人間のパーソナリティを捉えようとする研究は非常に古くから行われてきていましたが、科学として心理学が人格を説明できるようになるきっかけを作ったのはレイモンド・キャッテルという人物でした。
それでは、キャッテルとはどのような業績を残した人なのでしょうか。彼が提唱した特性論や16PFなどについてわかりやすく解説していきます。
目次
レイモンド・キャッテルとは
レイモンド・キャッテルとは、パーソナリティや知能に関して重大な理論を提唱した心理学者です。
1905年にイギリスで生まれたキャッテルは、ロンドン大学で心理学を学んだ後、1937年からアメリカに研究の場を移し、性格特性論や知能因子モデルを提唱しました。
キャッテルの特性論
キャッテルの業績でまず取り上げられるのが、性格特性論です。
類型論と特性論
キャッテルが活躍するまでの心理学では、パーソナリティを類型論から捉えようとする立場が主流でした。類型論とは性格を典型的なタイプに分け、個人の性格がどのタイプに当てはまるのかを検討する方法です。
代表的なものはクレッチマーという学者の性格類型論が挙げられます。
これは体型と性格の関連を検討するものであり、例えば肥満体型の人は躁鬱気質で明るく・社交的な性格、やせ型の人は分裂気質で非社交的などといったタイプ分けがされていました。
この理論は精神疾患患者の性格特徴を集約したものではあるのですが、これらの類型に当てはまらない人がいた場合、性格を捉えられないことや、類型の特徴以上に個人の性格を詳細に検討することができません。
そのため、性格を構成する最小単位である特性の組み合わせによって、個人のパーソナリティを捉えようとする特性論に注目が集まっていきました。
類型論と特性論の違いとは?両者の特徴やメリット・デメリットをわかりやすく解説
みなさんの「パーソナリティ」の特徴はどのようなものでしょうか。実はパーソナリティを捉えるための心理学的な研究は古くから行われており、様々な理論が提唱されています。 今回は「類型論」と「特性論」の2つを ...
特性論の発展
特性論を初めて提唱したのは、オールポートという学者です。オールポートは、人間の性格が多くの人に共通して存在する共通特性とその人に特有の個人特性の2つに分類しました。
キャッテルはこのオールポートの研究を引継ぎ、さらに発展させたのです。
ゴードン・オールポートの経歴とは?主要な業績である特性論やサイコグラフについて解説
心理学の主要な研究の一つして、人間の性格に関する特徴を追求しようとするパーソナリティ研究があります。 そして、現在のパーソナリティ研究に至るまでに大きな貢献をした心理学者の一人がゴードン・オールポート ...
オールポートは、自身の特性論を提唱するにあたり、性格に関する用語を辞書からかき集め、それを集約することで共通特性と個人特性を見つけ出しています。
キャッテルは、このオールポートが集めた4500の特性に関する用語を再吟味し、160の用語にまとめなおしました。
そして、オールポートが提唱した共通特性、個人特性に加え、因子分析という統計解析を用いて表面特性、根源特性の4つの次元の特性論を提唱しました。
【キャッテルの特性論】
- 共通特性:多くの人に共通して存在する性格特性
- 個人特性:その人固有の性格特性
- 表面特性:行動や表情など外部から観察できる特性
- 根源特性:表面特性の背後に存在する性格特性
16PF(16パーソナリティ因子質問紙)
キャッテルは自身の特性論を提唱するにあたり、根源特性を見つけ出すためにオールポートが集めた特性に関する用語を160までにまとめなおし、そこに11の表面特性語を加え、208人の成年男子に因子分析を行うことで12の根源特性を抽出しました。
そこへ質問紙固有の因子を4つ加えることで作成されたのが16PF(16パーソナリティ因子質問紙)です。
この検査では、外部から観察不可能な根源特性の高低を質問紙によって捉えることで、全体的なパーソナリティ傾向を掴もうとする検査です。
この検査における16の根源特性は次の通りです。
【16PFでの根源特性】
- 打ち解けない-打ち解ける
- 知的に低い-高い
- 情緒不安定-安定
- 謙虚-独断
- 慎重-軽率
- 責任感が強い-弱い
- 物怖じする-しない
- 精神的に強い-弱い
- 信じやすい-疑り深い
- 現実的-空想的
- 率直-如才ない
- 自信がある-ない
- 保守的-革新的
- 集団的-個人的
- 放縦的-自律的
- くつろぐ-固くなる
16の根源特性はさらに4つの因子にまとめられます。
- 支配性-服従性
- 冒険性-臆病性
- 懐疑性-信頼性
- 急進性-保守性
この4因子の高低から、より直観的に個人の性格傾向を捉えることができるのです。
キャッテルの知能因子モデル
キャッテルの業績は性格特性論だけではなく、知能に関する理論も有名です。
彼の提唱した知能に関する理論は知能因子モデルと呼ばれています。
スピアマンの2因子説
キャッテルが活躍するまでの知能に関する代表的な研究は、スピアマンという学者が知能を一般因子と特殊因子に分ける2因子説がありました。
【スピアマンの2因子説】
- 一般因子:多くの知的課題に共通しており、生まれつき差のある知的能力
- 特殊因子:算数や国語など個別の知的課題ごとに働き、後天的に獲得される知的能力
キャッテルは、このスピアマンの理論における一般因子をさらに2つに分類する理論を提唱しました。
その2つとは結晶性知能と流動性知能です。
結晶性知能
結晶性知能とは、これまでの経験と近い状況において、知識を用いて問題を解決する能力です。
知識の量が多いということは、あの時はこのようにしたら上手くいったなどの経験値の高さから判断力が高いという強みがあります。
この知能は、経験が多いほど高くなっているため、年を重ねるほどに高まっていくという特徴があります。
流動性知能
これに対し、流動性知能とは新しい環境に適応するなどこれまでに遭遇したことのない状況で既存の知識では解決できない問題を解決する能力であり、いわゆる頭の回転の速さのことです。
流動性知能には次のような特徴があると言われています。
【流動性知能の特徴】
- 文化や教育の影響を比較的受けにくい
- 個人の能力がピークを迎える10代後半から20代の前半に最も高まる
- 老化により衰退が顕著にみられやすい
流動性知能とワーキングメモリ
結晶性知能は経験によって高まっていくものですが、流動性知能はどのような要因に影響を受けるのでしょうか。
現在、流動性知能の大部分を説明することのできる認知機能としてワーキングメモリが注目されています。
ワーキングメモリとは人間の記憶の貯蔵庫の1つです。
ワーキングメモリの機能
通常、記憶というと思い出など過去の出来事を覚えておくことを想像するかもしれませんが、それは長期記憶と呼ばれる機能を指しています。
これに対し、短期記憶と呼ばれる記憶は数秒から数分の間しか覚えておくことができませんが、これに注意制御機能を加えたワーキングメモリは、思考をする際にそれぞれの概念を思い浮かべ結びつける思考の作業場としての機能を果たします。
例えば、一日のスケジュールを考えるときに、まずは仕事の前に市役所によってから、職場行き、昼休みには…など様々な対象を1つものにまとめ上げ考えることができるのはワーキングメモリがあるからなのです。
知能の衰え
短期記憶やワーキングメモリはその容量に限りがあることが知られていますが、加齢によりその機能が衰えてくると、もの忘れを頻発したり、難しい思考ができないなどの症状が起こってきます。
これは加齢により、ワーキングメモリの容量が小さくなったり、複数の対象に注意を向け続ける(注意制御)ことが困難になること、長期記憶から必要な情報を効率的に持ってくる(二次記憶)ことができなくなるため生じると考えられています。
事実、容量・注意制御・二次記憶によって知能の80%を説明することができることが研究によって明らかとなっているのです。
キャッテルについて学べる本
キャッテルについて学べる本をまとめました。
初学者の方でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひ手に取ってみて下さい。
パーソナリティの心理学―パーソナリティの理論と科学的研究 (1975年)
キャッテルの特性論は他の学者によって引き継がれ、改良されることによりビッグ・ファイブと呼ばれる理論に繋がっています。
つまり、キャッテルの性格を捉えるために様々な性格語を因子分析し、抽出するという手法は現在のパーそなりいてぃ研究にも通用する画期的な方法だったのです。
そのようなキャッテルの確信的な考えと研究に本書で触れてみるのはいかがでしょうか。
変化を好む脳好まない脳―流動性知能を鍛える
キャッテルの知能の因子モデルによって発見された流動性知能は先天的なものであるとされており、結晶性知能ほど経験の影響を受けないと言われています。
それでは、流動性知能を鍛えるためにはどのようにするのが良いのでしょうか。
ぜひ本書から流動性知能を高めるための方法について学びましょう。
科学としての心理学を目指して
心理学は長年、科学であるのかという疑問を持たれ続けてきました。
そのため現在の心理学ではエビデンスが重視されており、その根拠として統計的な解析が行われるのが一般的となっています。
パーソナリティや知能の分野において、因子分析により特徴的なものを抽出するというキャッテルの手法は、後世に大きな影響を与えているのです。
【参考文献】
- 岩熊史郎(2000)『特性の心理学的構築』文化情報学 : 駿河台大学文化情報学部紀要 7 (2), 1-14
- 坪見博之・齊藤智・芋阪満里子・芋阪直行(2019)『ワーキングメモリトレーニングと流動性知能』心理学研究 90 (3), 308-326
- 服部環(2010)『海外における知能研究と CHC 理論』筑波大学心理学研究 (40), 1-7