ここでは、アドラー心理学についてわかりやすく説明していきます。
はじめに、アドラー心理学の基本的な考え方をお伝えします。その後、日常生活において、アドラー心理学の考え方をどのように活かすことができるのかについて、見ていきましょう。
目次
アドラー心理学の全体像
それでは最初に、アドラー心理学の定義や基本的な考え方、特徴などを見ていきます。
アドラー心理学とは
アドラー心理学とは、どのような心理学なのでしょうか。現代心理学辞典には、アドラー心理学について、次の記述があります。
精神科医アドラーにより創始された臨床心理学の理論体系。個人心理学(individual psychology)とも呼ばれる。初期理論は劣等感とその補償が中心だったが、個人を分離不可能な1つのまとまりと捉える全体論、すべての人間行動には目的があるとする目的論、個人と環境の相互作用を重視する対人関係論、客観的事実よりも個人の主観的認知を重視する認知論が核となっている。
(引用:現代心理学辞典)
アドラー(アルフレッド・アドラー)はオーストリアの精神科医であり、精神分析の創始者であるジグムント・フロイトとの交流を経たのち、アドラー心理学の理論体系を構築しました。
アドラー心理学は現代の自己啓発に影響を与えた心理学と言われており、またアドラー自身は、欧米ではフロイトやユングとともに、”心理学の三大巨頭”と呼ばれています。
なお、上記の引用に補足すると、全体論としては以下4つの理論に加え、自己決定性というものがあり、これは”人は自らの運命を創造する力がある”という意味です。そして、これら5つを以てアドラー心理学の5大理論と呼ばれています。
アドラー心理学の特徴をわかりやすく-フロイトとの比較から-
こうしてみると、アドラー心理学には独特な専門用語が多く、それゆえに少々分かりにくさを感じる方もいるかもしれません。そこで次に、アドラー心理学の特徴や考え方を、フロイトの心理学との比較を通して、より詳しく見ていくことにします。以下に両者の違いを列挙します。
①人間に対する見方 | ②人間行動に対する理解の仕方 | ③意識と無意識の捉え方 | ④個人と社会との関係 | |
アドラー | 人間は社会的な存在である | 人間行動の目的を理解する | 両者は協力して目標を追求する | 両者は基本的に調和する |
フロイト | 人間は動物的な存在である | 人間行動の原因を理解する | 両者は矛盾対立する | 両者は基本的に対立する |
これで全てではありませんが、これだけでも両者はかなり異なっていることが分かります。そして両者を比較すると、アドラーの考え方においては、目的や調和といった言葉がキーワードになっていることが読み取れますね。これには、当然ながらアドラーの考え方が大きく影響しています。
アドラーは、”人間は自らの劣等感を克服し、未来へ向かって成長し続ける存在である”と考えていました。彼は、育ってきた環境やハンデなどが性格形成に与える影響を認めつつも、それらの影響をどう解釈し、どう態度を決めるかは自分自身だと考えていたのです。
「人は自分の運命の主人公である」とは、アドラーの有名な言葉です。
またアドラーは、精神と身体、感情と理性といった二元論に反対の立場を取り、人間を分割できない全体と捉えていました(全体論)。このような考え方に基づいて体系化されたものが、アドラー心理学と言うことになります。
アドラー心理学の目的-勇気づけと共同体感覚-
アドラー心理学を理解するうえで大切な用語に、勇気づけと共同体感覚があります。
勇気づけとは、困難を克服する活力を与えることです。褒めるや励ますと言った意味ではないので注意しましょう(後述)。
勇気づけができるようになると、自分のことでも人間関係のことでも悩むことが減り、人生をより豊かに生きることができるとされています。アドラー心理学においては、前述した5つの理論をもとに、勇気づけを用いてアプローチを行っていきます。
共同体感覚とは、家族・地域・職場などの中で、「自分はその一員なんだ」という感覚を持っている状態のことです。
共同体感覚がある人は、関わる人たちと尊敬し合い、積極的に協力しようという意識で動くことができるとされています。アドラー心理学においては、共同体感覚を獲得し、高めていくことが、教育やカウンセリングにおける目標とされています。
日々の生活の中に見るアドラー心理学
ここからは、アドラー心理学の考え方が、私たちの生活にどのように活かされるのかを見ていきます。
定義のところでアドラー心理学は自己啓発に影響を与えたと述べましたが、以下をお読みいただくことで、アドラー心理学の考え方が人間関係の悩みにも、自分自身を変えることにも効果があることがお分かりいただけるでしょう。
なお、ここでも様々な用語が出てきますので、丁寧に読んでいってください。
優れた自分になるため努力する-劣等感と補償-
劣等感は先ほども少し触れました。意味としては、主観的に自分が他者より劣っていると感じることです。例えば、テストの点数が友達より低かった、50m走のタイムがクラスで最下位だったといったことがあると、しばしば私たちは劣等感を感じます。
人間は元々、優れた自分になりたいという目的を持っています。その理想状態からみれば、今の自分は劣った存在です。それを劣等感として感じる訳ですね。そして、より優れた自分になるために努力します。この努力を、アドラー心理学では補償と呼びます。
劣等感自体は、誰もが持ちうる感情といえます。しかし、その感情にこだわり、あれこれと理屈をつけてしまうと、劣等コンプレックスと呼ばれる状態になります。
例えば、「私は元々頭が悪いから勉強ができないのだ」と言うことで、勉強と言う課題を避けるようになるのです。この劣等コンプレックスは、アドラーによれば”異常な劣等感”に当たります。
"どこから"ではなく、”どこへ”-原因論と目的論-
私たちは、何か上手く行かないことがあると、つい「何がダメだったのだろう」と、原因に目を向けがちです。しかし、原因を探っても、問題の解決に繋がらないこともあります。そういうときに役に立つのが、目的論という考え方です。
私たちは、何か上手く行かないことがあると、その原因を探しがちです。例えば「誰のせいでこうなったのか」と犯人捜しをしたり、「もっとこうしておけばよかった」と後悔したりします。これは原因論と呼ばれる考え方です。
一方、同じ状況に陥ったとき、「そもそもこれをする目的は何だったのか」、「どうすれば目的に近づけるか」、「そのために何をすべきか」と考えていくアプローチもあります。これが目的論に基づく考え方で、アドラー心理学で重視されています。
人間が生きる意味-ライフタスク-
私たちが人生で直面する様々な課題を、アドラー心理学ではライフタスクと呼びます。
ライフタスクには大きく仕事・交友・愛の3つの要素があり、例えば、仕事で結果を出すことや、ご近所の方とうまく付き合うこと、夫婦関係や子どもとの関係を良くするよう努めることなどが含まれます。
3つのタスクをさらに詳しく見ていきましょう。
まず仕事のタスクとは、いわゆる職業上のタスクのみならず、私たちのすべての生産活動を指しています。ですから、学生の学業や、主婦の方の家事育児も仕事のタスクに含まれるわけです。また、社会で生活するうえでの義務も仕事のタスクなので、法律を守ることなども該当します。
交友のタスクは他人との付き合いにおけるタスクのことで、上司や部下、友人知人に隣近所の人たちとの付き合いが該当します。
そして愛のタスクには、異性関係や家族関係が含まれます。
これら3つのタスクのうち、最も容易なものは仕事のタスクとされています。なぜなら、他人との関係が遠い分、解決が簡単だからです。裏を返せば、仕事のタスクが満足にこなせない場合は、深い問題を抱えている可能性がありますし、他のタスクをこなすのも難しい、ということになります。
一方で、最も難しいタスクは愛のタスクです。なぜなら、非常に親密な形でのコミュニケーションやお互いの協力が必要だからです。
褒めることと勇気づけ
誰かに対して褒め言葉をかけたものの、思いのほか相手が喜んでくれなかったことは、誰しも経験があるのではないでしょうか。これには理由があります。
たとえば、「えらいね」「よくやったね」という褒め言葉は、一見すると良いメッセージに見えるでしょう。
しかし、こうした言葉かけは、相手を評価する態度、相手を上から目線で見る態度が背後にあると考えられます。また言われた方も、次第に褒められないとやらないようになる可能性があります。
対して勇気づけとは、例えば「これって〇〇さんが努力してきたところだよね」や「あなたの今回のサポート、とても良かったよ」と言った言葉かけです。
尊敬や信頼、共感がベースにあることがポイントで、こうした勇気づけを行うことで、相手に困難を克服する活力を与えることができるのです。
アドラー心理学に関する資格や、アドラー心理学を学べる大学
これまではアドラー心理学の中身を見ていきましたが、ここでは趣向を変えて、アドラー心理学に関する資格や、アドラー心理学を学ぶことが出来る教育機関(大学)を紹介します。
アドラー心理学に関する資格
アドラー心理学に関連した資格として、アドラー心理学検定1級があります。これは、日本統合医学協会が認定する資格です。
同協会が行うオンライン講座を受講した後に試験を受け、試験に合格することで、本資格を取得することができます。オンライン講座なのでいつでも講義を受けることができ、スマホでも受講できます。
アドラー心理学を学べる大学
アドラー心理学を学ぶことが出来る大学として、ここでは駒澤大学と早稲田大学を紹介します。
まず、駒澤大学には、文学部心理学科に、八巻秀教授がいらっしゃいます。八巻教授はアドラー心理学を専門にされており、書籍の執筆や監修のご経験もおありです。詳細はこちらからご確認ください。
また、早稲田大学には、人間科学部人間情報科学科に、向後千春教授がいらっしゃいます。向後教授は日本アドラー心理学会会員であり、アドラー心理学に関する論文を複数執筆されておられます。詳細はこちらからご確認ください。
アドラー心理学をより深く学べる本
最後に、アドラー心理学をより詳しく学びたい方のために、オススメの本を2冊紹介します。
コミックでわかる アドラー心理学
先ほど紹介した向後先生が監修している、マンガ形式のアドラー心理学の入門書です。
人間関係が原因で職場を辞めた女性(表紙の人物)が、アドラー心理学と出会い、これまでと違う生き方や考え方を身に付けていくストーリーです。身近な出来事に落とし込んで説明しており、スラスラ読み進めていけるでしょう。
嫌われる勇気
恐らく、アドラー心理学関連の書籍で、最も有名なものは本書ではないでしょうか。2013年に出版され、以来世界中で売れ続けている(国内累計228万部、世界累計500万部以上))アドラー心理学の解説書になります。
「人は今日からでも幸せになれる」と説く哲人と、劣等感にとらわれそれを理解できずにいる青年の議論を通して、アドラー心理学の考え方を学ぶことができます。
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アドラー心理学は、文字通り生き方を変えてくれる
アドラー心理学の考え方や、生活におけるアドラー心理学などについて解説させていただきました。
褒めることや原因論のように、私たちがついついやってしまいがちな行為・思考に対し、別な手段を提供してくれるアドラー心理学に、新鮮な感覚を味わった方もいるのではないでしょうか。
アドラー心理学は、私たちによりより考え方や生き方をもたらしてくれるものなのかもしれません。
しかし裏を返せば、アドラー心理学は日常生活に活かしてこそ本領を発揮するとも言えます。座学だけで終わってしまうのは、勿体ない学問なのです。
本記事をきっかけに、皆さんがさらに学習を深め、日常生活にどんどん活かしていって下されば幸いです。
参考文献
岩井俊憲(2014).『人生が大きく変わる アドラー心理学入門』かんき出版
岸見一郎(1999).『アドラー心理学入門』ベスト新書
子安増生,丹野義彦他(2021).『現代心理学辞典』有斐閣