ましいものである場合には、それに当てはまるような過去の記憶を積極的に検索し、ポジティブな方向に歪んだ自己像にその特徴を当てはめるため、まるで「自分のことを言い当てている」かのように感じてしまうのです。
発信者への好意
バーナム効果の発生のしやすさには、上記のような提示される記述内容の信じられやすさに要素に加え、他者から提示されたものがもっともらしいかという要因も関連していることが指摘されています。
村上(2005)の研究では、占いに対し好意的な人ほど、占いが当たったと判断しやすいという結果が示されています。
そのため、情報の発信源に対する好感度が高いほど、確証バイアスによってバーナム効果が生じやすいのだと考えられます。
バーナム効果の具体例
バーナム効果の具体例にはどのようなものがあるのでしょうか。
血液型性格診断
例えば、「A型は几帳面な性格」、「B型は自己中心的な性格」のような、血液型性格診断は非科学的であると指摘されていながらも多くの人々の間で支持されています。
このような血液型性格診断はバーナム効果の最たる例であると言えるでしょう。
実際に、現代のパーソナリティ研究で最も支持されているビッグ・ファイブの5因子と血液型の関連を検討した研究では、血液型と性格の間で関連性が検出されていません。
それでは、なぜこれほどまで血液型診断が多くの人に支持されているのでしょうか。
それには、ステレオタイプとバーナム効果の2つが関連していると考えられています。
ステレオタイプとは、多くの人に浸透している先入観や固定観念を示す用語のことであり、あるカテゴリーに属する人々を過度に一般化するという特性を持っています。
そして、バーナム効果によって自分にだけ当てはまると思い込むことにより、それぞれの血液型に対するステレオタイプが形成され、そのステレオタイプにそぐわない情報が無視されるため、血液型性格診断に対する強固な信念が形成されるのです。
そして、この血液型性格診断においても当たっていると受け止められる度合いはそれぞれの血液型ごとに異なることが指摘されており、特にA型の人の特徴とされる慎重や神経質のような性格は広く普及しており、A型の人にも自分に強くあてはまると捉えられがちであることが研究によって示されています。
占い
占いの人気が今もなお衰えないことにも、バーナム効果は関連していることが指摘されています。占いがこれほどまでに人気なのは、占いを受けた人が「当たっている」と心から思えるからなのでしょう。
これにもバーナム効果が深く関係していることが指摘されています。
村上(2005)は、性格占いと運勢占いの2つの占いを取り上げ、それらがなぜ的中したと判断されるのかについて検討しています。
そして、面白いことに同じ占いでもどうやら的中したという判断は異なる流れによって導かれているらしいのです。
性格占いでは自身をポジティブに記載した内容が当たっていると感じられます。
これは、性格占いに記載された内容が提示された時点で自身に当てはまっているのかどうかを判断がなされ、バーナム効果が生じるため、自身のポジティブな側面に目を向けやすいであると考えられています。
これに対し、運勢占いでは、ネガティブな記述に対し「的中した」と判断される傾向にありました。
これは、バーナム効果の示す、情報の受け手が望ましい情報を取り入れようとする認知バイアスとはそぐわないものとなっています。
この理由としては、人間がネガティブな経験を想起しやすく、それに基づいて当たっていそうかを判断することやネガティブな事態を運勢のせいにするなどの認知的なバイアスによって生じるものと考えられています。
通俗的心理テスト
心理臨床の現場などで用いられる心理検査は調査研究に基づき、しっかりとした根拠の元で作成されていますが、雑誌やテレビなどで見かける通俗的な「心理テスト」にもバーナム効果は関わっているとされています。
坂元ら(1995)はこのような通俗的心理テストと心理学研究の裏付けのあるパーソナリティ検査が個人の自己イメージ(内向的か外向的か)にどのように影響を及ぼすのかについて比較検討を行いました。
その結果、どちらの検査の結果も自己イメージに影響を与える(例えば、外向的な人だという結果が出ていますとフィードバックすると、自分に当てはまると思う)ものの、その影響の強さは学術的な裏付けのあるパーソナリティ検査よりも通俗的な心理テストの方が強かったのです。
この興味深い結果は、科学的な裏付けよりも強固なバーナム効果が生じていることを示しているのでしょう。
バーナム効果について学べる本
バーナム効果について学べる本をまとめました。
初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみてください。
サイコろまんちか 分冊版(7) 「フット・イン・ザ・ドア」「バーナム効果」 (月刊少年ライバルコミックス)
心理学の用語は非常に難解で、その裏付けとなる研究や実験に目を通すのは非常に骨が折れます。
そのため、これからバーナム効果について学びたいと考えている方におすすめの一冊です。
漫画で描かれており、非常に読み進めやすいため、予備知識があまりない方でもバーナム効果について楽しく学ぶことができるでしょう。
モテる! 心を惹きつける! 7つのコミュニケーション術 ~認知バイアス、バーナム効果などを利用した文章・会話術~ impress QuickBooks
実はバーナム効果などの心理現象はコミュニケーションを有利に行うためのテクニックでもあります。
単に知識としてバーナム効果を覚えるだけでなく、日常でどのように応用できるのかぜひ本書を手に取って学んでみてはいかがでしょうか。
バーナム効果の働きを日常に生かしましょう
バーナム効果は非常に興味深い心理現象ですが、それを日常に生かしてこそ初めて学問を行う価値が生じます。
バーナム効果は人とのコミュニケーションを優位に進めるために有効なテクニックであり、営業職やマーケティングを行う際などに活用できるでしょう。
ぜひ、これからもバーナム効果について詳しく学んでいきましょう。
【参考文献】
- 村上幸史(2005)『占いの予言が「的中する」とき』社会心理学研究 21(2), 133-146
- 杉山幸子(2005)『自己概念に及ぼす血液型ステレオタイプの影響およびバーナム効果の検討』八戸短期大学研究紀要 28, 47-57
- 久保義郎・三宅由紀子(2011)『血液型と性格の関連についての調査的研究』吉備国際大学研究紀要 社会福祉学部 (21), 93-100
- 坂元章・三浦志野・坂元桂・森津太子(1995)『通俗的心理テストの結果のフィードバックによる自己成就現象:女子大学生に対する実験と調査』実験社会心理学研究 35(1), 87-101