エゴグラムとは、人の自我状態(エゴ)を5つのタイプに分類し、それを図表化(グラム)する手続きを取る心理検査です。
エゴグラムを活用することによって、自分の性格傾向や行動パターンを把握するなど自己理解を深めることができるほか、他者との関わり方への気付きを得ることにもつながります。
実施が比較的容易であるほか、結果がグラフ化されることで自身の特徴が視覚的・客観的にわかりやすく捉えられる点が長所であり、学校や企業など幅広い場面で用いられています。
今回は、エゴグラムとは何か概要を整理し、診断結果の解釈として代表的なパターンの特徴や活用法についてわかりやすく解説していきます。
目次
エゴグラムとは
エゴグラムは、エリック・バーンが提唱した交流分析の理論に基づいて、バーンの弟子であるジョン・M・デュセイが考案した性格検査です。
デュセイは、自我状態(思考・感情・行動のもとになる心のエネルギー)をCP(批判的な親)・NP(養育的な親)・A(大人)・FC(自由な子ども)・AC(順応した子ども)に分類しました。
そして、この5つの自我状態のエネルギー量をグラフで表したものがエゴグラムであり、自我状態の高低から性格傾向や行動パターンを把握することができるとされています。
エゴグラムを活用することで、自分の性格傾向や行動パターンを知ることができるほか、周囲の関わり方への気付きを得るなどコミュニケーション改善のきっかけとなることも期待されます。
交流分析とは
交流分析は、エリック・バーンによって提唱されたパーソナリティやコミュニケーションに関する理論及び心理療法です。
交流分析において、人には「親(Parent:P)、成人(Adult:A)、子ども(Child:C)」の3の自我状態があると考えられています。
そして、それぞれの自我状態がどれくらいずつあるかを分析することによって、性格傾向や行動パターンを把握することができると考えられています。
エゴグラムにおける自我状態とは
自我状態は、思考・感情・行動のもとになる心のエネルギーのことを指し、人には「親(Parent:P)、成人(Adult:A)、子ども(Child:C)」の自我状態があると考えられています。
エゴグラムにおいては、PをCP(批判的な親)とNP(養育的な親)、CをFC(自由な子ども)とAC(順応した子ども)に分け、自我状態が5つ(CP・NP・A・FC・AC)に分類されています。
CP(Critical Parent:批判的な親)
Pは親の影響を取り入れて作り上げられたものと言われ、CPは父親的・批判的な親の自我状態を表しています。
CPが高いと、規則・規律を重んじ、理想や目標に向かって進むことができるなど、肯定的側面として道徳的・倫理的・理想の追求などの特徴が挙げられます。
一方で、物事はこうあるべきといった信念が強いだけに自分の価値観を譲ろうとせず、他人を批判するなど、支配的・威圧的といった一面もあります。
NP(Nurturing Parent:養育的な親)
NPは母親的・養護的な親の自我状態を表しています。NPの特徴としては、優しい親(母親)のような役割を持ち、養育的・保護的・世話好き・温かいといった側面が挙げられます。
他方、NPが強すぎると相手を甘やかしたり、過干渉・過保護になりやすい側面もあります。
A(Adult:大人)
Aは成人としての客観的な心で現実の認識や判断を行う自我状態を表しています。
冷静・合理的であり、客観的・現実的に物事を理解して判断を下すことができますが、Aが強すぎると冷淡で人間味に欠けるように映ることもあります。
FC(Free Child:自由な子ども)
Fは子供心であり、そのうちFCは本能的で自由奔放な子どもの自我状態を表しています。
肯定的側面として、活動的・積極的・好奇心旺盛・創造的などが挙げられますが、FC強すぎると自己中心的でわがままな傾向があると見られることもあります
AC(Adapted Child:順応した子ども)
自由奔放なFCに対して、ACは相手に順応するような自我状態を表しています。
素直で従順、協調的で周りの顔色を見て察する力がある半面、周りを気にし過ぎてしまうあまりに消極的・依存的になりやすい面もあります。
エゴグラムの診断結果の解釈(代表的なパターン)
エゴグラムの結果を診断するにあたって、グラフの高低、つまり自我状態の現れ方によって、いつくかのパターンに分類することができます。
結果の解釈は、それぞれの自我状態の強弱から性格傾向や行動パターンを理解することにあり、結果に優劣や正常・異常があるわけではない点を留意することが必要です。
1つの自我状態が突出して高い場合を優位型、低い場合を低位型と分類します。
- 「CP優位」
CP(批判的な親)の特徴が強く出ていると考えられます。つまり、責任感が強く、規則をしっかり守るところがある半面、理想を追求し過ぎて頑固になったり、自分と意見が違うと批判的になったりしやすいと言えます。 - 「CP低位」
CPの特徴が弱いと考えられます。つまり、融通性があってのんびりしているものの、責任感に乏しく規律を守らない、目標意識が低く努力しない傾向があると言えます。 - 「NP優位」
親切で面倒見が良い行動が長所となる半面、状況判断力が備わっていないと押しつけや過干渉となりやすい傾向があると言えます。 - 「NP低位」
他者に押し付けやお節介を焼いてしまうことはないものの、思いやりに乏しく、放任的になりがちな傾向があると言えます。 - 「A優位」
冷静に物事を分析・判断できるものの、理屈っぽくて冷たい印象を与えがちなところがあると言われます。 - 「A低位」
直感的に考えることができる傾向が強い半面、計画性がなく場当たり的な判断や行動になりがちな傾向があるとされます。 - 「FC優位」
明るく活動的で、周囲を楽しませることができる半面、度を超すと場をわきまえず、自己中心的に振る舞う傾向が見られます。 - 「FC低位」
素直で大人しいものの、積極的に欠けていることが少なくありません。 - 「AC優位」
他の人の意見を聞くなど協調性が高い半面、主体性に乏しく依存しがちな傾向があります。 - 「AC低位」
自分をしっかり持っているものの、周囲と協調できず思いのままに行動しやすいと言えます。
そのほか、自我状態の高低のバランスから、以下のようなパターンも分類できます。
- 「M」型(NP・FCが高い)
明朗で元気、自分も他人も肯定的に捉えることができるといった傾向があると言えます。一方、CP・A・ACが低いと、周囲のことを考えず羽目を外したり、お節介をしてしまったりする場合があります。 - 「N」型(NP・ACが高い)
優しく献身的であるものの、自己犠牲的になりがちで、嫌とは言えずに心の内に溜め込んでしまいやすい面もあります。 - 「逆N」型(CP・FCが高い)
理想が高く、創造力が豊かである一方、NP・ACが低いと、思いやりに乏しく、自分が常に正しいとして他者の意見を聞き入れないため、周囲と摩擦が生じることがあります。 - 「W」型(NP・FCが低い)
批判力があり、合理的に考えることができるタイプであるものの、NP・FCが低いことから他者否定的な上、自己主張ができずに他者とうまく交流できず葛藤を抱えてしまいがちです。 - 「V」型(CP・ACが高い)
自分も他人も否定するような何事も否定的な傾向があり、CPの高さから自分や他者に完全さを要求するものの、ACの強さから口に出せず抑え込んでしまいがちです。 - 「右肩下がり」型(CPを頂点に右へ下がっており、ACが低い)
リーダーシップは取れるものの、頑固で他者の意見に耳を傾けにくく、他者のすることにカッとなりやすい傾向が見られます。 - 「平坦」型
バランスが取れていると言える半面、個性に乏しいと言えます。全ての自我状態が高いとエネルギーが高く、何でも完璧にこなすことができますが、頑張りすぎてしまうことが懸念されます。逆に、低い場合はエネルギー不足で閉鎖的になっている場合があります。
このほかにも様々なパターンが存在するほか、各尺度のバランスによってバリエーションは様々です。
エゴグラムの診断結果の活用
エゴグラムは、上記のパターンなどを参照しながら、それぞれの自我状態の特徴(高い場合・低い場合の長所・短所)を把握し、自己理解を深めるために活用されます。
そして、エネルギーの配分に大きな偏りがあると、行動や生き方のバランスが崩れて様々な問題が生じてしまうため、より良く生きていくためにエネルギーの配分を変えていくことも時には必要となります。
そうした行動やパーソナリティの変容にもエゴグラムが活用されます。アプローチとして一般的なのは低い自我状態を高めていく方法が挙げられます。
CPを高めるためには
自分や他者に厳しくなることが効果的と言えます。例えば、目標を立てて最後まで完遂するなど、やるべきことをきちんとするといった行動を意識するほか、批判をする練習や自分の意見をはっきりと言う練習などが挙げられます。
NPを高めるためには
他者に優しくしたり、思いやることを心掛けることが効果的と言えます。例えば、相手の気持ちになって考えることを意識したり、人の長所を見つけて褒めたりすることが挙げられます。
Aを高めるためには
論理的に考える習慣を身に付けていくことが効果的と言えます。例えば、行動する前に計画を立て、様々な角度から物事を捉えて考えていくことを意識することが挙げられます。
そのほか、物事を客観的に捉えるために、同じ状況で他の人ならどうするかを考えることを意識したり、日記を付けるなどして考えを文章にする行為もひとつの方法です。
FCを高めるためには
自由気ままに振る舞ってみることが効果的と言えます。例えば、自分の好きなことに思い切り打ち込んでみることも一つです。また喜怒哀楽を表現することを心掛けることも大事であるとされています。
ACを高めるためには
相手を立てることを心掛けることが効果的と言えます。例えば、人の話をさえぎらずに最後まで聞く姿勢を持つことは大事ですし、相手の顔色を窺ってみたり、相手がどのように感じたか聞くことも挙げられます。
日本版:東大式エゴグラム(TEG)
日本においては東大式エゴグラム(TokyoUniversityEgogram※略称TEG)が多く用いられています。
東大式エゴグラムは、エゴグラムの考えに基づいて、東京大学医学部心療内科TEG研究会が開発した質問紙法の性格検査です。現在は2019年出版の「TEG3」が用いられています。
53項目の質問に対する回答(はい・いいえ・どちらでもない)を回答用紙に記載されている採点方法に従って採点し、CP・NP・A・FC・ACの5つの自我状態の得点を算出し、棒グラフに表します。
東大式エゴグラムについては、こちらの記事で詳しく解説されていますので併せて参照してください。
エゴグラムを体験する
先ほど紹介した東大式エゴグラムは有料の性格検査ですが、インターネット上にはエゴグラムを用いた性格診断が無料で体験できるサイトも存在しています。
エゴグラムがどのようなものか、まずは無料で試してみたいと思われる方は、こうしたサイトを活用してみることも一案です。「エゴグラム 無料診断」などで検索されてみると良いでしょう。
エゴグラムについて学べる本
最後に、エゴグラムについて詳しく学ぶ上で参考になる書籍をいくつか紹介します。
エゴグラムの診断結果について、243パターンもの特徴が詳細かつ分かりやすく整理されており、結果の解釈などに役立つ内容となっています。
親子関係、キャリア開発や就労支援など様々な分野における活用事例が紹介されており、結果をどのように活かしていくかという視点から実践的なイメージを得ることができる1冊です。
対人関係・コミュニケーションの改善について、交流分析の理論を用いて分かりやすく解説されています。自分で実践できる具体的な活用法も紹介されており、日常に活かしやすい内容となっています。
エゴグラムは自分や他者を理解する助けとなるツールです
エゴグラムを活用することで行動面から自分や他者をより深く理解することができるようになります。
また、自分の行動面の癖を知った上で、低い自我状態を上げていくなど自我状態のエネルギー配分を変えていくことで、パーソナリティの変容や成長も期待されます。
そして、異なる自我状態を持つ人とも円滑にコミュニケーションが取れるようになるなど、対人関係を改善していく助けにもなるものです。
自分らしく生きていくために、人間関係を良くしていくために是非活用してみてはいかがでしょうか。
参考文献
- 芦原睦 著(1995)『自分がわかる心理テストPART2―エゴグラム243パターン全解説』講談社
- 杉田峰康 著(2018)『3つの自分で人づきあいがラクになる: エゴグラムで見える本当の私』創元社
- 桂戴作 著(1986)『自分発見テスト―エゴグラム診断法』講談社
- 東京大学医学部心療内科TEG研究会 編集(2006)『新版TEG2 解説とエゴグラム・パターン』金子書房
- 金子書房HP『新版TEG® 3【10月27日 オンライン版発売!】』(2022年3月27日参照)